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リバースサイド  作者: 曾良
第一幕
5/13

第二章 陽炎に潜む者 2

 そこにあるべき、霊体はなかった。先の化け猫の姿はあの女が操った何らかの術なのであろう。張りぼてが倒され、見てくれだけの化け猫はその姿を元の主のもとへと霊気となって戻っていく。


「おい、隠れてないで出て来い。さっきのが本体じゃないってことはわかってる、折角やるなら堂々と行こう」

「やはり……おぬしは面白いものを持っとるようじゃの」

「お目に預かり光栄だ、化け猫女」


 どこからともなく聞こえてくる声に夜鷹は不敵に笑って、応えた。こうしている間も彼の「見鬼」の才が徐々にその索敵範囲を広げ、彼女の霊気の出所を探している。見つけることが出来るどうかは分からないが、場所も検討をつけておこないといざというとき対応が出来ない。これでは不意打ちしてくれ、といっているも同然だ。


「化け猫女とはなかなか妙な名をつけてくれたもんじゃ。先の姿は一応、ふぇいく、というやつじゃったんじゃが」

「お前の姿がどうだろうと知ったこっちゃねえ、お前は化け猫女で、それ以外の何者でもない。俺がそう思ってるんだから、これだけは違いねえ」


 某ガキ大将もびっくりの理論である。彼の言い分としては、相手になんと言われようが自分がそう思っているのだから自分の中ではそうである、ということなのだ。わけのわからぬ理屈だった。

 そんな夜鷹の言葉に、化け猫女と呼ばれた女が声をあげて笑った。よほど面白かったのか、霊気の乱れがびりびりと静電気のように夜鷹の肌に伝わってきた。位置が割れた。「見つけたぜ」声をかけると、案の定彼の向けた視線の先に腹を抱え笑い転げている女が姿を現した。 


「おぬし、やはり本当の馬鹿であるのう。こんなことを言う者に会ったのは、初めてじゃ」


 着物姿だった。流麗に流れる黒髪は腰のあたりにまで伸びており、真夏の陽光のもと汗のべたつきを感じさせない。肌は黄色人種特有の色を有しており、顔つきから日本人だと判別できるが、その艶美な面貌からは年齢すらも窺い知ることのできない妖しさが醸し出されていた。青天の空には不釣り合いな濃い闇の色としばし混じる黄金色の着物を彼女は着ていた。


「それがお前か」

「ああ、そうだとも。今回は正真正銘、妾の姿ぞ?」


 婉然な微笑みが夜鷹を見る。まるですべてを見透かしているかのような笑みだ。不気味だった。


 彼女の言う通り夜鷹の「見鬼」が女の霊体、魂を感知する。心臓のように脈を打ち、霊気を放出していた。ただ、そこから読み取れる感情が少しだけ妙だった。最初は勘違いかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。彼女自身もそれに気づいているかどうかも定かではない、魂から感じ取れる極微量の『感情』の波動。


 これは、「お前もしかして――――――」


「どうじゃ、妾のこのせくしぃーなぼでぃは。昔の男からは見向きもされなかったが、今のご時世こういう女子が良いのじゃろう?」


 夜鷹の紡ごうとする言葉を遮って女が言う。

 確かに良いプロポーションをしている。夜鷹は頭の片隅でそんなことを思った。もし彼女が「霊的存在」ではなく、普通の人間だったならば好みのタイプですらある。惜しかった、とは口に出さなかった。出したら負けのような気がした。「興味ないな」と一蹴するが勿論、嘘だ。思春期真っ盛りの男子中学生にはいささか刺激が強すぎた。すぐに思考を切り替え、頭に生まれようとしている邪念を追い払う。


 そんな夜鷹を見て、女は不満げに口を曲げる。


「なんじゃ、面白くないのう。そこは食いつくように見るのが正解じゃろうて。いまどきのガキ共は、これだからからかいがいがない」


 がっかりと言わんばかりに肩を落とし、女は大きなため息をついた。「さて、冗談と無駄話はこの辺りにしとくかのう」


(……来るかっ!?)


 女の言葉に夜鷹が構えた。妖美な笑顔を浮かべた女の背景に、再び龍の如きうねりが現れた。灼熱の炎が迸り、二つの火柱を学校の屋上に聳え立たせる。

 凄まじい霊気だった。姿が変わっただけで、先程の霊気とはまったくの別物のようだった。すくみ上ろうとする心を奮い立たせ、夜鷹は女を睨んだ。


「第二らうんど、じゃ」


 たどたどしい英語が空気を振動させ、音として夜鷹の鼓膜を震わせる。二体の炎の龍が猛々しい咆哮をあげ、夜鷹の左右から襲い掛かった。


 ほとんど条件反射的に夜鷹が待機状態でとどめていた「翔歩」を発動。上へ跳躍し、轟々と燃え盛る龍の軌道上から身体をずらす。避けそこなったのか、制服の一部が燃えかすとなっていて布の焦げた臭いが漂ってくる。焦げ臭さに顔をしかめながらも、反射的に夜鷹は受け身を取り屋上に転がった。

 再び「翔歩」による跳躍。今度は一歩、こちらが速かった。夜鷹を仕留めそこなった龍ではないもう一匹の龍が夜鷹めがけその大きな口を開き、突撃を繰り出してきた。行き着く暇もなく行われる攻撃を紙一重のタイミングでかわし続けながら、夜鷹はちらりと横目で空を見上げた。


「まだか……!?」


 祈るように、夜鷹が喘いだ。もう時間は十二分に稼いだはずであり、そろそろ夜鷹の待つ希望とやらが天空から舞い降りてきてもいい頃合いのはずである。だが、こればかりは夜鷹の予想でしかなく、外れていないことを祈るしか今は手立てがない。頼み綱であるそれが切れたとなったら、あとはもう夜鷹に待つのは「死」という非情な現実だけだった。


 徐々に夜鷹と炎の龍の差が詰まっていく。かわしていくタイミングが際どくなっていき、制服のあちこちから煙が立ち上っていた。


「どうした、まだまだ遊びはこれからぞ?」


 嘲笑のような嗤い声が、夜鷹の矜持を容赦なく突き刺していく。せめて略符でもあれば対抗できたかもしれないが、生憎手持ちの略符は一つもなかった。そもそも前回、略符を持ち出せたのは陣内が外出中だったからであり、その一件でこっぴどく説教を受けている夜鷹に再び略符をくすねるという選択肢は初めから存在していなかったのである。

 攻撃に転じようにも、攻防のし烈さは時間を追うごとに増していくばかりで、術者の方も隙らしい隙を見せていない。動こうにもタイミングが掴めなかった。


 火をまとう龍が宙で乱舞し、荒れ狂う霊気を波とともに夜鷹に押し寄せる。次は二体同時だ。


 ――――――ちっ、無理か!?


 間に合わない。直感的に彼の脳はそう判断を下した。回避を諦め、九字による防御へと切り替えようとしたがそれでも火の龍が迫ってくるのが速かった。

 だが、ここで運が尽きないのは夜鷹にはまだやらなければいけないことが残っているからだと思える。


「オン バロダヤ ソワカ」


 場にすぐわぬ冷たく、静かな声が響いた。唱えられるのは水天の真言。上空から火の龍とは対照的な水気の霊気が迸った。


 水剋火。水は火を打ち消す、五行の理において二つは相剋の関係にある。火気を帯びた霊気を打ち消すのに水気は最も有効な手段であり、定石だった。

 夜鷹に襲い掛かろうとしていた龍が突如として現れた水の激流により、水蒸気を発生させながらその姿を消していく。一瞬にして、二体の龍が跡形もなく消滅してしまった。


「なんじゃなんじゃ、この前といい本当におぬしらは妾の邪魔ばかりをしてくれるのう」


「肯定します。私の、しいては私の主の使命は貴方のような女狐の邪魔をすることです」


 いとも簡単に術を破られたせいか、それとも単純に夜鷹とのお遊びを邪魔をされたせいか、不機嫌に顔を歪める女に上空から颯爽と降り立ってきた女中服姿の女が淡々とした口調で毒を吐いた。無表情で吐かれた毒舌にさすがの夜鷹も苦笑を隠しきれなかった。


「ところで」


 不意に女中服姿の女の冷たい視線が後ろにいた夜鷹へと向けられた。


「そこ馬鹿弟子、もしくは阿保弟子は何をしているのでしょうか。いえ、言わずとも答えは出てましたね。破廉恥な」

「あんたの中では俺は一体何をしことになってるんだよ!?」

「黙ってください、馬鹿野郎」


 無表情だった顔が一瞬だけ汚物を見るような面となったのを、夜鷹は見過ごせなかった。今回の夜鷹は純粋な被害者であり、彼女に毒舌を頂くような行為は一切やっていない。なのにこの仕打ちというのは、どういうことなのだろうか。一度くらいは反論を試みたいところだが、やったところで逆に自分が貶められるのが落ちなのでやめておく。「という、半分だけの冗談はこの辺りにしておくとしまして」一々発する言葉に毒を盛っていることにすら、夜鷹は渋面を作ることしかできない。


「不承不承ではありますが、この絡繰式からくりの『楓』主の命により、不肖の弟子淡海夜鷹の救援及び第三段階に移行した「霊的存在」を修祓するため馳せ参じました」


 再び女に向きなおった楓が、律儀に口上を述べお辞儀をする。弟子という言葉の前にわざわざ、不肖の、とつける辺り楓の夜鷹への態度は一貫していた。


 着物の袖を弄りながら女が面白くなさそうに唇を尖らせる。


「だーめーじゃ。おぬしは面白うない。たかが絡繰りごときに、妾は興味を持てぬ」

「その言葉そっくりそのままお返しします。私もあなたには塵ほどにも興味を抱けていません。出来れば、そのまま何もしないでいただけると助かるのですが」

「よくもまぁ、減らぬ口じゃ。少しお灸をすえてやらんと、わからんのか?」

「肯定。それと同時に否定します。それはこちらの台詞、というものです」


 屋上に漂う自然の霊気が、二人の気の高ぶりを察したのかのように震えだした。二人の双眸が細められ、それぞれの表情は無表情に近いものになっていた。

 張りつめた緊張が若干蚊帳の外に放り出された感のある夜鷹にもひしひしと伝わってくる。小さな呼吸音すらたてるのを憚ってしまう。

 最初に動いたのは、意外な人物だった。


 夜鷹だ。


 その手に持つのは二枚の呪符。先のやり取りの最中、楓からこっそりと渡されていた略符だ。


急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう!」


 命令句が発せられるのとほぼ同時に女の着物の裾に蔓草が巻き付いた。五行を生ずる呪術は、火行が高威力で応用がしやすく、水行は広範囲の術式展開、金行は刀などの金属生成、木行が対象の捕縛、土行は土壁や土流の発生、といったものが術の基礎とされており略符が使えるのはこの基礎の部分の術だけだった。今、夜鷹が使ったのはこのうちの木行であり、伸びた蔓草で相手の動きを絡めとる捕縛用術式だった。


「ほうほう、緊縛ぷれい、とかいうやつかのう?」


 女が妙に緊張感のない声でそう言った。すかさず楓も反応する。


「破廉恥」

「あんたが渡したんだろうが!? この呪符は!」


 やけくそ気味に叫びながら、その手に持っていたもう一枚の呪符を足元へと叩きつけた。「急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう!」


 再び蔓草が夜鷹の足元から急激な勢いで伸び、女を着物ごとさらに深く縛り上げていく。「ほう、比和か……これはこれは」と当人は感嘆するように呟くが、その表情から余裕が消え去ることはなかった。ただ比和によって木行の呪術は、先とは比べ物にならないほどその威力を増している。それに加えありったけの霊力を込めたのだ、たとえ強力な霊力を持つ「霊的存在」であろうとそう簡単には抜け出すことは出来まい。


 自然と口元から笑みがこぼれ、夜鷹は半ば勝利を確信する。これで楓がとどめを刺してくれたなら、一件落着…………のはずだが、彼女を見る楓の表情はどうやら芳しい様子ではなさそうだった。


「五行の理を以て、命ずる」


 じりじりと微妙に後ずさりをしながら、楓が呪文を詠唱する。


「聖なる水気よ、邪なる気より我が身を守りたまえ! 急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう!」


 楓が唱え、命令句を叫ぶ。彼女が唱えたのは水行の結界呪文。水気をまとう霊気が彼女の眼前を護るように、展開される。


 直後。荒々しい霊気の乱れが、水の結界を揺さぶった。


「な、なんだ……?」


 夜鷹が困惑気味に呟き、この霊気の乱れの根源を注視した。そして、目を剥いた。「中々の威力じゃったが、まだまだ足りぬ。妾を縛るには、もっと刺激的なものでなければのう」女が惜しむような口調でそう言った。


 術が破られていた。それもいとも簡単に、夜鷹が気づかぬ一瞬のうちに。

 彼女の身体からは蔓草を燃えかすに変えたと思われる火気の霊気の残り香がかすかに漂っている。恐らくは先の化け猫同様、彼女自身もその身に火気をまとわすことが出来るのであろう。全身から噴き出した火気の霊気が、瞬時に巻き付いていた蔓草を燃やし尽くしたのだ。


 失態だった。彼女の能力を見誤った夜鷹の、ミスだった。陰陽師として痛恨すぎる失敗である。


「落ち込むの後です。ミスなど誰にもあること、それも不肖の弟子ともなるとそれは当然かと。それよりも、失敗した後どう動くか、それこそがプロにとっては大切です」 


 落ち込む夜鷹に背を向けたまま楓が叱咤する。そもそも戦闘で一々失敗して落ち込んでいるようでは、一人前には程遠い。プロに必要なのはむしろ、失敗しないことではなく、失敗した後どうするかだ。終わり良ければ総て良し、というように過程がどうであれまず第一に考えるべきは結果である。ならば、途中のミスなど些細なことでしかなく、最終的に「霊的存在」さえ祓うことが出来れば万事解決なのだ。


「まあ、火行の術を操る相手になぜ木行を使ったのかは、理解しかねますが」

「……反省します」


 傷口を珍しく治療してくれたと思ったら、間髪入れずに塩を塗ってきた。励ますのか、貶すのかはっきりしてほしいものだ。

 しかし、彼女の言う通り今は一つ一つのミスを悔いている時ではない。目の前には敵がいる、攻撃を受けている。ならば、やれることは一つしかない。


「俺はなにをすれば」

「一度、離れたところへ退却します。場所は貴方にお任せします、精々上手い隠れ場所でも見つけておいてください」


 彼女の目の前に張られた水の結界が、着物の袖を翻しながら女が再び召喚した火の龍の猛攻によって徐々に水蒸気へと変わりつつあった。相剋の関係にある霊気を消しているとは、凄まじい霊力だ。もし、彼女が先ほどにこれを出していたら恐らく夜鷹はここにはいなかった。遅れて襲ってくる死の恐怖に、ごくりと喉を鳴らす。時間はなかった。


 すぐに「翔歩」でこの場を離れた。屋上から距離があり、敵に見つからない隠れ場所とはいっても学校の敷地は限られている。ならば学校の外か、否。それだとあの女から距離が離れすぎて、彼女の行動を確認することが出来ない。もしも、無差別に暴れ回られでもしたら対処に遅れてしまう。霊気が捕捉でき、かつ対処に遅れずに動ける隠れ場所。


「……ないな」


 なかった。そんなうまい場所が学校という限られた敷地内に存在するはずがない。ならば、どうするべきか。屋上から地上へ落下する最中、夜鷹の思考が詰んでしまった。これでは落下後に逡巡を生み、致命的なロスが発生してしまう。

 そんな時、落下する夜鷹の視界にある不可解なもの飛び込んできた。学校の廊下、そこに横たわっているのは紛れもないこの学校の生徒達だった。まさか霊障が? とも考えたが、あの段階まで移行した「霊的存在」は『霊獣』と違って自身の発する「瘴気」をコントロールすることが出来る、そのため彼女と接触し「瘴気」に犯されるということは絶対にないはずだった。「瘴気」とは霊体をそのものを蝕む。一度吐き出せば、霊体そのものである「霊的存在」はたちまちに侵されてしまう。そんなリスキーな行動を、彼女がするようには思えない


 なら、これはなんなのだろうか。考えられるのは楓が夜鷹のもとへ来る前に、何らかの呪的作用を生徒全員にかけたということくらいだ。そうでなければ、第三者の可能性も視野に入れないといけないのだが、その可能性はないに等しく、よって結論は楓の仕業であると断定される。

 それに先まで高濃度の霊気にあてられいたせいで気づかなかったが、校内の霊気がいつもと違う。やはり何かしら呪的なものが働いているようだった。


「これは……結界か? 前に師匠の家で見せてもらったやつと同型……てか、つうことははじめっから楓さん、俺を囮にしてたな」

「肯定。不肖の弟子にしては、よくできていました。逃げることだけは一人前といってもいいでしょう」

「うわっ!? あ、あんたいつの間に降りてきたんだ!」

「先ほどですが?」


 突然隣に現れた楓にバランスを崩しかけるが、何とか持ちこたえ地面に受け身を取りながら着地する。「あいつは?」

「簡易的な結界で屋上に閉じ込めました。ですが、あと数分と持ちません」


 相変わらず淡々とした口調で状況を説明する楓だったが、やはり状況は予断を許さない様相だった。やはりあの女は只者ではない、楓も陣内の絡繰式からくりなだけあって相当な実力を有しているが(夜鷹を素手で圧倒するほどに)その楓でも退散しなければいけない状況を作り出されたのだ、これははっきりいって不味い。


 楓は飄々とした顔をしているが、その内心で次の策を練っているのだろう。いつもなら毎分ごとに吐かれる毒も、今はなかった。

 と、そこへ上から何かが羽ばたいたような音が聞こえた。微かにだが覚えのある霊気を持っている。上を見ると、やはり一匹の小さな烏がいた。陣内の使い魔だった。


「楓、状況はどうなっとる?」


 烏が流暢に日本語を喋り出した。その声は紛れもない陣内、その人のものであった。


「やはり先の取り逃がしたレベル3と同一でした。狙いはこの不肖の弟子、もとい前と同じでしょう。面白いものが見つかったから、遊んでいる、と」

「やはりそうか――――――夜鷹君」


 状況確認が済んだのか、陣内の使い魔がその首をかしげながら夜鷹の方へとその紅く光る瞳を向けた。まだ、急に進展しだした事態についていけてない夜鷹は「な、なんだ」と上擦った声で返事を返す。


「色々と喋らなあかんことあるさかい、ちょっとばかしこの場所から離れるで」

「では、グランド中央へと行きましょう。あそこなら、広く見晴らしがよいかと」

「そやな。いらん被害は出しとうないし」


 またも交わされる会話の内容を理解できず、夜鷹は思わず渋面になった。なんだか自分は当事者のようで、渦中からずれているような気がしてならない。重要なピースを持たされずに、パズルを完成させろと言われていたことに遅まきながら気づいたような、妙な感覚。

 二人に聞こえないくらいの小さな舌打ちをした夜鷹は、グラウンド中央へとむかいだした二人――――正確には一体と一匹――――を追って「翔歩」で駆けた。



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