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だけど、やっぱり君が好き。  作者: 紫野 月
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薫さんの上司

 私のボス、成瀬晃輝はハイスペックな男である。

 いわゆる肉食女子にとっての超優良物件というやつだ。

 我が成瀬興産の社長の息子で常務取締役。頭が切れて、仕事が出来、容姿が大層よろしいのだ。

 これで性格が良くて身持ちが固かったらパーフェクト。だが残念なことに、常務は性格と女性関係が非常によろしくないのだ。

 以前もてはやされた3高を地でいく常務。これだけ好条件なのだ、多少性格に難があっても他の面でカバーしてくれる。それだけだったら私も常務のフェロモンにやられて惚れてしまったに違いない。だが、それらを打ち消すほど女癖が悪い。もう最悪! 女の敵と言ってもいい!!


 そう、常務はトテモおモテになる。

 それこそ日替わりでお持ち帰りが出来そうなくらいである。

 モテるだけならいいのにホントに持って帰るから大変困る。

 常務に付いて約2年。一夜のアバンチュールの後始末にどれだけ振り回されたことか…

 嫌味を言われるのはいい方、罵詈雑言もまあ許容範囲。平手打ちを頂いた時もあるし、頭からお茶を掛けられたこともある。

 な ん で わ た し が !?

 私はただの秘書なのに。


 なんで肉食系ってアポも取らずに押し掛けてきて喚き散らすんですかね。

 どうせやるんなら常務のお家に行ってやってくれ。なぜ常務室にやって来る。

 そして常務。私をタテにするな!

 もう一度言う。私は秘書だ。仕事上のトラブル処理ならどんなハードな事でも我慢する。

 けれど、常務のプライベート… それも下半身のトラブル処理を私がせにゃならんのだ!!



 ある日、ついに堪忍袋の緒が切れた私は社長に直訴した。

 いきなりそこにいくって思わないで。常務にはこれまで何度も色事を控えていただくようお願いしてきたし、秘書室長には担当替えを申し出ていた。

 だけど全然ダメ。梨のつぶて。

 それなら最終手段にいくしかないじゃない。

 私の訴えを聞き終えた社長は真摯な態度で謝罪の言葉を口にした。

 社長は少々お歳を召しているが、ダンディなおじ様である。美形好きである私は『さすが常務のパパ』なんて日頃から思っていた。その素敵なおじ様に頭を下げられたら、それだけで怒りのボルテージが下がってしまう。

 けれどここは気を引き締めて、私の職場環境改善のため社長の言質をとらねば。


 慎重に言葉を選びながら、一刻も早く担当を替えてもらうよう切り出した… はずなのに、話しが違う方向に転がってる。

 職場環境改善をお願いしていたのに、どうして常務と私の結婚話になっているのだろう?

 なんか、あまりの急展開で頭がうまく回らない。

 いったい何処でおかしくなったのか… いや、この際途中経過はどうでもいいよ。とにかく常務との結婚話しを丁重にお断りしなくては。

 処理能力が著しく低下した脳ミソに再起動を掛けようとした、その時。社長の机の電話が鳴り響き、社長は腰掛けていたソファーから立ち上がる。

「それじゃ、いい返事を期待しているよ。佐久間君」

「いえ、社長、その話は… 」

 社長は整ったお顔に満面の笑みを浮かべて私を魅了すると、受話器を手に取った。

 仕方なく私は一礼して社長室を後にした。

 なんで。どうして。こうなった。


 あまりの精神的ダメージにフラフラしながら給湯室に入った。少し熱めのお茶をゆっくり飲んでいると、社長室での会話を聞いていた亜也子が心配して追いかけてきた。

「とんでもない事になったね。だから言ったじゃない。社長は温厚そうに見えるけど、実はお腹真っ黒けの狸親父だって」

 なんか楽しそうだね亜也子。心配して来てくれたんじゃないの。

「社長からあんな風に頼まれたら断りにくいよね。どうする? 常務とのこと本気で考えてみる?」

 人事だと思って。面白がってるよね、その顔は。そんなに楽しいかこの状況が!

「常務と結婚なんてすごいじゃない。ゆくゆくは社長夫人だね。羨ましいわぁ。そうだ、お祝いn___」

 そうかい、そうかい。羨ましいなら代わってやるよ。

 吉野さんが常務の花嫁になりたいと立候補していますって、今から社長に報告しにいってあげようか!


 私は盛大にやさぐれた。

 亜也子のからかう言葉にもだが、憧れのロマンスグレー成瀬社長に嵌められたことが凄いショックだ。

 何時までたってもフラフラと浮名を流す常務に、社長が躍起になって結婚相手を探していることは知っていた。

 何人もの女性とお見合いモドキのことをされ“面倒だ”みたいな愚痴を常務の口から聞いたことがある。

 紹介された女性を常務は片っ端から断っているそうな。

 美人系、可愛い系、セクシー系、清楚系。どんなタイプの女性にも首を縦に振らない常務。

 だからか、だからなのか。ついにド平凡の私にお鉢が回ってきたのか!?



「冗談はさておき。それにしても、厄介なことになったわね。社長は一度口にしたことは、必ず実行に移す人だし… 」

 どんなにからかっても無反応の私に、亜也子はやっと本気で心配する気になったようだ。

「考え直すようもう一度言ってみるけど、あんまり期待しないでね」

「うん、ありがとう」

 さっきの社長室での話し合いの時も、亜也子は何度も社長に意見して、フォローしてくれてた。

 だけど、社長のとんでもない提案を止めることは出来なかった。

 あっ、でもさ。社長が乗り気でも、当の本人の常務が断ってくれれば、それでOKジャン。

 常務は私のこときっと女として見てないと思うし。

 なんだ、なんだ。気に病んで損した。ノープロブレムだよ。

 いっきに私の気分は上昇した。




 しかし、数時間後。常務から、「結婚相手が佐久間なら、考えてみる価値はありそうだ」と言われた。

 なんでだ?


 

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