来るべき時が来たならば!
アンジュはふんっと鼻を鳴らした。
「公にはできませんが――」
背中に背負っている大剣に手を添える。
鞘も柄も豪奢な装飾が施された、真紅の剣。
店の灯りを受けて鈍く輝くそれは、明らかにただの武器ではなかった。
アンジュは誇らしげに言う。
「この神剣レーヴァテインも――」
ベルが即座に言った。
「その使えないやつね」
アンジュが固まる。
「使え……」
口を開きかけて、言葉を飲み込む。
「まぁ、来たるべき時しか使えないのは確かですけれど」
軽く咳払いする。
そして胸を張った。
「ひとたび、この剣が抜かれたならば――」
声を低くする。
「世界は炎に包まれますわ」
ミリィがびくっとする。
アンジュは堂々と言い切った。
「危なすぎて使えませんわ」
リックが静かにパンをかじりながら言った。
「昔は戦いのたびに抜こうとして、抜けなくて泣いてたじゃないですか」
アンジュの動きが止まる。
リックは続けた。
「今も時々、一人でこっそり抜こうとしてるの、みんな知ってますよ」
バロムが静かに頷く。
「……見た」
アンジュがゆっくり振り向いた。
「……」
「……」
「……リーーーークッ!!」
机を叩く。
「どうしてそれを今ここで言いますの!?」
ベルが腕を組んで頷く。
「やっぱり使えないんだ」
「違いますわ!」
アンジュは必死に言い返す。
「これは選ばれた者にしか扱えない神剣なんですの!」
ベルが真顔で聞く。
「アンジュさん選ばれてないの?」
リックが横でぼそっと言う。
「一応、所有者ではあるんですけどね」
バロムが付け加える。
「……抜けない」
アンジュが叫んだ。
「今はまだその時ではないだけですわ!!」
その後――。
テーブルでは、ベルとミリィ、それにリックとバロムが今後の方針について話し合っていた。
「神殿騎士があそこまで来ていたとなると、この辺りも長くは安全じゃありませんね」
リックが静かに言う。
ベルはうなずいた。
「うん……たぶん、すぐに動いた方がいいと思う」
ミリィも小さく頷く。
「街道を使うのは危ないかもしれません……」
話しながらも、4人は時折ちらりと視線を店の奥へ向ける。
そこには――
壁を向いたまま、膝を抱えて座り込んでいるアンジュの背中があった。
完全にいじけている。
そして、なぜか小声で話していた。
「ママ……誰も信じてくれないの……」
少し間。
「うん、そう……うんうん……でもね……」
さらに小さく頷く。
「わかってる……いつでも笑顔でがんばる……」
ベルが真顔で呟いた。
「……怖いんですけど」
リックが苦笑する。
「放っておけばそのうち戻ってきますよ」
バロムが静かに言った。
「……いつもの」
ミリィが心配そうに聞く。
「本当に……大丈夫なんですか?」
リックは軽く肩をすくめた。
「ええ。リーダーはああ見えて、立ち直りだけは異常に早いので」
その瞬間――
アンジュが勢いよく立ち上がった。
くるっと振り向く。
「ーーーどうやら来たようですわ」




