ベル死亡、そして全滅ー
ベルの身体が、ゆっくりと傾く。
力を失った人形のように。
支えを失い、前へと倒れていく。
カタナとカレンが、同時に駆け出す。
何かを叫んでいる。
必死に、手を伸ばしている。
届かせようとしている。
だが――
その姿が、揺らぐ。
輪郭が崩れる。
次の瞬間、霧散する。
光の粒子となり、塵となって消えていく。
何も、残らない。
ミリィの絶叫が、遠くで響く。
「――――っ!!」
声にならない叫び。
涙が、溢れる。
手を伸ばしても、届かない距離。
その向こうで。
舞い上がった埃の中。
まだ消えきらない光の残滓の奥から――
影が、現れる。
ゆっくりと。
確かに、そこに立っている。
タブラスカ。
その姿を、ベルはぼんやりと見ている。
視界が霞む。
音が遠のく。
意識が、沈んでいく。
抗う力は、もう残っていない。
世界が、暗転する。
そのまま――
ベルの意識は、消えた。
静寂が、広間を支配する。
崩れた瓦礫の中。
立ち尽くす影と、倒れたまま動かない一つの身体。
その光景を見て――
ミリィの膝が崩れ落ちた。
その場に伏せる。
両手で地面を掴み、震えながら。
「――いや……いやぁぁぁぁああああ!!」
声が、裂ける。
涙が止まらない。
呼吸もままならず、ただ泣き叫ぶことしかできない。
アダラは、一歩も動けなかった。
目を見開いたまま。
信じられないものを見るように、ただ立ち尽くす。
やがて――
力が抜ける。
両膝が、地面へと落ちた。
音もなく。
そのまま、項垂れる。
ビビだけが、ゆっくりと動いた。
視線をタブラスカへと向けたまま。
無言で、戦うための構えを取る。
震えはない。
だが、その奥にあるものは――決して軽くはない。
そして。
ハーミットは、一歩後ろで立ち止まる。
視線は戦場に向けたまま。
無意識に、爪を噛む。
ぎり、と。
その目は冷静でありながら――
どこか、焦りを滲ませていた。
ハーミットの口から、ぽつりと零れる。
「……負けて、しまうなんて」
信じられないものを見るような目。
だが、その現実から目を逸らすことはしない。
アダラが、歯を食いしばる。
拳を握りしめたまま、絞り出すように言う。
「うそだろ……魔王殺し、なんだろ?」
その言葉は、どこか縋るようで。
しかし返るものは、何もない。
ただ、目の前の現実だけが残る。
ビビが、一歩前へ出る。
視線はタブラスカへと向けたまま。
「今はそんなことより〜あれをなんとかしないと」
軽い口調。
だが、その奥にははっきりとした緊張がある。
視線の先。
埃の奥で、確かに立つ影。
戦いは――まだ終わっていない。
タブラスカが、ゆっくりと歩き出す。
瓦礫を踏み砕きながら。
その身体には、確かに無数の傷が刻まれている。
だが――
致命的なものは、ひとつもない。
赤く脈打つ核は、なおも強く輝き続けている。
ビビが、その姿を見据えたまま口を開く。
「ミリィ〜ハーミット〜お願いがある〜」
ハーミットが、静かに視線を向ける。
ビビは軽い調子のまま、続けた。
「アダラを連れて〜早く逃げて〜」
その言葉に、アダラがはっと顔を上げる。
「ビビ!余計なこと言うな!私も一緒に戦――」
言い終わるよりも早く。
ビビの姿が、消える。
次の瞬間には、背後に回っていた。
手刀が、迷いなく振り下ろされる。
アダラの首元へ。
衝撃。
力が抜ける。
そのまま、崩れ落ちる。
意識を失った身体を、ミリィとハーミットの方へと押しやる。
「それじゃ〜アダラをよろしく」
軽く手を振るような口調。
だが、その背はもう振り返らない。
そのまま――跳ぶ。
一直線に。
タブラスカへと向かって。
倒れたまま動かないベル。
その前へ――
影が、降り立つ。
ビビだった。
タブラスカとの間に立つその姿は、すでに“準備済み”だった。
全身に刻まれた紋様が、青く輝く。
胸元の擬似英雄核が脈動し、その光は血管のように全身へと走る。
青い光が、巡る。
満ちる。
溢れる。
ビビが、静かに口を開く。
「英雄召喚ー」
その瞬間。
目の色が変わる。
空気が震える。
莫大な魔力が、身体を包み込む。
さらに。
「英雄は傷付かないー」
皮膚が変質する。
黒光りする鋼のように。
硬質な輝きが、全身を覆う。
「英雄からは逃げられないー」
両足へと、力が集中する。
地面が軋む。
爆発的な推進力が溜まる。
「英雄は負けないー」
筋肉が膨張する。
限界を越えた出力。
そのすべてを纏い――
構えも取らず、踏み出した。
一直線に。
タブラスカへ。
直前。
跳ぶ。
身体を捻り、回転を加える。
そのまま――
踵を振り下ろす。
膝からつま先まで、凝縮された魔力の光が溢れる。
「いくよー!」
回転の勢いを乗せた、渾身の一撃。
だが――
タブラスカは、動かない。
避けない。
そのまま、受ける。
踵が、頭部へと直撃する。
衝撃が走る。
しかし。
弾かれる。
まるで、通らない。
「まさかっ!」
空中で体勢を立て直そうとする、その瞬間。
何かが走る。
見えない一閃。
次の瞬間――
ビビの背中が、裂けた。
鮮血が、宙に散る。
力が抜ける。
意識が途切れる。
そのまま、地面へと叩きつけられる。
動かない。
その背後。
タブラスカが、静かに立っていた。
左手の剣が、振り抜かれた形のまま。
それを見たハーミットの身体が、震える。
膝が抜ける。
そのまま、崩れ落ちる。
「はあぁっ……!!」
息が漏れる。
次の瞬間。
胸から、鮮血が噴き上がった。
何が起きたのか理解する間もなく、その場に倒れる。
そして――
気づけば。
ミリィの胸に、刃があった。
始剣アルファリア。
すでに、突き立っている。
痛みは、ない。
ただ、身体から力が抜ける。
崩れるように、地面へと倒れていく。
その視線だけが、動く。
探す。
追う。
倒れたままの――
ベルの姿を。




