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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: K.K.
第2章 『魔王殺し』
30/129

ー初めての依頼は大体トラブル続きー

日が沈み、街に夜が降りる。


窓の外を眺めていた銀髪の少年は、小さく息を吐いた。


「……西方外縁林、か」


振り返ると、部屋の椅子に座ったミリィがこちらを見上げている。


「はい。昼間、ベル様が受けた依頼です」


少年は頭をかきながらベッドの上の書き付けを拾った。

ギルドの簡素な依頼票だ。


『西方外縁林 異変調査』


「雑だな」


紙をひらひら振る。


「“異変”ってなんだよ」


ミリィは少し困ったように笑う。


「森の奥から夜中に音がするそうです。狩人の方々が入らなくなって、調査依頼が出ていました」


「魔物?」


「分からないそうです」


少年は鼻で笑った。


「一番面倒なやつじゃねぇか」


少し考えてから、紙をテーブルに戻す。


「ま、とりあえず見に行く」


ミリィがすぐに立ち上がりかける。


「では私も――」


「いや」


少年は手で止めた。


「ミリィは留守番」


きっぱり言う。


「下見だけだしな」


ミリィは一瞬だけ黙った。


それから小さく頷く。


「……分かりました」


少年は扉の前で靴を履きながら続ける。


「行ってみて、なんも無かったらそれで終わり」


肩を回す。


「ヤバそうなら帰る」


振り返って笑った。


「昼のあいつがまた面倒な依頼増やす前にな」


ミリィは少しだけため息をついたが、何も言わなかった。


「お気をつけて」


少年は軽く手を振る。


「すぐ戻る」


扉が閉まる。


夜の街は静かだった。


酒場の灯りだけがぽつぽつと残り、通りを歩く人影は少ない。


門番の横を通り、街の外へ出る。


石畳が途切れ、土の街道になる。


月は高く、空はよく晴れていた。


少年はポケットに手を突っ込みながら歩く。


「……二刻か」


遠いな、と小さく呟く。


しばらく歩くと、前方に黒い影が広がり始めた。


森だ。


月明かりの下で、木々が壁のように並んでいる。


少年は足を止める。


「ここか」


『西方外縁林』


森の中は真っ暗だった。


風が枝を揺らす音だけが聞こえる。


少年は少し首を傾ける。


「……静かすぎるな」


そう言って、森の中へ一歩踏み込んだ。


森に足を踏み入れて、しばらく。


夜の森にしては、妙に静かだった。


風はある。

葉も揺れる。

だが、獣の気配がない。


虫の声すら、どこか遠い。


少年は歩きながら、周囲を見回す。


「……妙だな」


西方外縁林は、狩人が日常的に入る森だと聞いている。

完全な深山というわけでもない。


それなのに――


「静かすぎる」


足を止める。


耳を澄ます。


何も聞こえない。


いや。


“何もなさすぎる”。


まるで、森そのものが息を潜めているような。


少年は鼻を鳴らした。


「気のせいか?」


そう言いながらも、足取りは少しだけ慎重になる。


さらに数分。


木々の密度が少し濃くなったあたりで、ふと違和感に気づく。


「……足跡?」


しゃがみ込む。


土の上に、浅い窪みがある。


人のものではない。


獣のものとも少し違う。


形が、妙に崩れている。


「なんだこれ」


指で触れる。


乾いている。

新しい。


少なくとも、今夜のものだ。


少年は立ち上がる。


視線を森の奥へ向ける。


その瞬間。


――ぬるり。


暗闇の奥で、何かが動いた。


少年の目が細くなる。


「……あ?」


木と木の間。


影の奥。


それは最初、“塊”にしか見えなかった。


輪郭が曖昧。


形が定まらない。


まるで、肉の塊がそのまま立ち上がったような――


異形。


ゆらり、と揺れる。


表面が、ゆっくりと波打つ。


生き物の皮膚というより――


液体に近い。


少年は小さく息を吐く。


「……なるほど」


肩を回す。


「異変ってこれか」


異形は、ゆっくりとこちらへ向きを変える。


目はない。


口もない。


だが、確かに“こちらを見た”。


次の瞬間。


少年の身体が動いていた。


地面を蹴る。


一瞬で距離を詰める。


低い姿勢から――


右肘。


鋼刃が月光を弾く。


「ッ!」


振り抜く。


肉を裂く感触。


だが――


手応えが、ない。


次の瞬間。


異形の体表が波打つ。


衝撃を“飲み込む”。


そして――反発。


ドンッ!!


爆発のような圧力が逆流する。


夜ベルの身体が弾かれる。


空中に吹き飛ぶ。


「……っ!」


背中から地面へ叩きつけられる寸前。


地面を蹴り、回転して着地。


しかし足が滑る。


土を削りながら数メートル後退。


呼吸が荒くなる。


「……やべー」


口元が歪む。


「やべーやべー……こいつマジなやつだ」


立ち上がる。


視線は逸らさない。


異形は、ゆらりと再び動く。


今の一撃を“無傷で耐えた”わけではない。


だが――


浅い。


決定打には遠い。


夜ベルは歯を食いしばる。


「アカリ!」


瞬間。


胸元から光が弾ける。


透明な膜が広がり、ベルの前面を覆う。


物理防御盾。


衝撃吸収領域。


異形が再び踏み込む。


その瞬間に備える。


夜ベルは低く叫ぶ。


「カレン……!」


体内の奥底。


別位相の力。


反応。


圧が上がる。


「いつもいつも悪いが……力を貸してくれ!」


盾の内側で、筋肉が軋む。


空気が震える。


「全部だ!」


地面がひび割れる。


「貸せるだけ貸してくれ!!」


身体の内部で、何かが解放される。


限界を超えた出力。


両肘の鋼刃が、さらに深く光を帯びる。


盾の外。


異形が再突進。


真正面。


夜ベルは低く踏み込む。


「来い……!」


空気が震えた。


身体の内部で、何かが解放される。


限界を超えた出力。


両肘の鋼刃が、さらに深く光を帯びる。


盾の外。


異形が再突進。


真正面。


激突寸前。


夜ベルは――


牙を剥くように笑った。


戦闘は、加速する。

西方外縁林 ― 夜


夜ベルの全力接触。


双肘の鋼刃が、異形の表層を抉る。


――ギィン。


鈍い反響。


確かに“削れた”。


だが。


異形は倒れない。


むしろ。


揺らぎながら――


再構成する。


抉れた部分が、霧のようにほどけ。


周囲の空間を吸い込み。


ゆっくりと。


元の形へ戻る。


夜ベルの目が細まる。


「……再生?」


違う。


ただの再生ではない。


削られた“情報”を補完している。


まるで――


学習している。


異形の体表が、波打つ。


さきほどベルが放った軌道をなぞるように。


同じ方向。


同じ角度。


同じ速度。


――踏み込み。


――腕の振り。


――圧の発生点。


再現。


夜ベルの喉が小さく鳴る。


「……マジか」


異形が、動く。


今度は“模倣”した攻撃。


空間を圧縮するような突進。


先ほどと同じタイミング。


同じ圧。


だが――


速度が、わずかに上。


夜ベルは反射的に横へ跳ぶ。


さっきの戦闘記憶が、逆利用される。


足元を衝撃が貫く。


地面がえぐれる。


「学んでやがる……!」


歯を食いしばる。


異形の表面が再び震える。


今度は――


ベルの“防御姿勢”を解析する。


両腕の交差。


重心の落とし方。


刃の角度。


空気の流れ。


再現。


再構築。


夜の森に、異様な静寂が走る。


敵は攻撃するたびに強くなる。


敵は観察するたびに精度を上げる。


夜ベルは息を吐く。


「……最悪だな」


両肘の刃を軽く鳴らす。


「俺の動き、コピーしてくるってか」


異形がゆっくりと姿勢を整える。


次の攻撃。


今度は――


完全な“同時突進”。


鏡合わせ。


夜ベルの心臓が、一拍跳ねる。


戦況は――


膠着。


だが。


明確に。


不利。

西方外縁林 ― 夜


異形が“学習”を終える。


体表が微細に震え。


夜ベルの攻撃軌道をなぞる。


突進。


反撃。


防御。


――模倣精度が上がっている。


このまま戦えば。


戦えば戦うほど、相手は強くなる。


夜ベルの表情が変わる。


焦り。


だが同時に――


静かな冷静。


「……待てよ」


異形の動きを見る。


さっきと今の差。


再生の速度。


模倣の遅延。


一つ気づく。


「こいつ……即座に学んでるわけじゃない」


「一拍、“処理”が入ってる」


攻撃 → 受信 → 解析 → 再構成


その微妙なラグ。


夜ベルは目を細める。


「なら――」


口角が、わずかに上がる。



策の発想


異形は“意味のある動き”を学ぶ。


だから。


意味のない動きを連続で叩き込めばいい。


あるいは。


誤情報を与える。


夜ベルは一歩踏み込む。


そして――


突然、右にフェイント。


直後に左。


さらに半歩下がり。


地面を蹴るが攻撃は出さない。


ただ動く。


無駄に。


意図的に。


リズムを崩す。


異形が反応する。


右突進。


だが――


夜ベルは既にその場にいない。


一瞬前の位置を“学習”した攻撃。


外れる。


夜ベルは低く呟く。


「そうだ」


さらに動く。


今度は連続で“予測不能な軌道”。


体をねじり。


空中で方向転換。


地面を使わず、壁の木を蹴り。


重心を常に変える。


異形の体表が激しく揺れる。


再解析。


再構築。


だが――


追いつかない。


処理が間に合わない。


夜ベルは確信する。


「学習速度を超えればいい」


「情報量を爆発させて、壊す」


さらに踏み込む。


同時に。


両肘の刃を高速で細かく振動させる。


“攻撃として成立しない振動”。


だが――


異形はそれを攻撃と誤認する。


反応。


解析。


再学習。


負荷が増える。


異形の輪郭が一瞬ぶれる。


空間が歪む。


処理限界。


夜ベルは笑う。


「オーバーフローしろよ……!」


戦況が――


逆転の糸口に触れる。


西方外縁林 ― 夜


夜ベルの意図的な攪乱。


無意味な動き。


高速フェイント。


リズム崩壊。


刃の振動。


情報量の暴力。


異形の体表が激しく波打つ。


処理が追いつかない。


再解析。


再構成。


だが――


限界。


ズン、と重い振動が走る。


異形の輪郭が一瞬、崩れた。


そして。


“停止”。


次の瞬間。


その存在は――


動きを止める。


学習をやめた。


体表の模様が消える。


青白い光が薄れ。


代わりに。


純粋な質量。


純粋な暴力。


“思考”を捨てた。


原始モード。


夜ベルの眉が上がる。


「……切り替えやがった」


異形が吼える。


声ではない。


振動。


大地が割れる。


空間を無視した突進。


さっきより速い。


さっきより重い。


予測不能。


夜ベルは防御姿勢を取る。


――来る。


その瞬間。


背後。


地面が再び裂ける。


ズン。


青い光。


別の影が、ゆっくりと地上へ。


夜ベルの背筋に冷たい感覚。


「……マジか」


第二個体。


それは地中から完全に出現する。


そして――


最初の異形に“触れる”。


接触。


瞬間。


二体の体表が同期するように光る。


情報が、共有される。


学習データの即時転送。


第一個体が得た“ベルの動き”。


第二個体へ。


第二個体が観測した“ベルの新たな動き”。


第一へ。


ネットワーク化。


夜ベルの目が鋭くなる。


「共有かよ……!」


一体なら揺さぶれる。


二体でリンク。


処理能力が倍。


学習速度が倍。


原始モードの質量。


そして――


知性の拡張。


二体が同時に動く。


左右から挟撃。


同一軌道。


同一タイミング。


だが出力は微妙にズレる。


逃げ場を潰すように。


森が悲鳴を上げる。


夜ベルは歯を食いしばる。


「……上等だ」


両肘の鋼刃が、より深く光る。


「なら――」


視線が、二体を同時に捉える。


「同時に壊す」


戦場は――


完全な多対一へ進化した。

西方外縁林 ― 夜


二体の異形。


リンク。


情報共有。


左右から挟み込むように同時突進。


空間を圧縮する質量。


夜ベルは刃を構え直す。


「……面倒くせぇ」


踏み込む瞬間。


――ズズ……


地面が低く唸る。


足裏に違和感。


次の瞬間。


森そのものが、動いた。


大地が波打つ。


根が地表を突き破る。


巨大な樹木の根が、蛇のようにうねりながら夜ベルの足首を狙う。


木々の幹が軋み、傾き。


枝が意志を持つように振り下ろされる。


空間全体が、ゆっくりと“収縮”する感覚。


夜ベルの目が鋭くなる。


「……森までか」


地面が盛り上がる。


根が絡みつく。


逃げ道を塞ぐ。


異形二体はそれを利用する。


森の動きを“足場”にして加速。


リンクした二体+環境補助。


三重圧。


一瞬で囲い込まれる。


夜ベルは跳ぶ。


根が直撃する寸前で回避。


だが――


空中。


枝が交差する。


逃げ場を読んだように。


上から圧迫。


夜ベルは両肘の刃で枝を叩き切る。


――ギィン!


硬い。


ただの木ではない。


森が異常化している。


異形の存在に共鳴して、構造が変質している。


「……くそ」


着地。


その瞬間。


地面から太い根が鎖のように飛び出し、足を絡め取る。


動きが止まる。


異形二体が同時に踏み込む。


左右。


前後。


完全包囲。


夜ベルの視界が、一瞬だけ静止する。


――詰みか?


違う。


唇の端が上がる。


「そう来るか」


森は敵。


だが。


森は“情報”を持つ。


異形と同調している。


なら――


逆に利用する。


夜ベルは足に絡みついた根を――


あえて、切らない。


刃を地面に突き立てる。


そして。


根を通じて――


森に“自分の圧”を流し込む。


瞬間。


森が、拒絶反応を起こす。


根が震える。


枝が軋む。


異形と繋がった“異質な圧”に対して、内部で衝突が発生。


リンクにノイズ。


二体の異形が一瞬、動きを止める。


共有情報が乱れる。


夜ベルはその隙に――


根を引きちぎり、地面を蹴る。


空中へ。


視線が鋭く光る。


「今だ……!」


戦場はさらに混沌へ。

夜ベルが森へ“圧”を流し込んだ瞬間。


異常が起きる。


森の内部で、何かが衝突する。


異形とリンクしていた神経網。


そこへ――


外部からの干渉。


自律防衛反応が、誤作動する。


ズズズ……!


大地が唸る。


根が暴発する。


枝が意志なく振り下ろされる。


木々が、味方も敵も区別せず――


無差別に攻撃を開始する。


バキィッ!!


巨大な根が横薙ぎに走り、


異形一体を叩き飛ばす。


続けて別方向から、


数本の幹が槍のように突き出る。


それは夜ベルにも容赦なく向かう。


「……っ!」


跳躍。


回避。


だが空中。


足場なし。


その瞬間――


上から枝の嵐。


下から根の鞭。


左右から異形二体。


四方向同時攻撃。


森は制御を失い、


“破壊対象を広域指定”したかのように暴れ出す。


夜ベルは歯を食いしばる。


「くそ……!完全に狂ってやがる!」


刃で枝を斬り落とす。


しかし――


斬れば斬るほど、


切断面から新しい芽が爆発する。


再生ではない。


増殖。


森が自己保存のために、


損傷を“複製”で補う。


結果――


数が増える。


攻撃密度が上がる。


異形二体も巻き込まれ、


互いに衝突し始める。


だが彼らは壊れない。


むしろ――


森の混乱を利用してさらに融合を試みる。


二体の輪郭がゆっくりと近づく。


触れ合う。


光が重なる。


夜ベルの目が細くなる。


「……融合すんのかよ」


森の無差別攻撃。


異形の再結合。


戦場は――


制御不能。


足場が崩れる。


地面が裂ける。


夜ベルは跳び、


落ちる根を蹴り、


空中で体勢を整える。


その表情に、


恐怖はある。


だが――


同時に、興奮もある。


「……最高に厄介だな」


戦いは、


第二段階へ。

西方外縁林 ― 夜


森は暴走している。


根が暴れ。


枝が槍となり。


大地が割れ。


異形二体は森の混乱を利用して――


ゆっくりと融合を始める。


輪郭が溶け合う。


光が重なる。


夜ベルがそれを睨む。


「……まずい」


その瞬間。


地面が――


三箇所、同時に裂けた。


ズズッ……


青白い光。


黒い影。


土を押し上げて――


新たな“存在”が、姿を現す。


三体。



① 速度特化型


細長い。


関節が異様に多い。


地面を蹴った瞬間、残像だけを残して消える。


空間を滑るように移動する個体。


夜ベルの視界の端で、影が揺れる。


「速ぇ……!」



② 圧殺型


巨大。


腕というより、質量の塊。


動きは鈍い。


だが一歩踏み出すたびに地面が陥没する。


単純。


しかし破壊力が桁違い。



③ 干渉型


最も不気味。


体表が波打ち、


森の“暴走”と同期している。


根や枝を直接制御する。


つまり――


森を操作する個体。


こいつがいる限り、


森の無差別攻撃は止まらない。



戦場の構図


・二体 → 融合進行中

・三体 → 新規追加

・森 → 暴走継続

・夜ベル → 完全包囲状態


四方向から圧。


夜ベルの周囲で、


敵の数が一気に五体体制になる。


圧が跳ね上がる。


干渉型が手を広げる。


瞬間。


森の根が再び暴発。


夜ベルの足元を貫く。


速度型が背後へ瞬間移動。


圧殺型が正面から踏み込む。


――同時攻撃。


夜の森が、


戦場として完成する。


西方外縁林 ― 夜


五体。


リンク。


森と同期。


包囲。


夜ベルの周囲に、圧が密集する。


速度型が消える。


圧殺型が踏み込む。


干渉型が森を暴発させる。


融合中の二体が背後で蠢く。


――同時攻撃。


逃げ場なし。


その瞬間。


夜ベルは目を閉じる。


深く。


「……リンクしてんなら」


口角が上がる。


「利用できるよな?」



■ アカリ ― 防御強化


胸元から光が爆ぜる。


「穿て!」


掌を前へ。


光弾が撃ち出される。


――ドォン!!


速度型の進路へ直撃。


衝撃で弾き飛ばす。


だが止まらない。


次。


「爆ぜろ!」


全身から光の衝撃波。


白い波動が円形に広がる。


近接していた圧殺型と干渉型が後退。


森の根も一瞬停止する。


空間が一拍、リセットされる。



■ イバラキ ― 捕縛


だが速度型が再加速。


背後へ回り込む。


その瞬間。


ベルの背中から――


黒い茨が爆発的に伸びる。


「イバラキ!縛りつけろ!」


茨の蔓が空間を裂き、


高速移動する異形の足を絡め取る。


ギチギチと締め上げる。


速度が死ぬ。


地面へ叩き落とされる。



速度型、拘束。


圧殺型、衝撃でバランス崩壊。


干渉型、森制御が乱れる。


リンクにノイズ。



■ 逆利用開始


夜ベルはその瞬間を逃さない。


「今だ……!」


五体が共有している“情報回線”。


それを――


逆流させる。


異形同士の神経網へ、


ベルの圧を直接流し込む。


内部へ侵入。


リンク回路に強制接続。


異形の体表が激しく点滅する。


暴走。


自壊信号。


二体融合体が苦しみ始める。


情報過多。


処理不能。



敵からの反撃。


圧殺型が最後の力で腕を振るう。


直撃。


夜ベルの身体が吹き飛ぶ。


その瞬間――


影が地面から伸びる。


複数。


黒い手。


攻撃を絡め取り、


衝撃を吸収。


相殺。


夜ベルが地面に転がりながら笑う。


「……ミカゲ」


影が静かに揺れる。


「助かったよ」


影は何も言わない。


ただ守る。



戦況。


五体のリンクが崩壊寸前。


だが――


まだ終わらない。


融合体が“暴走進化”を始める。


森も再び震える。


西方外縁林 ― 夜


戦況を一瞬で俯瞰する。


五体。


リンク崩壊寸前。


だが――


まだ“奥”がある。


まだ隠している。


夜ベルの瞳が細くなる。


「……ダメだ」


「こいつは闇雲に戦っても不利になるだけだ」


異形の内部。


未使用のエネルギー。


森の奥でうごめく不穏な反応。


直感が告げる。


まだ終わりじゃない。


「まだ何か隠してる気がする」


短く息を吐く。


決断。


「――一時撤退だ!」



■ エンカ


叫ぶと同時に。


足元から炎が噴き上がる。


「エンカ!炎天華だ!」


爆発。


地面を抉る勢いで炎が波となって広がる。


紅蓮の奔流。


異形五体へ向けて一斉に押し寄せる。


熱。


圧。


視界を焼く光。


敵の動きが一瞬止まる。



■ ユキメ


夜ベルは振り返らない。


「ユキメ!氷の氷壁を!」


炎の背後。


急激な冷気。


地面が凍りつき、


厚さ数メートル級の氷壁が瞬時に生成される。


ベルの正面を覆う巨大な盾。


炎の余波が凍結し、


蒸気が爆ぜる。


氷と火。


二重防壁。


敵とベルの間を完全に遮断する。



撤退開始


ベルは氷壁を背にして叫ぶ。


「よし!ここからは撤退戦だ!」


その瞬間。


全身から――


ギチギチと金属が軋む音。


肉の内部。


骨の隙間。


皮膚の下。


無数の鋼の刃が――


生える。


肩。


背中。


両腕。


腰。


腿。


まるで武装化。


夜の光を反射する無数の刃。


異形が氷壁の向こうで激突する音が響く。


ドンッ!!


ヒビが入る。


だが――


氷はすぐには崩れない。


ベルは低く笑う。


「追ってきたら」


「切り刻む」


刃が、静かに震える。


撤退戦。



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