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満月の日の新人着任編 1-6  「透怪物駆除任務②」

 棚から飛び出した拓真は、まず手にしていた拳銃(グロック18)の狙いを透怪物リフレクター:ウルフィークの頭部へと定め、引き金を絞った。

 銃口から発射された9mm×19口径の魔力付加されたパラベラム弾は一直線上に突き進み、ウルフィークの頭部を貫く。

 続けて拳銃のレバーをフルオートに切り替え、引き金を絞る。

 今度は先程とは違い、パパパパパン!!という乾いた連続音が響き渡り、ウルフィークの身体が吹き飛んだ。



『ナイスです、拓真さん!』



 宙を舞っているウルフィークの身体はそのまま床へと落下すると同時に、空気中に飛散し消滅する。



「満月の夜は透怪物が凶暴になると言われているが、やはり雑魚は雑魚のままだったな」


『うふふ、それは拓真さんが強すぎるだけなんですよ』


「そ、そうか … ?」



 拓真は少し照れ臭そうに頭をかくと、拳銃をホルスターへとしまい込んだ。

 そこへ、一部始終を棚から見ていた水奈が駆け寄ってきた。



「鎌ヶ谷君、もう終わったの?」


「ああ、そうだ。だよな、ミーサ?」


『はい! 今のところ、このフロアに他の透怪物リフレクターの気配は感じません!』


「でも一応、念のためにフロアを一周してみるか」



 透怪物は時々いきなり出現したりするので、安心するのはまだ早い。

 まだまだ夜は始まったばかり。夜が明けるまでは気を抜けない。


 拓真が先頭に立って歩き、彼の背中を水奈は追う。



「・・・・・・」


「・・・・・・」



 気まずい沈黙の時間が流れ出した。


 元々拓真はベラベラしゃべるのが好きな方ではないし、人見知り気味である。

 長い付き合いのミーサ・戦対課の面々となら気軽に話せるが、昨日今日出会ったばかりである茂原水奈(しかもJK)相手と話をするとなると緊張してしまうのだ。



『拓真さん、水奈さんに話しかけてあげないんですか?』



 時々、ミーサがそう声をかけるが、拓真は口を閉ざしたまま。


 いつしか洋服売り場を抜け、彼らの前方に全長450mに及ぶ広いエンクローズドモールが出現した。

 1階から3階まで吹き抜けになっている広いエンクローズドモールの各階通路の左右には、様々な専門店や飲食店などが立ち並んでいる。

 本来なら多くの人で賑わっている場所なのだが、今や人1人も見当たらない。それもそのハズ、客や店員は既に外へと避難しているからだ。


 シーンと物音一つもしない長いエンクローズドモール内に、拓真と水奈の2つの足音だけが駆け抜けていく。

 先程と同様、2人は無言で歩いていると、ふと水奈が拓真に尋ねかけた。



「ねぇ … ちょっと質問していい?」


「えっ? ああ、いいけど」


「鎌ヶ谷君って、いつからミーサっていう子に憑りつかれているの?」



 唐突な質問内容に、拓真は一瞬押し黙ってしまった。

 彼自身にとって、出来れば話したくない内容だったからだ。



「聞きたいか?」


「う、うん。そのぉ … 鎌ヶ谷君のことがもっと知りたい … から」


「えっ?」


「あっ、えーと … ほら、鎌ヶ谷君とあたしってペアなんだし、相手のこと知りたいって思うじゃない?」



 頬を染め、両手を忙しなくブンブン動かしながら、水奈はそう言った。

 そんな彼女の姿に目をやりながら、拓真は迷っていた。



『拓真さん、別に話してもいいんじゃないですか? あの事故を思い出すのは … 辛いかもしれませんけど … 』



 ミーサからの後押しを受け、拓真は渋々打ち明けることに決めた。



「茂原さん、『ジャパンエアロ航空111便墜落事故』って知ってるか?」


「うん、聞いたことはあるよ。たしか授業で習ったような気がする」



 ジャパンエアロ航空111便墜落事故。

 それは今から13年前、柿ノ木(近畿国際空港)発-東京(東京国際空港)行のジャパンエアロ航空111便が、山梨県富士河口湖町・鳴沢村に跨っている青木ヶ原樹海に墜落したという事故である。

 乗員乗客554人中553人が死亡。1985年に起きた航空機墜落の死亡者数を更新し、単独機の事故による史上最悪の犠牲者数となってしまった。

 事故の原因としては、エンジン部品に欠損があったからとされているのだが、専門家からは疑問の声が上がっており、詳しい原因については未だに不明のままとなっている。



「ミーサっていう子に憑りつかれたことと、その事故ってどんな関係があるの?」



 首を傾げる水奈であったが、そこへ拓真が重い口を開いた。



「その墜落事故で1人だけ生き残った人がいる。当時7歳だった男の子なんだけど … 実はアレ、俺なんだ」


「えっ … 嘘っ!?」



 拓真の脳裏に最悪の事故の記憶が蘇る。

 燃え盛る機体と木々、鼻を突き刺すような鉄臭い刺激臭、そして … 辺り一面に広がる人間の四肢や黒く焼け焦げた遺体。

 あの地獄のような光景は一生のトラウマとなってしまい、今では火災現場を目にするだけでも、あの時の光景がフラッシュバックしてしまう。


 乗客乗員554人中553人はほぼ即死状態。

 当時7歳だった鎌ヶ谷拓真は右腕と右眼を失う大怪我で済み、ただ1人だけ生き残ってしまったのである。



「あの事故で父さんと母さんは死んだ。俺は大切な人を何もかも失ってしまった」



 唯一の生存者だった拓真はテレビなどでも大きく取り上げられ、『悲劇の男の子』というレッテルを貼られてしまった。

 なぜ自分だけが生き残ってしまったのか? このまま生き続けていてもいいのか? と常に心に疑問を抱く毎日。

 忘れたくても一生忘れることが出来ない苦痛。


 次々と辛い記憶が蘇ってくるが、構わずに拓真は続ける。



「だがそんな時だった。俺の目の前に1人の少女が現れたんだ」


「その少女が、ミーサっていう子?」


「ああ、そうだ。最初見たときはびっくりしたよ。まるで幽霊のようにフワフワと宙に浮いていたんだからな。しかも、なぜか俺にしか見えないし」



 連日、航空機墜落関係のニュースが報道されている中、拓真は周りから気を使われる毎日だった。

 もう生きる希望さえ失いかけていたとき、浴衣を着た少女:ミーサが拓真自身の身体の中から飛び出してきたのだ。

 この航空機事故をきっかけに、拓真はミーサという守護神に憑りつかれてしまったわけである。


 拓真は続ける。



「でも不思議なことに恐怖は感じなかった。心を塞ぎかけていた俺に、ミーサはいろいろとくだらないことで話しかけてきてくれて、一生懸命に励ましてくれた」



 そう言って拓真は、チラリとミーサの方へと目をやる。

 当時と何も変わっていない容姿のミーサを見つめ、拓真は微笑んだ。


 ミーサは少し照れ臭そうに俯いてしまう。



「俺が今のようにここまで立ち直ることが出来たのは、ずっと俺の側に居てくれた大切な相棒パートナー:ミーサのおかげだよ」


『拓真さん』


「ありがとう、ミーサ」


『うふふ、どういたしまして』


「まぁ … 時々、ウザいって思う時もあるけどな」


『ちょっと拓真さ~ん! せっかくの感動的な話が台無しです!』



 航空機事故、ミーサという守護神に憑りつかれてしまったなどの経緯をすべて聞いた水奈は、申し訳なさそうな表情を浮かべ頭を下げた。



「ミーサっていう子に憑りつかれた経緯が気になったから質問したんだけど … まさかそんな経緯だとは知らなくて。辛いこと思い出させてしまってごめんなさい!」


「何で茂原さんが謝るんだよ。ほら、頭あげろって」


「う、うん」



 そんな話をしていたら、いつしか長いエンクローズドモールを歩き終えていたようで、2人の正面に巨大な書店が姿を現していた。



「さて、気を取り直して任務に取り掛かるとするか … と言いたいところだが、今のところ異常はないみたいだし、ちょっくら本の立ち読みでもするかな。どうせ店員も誰もいないんだし」


「えっ、そんなことしてもいいの?」


「茂原さん、基本的に俺らは透怪物リフレクターが出現しない限りすることがないんだ。だから、暇つぶしに本の立ち読みくらいしてもいいだろ?」


『じゃぁ … 本部に帰ればいいじゃないですか』



 ミーサがツッコミを入れるが、拓真は無視したまま巨大書店内へと足を踏み入れていく。



「ちょっとの間、茂原さんもぶらぶらしててもいいぞ」


「えっ、ちょっと … 待ってよ!!」



 そう言われたものの、水奈は慌てたように彼の後ろ姿を追った。







「おおっ、今日はまだ25日なのに『月刊コミック雷撃大王』が発売されているだと?」


「はぁ」



 漫画売り場ではしゃいでいる拓真を横目に、水奈は小さく溜息を吐いた。


 このショッピングモールへやってきた本来の目的は透怪物リフレクターの退治である。

 しかし、こうして書店で立ち読みをしていてもいいのだろうか。

 洋服売り場で透怪物リフレクター1体を倒し、今のところ脅威はなくなったのはいいが、また透怪物リフレクターが出現するかもしれない。その為にフロア内を見渡っているのにのんびりしていてもよいのだろうか?


 そんな疑問を抱きながらも、水奈は少女漫画を手に取りパラパラとページを捲る。

 パラパラとページを捲っていくと、ふとあるページが目に入り、水奈は手を止めた。

 そのページと言うのは、男の子が女の子を壁際に追い詰めて「ドン」と腕を突いているシチュ エーションが描かれているページであった。いわゆる『壁ドン』である。


 壁ドンとは、元々は集合住宅などにおいて隣人がやかましい時、または行き場のない怒りを覚えた時などに、壁を「ドン!」と鳴らして警告する行為のことを指していたが、最近では相手を壁際まで追い込んで逃げ場をなくし壁を手で対象越しにドンする行為も、『壁ドン』と言われるようになっている。



「あたしも … こんな風に壁ドンされてみたいな」



 水奈はそう小さく呟くと、チラリと鎌ヶ谷拓真へと目をやった。



「鎌ヶ谷君ってカッコイイ・優しいし … 鎌ヶ谷君になら壁ドンされてもいいかも」



 その時、水奈は2日前の出来事を思い出した。

 オスプレイからダイブさせられた挙句、鎌ヶ谷拓真の上に落下してしまい、彼と唇を交わしてしまったあの出来事を。


 直後、物凄い恥ずかしさが身体の中を駆け抜け、水奈の健康的な白い肌がみるみる内に紅く染まり始めた。



「ひゃぁ … あたし、鎌ヶ谷君とキスしちゃったんだ! で、でも … あ、あれは事故だったわけで、不可抗力だったんだよね!」



 水奈は軽い暴走状態へと入ってしまう。



「そもそも鎌ヶ谷君はチャラくないし、いきなりキスなんかしてこないし! うん、あれは事故事故!! ていうか、まだ鎌ヶ谷君があたしのことを好きかどうかも分からないのに … あたしって何考えてるんだろう」


「あの … 茂原さん?」


「うひゃぁぁっ!?」



 突然、後ろから拓真に声を掛けられたので、水奈の心臓がドクン!と大きく鼓動し、飛び跳ねてしまった。

 あまりの不意打ちだったため、思わず手に持っていた少女漫画を落としてしまう。



「さっきから何かをブツブツ呟いてるから気になったんだけど」


「ひぇっ … き、聞かれたっ!? 鎌ヶ谷君に聞かれちゃったぁぁあ!!」


「いや、あの、さすがに内容までは聞き取れなかったからさ … そこまで慌てなくても」



 水奈は顔を耳まで真っ赤に染めているため、この状態では鎌ヶ谷拓真の目を見ることができない。

 結果的に彼女は、あまりの恥ずかしさのあまり逃げるという選択をとってしまった。



「あっ、ちょっと、茂原さん!!」



 背後から拓真が呼びかけてくるが、水奈は足を止めない。

 「わああああ」と声を上げながら、彼女は左右高い本棚が並んでいる通路を駆け抜けていく。


 しばらく走り続けているうちに息が切れてしまい、水奈は「はぁ … はぁ … 」と荒い息を吐きながら立ち止まった。

 周囲を見渡してみると、通路の左右にある本棚には難しそうな哲学・宗教・歴史関係の本がズラリと並んでいる。

 先程鎌ヶ谷拓真と一緒にいた場所は漫画本コーナーだったので、その書店内反対側のコーナーまでやってきてしまったのだ。


 恥ずかしさのあまり思わず逃げ出してしまったわけであるが、現在も任務中ということには変わりはないので、水奈は拓真の元へ戻ることにした。



「はぁ … あたしってバカだ」



 茂原水奈はもともと人見知りの性格で恋に奥手なため、男性に対して免疫がない。

 今まで片思いの男の子はいるにはいたが、自分から気持ちを伝えることが出来ず、結局こうして17歳になった今も一度も男性と付き合った経験がないままなのである。

 周りの友達は次々と付き合い始めており、最近では友達から「水奈ってこんなに可愛いのに、何で彼氏つくらないの?」と言われてしまう始末である。


 街を歩いているとき、たまに男性に声を掛けられることもあるのだが、声をかけてくる男性は全員チャラくてホストみたいな連中ばかり。水奈にとってそういう男の人は大の苦手なので、当然お断りしている。

 しかし、鎌ヶ谷拓真とならどうだろうか?

 見た目はチャラくないし、知的で優しそうな雰囲気。もっと彼と仲良くなっていつか付き合えたらいいな、と心の中で思う。


 それなのに今となって冷静に考えてみれば、自分がブツブツ何かを呟いていて、拓真が何だろうと思って声をかけてきてくれただけなのに、恥ずかしさのあまり急に逃げ出してしまった。

 拓真にとってはわけが分からないだろうし、彼は「自分は嫌われている?」と思ってしまいかねない。



「早く鎌ヶ谷君のところに戻って謝らなきゃ!」



 哲学・宗教・歴史関係の本が並べられているコーナーから自然科学系の本が並べられているコーナーへ差し掛かった時、ふとサーモグラフィー搭載型のHMDレンズで覆われた右眼視界に何かが写り込んだため、思わず水奈は足を止めた。



「えっ … 何かいる?」



 水奈の前方約6m先に、赤い何かがいたのだ。

 肉眼では見ることが出来ず、HMDレンズ越しでしか見ることが出来ないが、大きさは2mくらいで四足のシルエットが浮かび上がっている。一見すると犬のシルエットに見えるだろう。

 しかし、水奈はコイツが何か知っている。

 先程、数十分前に拓真から聞いたばかりなのだから。



「これって … さっき洋服売り場で鎌ヶ谷君が倒した透怪物リフレクターとそっくり!?」



 彼女の前に現れた赤い四足のシルエットの正体は、オオカミの一種である透怪物リフレクター:ウルフィークだったのだ。

 水奈は逃げようと試みるが、足が震えて動けない。


 それでも震える足を無理矢理動かし、後ろを振り返った時、水奈はまたもや愕然としてしまった。

 なぜならば、振り返った先にも2体のウルフィークがいたからである。



「ど、どうしよう … 鎌ヶ谷君みたいに銃なんか持ってないし、魔法の使い方もわかんないし … 」



 完全に挟み撃ちにされているこの現状に、水奈はなす術がなかった。

 肉眼で見ることが出来ない怪物相手と闘うなんて、ただの女子高生にとって無謀なのだから。


 水奈がなす術もなく固まっているうちに、ウルフィークの数が増えていく。

 少なくても水奈の正面通路に5体、後ろの通路に6体となっていた。通路の左右は高い本棚がそびえ立っているため、乗り越えることは不可能。

 絶体絶命だった。



「嫌だ … 死にたくない … 」



 獲物を追い詰めるかのようにじわじわと近づいてくるウルフィークに、その場に座り込んでしまう水奈。

 このまま目の前の怪物:ウルフィークに喰い殺されるしかないのか。


 無意識のうちに、脳裏に鎌ヶ谷拓真の姿が浮かびあがった。



「鎌ヶ谷君 … 助けて … 」


 

 思わずそう呟いてしまう。


 目から涙が溢れる中、水奈の右眼視界が真っ赤に染まっていた。

 既にウルフィークが彼女の目の前まで近づいており、その獰猛な牙を生やした口を開け、彼女に襲いかかろうとしていたのだ。


 水奈は覚悟を決め、目を瞑る。

 直後、グシャリ!という肉を潰す音が響き渡り、真っ赤な血しぶきが本棚へと飛び散った。







 漫画本コーナーで茫然と突っ立っていた鎌ヶ谷拓真は、先程茂原水奈が走って行った方向を眺め小さく溜息を吐いていた。



「はぁ … 茂原さん、一体どうしたんだろうな。いきなりどっか行ったりなんかして」


『そうですね。でも … 同じ女の子として、あたし理由が分かるような気がします』


「どんな理由か教えてくれないか?」


『ふふ、内緒です』


「おい」



 先程茂原水奈が落とした少女漫画を棚へと戻しながら、拓真はミーサを睨みつける。



『た、拓真さん … そんなに睨まないでください … 』


「お前が教えないからだろ」


『い、いいじゃないですか! 少しはリアル女子の気持ちも分かるようになったらどうなんですか? 拓真さん、いつも二次元美少女キャラ相手に告白ばかりしてるくせに!』


「二次元キャラに告白って … それ、いつも俺がやってるギャルゲーのことを指しているのか? でも恋愛シュミレーションゲームなんだから、告白するのは当然だろうが!」


『拓真さんの場合は、ギャルゲーなんかよりもあたしがいるじゃないですか! 実在もしていない画面の中の女の子と恋愛するより、あたしと恋愛しましょうよ! あたしはいつでもOKですよ?』


「断る。霊体相手と恋愛なんてするか!」



 そんな感じで、しばらく拓真とミーサがやり取りをしていると、ふとミーサの瞼がピクリと震えた。



「ん、どうした?」


『拓真さん、透怪物リフレクターの反応を探知しました!!』


「なに? 場所は!?」


『同フロアの … この書店内です!!』


「くそっ、マズい … !! 茂原さんの身が危険だ!!」



 拓真は茂原水奈を探すために、先程彼女が走って行った方向に向かって全力ダッシュをした。



『拓真さん、透怪物リフレクターの種類は先程と同様、ウルフィークだと思われます! その数11体!』


「はぁっ!?」



 全速力で本棚に囲まれた通路を駆け抜ける中、拓真は驚きの声を漏らしてしまった。



「ふざけんなよ!! いきなり11体も出現するとか、ありえないって!!」


『でも … 本当のことですし … 』



 長年ずっと一緒だったから分かる事だが、ミーサの能力について拓真はよく理解している。

 ミーサの透怪物リフレクター索敵能力は正確だ。

 これまでの任務においても、ミーサの言ったことが外れたことなんて一度もない。つまりミーサが言っていることは正しい情報であるということを意味している。


 この大きな書店内に11体の透怪物リフレクター:ウルフィークが潜んでいるのだ。

 一刻も早く茂原水奈を助け出さねば、取り返しの付かないことになってしまう。



透怪物リフレクターの反応が近くなってきました! そこを右に曲がって下さい!』



 ミーサからの指示を聞き、拓真はコーナーを右へと曲がる。

 曲がった通路の先にソイツはいた。


 拓真から見て通路手前側に5体のウルフィーク、通路奥側に6体のウルフィークがいたのである。

 そして、そのウルフィークに囲まれるようにして逃げ場をなくした茂原水奈が、通路の真ん中で座り込みブルブル震えていた。



「やべぇ!!」



 咄嗟にホルスターから拳銃(グロック18)を引き抜くものの、ここで発砲してしまうと奴らをさらに刺激してしまい、水奈の身の安全を守ることが出来なくなってしまう。

 1体ずつ標準を合わせて仕留めるのは時間がかかってしまうし、流れ弾が彼女に当たってしまえば終わりだ。

 まずは彼女の身の安全の確保が最優先であると拓真は考えた。



「ミーサ! いくぞ、霊体憑依だ!!」


『了解です!!』



 拓真は腰にぶら下げていた竹刀袋を手に取り、中から日本刀を取り出し引き抜く。

 日本刀の柄を左手で握り締めるや否や、今まで霊体で浮遊していたミーサの身体が刀身へと吸い込まれていき、刀身が青白く輝きだした。


 そのまま青白く輝いた日本刀を手にしながら、拓真は加速魔法の呪文を唱える。

 同時にウルフィーク11体中2体が水奈に向かって飛びかかる。

 砲弾のように飛び出していった拓真は、水奈のすぐ側に着地すると同時に彼女の身体を守るように抱きしめ、日本刀を手にした左手を前へと突き出した。



魔突刺貫通シュピッツシュティヒ!!」



 刹那、飛びかかってきていたウルフィーク1体の口内を日本刀の刀身が貫いた。

 しかし、同時に飛びかかってきていたもう1体のウルフィークの攻撃には対処できなかった。







 グチャリ!という肉を潰す音が耳に入ってきた。水奈は自分の顔に生温かい液体が降りかかるのを感じる。

 しかし、いくら待っても身体中に痛みが駆け抜ける様子は見られない。



(うっ … って、アレ? もしかして … あたし生きてる?)



 水奈は恐る恐る目を開けてみる。

 目を開ける否や、何者かに声を掛けられた。



「茂原さん、大丈夫か?」


「か、鎌ヶ谷君!?」



 声の持ち主は鎌ヶ谷拓真であった。左手に青白く輝いた日本刀を手にしており、ウルフィークから守るように水奈の身体を抱きしめている。

 そして水奈は気が付く。

 彼の右腕の肘あたりにウルフィークが噛みついており、そこから血が流れているということに。


 しかし、彼は苦痛で顔を歪めることもなく、ただ冷静な表情を浮かべながら、日本刀で自分の腕に噛みついているウルフィークの頭部を突き刺した。



「鎌ヶ谷君、助けに来てくれたの?」


「ああ。茂原さんに怪我がなくてよかったよ」


「でも … 鎌ヶ谷君の腕から血が … 」


「これくらい平気だ。それよりも、この状況をどうするか考えた方がいい」



 そう言われ、水奈は周りを見渡してみた。

 依然として9体のウルフィークに挟み撃ちされている状態である。この状態から抜け出すには、奴らを倒すか通路の左右にある本棚を乗り越えて逃げるかしかないだろう。


 拓真は左手に日本刀、右手に拳銃を手にし、構えを取る。



「ほらほら、かかってこいよ」



 拓真がそう呟くと、じっと様子を伺っていたウルフィーク9体中4体が襲いかかってきた。

 通路の前方、通路の後方から迫ってくる4体のウルフィークの目の当たりにし、水奈は軽く悲鳴を上げる。



「くらえ、雷電斬刀ブリッツシュヴェーアト!!」



 しかし、拓真は怯えた様子も見せず、右手に握った拳銃で2体のウルフィークの眉間を素早く撃ち抜き、左手に握った日本刀で飛びかかってきた2体のウルフィークを斬り裂いた。



「す、すごい … 」



 彼の実力を目の当たりにし、水奈は思わずそう呟いた。

 これで残るウルフィークは5体。

 このままの調子で拓真がやっつけてくれる、と水奈が期待を抱いたとき、突如ウルフィークの様子に異変が起きた。


 四足歩行で犬みたいな姿をしているウルフィークであるが、その身体がドス黒いオーラに包まれたと思ったら、ウルフィークの身体が倍の大きさに巨大化し、頭部が3つに分裂したのだ。



「ええっ … 鎌ヶ谷君、あの透怪物リフレクター大きくなったんだけど … 何が起こったのっ!?」



 水奈の問いかけに、拓真は真っ青な表情を浮かべ固まっていた。



「くそっ … よりによって今かよ!! これはヤバい! 茂原さん、一度逃げるぞ!!」


「えっ、ちょっと!?」



 水奈が拓真に腕を掴まれた次の瞬間、そのまま彼は通路左右にそびえ立っていた本棚を飛び越えたのだ。

 当然腕を掴まれている水奈も、引っ張られるという形で本棚を乗り越えることとなる。

 水奈の短いスカートが捲れ上がるが、今はそんなことを気にしている場合ではない。



「ひゃぁあああっ!!」



 静寂なショッピングモール内に、彼女の高い悲鳴声が響き渡った。


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