2人目の英雄核保持者ー
ベルは肩を軽く回し、息を吐いた。
「じゃ、こっからはマジメにやんぞ」
その前には、アダラとビビがあぐらをかいて座っている。二人ともどこか気の抜けた様子で、場の空気は妙にゆるい。少し離れた場所では、ミリィが完全に力尽きたように横になり、小さな寝息を立てていた。
「俺を呼んだ理由、もっぺん教えてくれよ」
アダラは間髪入れずに手を挙げる。
「子作り!」
ビビも勢いよく身を乗り出した。
「間違いな〜い!」
ベルは一瞬だけ無言になり、そのまま深くため息を吐いた。
「まだふざけんなら、今すぐ帰んぞ」
低く落ちた声に、空気がわずかに引き締まる。アダラは慌てたように両手を振った。
「冗談だって、怒んなよー」
ビビはくすくすと笑いながら肩をすくめる。
「ベルくん、ま〜じめ〜」
ベルはじっと二人を睨んだまま、言葉を返さなかった。
アダラは腕を組み、少しだけ顎を上げた。
「残る2人の擬似英雄核保持者、その件だろ?」
ベルは小さく頷く。
「そうだ。一応、お前らの口から聞いておきたくてな」
ビビは床に手をつきながら、気の抜けた声で笑う。
「てきと〜なのに、へんなとこまめだよね〜ベルくんは」
ベルは肩をすくめた。
「ふつーだろ」
アダラは軽く息を吐き、姿勢を崩す。
「とりあえず、そっちは焦ることねぇよ。あと2年あるし、2人の所在もわかってるから」
ベルの視線がわずかに鋭くなる。
「そうなると問題は…」
ビビが指先で床をなぞりながら、間延びした声を差し込む。
「どうやって〜引き剥がすか〜?」
ベルは小さく頷いた。
「だな。ビビん時はユキメが上手くやってくれたけど、同じ方法でいけるのかわっかんねぇし」
アダラはわずかに言い淀みながら口を開く。
「その…ユキメって姫神にまた頼めないのか?」
ベルは一瞬だけ視線を落とし、低く答えた。
「出来っけど…確証がねぇさらな」
ビビは膝に頬杖をつき、ぼんやりとした声で呟く。
「わたしの時は〜たまたまなのか〜考えてみるとこわいね〜」
ベルは短く息を吐いた。
「まぁな」
ベルは顎に手を当て、わずかに思案するように視線を落とした。ミリィの寝息だけが静かに響く中、やがて顔を上げる。
「とりあえず、明日にでも会わせてくれよ?」
軽く言ったつもりのその一言には、探るような鋭さが混じっていた。
翌朝、やわらかな陽の光が地面を照らしていた。
黒髪が風に揺れ、そのたびに整った顔立ちがふっと際立つ。思わず目を奪われるような美しさ――それでもベル自身はまるで気にした様子もなく、どこにでもいる普通の少女のように歩いていた。
アダラとビビは肩の力の抜けた様子で並び、前を歩いている。
ミリィは調子がすぐれないらしく、ベッドから出てこないので、そのまま休ませてきた。
「それで、その人ってどんな人?」
ベルは前を向いたまま、軽く問いかける。
アダラは少しだけ間を置いた。
「一言で言うなら……信者だな」
「ガチのやつ〜」
ビビがくすっと笑う。
ベルは少し困ったように眉を寄せた。
「……ちゃんと話せる人?」
「期待しない方がいい」
短く返されて、ベルは小さく息を吐く。
「そっかぁ……ちょっと大変かも」
やがて、人の気配が途切れる。妙に整った静けさが辺りを包み、どこか張り詰めた空気が漂っていた。
そこはどうやら軍関係の施設らしい、重厚な建物だった。
アダラが顎で前を示す。
「あそこだ」
その先に、一人の人物が立っていた。
背筋を伸ばし、微動だにせず、まるで最初からそこに在るもののように。
ベルは足を止める。
やがて、人の気配が途切れる。妙に整った静けさが辺りを包み、どこか張り詰めた空気が漂っていた。
アダラが顎で前を示す。
「あそこだ」
その先に立つ女は、場の空気ごと支配しているかのようだった。
白い長髪が背中に流れ、褐色の肌には首から下だけでなく顔にまで紋様が刻まれている。細身で引き締まった身体に、黒い布と金の装飾が映え、その両腰には湾刀が二本、静かに揺れていた。
微動だにせず立つその姿は、まるで彫像のように整っている。
アダラが一歩前に出る。
「シュプリム・シャルーム。カダブランカ軍遊撃隊『英雄の右眼』副長だ」
短く言い切る。
シュプリムの視線がゆっくりと向けられる。
「……隊長。用件は」
感情の薄い声。
その呼びかけは、迷いなくアダラに向けられていた。
アダラは軽く息を吐く。
「そんなに気張んなって。ちょっと話だ」
シュプリムの黒い瞳が、次にベルへと移る。
その視線は静かで――そして明確に、他者を下に置くものだった。
シュプリムの黒い瞳が、次にベルへと移る。
その視線は静かで――そして明確に、他者を下に置くものだった。
その空気を破るように、ベルがアダラの方を振り向く。
「……隊長って?」
アダラは何でもないことのように肩をすくめた。
「私んことだけど?」
ベルの表情が固まる。
「嘘でしょ……?」
アダラは眉をひそめ、わずかに睨む。
「おい、私が隊長でなんか文句あんのかよ?」
そのやり取りを見ていたビビが、堪えきれず腹を抱えて笑い出す。
シュプリムが小さく咳払いをした。
「隊長……悪ふざけはそれくらいに」
アダラは軽く頭をかいた。
「あぁ、悪ぃ悪ぃ。でもシュプリムも少しは肩の力抜けって」
そう言ってから、ベルへ視線を向ける。
「こっちは私の友達だ。ベル」
ビビがひょいと手を上げる。
「わたしは〜ビビだよ〜て知ってるか〜」
その瞬間だった。
シュプリムの手が無造作に伸び、ビビの顔を掴む。
指が食い込むように締め上げられる。
「え!?なになに!?いた、いたたたたた〜いたいよ〜!?」
暴れるビビなど意にも介さず、そのまま視線だけをベルへ向ける。
「シュプリムだ。よろしく」
淡々とした声。
ベルはわずかに戸惑いながらも、小さく頭を下げた。
シュプリムは左手で掴んだままのビビを、まるで物のように放り捨てる。
力なく地面に転がり、そのまま倒れ込む。
「おい!なにしやがる!?」
倒れたビビに足を掛けるアダラ
「アイアンクローはいい、アイアンクローはいいが、投げ捨てるな!」
ビビ「アイアンクローもやめて〜ぜんぜんよくないよ〜」
アダラが声を荒げる。
シュプリムは視線を落とし、ビビを見下ろした。
「失礼。英雄核を失ったものなど、顔を見るのも腹立たしく」
アダラは歯を食いしばるようにして、低く吐き出した。
「おまえら……前はあんなに仲良かったじゃねぇか……」
シュプリムはわずかに首を傾ける。
「仲が良かった?」
その声音には、本気で理解していないような冷たさがあった。
「私はただ、同じ英雄核保持者として認めていただけで」
視線が地面に倒れたビビへと向けられる。
「こんな色ボケホルスタイン自体は昔から嫌いだ」
「ホル……」
ビビは目をぱちぱちと瞬かせ、自分の胸元へと視線を落とした。
困惑したように、そしてどこか納得しかけるように、じっと見つめる。
ベルは少しだけ間を置いて、ぽつりと呟いた。
「色ボケのほうは……気にしないんだ……」
ビビは地面に転がったまま、涙目で顔を上げる。
「シュプ〜ひどい〜」
シュプリムの視線がわずかに鋭くなる。
「そんなあだ名で呼ぶな。お前はもう同士ではない」
冷たく言い放たれた言葉に、空気がさらに張り詰める。
アダラがその間に割って入るように手を振った。
「まぁまぁ、とりあえず中で話そうぜ」
「客人もいることだしな」




