ー決戦準備!最後のカタストロフに向けてー
街の中央通り。
――いつものレストラン。
だが今日は様子が違う。
壁には新しい板材。
割れた柱は補強され、
床には修繕の跡。
営業はしている。
しかし客はまばら。
「……」
店主が腕を組み、
ぷっちょう面で立っている。
その前。
テーブルを挟んで――
男ベル。
アンジュ。
二人が向かい合って座っている。
アンジュの背後には――
バロムとリック。
無言で。
まるで護衛のように立っている。
店主が低い声で言う。
「……あんたたち」
睨みながら。
「揃いも揃ってよくもまぁ、普通に顔が出せたもんだな」
間。
男ベルとアンジュ。
同時に、涼しい顔。
『いやーそれほどでも』
2人の声が見事にハモる。
店主の眉がぴくりと動く。
「褒めてねえよ!!」
机をバンッと叩く。
リックが小さく咳払い。
バロムは微動だにしない。
店主は怒りを押し殺すように続ける。
「広場吹き飛ばしかけたやつと」
「店半壊させたやつが」
「同じテーブルに座ってんだぞ?」
アンジュが優雅に髪を払う。
「任務でしたわ」
ベルも肩をすくめる。
「不可抗力よ」
店主の目が細くなる。
「不可抗力で天井が落ちるか?」
「……」
「……」
二人、沈黙。
バロムが低く言う。
「補償は済ませた」
リックも続ける。
「修繕費、全額負担」
店主はふん、と鼻を鳴らす。
「金の問題じゃねぇ」
テーブルを指で軽く叩く。
「ここはな」
「常連の思い出の場所なんだよ」
一瞬、空気が静まる。
ベルは目を細める。
アンジュもわずかに表情を引き締める。
ベルが静かに言う。
「……悪かった」
アンジュも続く。
「謝罪いたします」
店主はしばらく二人を睨む。
そして――
大きくため息。
「……まぁ」
「生きてるだけマシか」
バロムが小さく頷く。
リックがほっと息を吐く。
店主はキッチンへ戻りながら叫ぶ。
「飯はちゃんと食ってけ!」
「二度と壊すなよ!!」
ベルとアンジュ。
同時に答える。
「努力します」
「善処いたしますわ」
店主、頭を抱える。
ベルが軽く肩を回す。
「こないだは世話んなったな」
アンジュは優雅に微笑む。
「いえいえ、どういたしまして。こちらこそ、その節は誠にありがとうございました」
――笑顔。
だが。
目は笑っていない。
二人がテーブル越しに視線をぶつける。
空気が一瞬で張り詰める。
背後。
男ベルの背後に“竜”の幻影。
アンジュの背後に“虎”の影。
互いに威嚇するように、うっすらと気配だけが立ち上る。
男ベルが続ける。
「借金の返済もありがとうな。壊したのは元々お前らだけど、一応礼は言っとく」
アンジュはふふ、と喉で笑う。
「いーえ、とーんでもございませんわ。お陰でわたくしのお給料2ヶ月分が吹き飛びましたけれど、気にも留めておりませんわ〜」
わざとらしく、優雅な口調。
リックが目を丸くする。
「え? リーダーそんなに貰ってたんですか?」
バロムがぽつり。
「俺の……5倍」
リックが即座に固まる。
「……え、マジですか」
アンジュは肩をすくめる。
「特記戦力でしてよ?」
ベルは鼻で笑う。
「そりゃ強いわけだ」
そして本題へ。
「で? 例のブツはちゃんと持ってきたんだろうな?」
アンジュの口元がゆっくりと上がる。
「当然ですわ」
背後のバロムが、背中に担いでいた巨大なケースを前へ。
ドン、とテーブル横に置く。
金属の封印刻印が施された箱。
中からは微かに――
不穏な魔力の気配。
アンジュは顎を軽く上げる。
「こちらが教会正式認可の封印装置」
「『聖鎖封環』」
テーブル越し。
ベルとアンジュの視線が再びぶつかる。
静寂。
戦いはまだ始まっていない。
だが――
もう駆け引きは始まっている。
アンジュがゆっくりとケースの留め具に手をかける。
「ご覧あそばせ」
蓋が開く。
中から姿を現したのは――
中から姿を現したのは――
白銀の拳銃。
だが通常サイズではない。
銃身は異様に長い。
――10インチ級のロングバレル・リボルバー。
シリンダーは大型化され、
銃身は優美な装飾が施され、
表面には神聖文字のような紋様が緻密に刻まれている。
重量感。
圧迫感。
武器というより――
“儀式兵装”。
ベルが目を細める。
「……これが」
「封印装置?」
アンジュは誇らしげに頷く。
「そうですわ。これこそが――」
白銀のロングリボルバー。
通常の拳銃より明らかに長い。
大人の男性でも片手では安定して構えられないサイズ。
ベルが眉をひそめる。
「どう見ても拳銃じゃねぇか」
そう言いながら――
おもむろに手を伸ばす。
その瞬間。
ピシャリ。
アンジュが即座にベルの手を叩く。
「気軽に触れないでくださいまし」
「痛っ」
ベルの手が弾かれる。
アンジュは銃を胸元に引き寄せるようにして守る。
「これは教会最高位の封印兵装」
「ただの武器ではありませんの」
リックが身を乗り出す。
「ロングバレル……命中精度を上げるため?」
バロムが低く答える。
「魔力収束効率を上げる設計」
アンジュが頷く。
「銃身が長いほど、封印術式の加速・収束率が向上しますわ」
銃身の紋様が――
一瞬、淡く光る。
ベルが腕をさすりながら言う。
「触っただけで怒られる武器って初めて見たわ」
アンジュは静かに銃を持ち上げる。
その動作は洗練されている。
重さを知っている者の所作。
「魔王核を限界まで弱体化させ」
「この兵装で――」
「封印圏へ固定する」
ベルが目を細める。
「……撃つのは?」
アンジュはゆっくりと微笑む。
「わたくし」
テーブルの空気が一瞬張り詰める。
ロングリボルバーの銃口はまだ天井を向いている。
だが――
その先にあるのは、
“封印”という名の決着。
ベルがロングリボルバーを眺めながら目を細める。
「……あんたそれ、ちゃんと使えるとは思えないんだけど?」
アンジュは鼻で笑う。
「失礼な。つい先日も使用したばかりですわ」
ベルが少し驚く。
「マジかよ」
一瞬、疑念が薄れる。
「疑って悪かったな」
アンジュは顎を上げる。
「構いませんわ。許しましょう」
その背後。
バロムは無言。
リックがぽつりと呟く。
「先日、森の魔王核封印作戦で……」
アンジュの肩が、ぴくっと止まる。
リックは続けてしまう。
「アンジュ様……6発全部外したじゃ……ありませんか」
店内の空気が凍る。
アンジュの顔がゆっくりとリックへ向く。
人差し指を唇に当てる。
「……シーッ」
もう一度。
「シーッですわ!!」
声を潜めながらも必死。
「それはもう言わない約束でしょう!?」
リックが青ざめる。
「も、申し訳ございません……!」
ベルはゆっくりと目を細める。
そして――
机をバン、と叩く。
「なんだよ!!」
「結局なんもかんも全部、お前らのせいじゃんか!!」
アンジュが即座に反論。
「違いますわ! あれは想定外の魔力干渉と地形補正の――」
ベルが指を突きつける。
「外したのは事実だろ!!」
アンジュは一瞬言葉を詰まらせる。
「……ぐっ」
バロムが小さく呟く。
「命中率、改善余地あり」
アンジュが振り向く。
「黙りなさいバロム!!」
店主が奥から叫ぶ。
「店で喧嘩すんな!!」
リックは必死に両手を上げる。
「次は当てます!!」
ベルが深いため息。
「信頼していいんだよな……?」
アンジュはロングリボルバーをくるりと回し、
カチ、とシリンダーを閉じる。
「今度こそ」
「見せますわ」
その目は――
さっきまでのコメディ顔ではなく。
本気の戦闘モード。
空気が一段、重くなる。
ベルはロングリボルバーをテーブルに軽く置きながら言う。
「それにしてもさ。教会側の作戦で、魔王核ってやつを封印できるところまで弱体化はできたんだな?」
アンジュは顎に手を当てる。
「いえ、あの時は弱まっていた封印を解いて――」
さらりと続ける。
「再封印するだけの簡単なお仕事でしたので」
「魔王核は最初から虫の息でしたの」
ベルが目を細める。
「なんだよ」
「そんな“簡単なお仕事”ってやつも失敗したのかよ」
アンジュの笑顔が一瞬固まる。
「……ぐっ」
視線がわずかに泳ぐ。
リックが横で小さく咳払い。
バロムは無言。
アンジュは慌てて言い訳をひねり出す。
「ほ、ほら、あれですわ」
人差し指を立てる。
「女の子には――月に一度の――駄目な日があるから」
ベル、数秒フリーズ。
「……は?」
アンジュは顔を赤くしながら続ける。
「その時は集中力が低下しますし、精密射撃に支障が出ることも――」
ベルがテーブルを軽く叩く。
「それ言い訳に使うな!!」
アンジュが即座に反論。
「事実ですわ!!」
リックが小声で呟く。
「……でも封印作戦はその日じゃなかったですよね」
アンジュの動きが止まる。
ゆっくりとリックを見る。
「……」
「……」
「リック?」
低い声。
リックが青ざめる。
「す、すみません口が滑りました!!」
バロムが静かに言う。
「言い訳、破綻」
アンジュが机に両手をつく。
「違いますわ!! あれは術式の乱れと地脈干渉と――」
ベルが即座に遮る。
「結局、お前のミスだろ!!」
アンジュは一瞬言葉を失う。
そして――
深呼吸。
背筋を伸ばす。
「……認めますわ」
静かに。
「わたくしの判断が甘かった」
店内が一瞬静まる。
アンジュはロングリボルバーをゆっくり握る。
「だからこそ――」
目が鋭くなる。
「今度は失敗しません」
空気が切り替わる。
コメディから――戦闘前の覚悟へ。
ベルは作戦会議を締めるように言う。
「よし、軽く打ち合わせしてから森へ向かいますか」
アンジュは頷く。
「賛成ですわ」
だが――
ロングリボルバー(聖鎖封環)は、テーブルには置かない。
アンジュはケースの方へ戻し、専用の拘束台座へ“固定”する。
カチ、とロック音。
封印状態のまま、安全保持。
ベルがそれを見て呟く。
「それ、ちゃんと管理しとかないと危ねぇだろ」
アンジュは誇らしげに言う。
「当然ですわ。教会規定では“非戦闘時は封印格納”が義務」
リックが補足する。
「暴発防止、魔力逆流防止」
バロムが静かに頷く。
「適切」
アンジュはケースを軽く叩く。
「出番は森で」
ベルは腕を組む。
「それでいい」
そしてテーブルに置いていた危険物が消えたことで――
空気が少しだけ軽くなる。
店主が奥から叫ぶ。
「銃は外で管理しろよ!!」
アンジュが即答。
「心得ておりますわ!」
ベルが苦笑する。
「……ほんと物騒な連中だな」
だが――
その物騒さが、今の武器。
店を出る。
街の喧騒が背後に遠ざかる。
ベルは黒い装備に赤いスカーフ。
アンジュはケースを従者に運ばせず、自ら抱えている。
バロムとリックが左右を固める。
四人。
無言で歩き出す。




