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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第9章『西大陸篇』ー
301/320

英雄VS魔王殺し、再びー

ベルは床を蹴り、一直線に距離を詰める。

風を切り裂く音が遅れて追いかけてくる。


「カレン!5倍だ!」


その声に応じるように、内側から何かが弾ける。


力が溢れ出す。

全身の筋肉が一斉に応え、血流が加速する。

踏み込みが深くなり、景色が一段階遠ざかる。


一歩ごとに、速度と重みが増していく。


それでも――


タブラスカは動かない。


ただ玉座の前に立ち、二振りの剣を下げたまま、わずかに笑みを浮かべている。


迫り来るベルを前にしてなお、迎え撃つでもなく、構え直すでもなく。


ただ、待っている。


間合いに入る直前、ベルは地を蹴り、そのまま跳び上がる。


「カタナ!気合い入れろ!」


振りかぶった両肘から伸びる刃が、瞬間、質を変えた。


太く、厚く、長く――そしてより鋭く。

金属が唸るような音とともに、その存在感が一段と増す。


そこへ、膨れ上がった剛力が乗る。


空気が押し潰され、斬撃そのものが質量を帯びたかのように重くなる。


タブラスカはその変化を見据え、わずかに目を細めた。


「ほぉ…」


次の瞬間。


跳躍の勢いをそのまま叩きつけるように、ベルが両肘の刃を交互に振るう。


連撃。

重く、速く、迷いなく。


それに応じるように、タブラスカも動く。


左右の剣をそれぞれ構え、迎え撃つように振り上げた。


鋼と鋼がぶつかる。


火花が弾け、衝撃が床を震わせた。


激突の瞬間、衝撃が床を叩き割る。

石が砕け、破片が四方へと弾け飛び、鈍い音が広間に響き渡った。


その余波を避けるように距離を取った場所で、アダラが思わず息を呑む。


「こいつぁ…ヤッベェな」


ビビは目を細め、戦いの中心を見据えたまま呟く。


「…ベルくん〜最初から本気だね〜」


ミリィもまた、真剣な眼差しで二人を追いながら小さく言う。


「…相手が男性、ですしね」


その言葉に、ハーミットがわずかに眉を寄せる。


「どう言うこと?」


ミリィは視線を外さずに答えた。


「ベルさん、女性相手だと本気出せないんですよ。本人は本気のつもりかもしれないけど…」


ビビがくすりと笑う。


「あ〜たしかに〜顔とか身体は攻撃してこないし〜刃とかも当ててこないもんね〜」


アダラが思い出したように口を挟む。


「私ん時も、たしかに拘束されただけだったな…」


その一言に、ビビとミリィの視線が同時にアダラへ向く。


「な、なんだよ?」


ビビがにやりと笑い、ミリィが静かに続ける。


「アダラの時は〜」


「完全に遊んでましたよ。ベルさん」


一瞬の沈黙。


次の瞬間、アダラの顔が一気に真っ赤に染まる。


「てめぇら!そこになおれ!ひん剥いてやる!」


怒鳴りながら、ビビの胸元に巻かれた布へと手を伸ばし、勢いよく引っ張る。


「ああ〜や〜めて〜!こぼれる、こぼれちゃうよ〜!」


場違いな騒ぎが広がる中でも、中心ではなお、激しい衝突音が鳴り止むことはなかった。


ベルの斬撃が左右から絶え間なく叩き込まれる。

肘から伸びた刃が軌跡を残し、さらにそこへ蹴りが混ざる。


連撃。連打。途切れない圧。


だが――


タブラスカは一歩も退かない。


両手に持った剣だけで、それらを受け、流し、いなす。

刃と刃が噛み合い、衝撃が逃がされ、致命打には至らない。


わずか数度の攻防。


それだけで、周囲の壁が崩れ、床が砕け、石片が次々と落ちていく。

戦場そのものが、二人の余波に耐えきれず崩壊を始めていた。


「受けるだけで手一杯か!?」


ベルが踏み込みながら叫ぶ。


「ふっ、ならば見せてやろう。英雄の武器を」


タブラスカはその場でわずかに重心を変え、右手の剣を振り上げる。


一瞬――空気が止まる。


そして、そのまま振り下ろした。


振り下ろされた刃は、ただの一振り――のはずだった。


だが、その一瞬で空気が沈む。


遅い。

そう錯覚するほどの軌道。


なのに、次の瞬間には“そこにある”。


ベルの視界に、重い影が落ちる。


反射で身体を捻る。


直後――


轟音。


床が、圧し潰されるように砕けた。


衝撃は斬撃というより、“落下”。

見えない質量が叩きつけられたかのように、石がめり込み、波のようにひび割れが走る。


砕けた破片が一拍遅れて跳ね上がる。


ベルは着地し、距離を取る。

だが、その表情がわずかに歪む。


「……なんだ今の」


軽く腕を振る。

受けたわけでもないのに、骨の奥に重さが残っている。


タブラスカは剣をゆっくりと下ろす。


「終剣オメガニス」


静かに告げる。


「振るうほどに、その一撃は“重み”を増す」


足元の砕けた床が、なおも軋みを上げる。


「今のは、まだ軽い方だ」


次の一歩。


床が沈む。


それだけで、圧が伝わる。


ベルは口元を歪め、わずかに笑う。


「……上等じゃねぇか」


その背後で、アダラが低く吐き捨てる。


「あれが..,.終わり”の剣」


ビビも目を細める。


「さっきより〜重いね〜…」


ミリィは息を呑む。


「これが……伝承の……」


その間にも、タブラスカは次の一歩を踏み出す。


剣が、わずかに持ち上がる。


重い。

だが確実に、先ほどよりも。


タブラスカはそのまま間合いを詰める。


重く沈む一歩。

オメガニスの余韻が、なお空気を圧している。


だが次の瞬間、動きが変わる。


右手の剣をわずかに下げ、代わりに左手の刃がすっと持ち上がる。


その一振り。


――軽い。


ベルは踏み込もうとした足をわずかに止める。

違和感。


速い、というより――“抜けた”。


次の瞬間。


キィン、と甲高い音。


ベルの刃が弾かれる。


「っ……!」


見えた。

だが、反応が一拍遅れる。


タブラスカの左手――始剣アルファリアが、すでに次の軌道に入っている。


二振り目。


音が鋭くなる。


三振り目。


視界の端に残像が走る。


四、五――


もはや軌道が追えない。


ベルは無理やり身体を引き、距離を取る。

遅れて、頬に浅い切り傷が走った。


血が一筋、伝う。


タブラスカは追わない。


ただ、アルファリアを軽く振り下ろし、静かに構え直す。


「始剣アルファリア」


その声は、どこか愉しげだった。


「振るうほどに、速さは増す」


わずかに剣を揺らす。


それだけで、風が遅れて鳴る。


「どこまで見えるか……試してやろう」


ベルは舌打ちし、構えを取り直す。


「……さっきの重いのといい、今の速いのといい……」


口元が歪む。


「めんどくせぇな」


ベルは低く構え、息を吐く。


「アカリ!弾け!」


次の瞬間、淡い光が弾けるように広がり、ベルの周囲に幾重もの防御壁が展開される。

光は脈動し、外界を拒む膜となって揺らめいた。


間髪入れず、さらに声が飛ぶ。


「ミカゲ!イバラキ!展開!」


足元の影がうねる。

黒が盛り上がり、そこから無数の“手”が這い出すように持ち上がる。


同時に、地を裂くようにして茨の蔦が溢れ出し、床を侵食しながら広がっていく。

絡みつき、縛り、逃がさぬための檻が形成される。


そして最後に――


「カタナ!殲滅するぞ!」


その号令とともに、全身が変わる。


肘だけではない。

肩、背中、膝、拳――あらゆる箇所から刃がせり出し、ベルの身体そのものが武器と化す。


鋼が並び、隙間は消え、触れるすべてを切り裂く形へと変わった。


タブラスカはその姿を見て、わずかに口元を上げる。


「いいな…全力か」


ベルは迷いなく応じる。


「出し惜しみはしねぇ!一気に叩く!」


踏み込む。


床が砕ける。


同時に、タブラスカも剣を振るう。


速さと重さ。


光と影と鋼。


すべてが、正面から激突した。


激突は、そのまま途切れることなく続いた。


ベルの全身から伸びた刃が、嵐のように振るわれる。

光の壁が砕ける衝撃を受け止め、影の手が間合いを縫い、茨が足場を奪う。


一手ごとに、空間が削れていく。


タブラスカはそのすべてを、二振りの剣だけで捌く。


アルファリアが閃くたびに、軌道が増える。

一振りが二つに、二つが三つに見える。


速度が積み上がる。


その隙間に、オメガニスが振り下ろされる。


重い。


ただ重いのではない。

振るたびに、空間ごと押し潰すような圧が増していく。


ベルはそれを、受けず、止めず、流す。


影の手を盾にし、茨で軌道を逸らし、光壁で衝撃を削る。

それでも、余波だけで床が割れ、壁が崩れ、瓦礫が宙を舞う。


一瞬の隙を突いて踏み込む。


刃の嵐がタブラスカを包む。


だが――


弾かれる。


見えない速度で、すべてがいなされる。


再び距離が詰まり、また交錯する。


斬撃。衝撃。破壊。


音が連なり、もはやひとつの轟音となる。


その応酬の中で、確実に変化が生まれていた。


アルファリアは、もう“見える速さ”ではない。


オメガニスは、振り下ろされる前から“重い”。


ベルの呼吸がわずかに荒くなる。


だが、その目は死んでいない。


タブラスカは、ただ静かに笑っていた。


ベルは肩で息をしながらも、口元に笑みを残す。


「さすがだな…どうしていいかわっかんねぇ!」


タブラスカはわずかに首を傾ける。


「まだ我は剣の力しか使ってないぞ」


ベルの眉が動く。


「どういいことだよ?」


タブラスカの口元が、静かに歪む。


「こういうことだ」


言葉が終わるより速く――その姿が消えた。


「なにぃ!?」


視界から、気配ごと抜け落ちる。


探すより先に、本能が背後を告げる。


次の瞬間。


背後に、いた。


振り上げられた終剣。

すでに振り下ろされる軌道に入っている。


「絶対速度<英雄には誰も追いつけない>」


その言葉とともに、オメガニスが振るわれる。


重い――では足りない。


“落ちる”。


世界ごと叩き潰すような一撃が、背後から迫る。


ベルは反射で身体を捻り、両肘の刃を交差させる。


受ける。


衝突。


瞬間、音が消えた。


次いで――爆ぜる。


衝撃が爆発し、床が陥没する。

空気が押し出され、瓦礫が弾け飛ぶ。


ベルの足が沈む。

踏ん張る。骨が軋む。


「ぐっ……!」


受け止めたはずの衝撃が、遅れて身体を貫く。


それでも――折れない。


視線だけが、振り下ろしたタブラスカを捉えていた。


押し潰すような衝撃を受け止めたまま、ベルは踏みとどまる。

軋む足場の中で、わずかに体勢を立て直した。


「これでも折れぬとは、貴様の刃も規格外だな」


至近で見下ろすその声に、ベルは歯を見せて笑う。


「ありがとよ!お前に言われても嫌味にしか聞こねぇけど、な!」


踏み込む。


砕けた床を蹴り、間合いを奪い返す。


肘の刃を振るう。

鋭く、重く、一直線に。


だがタブラスカは、すでに後ろへと退いていた。


空を斬る。


その空隙へ、間髪入れず次の手が放たれる。


「アカリ!撃ち抜け!」


振り抜いた拳の延長線上から、光が迸る。


圧縮された光が一条となり、一直線に空間を貫く。

眩い奔流が、逃げ場ごと飲み込むように走る。


直撃。


タブラスカの胸を、光が撃ち抜いた。





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