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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: K.K.
第3章ー動乱の王都ー
49/129

ー第二段階は間を繋ぐには本当便利ー




朝の訓練場には、まだ修復魔術の残滓が淡く漂っていた。


壁面に走っていた亀裂。


床を抉った衝撃痕。


天井を走った魔力焼け。


それらは完全ではないが、外観上はほぼ元通りに整えられている。


だが――


空気の奥に、わずかな緊張が残っていた。


先日の模擬戦。


結界が悲鳴を上げ、制御室が警告音で埋まり、


結果として三日間の修復期間が発生した。


その余波が、今も支部全体に影を落としている。


訓練場の一角。


ベルは両手をポケットに入れたまま立っていた。


少女の姿。


眠気はもうない。


ただ静かに、周囲を観察している。


その向かい側。


マリーナは端末を確認しながら、周囲の結界強度を最終チェックしていた。


眼鏡越しの視線は鋭い。


「……異常なし」


低く呟く。


横に立つマークスが報告書を閉じる。


「修復作業、完了。安全基準もクリアしています」


三日。


想定外の再建期間。


その間、ベルは特に騒ぐこともなく待機していた。


その落ち着きもまた、


マリーナにとっては評価対象の一つだった。


静かな呼吸。


静かな立ち姿。


だがその内側にある力は――


誰も完全には測れない。


マリーナは端末を軽く操作し、


声を張る。


「では――」


視線が真っ直ぐベルへ向く。


「三日目。評価試験を開始する」


空気が一瞬で引き締まる。


マークスが記録装置を起動。


カウント表示が浮かび上がる。


ベルは小さく息を吐いた。


「やっと今日が最後ね。ミリイもがんばってるかな」


ぽつりと、独り言のように。


だがその声は静かな決意を含んでいる。


肩を軽く回す。


指先を握り、開く。


準備動作。


戦闘ではない。


だが――


これは“審査”。


力だけでなく、


制御。


判断。


存在そのものの測定。


静寂の中、


試験が、始まった。


兵器の胸部が一際強く明滅し、駆動音が低く唸った。


装甲の隙間から青い光が漏れ出す。


金属が再構成されるような音。


次の瞬間――


外殻が開き、内部機構が露出する。


複数の浮遊ユニットが切り離され、宙へ散った。


高速で旋回。


ベルの周囲を囲むように軌道を描く。


「……は?」


思わず小さく声が漏れる。


ユニットの先端が光る。


一斉射。


火の弾。


雷の矢。


風圧の刃。


それぞれが独立して彼女を追い始めた。


「追ってくるの……!」


ベルは即座に地面を蹴る。


右へ。


爆発。


背後で床が吹き飛ぶ。


次は左。


雷が軌道を曲げて追尾してくる。


「しつこい……!」


歯を食いしばりながら柱の影へ滑り込む。


しかし柱ごと撃ち抜かれる。


崩れ落ちる破片を踏み台にして跳ぶ。


息が荒い。


脚が重い。


(長くは……持たない)


胸の奥で自分に言い聞かせる。


回避。


回避。


また回避。


追尾弾は間隔を詰め、逃げ道を塞ぐように軌道を変える。


一発が腕をかすめる。


熱が走る。


「っ……!」


思わず片膝をつきかける。


だがすぐに体勢を立て直す。


(止まったら終わる)


(受けたら、削られる)


浮遊ユニットがさらに加速する。


上下左右。


立体的に包囲される。


ベルは視線を巡らせる。


「……だったら」


小さく息を吸う。


次の攻撃が放たれる瞬間、


彼女はわざと一歩前へ踏み込んだ。


弾道の内側へ。


火球が顔面すれすれを通過する。


その熱気を感じながら、


身体を低く滑り込ませる。


背後で爆発。


衝撃で身体が前へ押し出される。


それを利用してさらに加速。


「利用できるものは、全部使う……!」


自分の声で自分を奮い立たせる。


追尾弾が再度方向転換。


今度は三方向から同時。


逃げ場が狭まる。


ベルは地面を蹴る直前、


視線で一瞬だけ弾の軌道を読む。


跳躍。


空中で身体をひねる。


一発を紙一重で躱し、


もう一発の爆風に乗る。


最後の一発が足元を掠めるが、


衝撃をバネにして着地。


膝が震える。


呼吸が乱れる。


それでも――


立っている。


浮遊ユニットが旋回を続ける。


ルーファスの声が静かに響く。


「反応速度は維持」


「だが消耗は明白」


ベルは額の汗を手の甲で拭う。


「うるさい……」


小さく吐き捨てる。


「そんなの、わかってるよ」


視線は前。


追尾弾の隙間を見つめる。


逃げ続ける。


止まらない。


倒れない。


それだけを考えながら――


再び地面を蹴った。


訓練場を覆うように、浮遊ユニットが旋回を続けている。


高速で軌道を変えながら放たれる追尾弾。


火。


雷。


風。


光。


逃げ続けるだけでは、終わりが見えない。


ベルは地面を蹴り、柱の影へ滑り込む。


爆発。


砕けた破片が頬をかすめる。


呼吸が浅い。


膝が重い。


(……このままじゃ)


視線の先に、ルーファスのホログラム。


冷静に、観察する目。


評価。


終わりの見えない試験。


(1日目みたいに、やったら終わり……って感じじゃない)


(何か“結果”を出さなきゃ、ずっと続く)


浮遊ユニットが再び方向を変える。


追尾弾が三方向から迫る。


逃げ道を塞ぐように、包囲が狭まる。


ベルは奥歯を噛む。


(ミリイ……)


意識が一瞬だけ医療区画へ向く。


目を覚ましたという報告。


まだ安静。


早く会いたい。


顔を見たい。


こんな場所で、足止めされている場合ではない。


小さく息を吸う。


「……ちょっとだけ」


右手を動かし、小指に嵌められた指輪へそっと触れた。


(模擬戦でアイツも能力使ったと聞いたし……)


その指先に反応するように――


指輪が静かに、甘い光を放った。


強くはない。


しかし確かに、存在を主張する光。


追尾弾の一つがその輝きを感知したかのように、わずかに軌道を乱す。


ベルはその光を横目で見つめる。


「……ありがとう、アカリ」


小さく呟いた。


ベルは大きく息を吸い込み、迫り来る浮遊ユニットへ視線を固定する。


包囲は狭まり、逃げ道は徐々に削られている。


「……このままじゃ、じり貧」


小さく呟き、右手を上げた。


親指と人差し指を伸ばし、銃の形を作る。


狙いを定める。


標的は最も近くを旋回する一機。


左手で右手の手首を支え、体勢を安定させる。


「アカリ……お願い!」


小指に嵌められた指輪へ、意識を深く沈める。


(模擬戦でアイツも能力使ったって聞いたし……)


指輪が応えるように、静かに鼓動する。


熱ではない。


魔力でもない。


身体の奥から引き出される、純粋な力。


指先へと一点に集まっていく。


光が小さな粒となり、収束する。


広がらない。


暴れない。


ただ密度だけが増していく。


ベルは息を止める。


「アカリ……」


光がさらに細く、鋭く変わる。


まるで一本の線。


「思いっきり――」


浮遊ユニットが急激に軌道を変え、回避行動に入る。


だが、もう遅い。


ベルの瞳がその動きを追い越す。


指先の光が極限まで圧縮される。


「――貫いてっ!」


音はない。


真っ白な光の線が、一直線に放たれた。


空間を裂くように伸び、


逃げようとするユニットの中心へ突き刺さる。


抵抗を押し分けるように進み、


装甲と内部機構を静かに穿つ。


通過した瞬間、


光は余計な余波を残さない。


ただ一点だけを正確に貫き、


機体は空中で動きを止めた。


数秒遅れて、制御を失い落下する。


ベルはゆっくりと指を下ろす。


浅く荒れた呼吸。


「……一機」


視線を上げる。


残るユニットが、一瞬だけ動きを鈍らせた。


ベルは次々と指を構え直す。


狙いを定め、


光線を放ち、


軌道を変えようとするユニットを正確に貫いていく。


一機。


二機。


三機。


真っ白な線が空間を静かに穿ち、


落下音が連続して訓練場に響く。


やがて――


最後の一機も光に射抜かれ、


旋回していた影がすべて地面へ沈んだ。


ベルは肩で息をする。


指先をゆっくりと下ろした。


「……終わった?」


静寂。


しかし試験終了の合図は鳴らない。


マリーナが端末を確認し、目を細める。


「全機沈黙……」


マークスが記録を読み上げかけた、その瞬間。


床に倒れていた機体の残骸が、微かに震える。


内部の魔力炉が再点火。


装甲の破片が浮き上がり、再構成されていく。


ベルの瞳が鋭くなる。


「……まだ?」


ルーファスのホログラムが静かに口を開いた。


「第一段階突破」


「想定以上の結果だ」


再構成された兵器群が形を変える。


装甲が厚みを増し、


浮遊ユニットがより高速回転型へ変異する。


駆動音が低く、重くなる。


「第二段階へ移行」


ルーファスの声が続く。


「自律判断強化」


「追尾精度上昇」


「迎撃優先度変更」


ユニットが一斉に動き出す。


さきほどより速い。


さきほどより鋭い。


ベルは舌打ちを小さく漏らす。


「強くなるの早すぎでしょ……!」


構えを取り直す。


だがその時――


空間全体が再び歪む。


ベルの足元の魔力紋様が赤く点滅する。


マリーナが即座に顔を上げる。


「何だ……?」


ルーファスの目が細まる。


「追加制限」


静かな宣告。


「試験対象の能力使用回数に上限を設定する」


ベルの指輪が一瞬、強く光る。


そして――


光の収束感が、わずかに鈍る。


ベルは目を見開いた。


「……は?」


ルーファスは淡々と続ける。


「戦闘は“条件付き”で行う」


「制限下で突破できなければ――評価は未達」


浮遊ユニットが包囲を狭める。


第二段階の圧力が、静かに戦場を満たした。


ルーファスは静かにベルを見下ろした。


浮遊ユニットが再構成を終え、第二段階の駆動音を低く響かせている。


その圧力の中で、彼はゆっくりと口を開いた。


「提案だ」


ベルは構えたまま眉をひそめる。


「……なに」


「追加試験の条件を変更する」


ルーファスは指先を軽く動かし、空間に淡い光の線を走らせた。


「その能力――」


視線がベルの右手、小指の指輪へ向く。


「使用回数を十回までとする」


ベルの目がわずかに見開かれる。


「……十回?」


「そうだ」


淡々とした声。


「この評価試験内に限る。試験終了と同時に制限は解除される」


マリーナが即座に口を挟む。


「強制ではないな?」


ルーファスは肩をすくめる。


「拒否も可能だ」


「その場合、追加試験は中止。評価は基礎測定のみで判断する」


静寂が落ちる。


ベルは指輪にそっと触れた。


(十回……)


少ない。


だが――


ゼロではない。


ミリイの顔が脳裏に浮かぶ。


ベッドの上でこちらを見つめていた瞳。


「……」


ベルはゆっくりと息を吐く。


「わかった」


ルーファスの目が細くなる。


「受けるのか」


「うん」


「条件を明確にする」


ベルはまっすぐ彼を見返した。


「この試験の中だけ」


「十回まで」


「それ以上は使わない」


ルーファスは軽く頷き、端末へ記録を残す。


「合意成立」


空間に契約成立を示す光が一瞬だけ走った。


同時に、ベルの指輪が静かに反応する。


カウント表示のような光の粒が、内部で灯る。


十。


それが初期値として固定された。


ベルはそれを確認し、小さく呟く。


「……じゃあ、無駄にできないね」


浮遊ユニットが再び包囲を狭める。


第二段階の圧力は変わらない。


だが今――


戦いの中に“数字”という制約が加わった。


ベルは右手を構え直す。


指輪が淡く光る。


「アカリ……」


静かな呼吸。


「大事に使うから」


そして、地面を蹴った。


ベルは迫りくる浮遊ユニットの軌道を視線で追いながら、地面を滑るように回避する。


爆ぜる火球。


雷の閃光。


風圧が背後の床を削る。


「……っ」


呼吸を整える間もなく、右手を構え直した。


親指と人差し指を銃の形に。


「――貫いて!」


真っ白な光線が一直線に放たれる。


逃げようと急旋回した一機の中心へ突き刺さり、静かに内部を穿つ。


落下。


ベルは即座に体勢を崩さず、次の標的へ照準を合わせる。


「貫いて!」


再び光が走る。


二発目。


三発目。


軌道を変えながら包囲しようとしていた機体が連続で貫かれ、動きを止めて墜ちていく。


ベルは短く息を吐いた。


浮かぶカウントが視界の端で更新される。


【7】


「……よし」


残る敵はまだ複数。


間を置かず、ベルは地面を蹴った。


高速で迫る一機へ真正面から飛び込む。


右手を振り上げる。


「アカリ! やっちゃって!」


掌を前へ突き出した瞬間、


指輪が強く脈打ち――


圧縮された光の塊が掌の前に形成される。


それは弾丸というより衝撃そのもの。


放たれた光弾が一直線に飛び、直撃した機体を内部から弾けさせた。


爆光。


機体が空中で崩壊する。


カウントが変わる。


【6】


ベルは歯を食いしばりながら次の動きを読む。


さらに二機が左右から接近。


距離が詰まる。


「アカリ……!」


足を踏み込み、両腕を広げる。


「ふきとばして!」


その瞬間、


ベルの全身から白い光を伴う衝撃波が円形に広がった。


爆風のように、


しかし熱はほとんどなく、


純粋な力の放射。


接近していた機体が一斉に弾き飛ばされる。


衝撃を受けた装甲がひび割れ、


空中で制御を失う。


落下。


沈黙。


カウントが再び更新される。


【5】


その直後だった。


視界が一瞬、ぐらりと揺れる。


足元が遠くなる感覚。


「……っ」


膝が折れかける。


反射的に両手を地面につく。


呼吸が乱れる。


胸が激しく上下する。


鼻の奥に熱が走り、


ぽたり、と赤い雫が地面へ落ちた。


鼻血がゆっくりと伝う。


「は……」


視界の端が白く霞む。


力の反動。


一気に三回分を連続で使った負荷が、身体を内側から押し潰す。


ベルは歯を食いしばり、


震える手で地面を掴む。


「……まだ、終わってない」


かすれた声で呟いた。


残りの機体が、再び旋回を始めている


ベルは荒い呼吸を整えながら、視線を上へ向ける。


視界の端に浮かぶカウント。


【5】


残り使用回数。


同時に、空中を旋回する影が目に入る。


三機。


いや――よく見るとさらに一機、破損しながらも再起動しかけている。


「……四体」


小さく呟く。


残っている敵の数と、自分に残された手札を頭の中で重ねる。


十回。


すでに五回消費。


半分を使った。


ここから先は慎重に切らなければならない。


ベルは唇を強く噛む。


(あと五回)


(でも……)


敵の機動はさっきより速い。


強化モードの余波で反応速度も上がっている。


四体。


それぞれが連携するように位置を取り直している。


ベルは右手をゆっくり持ち上げる。


指輪がまだ微かに光を帯びている。


「……五回で、四体」


指先を見つめる。


「ぎりぎり」


一体を倒すごとに、確実に消耗が増える。


もし外せば――


一発のミスが致命傷になる。


喉の奥が乾く。


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