薫さんは美形好き
今回、薫さんのエキサイトが半端ないです。
なので、少し読みにくいかも…
ちょっと調子に乗りすぎました。でも、書いてて楽しかったです。
「あっ、佐久間さん。今、帰りですか?」
ロッカールームから出ようとする私に声を掛けてきたのは、受付の黒木真衣だ。
「…そうだけど」
「私もなんです。途中まで御一緒させてください」
鈴が転がる… なんて表現がぴったりな可愛らしい声なのに“拒否は許さないわよ!”という雰囲気を醸し出している。
そして私の返答を待たずに、私の隣にピッタリとくっついてきた。
彼女は純情可憐なお嬢様風美人だ。
そして受付という仕事柄か、化粧、服装、仕草、総て完璧。
彼女はプロ顔負けのテクニックで自分を最大限に美しく見せ、いつも天使のような笑顔を浮かべ、少し天然の入った癒し系キャラを演じている。そう、演じているのだ!
とても上手に猫を被っているけど、数々の美形を鑑賞してきた美形愛好家の私には分かる。
純真無垢な仮面の下には、計算高くて利己的な本性が隠れていることが。
ほとんどの人は彼女の上辺に騙されているけど、私は黒木ごときに出し抜かれたりしない。
私は真実を見極める目を持っているのさ。どうだ、すごいだろう。ハハハハハハ…
まっ、社長が腹黒狸親父だったってことは見抜けなかったけどね。
ああ、思い出したら、また悔しくなってきた。
当たり障りの無い社交辞令を交わしながらエレベーターを待っていると、彼女が他意のない(ように見える)顔で言った。
「そういえば、成瀬常務と吉野さんがお付き合いしていらっしゃるって、噂になっていますけど本当なんですか?」
おや、どうした。君は営業の広田を狙ってたんじゃないのか。もしかして、密かに常務も視野に入れているのか?
彼女は控えめな大和撫子を装っているが、中身は獰猛なハンターだ。だが、無闇矢鱈にイケメンを追いかけたりはしない。獲物に狙いを付けたらじっくりと攻め、確実に捕獲できると判断するまで表立った動きは見せない。そのかわり、影でコソコソやってるけどね。
えっ、何故こんなに黒木について詳しいのかって。
何度も言うが私は美形が好きだ。オタクと言っても過言ではない。
黒木は性悪だが、見てくれはすこぶる良い。そしてこの二重人格ぶり。見ていてとっても楽しいではないか。
今現在、イチオシの観察対象なのだ。
さて、彼女の質問に対してどう返答したものか。
二人は付き合っているわけじゃないけどデートを重ねている。
私の度重なる誘導作戦で、今ようやく常務が亜也子を恋愛対象として意識し始めたところだ。
あとは彼氏と喧嘩別れ状態の亜也子がどうするか…
私としては、あの不思議君とキッパリ別れて、常務と相思相愛になってくれたらいいんだけどなぁ。
美男美女のカップルが目の前に誕生したらどんなに素敵だろう。
毎日、観察して、鑑賞して。ああ、夢のようだ… コホン。
とにかく、今、あの二人は非常にデリケートな関係なのだ。周りが変に騒ぐと簡単に壊れてしまう。
それに、黒木の真意が見えないし、ここは否定も肯定もしないでおこう。
私は意味ありげに黒木に笑ってみせた。
「ああ、やはりそうなんですね」
こらこら、断定するな。
「私は何も言ってないわよ」
「それじゃ、違うんですか? でも、お二人で食事をしているところを見かけたんですけど」
なんでそんなに食いついてくる。
もしかして、亜也子に対抗心を燃やして、常務を本命にしたのか?
彼女は亜也子に対して、並々ならぬライバル意識を持っている。
まあ、そうなるかな。自分の容姿に自信があるのに、この会社では亜也子が1番で彼女は2番手だものね。でも、仕方ないよ。亜也子の美貌はダントツだもの。
例えると、亜也子の美しさは全国大会で優勝を争うレベル。もしかすると世界に通用するかもしれない。それに引き換え黒木はセイゼイ県大会レベル。運が良ければ全国に出場出来るかもしれないけど、優勝争いなんてとてもとても… 二人の間にはそれくらいの差があるのだ。
「お二人とも、とても楽しそうにしていらっしゃったから、てっきり… もしかして“このままゴールインかしら”って思うほど、親密なかんじで。そうですか。違うんですか」
私の顔色を伺いながら、黒木が言葉を重ねてくる。
私、うまくポーカーフェイスが出来ているかな?
「でももしお付き合いされているんなら、結婚を前提にされているんですよね」
「……」 平常心。平常心。
「結婚かぁ… 吉野さんの純白のウエディングドレス姿、きっと綺麗だろうなぁ。ああ、憧れちゃう。ねえ、佐久間さん教えてください。本当のところどうなんですか?」
亜也子のドレス姿か… いかん、つい想像して顔がニマニマしてしまった。鋭い黒木のことだ、ピンときちゃったか?
「常務と結婚となると色々大変でしょうね。ほら、いずれは社長になられる方だし、その妻となるとしたら。となると、退職して主婦業に専念されるんでしょうか」
ははん。読めたよ黒木。君の真意が。
つまり早く亜也子に寿退社してもらいたいってことだな。そうすれば自動的に君にNo1美女の称号が転がり込んでくる。
成る程、それで私に噂の真偽を確かめにきたわけだ。
動機はどうであれ二人がうまくいくことを願っているわけだね。それなら黒木、君も手伝ってくれたまえ。君は社内における情報操作の担当だ。常務と亜也子の結婚話しを祝福ムードにするという重要な役割を与えよう。君の力量なら6~7割の同意を得られるだろう。
ならば情報開示だ。頑張ってくれたまえ。
うまくいったら、お礼に広田の理想のタイプといきつけの店を教えてあげようではないか。
こうして私は心強い仲間を得た。
彼女は自分の打算の為、実に良い働きをしてくれた。
二人が結婚前提で付き合っているという噂は多くの社員の知るところとなり、しかも、かなり好意的に受け入れられていったのだ。
しかし、後に、これが裏目に出るのである。




