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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第10章ー西大陸・カダブランカ篇ー
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英雄の資質ー

建物の中は軍の施設とは思えなかったが、ところどころにそれを感じさせる要素があった。無駄のない造り、整然とした配置、すれ違う人間たちの統一された動き。


アダラの後ろを、ベルとビビがついて歩く。少し遅れて、一定の距離を保つようにシュプリムも無言でついてきていた。


やがて辿り着いたのは、一つの部屋だった。


扉を開け、アダラが中へ入る。


「ここが隊長室だ。つまりー私ん部屋だ。文句あっか?」


ベルは少し呆れたように肩を落とす。


「ないってば……」


その後ろで、シュプリムは一歩遅れて部屋に入り、壁際に静かに立ったまま動かない。


アダラが軽く手で促す。


ベルはそれに従い、ソファへと腰を下ろした。


向かいのソファにアダラがどかりと座り、その両脇にビビとシュプリムが立つ。


だが次の瞬間、ビビはその場にぺたんと座り込んだ。


シュプリムの眉がわずかに動く。


「……まったく、なっとらん」


小さく舌打ちが落ちる。


ベルはそのやり取りを見て、少しだけ首を傾げた。


「……2人って、仲悪いの?」


アダラは腕を組み、深く背もたれに体を預けた。


「悪いっていうか……まあ、見ての通りだな」


ビビは床に座ったまま、頬をふくらませる。


「シュプが一方的に冷たいだけだし〜」


「だからその呼び方をやめろ」


間髪入れずに返される声は低い。


ビビはまったく堪えた様子もなく、へらっと笑った。


「だって昔は普通に呼んでたじゃん〜」


「昔の話だ」


シュプリムは視線すら向けない。


その態度に、ビビの笑みがほんの少しだけ引きつった。


ベルはその空気を静かに見つめる。


軽口のやり取りのようでいて、どこか噛み合っていない。


「……同士、って言ってたよね」


ぽつりと口にする。


「さっき」


シュプリムの視線がわずかに動いた。


「それって、やっぱり……英雄核のこと?」


ほんの少しだけ、間が空く。


「そうだ」


短い肯定。


「英雄に選ばれし証。それを持つ者同士――それが同士だ」


その言葉には、迷いが一切なかった。


ベルは一瞬だけ目を伏せる。


「じゃあ……」


ゆっくりと顔を上げる。


「それがなくなったら、もう違うってこと?」


シュプリムの黒い瞳が、まっすぐにベルを捉えた。


「当然だ」


一切の躊躇なく、言い切る。


「存在の価値が違う」


シュプリムは腕を組んだまま、わずかに顎を上げた。


「我々は選ばれし者達なのだ。英雄を目指し、英雄核を与えられた、な」


静かだが揺るがない声音。


「もちろん『英雄の生まれ変わり』の資質を持つ、隊長も同じこと」


言葉の流れのまま、ビビへと一瞬だけ視線を向ける。


「私やそこの牛、そしてもう1人の英雄核保持者も、3つ揃いではないがそれぞれに英雄の子孫たる証を持つ」


そう言いながら、シュプリムは自らの白い髪に指を通した。


指の間をすり抜けるそれは、光を受けて淡く輝く。


ベルはその仕草をじっと見て、それからアダラへと視線を移す。


白い髪、青い目、白い肌。


そして最後に、ビビへ。


黒い髪、黒い目、褐色の肌。


「ビビは違くない?」


その一言に、ビビがぴくりと反応する。


次の瞬間、四つん這いになって床を進み、ベルの前まで来ると、そのまま勢いよく上半身をソファに乗り上げた。


顔がぐっと近づく。


鼻先が触れそうな距離。


「よく見て〜この目!ちゃんと青いよ〜」


言われるままに、ベルは少しだけ身を引きながらも覗き込む。


ぱっと見は黒。


けれど、よくよく見ると――確かに、奥の方にかすかな青が滲んでいる気がしなくもない。


ベルはしばらく黙って見つめてから、小さく首を傾げた。


「えー?……びっみょー」


ビビは唇を尖らせ、不満そうに顔をしかめた。


「びみょ〜なんて言わないで〜気にしてるのに〜」


ベルは少し困ったように笑って、軽く手を振る。


「ごめんごめん」


アダラが腕を組み、少しだけ顎を引いた。


「ご覧の通り、英雄核ってのは誰でもってわけにはいかねぇ。資質が必要なのは確かだ」


その言葉を聞きながら、ベルの意識はわずかに遠のく。


ふと、あの青年の姿が脳裏に浮かんだ。


――プレレッサ。


白い髪、青い目、白い肌。


“英雄の生まれ変わり”と呼ばれる三つの特徴。


確かに、彼もまた――それを持っていた。


アダラは軽く身を乗り出した。


「それで本題だが、シュプリムー」


言い終わるよりも早く、声が被さる。


「お断りよ」


間髪入れない拒絶だった。


アダラの眉がぴくりと動く。


「なんだと?」


シュプリムは視線すら向けない。


「先日も言ったはず。私は英雄核を失いたくない」


その言葉に、アダラは奥歯を噛む。


「だけどお前、今のままじゃ2年後には……」


「あと2年で、英雄核を完全覚醒させるか、将来への資質を示すか、もしくは英雄の資質を持つ子を産めばよいだけのこと」


淡々と、まるで決められた選択肢を読み上げるように。


シュプリムは目を閉じた。


「とりあえず、どれかに一つくらいどうにか」


「おまえ……」


アダラが言葉を詰まらせる。


そのとき、シュプリムはゆっくりと目を開き、アダラを見た。


「とりあえず、あの魔王殺しとかいうのも来てるのだろう?」


「来てると言ったら……?」


アダラは露骨に顔を顰める。


シュプリムは一瞬だけ視線を落とし、倒れているビビを見た。


「その牛から英雄核を抜き取った魔王殺しは憎いが……背に腹は変えられない」


そう言って、アダラへ手を差し出す。


「とりあえず、その男の子種を手配して欲しい」


一瞬、空気が止まった。


ベルは数秒遅れて、ようやく言葉を発する。


「……え?ちょっと待って……なんて?」


ベルは小さく息を呑み、戸惑ったまま視線を泳がせる。


「……アダラとビビだけと思ってたけど……西大陸の人はみんなこんな感じなの?」


アダラは悪びれもせず、軽く肩をすくめた。


「だから何回も言ってるじゃん。西大陸ではこれが普通だって」


ビビも床に座ったまま、のんびりと頷く。


「そだよ〜。わたしたちからしたら〜他の大陸の方がよっぽどふしぎ〜」


その言葉に、シュプリムの眉がぴくりと動く。


「自分達の常識が世界の基準と考えるのは傲慢というものだ。これだから中央は……」


舌打ち混じりの低い声が落ちる。


ベルは慌てたように両手を軽く振った。


「ご、ごめんなさい。確かに国によって文化も考え方も違うもんね……でも」


一度言葉を切り、視線を上げる。


「自分達の国の中でやるのは自由だと思うけど、他の大陸や、そこに住む人にまで自分達のやり方を通そうとするのは、それこそ傲慢だと思うの」


シュプリムの目が鋭く細まる。


「……なんだと?」


一歩、詰め寄る。


空気が一気に張り詰めた。


それでもベルは引かなかった。小さく震えながらも、視線だけは逸らさない。


その間にアダラが手を振る。


「まぁまぁ、2人とも落ち着けよ」


ビビも軽い調子で笑う。


「そだよ〜けっきょくは〜」


アダラはため息混じりに続けた。


「魔王殺し、あいつがOKならいいんだろ?」


ベルは一瞬だけ間を置く。


「そ……それはもちろん」


アダラはそれを聞いて、妙にあっさりと頷いた。


「なら大丈夫だろ」


そう言いながら、ビビの胸元の布をぐいぐい引っ張る。


「ちょ、や〜め〜て〜」


ビビは慌てて押さえつつも、どこか楽しげに笑った。


「でも、これでイチコロだと思う〜」


ビビは慌ててそれを押さえつつ、どこか楽しげに笑った。


そしてわざとらしく両手で胸を押し上げながら、軽い調子で言う。


ベルは少しだけ困ったように視線を泳がせた。


「そー……なんだよね。あいつ、そういうのに弱いから……ちょっと心配」




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