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ちょっと遅いですが、新年あけましておめでとうございます。
今年も宜しくお願いします。
仕事を終えて会社のエントランスを歩いていると「吉野亜也子さんですよね」 と背後から声をかけられた。
振り返ると、そこには可愛らしいお嬢さんが立っていた。
年の頃は20代前半、まだ学生かも。きれいに手入れされた髪。ひかえめな化粧。上品な装い… うん、良家の子女ってかんじだ。
常務め! こんな品のいいお嬢さんを毒牙にかけたのか。瞬時にそう思った。
「はい。そうですが、あなたは?」
私は仕事モードで対応する。
「突然で申し訳ありません。私、村岡珠緒といいます。大事なお話しがあります。すみませんが、お時間を頂けないでしょうか」
礼儀正しい物言い。きちんと躾がされているのだろう。こんないいお嬢さん常務にはもったいない!
喫茶店の奥の席に座ると、私は珈琲、彼女はミルクティーを注文した。ほどなく注文したものが運ばれてくる。
私はすぐに珈琲を手に取る。うん、美味しい。私はその味わいに満足した。
見ると、彼女は緊張しているのか、飲み物に手もつけず両手を握り締めてうつむいている。
うーん、なんだか可哀想。私から声をかけてみるか。
「それで、私に話しって何かしら?」
あまり冷たくならないように気をつけてみたけど、どうだろう… って、なんでこんなに気を使わなきゃいけないんだろう。なんか、見た目がこう小刻みに震えている小動物にみえるせいかな?
それでも彼女は下を向いたままで、しょうがなく私は珈琲をもう一度飲む。
「…… 」
「…… 」
うーむ、飲み終わったよ。これ、どうしたらいいの?
おかわりを頼もうにも、私達の微妙な雰囲気を汲み取って、誰も近づいてくれないし。大声で呼んでまでおかわりが欲しいわけじゃない。
早く話しをしてくれないかな。物凄く居心地が悪いんだけど。
私が軽く溜息を吐くと、彼女はようやく意を決したみたいで、顔を上げた。
「単刀直入に言います。私、彼のことが好きなんです」
おおっとびっくり。さっきまでと打って変わったよ。それにしてもいきなりだね。それほど常務のことを想っているってことかな。
「私、初めて男の人を好きになりました。彼以外の人とは考えられないんです。でも、彼は私とは付き合えないって… 貴方がいるから駄目だって」
きっとありったけの勇気を振り絞って告白したんだろうな… でも、私にそんな事を言われてもねぇ。
私が身を引いたら貴方の元へ戻るって保障は、どこにもないと思うんだけど。
「でも、彼は私と結婚した方が幸せになると思うんです」
ええっ! 話し飛躍しすぎじゃない?
「ど、どうしてそう言い切れるの?」
「だって、私の父はK大の学部長をしているんですもの」
??? K大の学部長… 常務にとって、それに何のメリットが?
「私と結婚したら私の父が全面バックアップをしてくれます。彼は他のことに気を取られずに研究に打ち込めるし、いずれは教授にだって… だけど、彼はそんなことで結婚相手を決めたくないって、好きな人とでなければ出来ないって言ったんです。素晴らしい人ですよね二宮さん。私ますます彼のこと大好きになりました」
えええぇぇ…
彼って常務じゃなくてカズ君? 全然念頭になかった。凄い勘違いをしてたよ私。
ああ、御免なさい常務。てっきり常務がらみだと思ってずいぶん酷い突込みを入れちゃいました。毒牙にかけたとか、もったいないとか… 反省します。
「彼から、准教授になるまで結婚を待ってもらっている恋人がいると聞きました。だから私、二宮さんのこと諦めようと思いました。けど、やっぱり諦め切れなくて。それで図々しいとは思ったんですけど、貴方に会いにきてしまいました。ごめんなさい、ごめんなさい」
村岡さんは涙を浮かべながらうったえてくる。
私は混乱する頭を必死に動かして正しい筋道を導き出した。
彼女はK大の教授の(しかも学部長)娘でカズ君の事が好き。
カズ君に告白したけれど、恋人がいるからと断られてしまった。
それでもカズ君の事が諦められないので、思い余って私に直談判しにきた。
…ということですかね。
「すみません。取り乱してしまって」
村岡さんは綺麗にアイロンがけしてあるハンカチを取り出して涙をぬぐうと、きっぱりとした口調で宣言した。
「私は二宮さんが好きです。彼に振り向いてもらえるようこれから精一杯努力するつもりです。貴方には負けません!」
「…… 」
これはどうしたらいいの。 “私達もう別れているの” って言ってあげるべき?
でもカズ君はまだ私のことを恋人だって言ってくれたんだよね。
もう一度やり直すことが、元の関係に戻ることが出来るかな。
私はカズ君とやり直したい?
私は今でもカズ君が好き。 “別れる”と言ったこととても後悔している。
でも、やり直したとして、いつも魚優先で私のことをほったらかしにするカズ君のこと待っていられる?
無関心な態度をとられても、それでも…




