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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第9章『西大陸篇』ー
313/320

撃ち抜けー

タブラスカの右目――


魔王核に走った亀裂は、確実にその存在を揺るがしていた。


赤い光が乱れ、全身の均衡が崩れる。


その巨体が大きく後ろへと傾いた。


だが、完全には倒れない。


たたらを踏み、無理やりに踏みとどまる。


地面を抉るように、足が深く沈む。


その刹那――


ベルの手が離れる。


距離が生まれる。


そして再び、視線が交わる。


ベルと――


プレレッサの左目。


人間の瞳。


「おまえ……その目は――」


ベルの言葉が、ほんのわずかに揺れる。


その瞳に、確かに見えた。


かつての面影。


だが――


ベルは、かすかに目を伏せる。


そして首を振った。


何かを振り払うように。


迷いを断ち切るように。


次の瞬間――


大きく後ろへ跳ぶ。


距離を取り、空間を切り離す。


着地。


その膝が、地面に触れた瞬間。


――炎が、消えた。


ベルの全身を覆っていた不死鳥の炎。


あれほど激しく燃え上がっていた焔は、余韻すら残さず霧散している。


代わりに残るのは、現実の重さ。


その場に片膝をつき、肩で大きく息をする。


「……時間ギリギリだったな……」


荒い呼吸。


それでも――


ベルは顔を上げる。


息を吸い込む。


深く。


そして、両手を前へと突き出す。


その視線の先は、ただ一つ。


タブラスカ。


「アカリ……今度こそ決めようぜ!」


その言葉と共に――


両手のひらの中心に、光が生まれる。


小さな輝き。


だが、それは瞬く間に膨張していく。


広がり、うねり、圧縮される。


凝縮されていく力。


純粋な光。


その輝きは、次第に“意志”を帯びていく。


タブラスカは――


片膝をついた。


その手から、剣が滑り落ちる。


重さではない。


戦意の変化。


崩れ始めた均衡。


その姿を見て――


ベルは声を上げる。


「カレン!カタナ!お疲れさん!」


振り返ることはない。


だが、その声は確かに届いた。


その二体の姫神は――


ふらりと、存在が揺らぐ。


まるで最初からそこにいなかったかのように。


そして――


光となって、消えた。


戦いの余韻だけを残して。


残るのは、ベルとタブラスカ。


そして――


その先にある“決着”。


ベルの声が、再び響く。


「ミズキ!出てこい!」


その呼びかけに応えるように――


光は、さらに強く輝きを増していく。


ベルの呼びかけに応えるように――


足元の地面が、静かに揺れた。


水の気配。


それは周囲の空気を潤しながら、ゆっくりと形を取っていく。


波紋のように広がる光。


そして――


その中心に、ひとつの影が立つ。


水の姫神。


ミズキ。


ゆるく波打つ青い長髪が、ふわりと揺れる。


垂れ気味の水色の瞳は、半ば閉じられたまま、やわらかく周囲を映していた。


まるで、この激しい戦場すら、静かな水面の一部のように受け止めているかのように。


白いチューブトップの周囲には、水でできた半透明の布がふわりと浮かぶ。


肩から腕へと流れ落ちるその姿は、まるで水そのものが衣装となっているかのようだった。


ホットパンツの周囲には、水のベールが幾重にも重なり、光を受けて淡く輝く。


そして腰から下には――


薄く広がる水のスカート状の流体。


動くたびに形を変え、揺らめき、まるで生きているかのように存在していた。


裸足のまま、その存在は静かにそこに立つ。


そして、ゆっくりと顔を上げる。


その瞳が、ベルを捉えた。


やわらかく。


どこまでも優しく。


「主様ー」


声は、まるで水滴が落ちるように静かで、穏やかだった。


戦場の騒音の中でも、不思議とその一言だけが、はっきりと届く。


ミズキは一歩、前へ出る。


その動きに合わせて、水の衣が波のように揺れる。


「呼んでくれて、ありがとー」


その表情は、微笑み。


だがその奥には、静かな力が確かに宿っていた。


視線が、タブラスカへと向けられる。


崩れかけた巨体。


赤く輝く魔王核。


そして、残された戦意。


ミズキの瞳が、ほんのわずかに細められる。


穏やかなまま――


しかし、決して逃がさない静かな圧。


水がすべてを包み込むように。


そして、静かに問いかけるように――


戦場の空気が、さらに一段深く変わっていった。


ベルが口を開く。


「ミズキ!さっそくで悪いが……」


だが、その言葉は最後まで紡がれない。


ミズキが、そっと人差し指を自分の唇に当てる。


「……しー……」


静かに制す仕草。


そのまま、両手をふわりと広げた。


空間が揺らぐ。


水が、応える。


空中に、大きな水の球が生まれる。


揺らめきながらも、確かな質量を持つそれは、ゆっくりと形を変えていく。


伸びる。薄く広がる。


そして――


円盤状の、水の塊へと変化した。


光を反射し、ゆるやかに波打つ“水のレンズ”。


それが、ベルの前に静かに浮かぶ。


ミズキの穏やかな声が、空気を震わせる。


「もういいよー」


ベルは一瞬だけ目を細める。


そして――


力強く、答える。


「アカリ!ぶっとばせ!」


その声に応えるように、ベルの両手から光が奔流となって放たれる。


圧倒的な光量。


それは一直線に――


ミズキの作り出した水のレンズへと吸い込まれていく。


ミズキは、わずかに体を揺らしながら。


「よいっしょー」


軽く言葉を添える。


その瞬間――


水のレンズに取り込まれた光が、形を変える。


一本の光ではない。


分かたれ、捻じれ、編まれ――


十の光の螺旋へと変換されていく。


それはまるで、水が光を“導く”かのように。


レンズの中で整えられた力が――


そのまま、放たれる。


分離された十の光の螺旋が、一直線にタブラスカへと殺到する。


狙いは――


十の魔王核。


右目、両肩、胸、腹、両拳、右膝。


それぞれに、正確に。


一点の狂いもなく。


光の螺旋が、赤く輝く核へと突き刺さる。


戦場に、眩い閃光が奔った。


10の光の螺旋が、魔王核へと突き刺さる。


閃光。


衝撃。


そして――


タブラスカの全身が、大きく震えた。


その場で、咆哮が上がる。


空気を引き裂くような、重く、深い叫び。


だがその声は――


どこかで聞いたことのある響きを孕んでいた。


英雄のものか。


魔王核のものか。


それとも――


プレレッサ本人のものなのか。


判別は、つかない。


ただ一つ確かなのは、


その存在そのものが、今まさに限界に達しているということだった。


タブラスカは、その場に膝をつく。


両膝が、地を打つ。


鈍い音が響く。


両手から力が抜け、だらりと垂れる。


剣は、もう握られていない。


その身体は、戦う形を保てないほどに崩れかけていた。


そして――


頭だけが、ゆっくりと天を仰ぐ。


崩壊寸前の身体の中で、ただ一点だけが動いているかのように。


赤い光はまだ、完全には消えていない。


だが、明らかに弱まっている。


均衡は、崩れた。


10の核は貫かれた。


戦いは――


終わりへと向かい始めていた。


ベルは走り出していた。


踏み込むたびに、大地が軋む。


その横を、ミズキの水が静かに揺れている。


すれ違いざまに、ベルは叫ぶ。


「ありがとな!」


その一言に――


ミズキの閉じられた目がほんの少し開きー


柔らかく、穏やかな微笑み。


「はーい、主様」


その声を残して。


水の姿は、一瞬で崩れる。


波紋のように広がり――


やがて完全に消えた。


ベルは止まらない。


前へ。


ただ一直線に。


その視線の先には――


崩れたまま、膝をつくタブラスカ。


その両目を、見据える。


そして走りながら、叫ぶ。


「カレン…もう一度最後に力貸してくれ!」


カレンの指輪が震える。


その存在を感じながら、ベルは右手を振り上げた。


「鬼の剛力、10倍!!」


その瞬間――


ベルの全身から、圧倒的な力が溢れ出す。


空気が震える。


筋肉が悲鳴を上げる。


だが、止まらない。


右腕だけが、異様に変質する。


肩から先が、歪に膨れ上がる。


膨張し、圧縮され――


黒く光る“鬼の腕”へと変貌する。


重圧。


それはもはや武器ではない。


質量そのもの。


ベルは、その拳を――


振り抜いた。


タブラスカの胸へ。


一直線に。


その瞬間。


三度目の視線が交差する。


ベルと――


プレレッサの左目。


ほんの一瞬。


時が止まる。


その瞳は――


確かに。


笑っているように見えた。


それは、敗北でも狂気でもない。


ただ、受け入れた者の静かな表情。


そして――


拳が、叩き込まれる。


轟音。


衝撃。


圧倒的な力が、タブラスカの身体を貫く。


抵抗する力は、もうない。


そのまま――


タブラスカの巨体は、力の奔流に押し出されるように。


撃ち抜かれた。

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