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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: K.K.
第3章ー動乱の王都ー
42/127

ーマリーナ警部で盛り上がれー

石造りの庁舎。


高い天井。


規律正しく並ぶ机。


書類の山。


王都支部・上層執務室。


窓際に立つ一人の女性。


黒の制服。


金糸で縁取られた階級章。


長い髪を後ろで束ね、


鋭い目が街を見下ろしている。


彼女は静かに口を開いた。


「報告は以上?」


背後に立つ若い男性部下が、


端末を確認しながら答える。


「はい、警部」


「現場交渉担当――カイより最終報告」


「対象は修正条件を提示」


「上層判断により受理」


女性警部は小さく息を吐く。


「思ったより柔軟ね」


部下は少し躊躇してから言う。


「危険ではありませんか?」


「監視対象にそこまで裁量を与えるのは――」


女性警部は振り返らない。


「敵に回す方が危険よ」


短く、断定。


「彼女は単独で均衡を崩せる存在」


「制圧より共存」


「それが今の最適解」


部下は黙る。


女性警部はゆっくり振り返る。


その目は冷静だ。


「それに」


「彼女はまだ“選んでいない”」


部下が首を傾げる。


「何を、ですか?」


女性警部はわずかに目を細める。


「敵になるか、味方になるか」


沈黙。


執務室の空気が重くなる。


部下は静かに尋ねる。


「明日の直接対話、本当に行われるのですか?」


女性警部は机の上の書類に目を落とす。


そこには簡潔な記録。


――接触成立

――条件受理

――上層面談要請


「ええ」


「私が行く」


部下の目がわずかに見開かれる。


「警部自ら?」


女性警部は淡々と答える。


「この案件は政治案件」


「他人任せにするには重すぎる」


窓の外。


王都の夕陽が沈みかけている。


彼女は静かに言う。


「明日、正午」


「彼女の目を見て判断する」


部下は小さく敬礼する。


「了解しました」


女性警部は再び窓の外へ視線を向ける。


王都。


権力。


均衡。


その中心で、


静かに動き始めた歯車。


明日。


倉庫街で。


物語はもう一段深く潜る。





マリーナと初対面


太陽は高く、倉庫群の影を短く落としている。


修復された石畳。


昨日の騒動の痕跡はほぼ消えている。


中央。


黒髪の少女が一人、立っていた。


落ち着いた佇まい。


視線は真っ直ぐ。


彼女が――今回の交渉対象。


その向かい側。


数歩先。


女性が立つ。


黒の制服。


金糸で縁取られた階級章。


長い金髪を後ろで束ね、鋭い目で少女を観察している。


ヒールが石畳を軽く打つ。


コツ。


音が静寂を切る。


女性が口を開いた。


「――初めまして」


冷静で、業務的な声。


「大陸警察地方特別捜査官警部」


「マリーナ・ベイ・マリス」


その背後に控える赤髪の青年――マークスは静かに周囲を警戒している。


黒髪の少女は軽く瞬きをし、柔らかく微笑んだ。


「初めまして」


「私は――ベルです」


自然な自己紹介。


緊張はあるが、敵意はない。


マリーナの目がわずかに細まる。


観察。


評価。


「あなたがルーファスと提携した外部戦力」


確認の言葉。


ベルは肩を軽くすくめる。


「そうですね」


否定しない。


マリーナは続ける。


「昨日の契約内容は上層承認済み」


「条件付きで監視継続」


「重大事案発生時は即時協力」


条文を読み上げるような口調だった。


ベルは頷く。


「把握しています」


その落ち着きに――


マリーナの眉がほんのわずかに動く。


想像よりも若い。


想像よりも静か。


そして――


想像よりも読めない。


沈黙が落ちる。


風が倉庫の布を揺らす。


マークスが一歩前へ出る。


「警部」


小声。


「周囲異常なし」


マリーナは小さく頷いた。


再びベルを見る。


「一つ」


声が少しだけ低くなる。


「直接確認させて」


「あなたは――」


「王国の秩序を守る意思はある?」


直球。


政治ではなく、本質。


ベルはすぐに答えない。


一度、空を見る。


青。


白い雲。


ゆっくり視線を戻す。


「私は」


「崩すためにここにいるわけではありません」


静かな言葉。


「守るためとも」


「敵対するためとも違う」


「必要なら動きます」


曖昧。


だが嘘ではない。


マリーナの目が鋭く光る。


「……なるほど」


短く呟く。


「曖昧」


だが。


「虚言ではない」


断定。


ヒールがわずかに後退する。


「今日は顔合わせ」


「監視対象としてではなく」


「対話相手として」


一拍。


「よろしく」


公式でも敵対でもない距離。


ベルは小さく笑う。


「こちらこそ」


その瞬間――


王都中心部の方向。


空気が震えた。


微かな歪み。


マリーナの視線が即座にそちらへ向く。


「……今の」


マークスが目を閉じ、探知を広げる。


「高位魔力反応」


ベルも同時に振り向く。


三人の視線が同じ方向を捉える。


空間の奥。


何かが脈打つような感覚。


マリーナの表情が変わる。


「偶然ではない」


静かな断定。


マークスが報告する。


「反応源は王都中心部付近」


「距離あり」


「ただ――」


言葉を止める。


「意図的な誘発の可能性」


倉庫街の空気が再び張り詰める。


マリーナは一歩前へ出る。


「状況確認に向かう」


ベルを見る。


「あなたも来る?」


問いというより確認。


ベルは一瞬だけ考え――


頷く。


「行きます」


マリーナの口元がわずかに動く。


満足とも評価とも取れる、ほんの小さな反応。


三人は同時に歩き出す。


倉庫街を離れ、王都中心部へ。


静かな初対面は――


予想外の方向へ動き始めた。


三人は倉庫街を離れ、石畳の大通りへ出る。


人通りはまだある。


商人。


馬車。


市民。


だが――


空気はどこか張り詰めていた。


マリーナは歩きながら周囲を観察する。


「中心部まで徒歩十五分」


淡々と告げる。


マークスは後方警戒を維持。


「人混みに紛れる可能性があります」


ベルは二人の間を歩く。


静かに周囲を見ている。


その瞬間。


――殺気。


マークスの瞳が即座に細まる。


「警部!」


声と同時。


屋根の上から黒い影が三つ。


同時に飛び降りる。


手に短剣。


狙いは――ベル。


「来たか」


マリーナの反応は速い。


ヒールを強く地面に打ち付ける。


「下がれ!」


雷属性魔力が足元で爆ぜる。


バチッ――!


地面を走る電撃。


降下してきた一体に直撃。


影が痙攣し、空中で弾かれる。


同時。


別の刺客がベルへ突進。


ベルが半歩引く。


だが――


その前にマークスが割り込む。


「させません」


伸縮式警棒を展開。


一瞬で間合いを潰す。


横薙ぎ。


刺客の腕に直撃。


短剣が宙を舞う。


マークスはそのまま流れるように体を回転させ、


相手の背後へ回り込む。


柔術の動き。


足払い。


地面に叩きつける。


「捕縛優先!」


冷静。


だが動きは速い。


最後の一体が背後からベルに飛びかかる。


その瞬間――


マリーナが振り向く。


「遅い」


トンファーが一閃。


刺客の顎を正確に打ち上げる。


衝撃。


意識が飛ぶ。


地面に崩れ落ちた。


数秒。


静寂。


周囲の市民が悲鳴を上げて逃げる。


マークスは素早く気絶した刺客を拘束具で縛る。


「警部、三体確保」


マリーナは周囲を睨む。


「他は」


マークスが探知を広げる。


「……反応なし」


「単独の襲撃部隊」


ベルはその場に立ったまま。


無傷。


だが目は鋭い。


「私狙い?」


マリーナが振り返る。


「十中八九」


即答。


しゃがみ込み、倒れている刺客の装備を確認する。


「王国標準装備ではない」


「外部傭兵か」


マークスが一つの徽章を拾う。


「この印……」


マリーナが目を細める。


「貴族派の影響下組織」


静かな断定。


ベルを見る。


「あなたの価値」


「早速測られている」


ベルは少し息を吐く。


「歓迎されてないってことね」


マリーナは立ち上がる。


ヒールが石畳を打つ。


「違う」


短く。


「脅威と見られている」


そして――


ほんのわずかに口元が上がる。


「悪くない」


マークスが振り向く。


「警部」


「追撃の可能性は?」


「ある」


即答。


マリーナはベルへ視線を向ける。


「まだ来るわ」


「覚悟は?」


ベルは静かに笑う。


「最初から」


その瞬間。


遠くの建物の屋上。


再び影が動いた。


今度は――


十以上。


マリーナの目が鋭くなる。


「マークス」


「はい、警部」


「本気でやる」


マークスが警棒を構え直す。


「了解です」


雷光がマリーナの足元で再び跳ねる。


マークスの周囲に探知魔力が広がる。


ベルも一歩前へ出る。


三人。


背中を預け合う形になる。


包囲。


だが――


誰一人、怯んでいない。


屋上から一斉に刺客が飛び降りる。


戦闘が――


第二段階へ突入する。


屋上の影が同時に動いた。


黒い人影が十を超えて飛び降りる。


石畳へ。


武器を抜き放つ音。


標的はただ一人――黒髪の少女。


地面へ足が着くより早く。


マリーナが叫ぶ。


「下がれ!」


ヒールが石畳を強く踏みつけた。


次の瞬間、足元から雷が弾ける。


電光が円状に広がり、着地直前の刺客を直撃。


衝撃で身体が宙に浮き、壁へ叩きつけられた。


同時に、別方向から二体が少女へ突進する。


マークスが滑り込むように割り込んだ。


「通しません!」


伸縮式警棒を展開。


一撃で刃を弾き飛ばす。


回転。


その勢いのまま相手の腕を取り、体重を乗せて地面へ倒す。


関節を極める。


「拘束!」


背後からさらに一体。


刃が振り下ろされる。


ベルの背後。


しかし――


刃が届く前に、マリーナが横から踏み込む。


「甘い」


トンファーが軌道を正確に打ち抜く。


金属音。


腕ごと叩き落とし、そのまま顎へ打撃。


刺客は意識を失い崩れ落ちた。


ベルはその場から一歩も動かない。


襲撃が起きても、ただ状況を見ているだけだ。


別の刺客が背後を取ろうと回り込む。


マークスが即座に反応。


「警部、後方!」


マリーナは振り向きざまに拳銃を抜く。


引き金。


雷属性を帯びた弾丸が発射される。


刺客の足元で着弾し、衝撃で体勢を崩す。


その隙にマークスが接近し、警棒で腹部を打ち抜き地面へ押さえ込む。


「確保!」


さらに屋上から三体。


手に魔術矢を構えている。


マリーナの目が鋭くなる。


「上か」


彼女は即座に跳躍。


壁を蹴り、屋根へ飛び上がる。


空中で刺客と交差。


トンファーが振るわれ、一体を打ち落とす。


残り二体が同時に魔術を放つ。


マリーナは空中で身体を捻り、攻撃を紙一重で回避。


着地と同時に一体の懐へ踏み込み、膝で体勢を崩す。


そのまま後ろ回し蹴り。


もう一体を壁へ吹き飛ばす。


下ではマークスが最後の刺客を押さえ込んでいる。


「抵抗終了」


静かな宣言。


刺客たちは次々と地面に倒れていく。


ベルは――


ずっと同じ場所に立っている。


攻撃は一度も届いていない。


服に汚れもない。


マリーナが屋根から飛び降りる。


ヒールが石畳に着地。


「終わり」


マークスが拘束具を確認する。


「警部、損傷なし」


マリーナはベルへ視線を向ける。


「怪我は?」


短い問い。


ベルは軽く首を振る。


「大丈夫」


その返答に、マリーナの目がわずかに細まる。


“守られている”ことを当然のように受け入れている態度。


だが恐怖はない。


逃げる気配もない。


その姿勢が――評価を上げる。


マークスが周囲を警戒しながら言う。


「警部」


「上空、まだ観測反応があります」


マリーナが空を見上げる。


視線の先。


建物のさらに上。


何かがこちらを見ている気配。


「……見ているな」


低い声。


ベルも同じ方向を見る。


戦闘は終わった。


しかし――


監視は続いている。


三人は並んで立ち、


次の動きを待つ静かな時間が流れた。


刺客はすべて地面に押さえ込まれている。


だが――


上空からの視線は消えていない。


マリーナはゆっくりと空を見上げる。


「……まだいる」


低い声。


マークスが周囲を確認する。


「警戒範囲、拡張しますか」


「いらない」


即答。


マリーナは胸元から小型の水晶端末を取り出す。


指が素早く操作を走らせる。


雷属性魔力を端末に流し込む。


空気が微かに震えた。


彼女は静かに言う。


「観測しているなら――」


「逆に観測する」


端末から淡い光が広がる。


周囲半径数百メートルの魔力流を解析する探知網。


通常の索敵ではない。


“反射追跡”。


観測されている魔力の揺らぎを逆算し、発信源を特定する術式。


マークスが目を細める。


「高難度術式ですね」


「静かに」


マリーナの集中は深い。


雷属性魔力を細かく分割し、


街中の空間へ薄く散布する。


普通なら気付かれないほど微細な探知。


だが――


何かが反応した。


上空。


ごくわずかに歪む魔力の粒子。


マリーナの瞳が鋭く光る。


「……捕捉」


端末の表示に赤い点が浮かぶ。


高層建築のさらに上。


塔の影。


「位置特定完了」


マークスが即座に動く。


「俺が回り込みます」


「待て」


マリーナは制止する。


「逃がさない」


彼女は深く息を吸う。


次の瞬間。


雷が足元で爆ぜた。


身体が一気に跳躍。


建物の壁を蹴り上がり、


連続で加速。


ヒールが石壁を打つたびに雷光が散る。


上へ。


上へ。


やがて――


塔の縁。


そこに立つ影。


黒いローブ。


水晶球を持つ人物。


その人物が――


振り向いた。


「……早い」


低い声。


マリーナは着地と同時にトンファーを構える。


「観測者」


「見られる側の気分はどう?」


静かな問い。


黒幕は水晶球をゆっくり握り直す。


「想定以上」


「だが――」


微笑。


「ここで接触するつもりはなかった」


その言葉と同時。


足元の空間が歪む。


転移魔術。


マリーナの目が鋭くなる。


「逃がすか!」


雷を叩き込む。


トンファーが振り抜かれる。


だが――


一瞬早く。


黒幕の姿が空間へ溶けるように消える。


雷は虚空を裂いた。


塔の上。


残るのは微かな魔力残滓。


マリーナは静かに息を吐く。


「転移準備済み」


「最初から逃走前提か」


彼女の拳がわずかに握られる。


だが怒りではない。


評価。


分析。


塔の下。


マークスが駆け上がってくる。


「警部!」


マリーナは振り返らず答える。


「見つけた」


「だが捕まえてはいない」


彼女は空を見上げる。


黒幕は消えた。


しかし――


確実に一つ分かった。


「敵は私たちを“測定対象”にしている」


静かな宣言。


塔の縁に立つその姿は、


王都の空気を掌握するかのようだった。


下ではベルが静かにその様子を見上げている。


守られたまま。


だが――


事態は確実に深くなった。


黒幕は転移で消えた。


塔の上に残ったのは雷の焦げ跡と魔力の残滓だけ。


マリーナは静かに地上へ戻る。


ヒールが石畳に触れる。


マークスがすぐ近くへ駆け寄る。


「警部、追跡は失敗ですか」


「転移で逃げられた」


短い返答。


苛立ちはない。


分析だけが残っている。


ベルは少し離れた位置に立っている。


無傷。


呼吸も乱れていない。


マークスがベルへ視線を向ける。


「襲撃に心当たりは?」


即座の質問。


ベルは一拍置いて、軽く眉を上げる。


「あるわけないじゃない」


「むしろ――」


視線をマークスからマリーナへ移す。


「聞きたいのは私の方だわ」


マリーナの目がわずかに動く。


ベルは続ける。


「今日ここで会うことは事前に共有されていた」


「そのタイミングで、あれだけ統率された襲撃」


「偶然だと思う?」


空気が張り詰める。


マークスは無言で考える。


マリーナがゆっくり口を開く。


「外部から情報が漏れた可能性」


断定ではない。


可能性の提示。


ベルは小さく息を吐く。


「私が狙われる理由は?」


直球。


マリーナは視線を逸らさない。


「戦力評価」


「政治的揺さぶり」


「あるいは――」


一拍。


「私への牽制」


ベルの目が細くなる。


「あなたへの?」


マリーナは淡々と答える。


「私は今回の対話の責任者」


「あなたと接触する立場」


「その場で襲撃が起きれば」


「私の管理能力が問われる」


静かな分析。


マークスが補足する。


「つまり」


「警部を試す目的も含まれていた可能性が高い」


ベルは軽く腕を組む。


「じゃあ私は“駒”ね」


マリーナの視線が鋭くなる。


「違う」


即答。


「あなたは“対象”」


「駒なら使い捨て」


「今回は明確に標的だった」


その言葉に――


ベルは少しだけ考える。


「……面倒ね」


小さく呟く。


マークスが周囲を再度確認する。


「再襲撃の可能性は?」


マリーナは即答。


「高い」


そしてベルを見る。


「だから」


「今後も私たちの近くにいなさい」


ベルが目を瞬かせる。


「それ、命令?」


「提案」


マリーナは淡々と続ける。


「少なくとも今日の動きから判断するなら」


「単独行動は危険」


ベルは少し笑う。


「守ってくれるってこと?」


マリーナの表情は変わらない。


「状況管理」


「結果としてそうなる」


マークスが静かに言う。


「警部は口が悪いだけです」


マリーナが即座に視線を向ける。


「余計なことを言うな」


マークスは軽く背筋を伸ばす。


「失礼しました」


一瞬。


緊張が緩む。


だが――


空気の奥にはまだ不穏が残っている。


ベルは塔の上を見上げる。


黒幕が立っていた場所。


「まだ終わってない」


静かな声。


マリーナも同じ方向を見る。


「終わらせる」


断言。


マークスが拳を軽く握る。


「次に現れたら」


「捕まえます」


三人は同時に沈黙する。


共通しているのは――


敵の存在。


違うのは立場。


だが今この瞬間だけは、


同じ方向を見ている。


塔の上を吹く風だけが、


静かに三人の間を通り抜けていった。


緊張がわずかに落ち着いた頃。


マリーナの端末が短く振動した。


彼女は画面を見る。


数秒。


目が静かに細まる。


「……来たわね」


マークスがすぐに反応する。


「上層ですか」


「ええ」


マリーナは端末をベルにも見えるように向ける。


画面には簡潔な文面。


――緊急招集

――王城上層会議室へ即時出頭

――対象:マリーナ警部/同行者マークス/外部戦力一名


ベルは内容を一瞥する。


「私も?」


マリーナは短く頷く。


「当然でしょう」


「今日ここで襲撃が起きた」


「上層は状況把握を直接確認したがる」


マークスが補足する。


「警備体制の再検討も入るはずです」


マリーナは端末をポケットへ戻す。


「移動」


即断。


ヒールが石畳を打つ。


「王城へ」


マークスが後に続く。


「了解です」


ベルも歩き出す。


三人並んで大通りを進む。


さきほどの戦闘で人々は距離を取っているが――


完全な混乱は起きていない。


王都の中心へ向かう道。


巨大な城壁が徐々に視界に入る。


白石で築かれた王城。


塔が空へ伸びている。


マリーナは歩きながらベルへ視線を向ける。


「上層会議では質問が飛ぶ」


「余計な発言はしなくていい」


ベルは少し笑う。


「庇ってくれるの?」


「事実確認を優先するだけ」


即答。


マークスが静かに言う。


「警部は敵を増やすのが得意なので」


マリーナの目が一瞬だけ鋭くなる。


「マークス」


「はい」


「後で覚えてなさい」


ベルが小さく吹き出す。


空気が少しだけ軽くなる。


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