満月の日の新人着任編 1-1 「新人女子高生」
こんにちは、ピグのブログに掲載していたものをちょこっと手直しして持ってきました。ボチボチ更新していきます。
近畿地方のとある場所に位置している白川県。県庁所在地:柿ノ木市。
市内中心部には国道59号線が通っており、近代化された街並みが広がっている。
漆黒の暗闇の中を高層ビル群の明かりがいくつも浮かんでおり、地上にもまるで星空が広がっているかのような輝きを放っている。
その高層ビル群の間を潜り抜けるように、1機の軍用ヘリが飛行していた。
固定翼機とヘリコプターの特性を併せ持った機体の垂直離着陸機「V-22」:通称オスプレイである。
ネオンの光が灯る街の中にローター音を轟かせながら、低空スレスレに飛行しているこのオスプレイは周りから見れば危険だと思うだろう。
タダでさえ低空飛行なのに、現在のこのヘリの飛び方を見れば、誰でも墜落するのではないかと不安に思うほど危険な飛び方をしていた。
なぜなら …
「ひぇっ、ひぇぇえええええええええっ!?」
「がっはっはっはっ!! どうだ、新人嬢ちゃんよ!! 俺様のこの破天荒な操縦は!! 喚いてないで、しっかり目に焼き付けとけーい!」
オスプレイ機内では、可愛らしい女の子の悲鳴と、中年男の笑い声が響き渡っていた。
「む … もう … 無理 … 、吐きそう … 」
左右に大きく揺れる機体。空中でホバリングするかと思いきや、急加速して進む機体。
まるで障害物を避けるゲームかのように、オスプレイは無茶苦茶な飛行をしていた。
この機体を操っている角刈り頭の中年男は、ミラーで後ろのキャビン内を確認し、今にも吐きそうに口に手を当てている少女を見て呆れた表情を浮かべる。
「おいおい、そりゃないぜ。折角、俺様の操縦の腕前を披露してやっているのによ。もっと楽しもうぜ!」
「うっ … もう、いやぁ … 」
一方、キャビン内で必死に吐き気を我慢している少女は、何で自分がこんな目に遭わなくちゃいけないんだろう、と自分自身を呪っていた。
(何であたし、戦対課になんか入っちゃったんだろう … 。ていうか、強制的に入らされちゃったんだっけ?)
学校指定のグレーのぶかぶかカーディガンが大きく揺れ、青色チェック柄のミニスカートが捲れているが、今の彼女にとってそれどころではなかった。
吐き気を必死に堪えるのに精一杯なのである。
(そういや … 戦対課って、何するところなんだっけ? たしか … 警察組織の一員だったような … )
彼女にとって、実戦経験は今日が初めてである。
数日前の高校帰りに、スーツを着た1人の男と1人の若い女性に話しかけられたと思ったら警察手帳を見せてきて、
「君には素晴らしい才能がある。 ぜひ、ウチの戦対課でアルバイトでもいかがかな? 時給2000円でどうだろう?」と言ってきたのであった。
彼女はその時給の高さに、即答で「はいっ!」と答えてしまったわけであったが、まさかこうなろうとは夢にも思わなかったのだ。
今日だって、来るように指定された県警本部に足を運んだのだが、県警本部の建物内に入るなり、角刈り男に腕を掴まれて、こうしてこのヘリに乗せられたのである。
何をするのか、まったく聞かされていないのであった。
少女は、これからどこに連れて行かれるのか不安に思っていると、機内に無線が響き渡った。
『至急至急、白川本部から戦対001へ、白川本部から戦対001へ。現在時刻21時14分、再観測による目標を捕捉。目標は同市内 北区寒早西交差点 駅前大通りを南進している模様』
「戦対001から白川本部。了解!」
『なお、戦対課所属 鎌ヶ谷巡査部長とは今だ連絡が取れず。よって今回の事案に当たっては、木更津警部補と茂原巡査に任せる。以上、白川本部』
無線を終えると、機体を操縦している中年男が愉快に笑い始めた。
「がっはっはっ、現場に到着だ。木更津、後は嬢ちゃんのことをよろしく頼んまっせ」
中年男の声に反応し、キャビン内にもう1人の人間が姿を現した。若い女性であった。
亜麻色の長い髪を揺らし、淡いピンク色のキャミソール、デニムのショートパンツ姿という露出が多めな服装であるが、それが彼女のスリムな体型を一際、際立たせている。
顔はすっぴんのように見えるが、それでもモデルのように美しい顔立ちをしていた。
「あなたが、茂原さんね。私は木更津雪穂。今日はよろしくね!」
「えっ … あっ、あたしは、茂原水奈です」
「水奈ちゃんか。可愛い名前ね」
「あ、ありがとう … ございます」
「じゃあ、行きましょう」
「えっ?」
若い女性は女子高生:水奈の腕を掴むなり、無理矢理立たせた。
「あの … そもそもこのヘリコプターは、どこに向かってるんですか?」
水奈の問いかけに対し、木更津という女性はただ小さく笑みを浮かべただけ。
そして木更津は無言で水奈の後ろから手を回し、彼女と密着状態となった。
「ひゃっ … 」
いきなり抱き締められた水奈は、思わずそう声に出してしまった。
「じゃあ、おっちゃん。そろそろ貨物扉をオープンして」
「へいへい」
これから何が起こるのかさっぱり理解できない水奈は、ただ何も出来ずに女性に従うしかなかった。
女性に促されて一歩前へと進んでいくと、キャビン後部へとたどり着く。
すると、キャビン後部に設置されてある貨物扉が、ゆっくりと開いた。
眼下に広がる街を目にした途端、水奈はこれから何をされるのか薄らと理解してしまう。
「もしかして、ここから飛び降りるとか言うんじゃ … 」
「よーし、レッツ降下!!」
水奈の予想は的中してしまった。
予想通り、女性は空に向かってダイブしたのだ。
当然、腰を抱きつかれている水奈も一緒に、空中へと投げ出されてしまう。
「ひゃぁぁああああああああっ!! 助けてぇぇえええええええ!!」
夜の柿ノ木市内に、少女の甲高い悲鳴が響き渡った。