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短編「三人であるために」

作者: ニィギンヤ
掲載日:2026/03/28

 昼下がりの草原に、笑い声が転がっていた。


「だから言っただろ、そっちじゃないって!」

「うるさいな、結果的に宝箱見つけたんだからいいじゃん」

「いやそれ空っぽなんだけど」


 風に揺れる草を踏み倒しながら、三人はどうでもいいことで言い合っている。


 剣を背負ったレイン、皮肉屋のエルド、そして少し遅れて歩くミナ。

 どこにでもいるような、けれど少しだけ騒がしい旅の一団だった。


「次は街だな。まともな飯食える」

「お前昨日も同じこと言ってなかった?」

「大事なことは何度でも言うんだよ」

「それただの食い意地でしょ」


 また笑いが起きる。

 理由なんてなくても、三人でいれば笑えてしまう。


 それで、十分だったはずだった。



 その夜、焚き火の火はいつもより静かだった。


「なあ、明日さ」


 レインが言いかけて、言葉を止める。


 言わなくてもいいことは、三人の間では自然と共有されていた。

 どこへ行くのかも、何をするのかも。


 ただ一つ、違っていたのは。


 ——明日、向かう場所。


「……例の遺跡、だろ?」


 エルドが先に言った。


 ミナは何も言わず、火を見つめている。


 その遺跡には、“願いを叶えるもの”があると噂されていた。

 信じるには曖昧で、無視するには魅力的な話。


「どうせ罠だろ」

「かもな」

「でも、行くんでしょ?」


 ミナが静かに言う。


 その声音はいつもと同じはずなのに、どこかだけ違っていた。


 レインは気づかなかった。

 エルドも、たぶん気づいていなかった。


 あるいは——気づこうとしなかったのかもしれない。



 遺跡は、拍子抜けするほどあっさりと三人を迎え入れた。


 罠も、魔物も、何もない。


「逆に怖いな」

「帰るか?」

「ここまで来てそれ言う?」


 軽口を叩きながら奥へ進む。


 そして、最深部。


 そこには——確かに“何か”があった。


 淡く光る、形の定まらない塊。

 触れれば壊れそうで、それでいて確かな存在感を持つそれ。


「……なんだこれ」


 レインが手を伸ばしかけた、その瞬間。


「触らないで」


 ミナの声が、鋭く響いた。


 二人は驚いて振り返る。


 ミナは、一歩前に出ていた。


「それ、たぶん——願いを叶えるもの」


「……噂、信じてたのか?」

「別に。ただ……」


 一瞬、言葉が途切れる。


 そして、ほんの少しだけ笑った。


「使い方、知ってるだけ」



 次の瞬間には、もう終わっていた。


 光は消え、部屋はただの石の空間に戻る。


「……は?」


 エルドが呟く。


「今、何した?」


 レインの声も、少し遅れて追いつく。


 ミナは振り返る。


 いつも通りの顔で。


「何も?」


 その答えが、あまりにも自然で。


 だからこそ——


 二人は、言葉を失った。



 帰り道は、妙に静かだった。


 誰も何も言わない。


 言えば壊れる気がしていた。


 けれど。


「なあ」


 レインが、ぽつりと呟く。


「さっきの、さ」


 言葉を探すように、少しだけ間が空く。


「……なんでもない」


 結局、飲み込む。


 エルドも同じだった。

 聞きたいことは山ほどあるのに、口に出せない。


 ミナは、いつも通り歩いている。


 少しだけ前を。


 それが、ほんの少しだけ遠く感じた。



 三人で笑うことは、できる。


 きっとこれからも。


 くだらないことで喧嘩して、どうでもいいことで盛り上がって。


 何も変わらないように、振る舞うことはできる。


 でも。


 ——何も変わっていない、わけじゃない。



「なあ、明日どこ行く?」


 レインが言う。


「どこでもいいだろ」

「適当すぎない?」


 会話は、いつも通り続く。


 ミナも笑う。


 ちゃんと、三人で。


 ただ一つだけ。


 誰も、“あの時のこと”に触れない。



 それでも三人は、並んで歩いている。


 同じ方向へ。


 同じ速さで。


 ——同じではいられなくなったまま。

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