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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第10章ー西大陸・カダブランカ篇ー
323/328

2人目の英雄核保持者ー

ベルは肩を軽く回し、息を吐いた。


「じゃ、こっからはマジメにやんぞ」


その前には、アダラとビビがあぐらをかいて座っている。二人ともどこか気の抜けた様子で、場の空気は妙にゆるい。少し離れた場所では、ミリィが完全に力尽きたように横になり、小さな寝息を立てていた。


「俺を呼んだ理由、もっぺん教えてくれよ」


アダラは間髪入れずに手を挙げる。


「子作り!」


ビビも勢いよく身を乗り出した。


「間違いな〜い!」


ベルは一瞬だけ無言になり、そのまま深くため息を吐いた。


「まだふざけんなら、今すぐ帰んぞ」


低く落ちた声に、空気がわずかに引き締まる。アダラは慌てたように両手を振った。


「冗談だって、怒んなよー」


ビビはくすくすと笑いながら肩をすくめる。


「ベルくん、ま〜じめ〜」


ベルはじっと二人を睨んだまま、言葉を返さなかった。


アダラは腕を組み、少しだけ顎を上げた。


「残る2人の擬似英雄核保持者、その件だろ?」


ベルは小さく頷く。


「そうだ。一応、お前らの口から聞いておきたくてな」


ビビは床に手をつきながら、気の抜けた声で笑う。


「てきと〜なのに、へんなとこまめだよね〜ベルくんは」


ベルは肩をすくめた。


「ふつーだろ」


アダラは軽く息を吐き、姿勢を崩す。


「とりあえず、そっちは焦ることねぇよ。あと2年あるし、2人の所在もわかってるから」


ベルの視線がわずかに鋭くなる。


「そうなると問題は…」


ビビが指先で床をなぞりながら、間延びした声を差し込む。


「どうやって〜引き剥がすか〜?」


ベルは小さく頷いた。


「だな。ビビん時はユキメが上手くやってくれたけど、同じ方法でいけるのかわっかんねぇし」


アダラはわずかに言い淀みながら口を開く。


「その…ユキメって姫神にまた頼めないのか?」


ベルは一瞬だけ視線を落とし、低く答えた。


「出来っけど…確証がねぇさらな」


ビビは膝に頬杖をつき、ぼんやりとした声で呟く。


「わたしの時は〜たまたまなのか〜考えてみるとこわいね〜」


ベルは短く息を吐いた。


「まぁな」


ベルは顎に手を当て、わずかに思案するように視線を落とした。ミリィの寝息だけが静かに響く中、やがて顔を上げる。


「とりあえず、明日にでも会わせてくれよ?」


軽く言ったつもりのその一言には、探るような鋭さが混じっていた。





翌朝、やわらかな陽の光が地面を照らしていた。


黒髪が風に揺れ、そのたびに整った顔立ちがふっと際立つ。思わず目を奪われるような美しさ――それでもベル自身はまるで気にした様子もなく、どこにでもいる普通の少女のように歩いていた。


アダラとビビは肩の力の抜けた様子で並び、前を歩いている。


ミリィは調子がすぐれないらしく、ベッドから出てこないので、そのまま休ませてきた。


「それで、その人ってどんな人?」


ベルは前を向いたまま、軽く問いかける。


アダラは少しだけ間を置いた。


「一言で言うなら……信者だな」


「ガチのやつ〜」


ビビがくすっと笑う。


ベルは少し困ったように眉を寄せた。


「……ちゃんと話せる人?」


「期待しない方がいい」


短く返されて、ベルは小さく息を吐く。


「そっかぁ……ちょっと大変かも」


やがて、人の気配が途切れる。妙に整った静けさが辺りを包み、どこか張り詰めた空気が漂っていた。


そこはどうやら軍関係の施設らしい、重厚な建物だった。


アダラが顎で前を示す。


「あそこだ」


その先に、一人の人物が立っていた。


背筋を伸ばし、微動だにせず、まるで最初からそこに在るもののように。


ベルは足を止める。


やがて、人の気配が途切れる。妙に整った静けさが辺りを包み、どこか張り詰めた空気が漂っていた。


アダラが顎で前を示す。


「あそこだ」


その先に立つ女は、場の空気ごと支配しているかのようだった。


白い長髪が背中に流れ、褐色の肌には首から下だけでなく顔にまで紋様が刻まれている。細身で引き締まった身体に、黒い布と金の装飾が映え、その両腰には湾刀が二本、静かに揺れていた。


微動だにせず立つその姿は、まるで彫像のように整っている。


アダラが一歩前に出る。


「シュプリム・シャルーム。カダブランカ軍遊撃隊『英雄の右眼』副長だ」


短く言い切る。


シュプリムの視線がゆっくりと向けられる。


「……隊長。用件は」


感情の薄い声。


その呼びかけは、迷いなくアダラに向けられていた。


アダラは軽く息を吐く。


「そんなに気張んなって。ちょっと話だ」


シュプリムの黒い瞳が、次にベルへと移る。


その視線は静かで――そして明確に、他者を下に置くものだった。


シュプリムの黒い瞳が、次にベルへと移る。


その視線は静かで――そして明確に、他者を下に置くものだった。


その空気を破るように、ベルがアダラの方を振り向く。


「……隊長って?」


アダラは何でもないことのように肩をすくめた。


「私んことだけど?」


ベルの表情が固まる。


「嘘でしょ……?」


アダラは眉をひそめ、わずかに睨む。


「おい、私が隊長でなんか文句あんのかよ?」


そのやり取りを見ていたビビが、堪えきれず腹を抱えて笑い出す。


シュプリムが小さく咳払いをした。


「隊長……悪ふざけはそれくらいに」


アダラは軽く頭をかいた。


「あぁ、悪ぃ悪ぃ。でもシュプリムも少しは肩の力抜けって」


そう言ってから、ベルへ視線を向ける。


「こっちは私の友達だ。ベル」


ビビがひょいと手を上げる。


「わたしは〜ビビだよ〜て知ってるか〜」


その瞬間だった。


シュプリムの手が無造作に伸び、ビビの顔を掴む。


指が食い込むように締め上げられる。


「え!?なになに!?いた、いたたたたた〜いたいよ〜!?」


暴れるビビなど意にも介さず、そのまま視線だけをベルへ向ける。


「シュプリムだ。よろしく」


淡々とした声。


ベルはわずかに戸惑いながらも、小さく頭を下げた。


シュプリムは左手で掴んだままのビビを、まるで物のように放り捨てる。


力なく地面に転がり、そのまま倒れ込む。


「おい!なにしやがる!?」


倒れたビビに足を掛けるアダラ


「アイアンクローはいい、アイアンクローはいいが、投げ捨てるな!」


ビビ「アイアンクローもやめて〜ぜんぜんよくないよ〜」


アダラが声を荒げる。


シュプリムは視線を落とし、ビビを見下ろした。


「失礼。英雄核を失ったものなど、顔を見るのも腹立たしく」


アダラは歯を食いしばるようにして、低く吐き出した。


「おまえら……前はあんなに仲良かったじゃねぇか……」


シュプリムはわずかに首を傾ける。


「仲が良かった?」


その声音には、本気で理解していないような冷たさがあった。


「私はただ、同じ英雄核保持者として認めていただけで」


視線が地面に倒れたビビへと向けられる。


「こんな色ボケホルスタイン自体は昔から嫌いだ」


「ホル……」


ビビは目をぱちぱちと瞬かせ、自分の胸元へと視線を落とした。


困惑したように、そしてどこか納得しかけるように、じっと見つめる。


ベルは少しだけ間を置いて、ぽつりと呟いた。


「色ボケのほうは……気にしないんだ……」


ビビは地面に転がったまま、涙目で顔を上げる。


「シュプ〜ひどい〜」


シュプリムの視線がわずかに鋭くなる。


「そんなあだ名で呼ぶな。お前はもう同士ではない」


冷たく言い放たれた言葉に、空気がさらに張り詰める。


アダラがその間に割って入るように手を振った。


「まぁまぁ、とりあえず中で話そうぜ」


「客人もいることだしな」

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