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*終*


「キッカケなんてのは、ホント些細なモノでさ。雨が岩を穿つこともあれば、何十年来のトラウマがたったの一言で癒えることだってある。……ところで水と魚と言えば『水を得た魚』って諺があるけど、人の場合は何を得たら生き生きとするんだろうねぇ?」


「えー、突然ですが漢字の抜き打ちテストをしまーす」

 教室に入るなり魚住うおずみさんが最高の笑顔でそう言い放つと、クラスの大多数からブーイングが起きた。無論、オレもその内の一人だ。

 だけど、そんなことをしても無駄だってオレたちでも分かってる。魚住さんはやると言ったら絶対やる。

 だから徐々に声の数は減り、完全に収まりかけた瞬間、先生何かイイコトあったの、と女子の誰かが訊いた。

「ふふん、分かるか? 実はな――」

 と、枚数を数えながら最前列にテスト用紙を裏向きで配り始める魚住さん。

「昨日、小学校の時の同級生から『子どもが産まれました』って手紙が届いてさ」

 そう笑顔で語りながらも一列、二列と用紙を配り続ける。そして受け取ったヤツは自分の分を取ると、残りを後ろに回し始めた。

「ずっと会ってなかった友達からってのにもだけど、もう私たちそんな歳なんだなぁってのに驚いたわけよ」

 全てを配り終えて魚住さんが教壇へと戻ったとき、ちょうどオレにも用紙が回ってきた。

 だからオレも一枚取って後ろに回そうとして、

「ちなみに、先生は来月でアラサーからジャスサーになります。だからテストをします。文句あるか、この野郎?」

 思わず手が止まった。つーか、クラス全員の動きが止まった。

 ……とんだとばっちりだ。

 多分、みんなそう思ってる。

「まぁ、私にはお前ら『教え子』がいるからイイけどなぁ。寂しくないけどなぁ。悔しくないけどなぁ」

 あはははー、と恐ろしいほどの――つーか、恐ろしい笑顔で魚住さんが笑う。

 そしてその顔のまま、

「はぁー、どこかに違いの分かるイイ男は居ないもんかねぇ、『薄原すすきはら』?」

 生き生きとした眼差しをオレに向ける。

 だから違いの分かる男は、今度ははっきりとその問いに答える。


「オレに訊かないで下さいよ、『先生』」



 なんとなく。何の根拠もない、ガキなオレのなんとなくだけど、魚住さんはもう大丈夫な気がした。

 だから、泡となって消えた人魚も、静かな海に無事帰れたと信じることにしようと思う。


 ――第四話「vs.とべないペガサス」に続く。



 以上、もどきども第三話「vs.おぼれるマーメイド」でした。

 楽しんで頂けたなら、この上ない幸せ。

 また、ソレはないんじゃない的な意見や、感想・批評など頂けたら、鼻血大放出で千四号は喜びます。


 ではでは、ここまで読んで下さった貴方に最大級の感謝を!

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