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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第9章『西大陸篇』ー
291/327

オアシスー

水辺の静けさの中で――


ふいに、ベルの指先がかすかに震えた。


「……?」


違和感。


視線を落とす。


十の指輪。


そのすべてが、微かに揺れている。


「なにこれ……」


指を開く。


ぞわり、と。


遅れて、嫌な感覚が背中を走る。


「何!?何かくるの?」


反射的に顔を上げる。


ミリィもはっとして周囲を見る。


「え……?」


ハーミットは、少し遅れて顔を上げる。


「……何?」


状況を把握しきれていない声。


その時。


ザッ――


砂を踏む音。


ベルの視線が、素早くそちらへ向く。


「……あっち」


低く言う。


木々の影。


そこから、人影が現れる。


布で顔を覆った男たち。


武器を持っている。


「……人」


ミリィの声が小さく震える。


さらに、反対側からも足音。


「……囲まれてる」


ベルが小さく呟く。


ハーミットがそこでようやく状況を理解する。


「……なるほど」


淡々とした声。


興味も焦りもない。


ただ、事実を受け取るだけ。


野盗の一人が前に出る。


「動くな」


低い声。


「荷物置いてけ」


ベルは一歩前に出る。


指輪の震えは、まだ止まらない。


「……このことかぁ...」


野盗たちが、じりじりと距離を詰めてくる。


砂を踏む音。


左右から、後ろから。


逃げ道を潰すように。


ベルは前に出たまま、動かない。


「……下がって」


短く言う。


ミリィが一歩、後ろへ。


ハーミットも、無言のまま位置をずらす。


だが――


「そっちもだ」


野盗の一人が顎で示す。


背後にも、影。


完全に塞がれている。


「……ちっ」


ベルが小さく舌打ちする。


じりじりと、押される。


一歩。


また一歩。


気づけば――


足元に、水。


冷たい感触。


オアシスの縁まで、追い詰められていた。


ミリィの足が、水に触れる。


「……っ」


小さく息を呑む。


もう、下がれない。


背後は水。


前には、野盗。


男たちが、にやりと笑う。


「いいねぇ、その位置」


逃げ場がない。


「暴れられねぇだろ?」


ベルは黙ったまま、前を見据える。


指輪が、かすかに震える。


水面が、静かに揺れる。


風はない。


それでも――


波紋が、広がった。



水際。


背後は水。


前には、野盗たち。


逃げ場はない。


男の一人が、にやりと笑う。


「女が3人か、ついてるねぇ」


下卑た視線が、順に三人をなぞる。


別の男が、ミリィの方を見て口元を歪める。


「ガキもいるじゃねぇか」


その一言で、ミリィの肩がびくりと震えた。


ベルの喉が、ごくりと鳴る。


怖い。


数も多い。


武器もある。


勝てるわけがない。


それでも――


一歩、前に出る。


「……」


声が出ない。


息を吸う。


震えを、押さえる。


「……やめて」


かすれた声。


小さい。


それでも、前を見る。


「……わたしたち、なにも持ってないから」


ミリィを、背中で庇う。


男たちが一瞬黙り――


すぐに笑う。


「ははっ」


「かわいいこと言うじゃねぇか」


距離が、また詰まる。


ベルの指先が、わずかに震える。


逃げたい。


でも――逃げない。


ベルは前に立ったまま、視線を逸らさない。


指先に力が入る。


(今の私の体力的なら……)


息を整えながら、頭の中で数を数える。


(倒せても2人、なんとか3人……)


前に立つ男たち。


武器。


体格。


距離。


(残り2人をどうしよう……)


一歩。


さらに一歩。


ベルが、ほんの少しだけ前に出る。


「……下がって」


小さく、ミリィにだけ聞こえる声。


背中で守る位置を作る。


男たちが、にやつく。


「お、やる気か?」


一人が武器を軽く持ち上げる。


ベルの呼吸が浅くなる。


(前の2人は――いける)


(問題はその後)


一瞬、視線が動く。


左右に分かれている影。


(分断できれば……)


ベルは小さく息を吐いた。


(……やるしかない)


そのまま、野盗たちを見据える。


次の一手を、待つ。


水際。


ベルが一歩、前に出る。


その瞬間――


「ミカゲ!お願い!なんとかして!」


声が響く。


直後。


前にいた男たちの足元の“影”が、すっと揺れた。


次の瞬間――


影の中から、細い糸のようなものが無数に伸びる。


影そのものが、形を持ったかのように。


「……っ!?」


野盗の男たちが、反応する間もなかった。


影の糸が――


武器に絡みつく。


腕に巻きつく。


首に、脚に。


一瞬で、拘束。


「な、なんだこれは――!?」


男が叫ぶ。


だが、もがけばもがくほど、影は締まる。


ギチ、と音がする。


完全に動きを封じられる。


影の糸に捕らえられた男たちは、必死にもがく。


だが、動けない。


ベルはその様子を見据えながら、前に出る。


「ミカゲ……!」


声が落ちる。


次の瞬間――


影の糸が、静かに収縮する。


ギュッ、と。


首元に巻き付いた影が、必要なだけの圧をかける。


苦しむ声。


だが、それも長くは続かない。


一人、また一人と――


力が抜け、身体の力が崩れていく。


ベルはその様子を見ながら、ほんの少しだけ息を整える。


(……助かった)


無理に自分で押さえ込むことはしない。


すべて、影の力。


影が、静かに役目を果たし――


二人の男はその場で意識を失った。


ベルはすぐに顔を上げる。


「……まだ終わってない」


残る気配を探しながら、次の敵に備える。


残った野盗たちが、じり、と間合いを広げる。


警戒。


さっきまでの余裕は消えている。


視線はベルの手元――そこに集まっている。


その動きに、野盗の一人が小さく舌打ちをする。


「……厄介なもん出しやがって」


別の男が、剣を構え直す。


「油断するなよ。距離取れ」


そのとき。


ベルが両手を前に突き出す。


「エンカ!やるわよ!」


声に応じるように――


左手に炎の弓。


右手に炎の矢。


炎が、空気を焼きながら形を成していく。


男たちの表情が、一斉に変わる。


緊張。


警戒。


そして、ほんのわずかな動揺。


ベルは矢をつがえ、ゆっくりと引き絞る。


炎が、きしむように揺れる。


狙いは、野盗たち。


「動かないで」


静かな声。


それでも、しっかりと届く。


「動くと、撃ちます」


風が一瞬、止まったように感じられる。


野盗たちは互いに視線を交わす。


誰が先に動くか。


空気が、張り詰めていく。


ベルは矢を向けたまま、息を整えようとする。


「このまま、私たちから見えなくなる場所まで行って」


言葉は弱く、けれどはっきりと。


「その間に私たちはここを去ります」


ほんのわずかに、腕が揺れる。


それでも狙いは外さない。


「追撃はしないと約束するから」


その言葉に、野盗の一人が鼻で笑った。


「あのよぉ、その矢で倒せるのは1人だろ?」


ゆっくりと一歩、踏み出す。


「あと2人、その調子でいけるのかい?」


周囲の男たちも、それに呼応するように間合いを詰める。


ベルの表情が強張る。


足元がわずかにふらつく。


それでも――矢は向け続ける。


炎は揺れ、今にも消えそうで、それでも消えない。


仲間たちも、じわりと動く。


三方向から、圧がかかる。


ベルの指先に、さらに力が入る。


炎の弓がわずかに揺れる。


矢の先が、男たちを捉え続けている。


「……」


ベルは唇を噛む。


言い返す余裕はない。


ただ、矢だけは外さない。


そのとき――


背後の影が、静かに広がる。


地面に落ちた影が、ゆっくりと男たちの足元へと伸びていく。


気づいた者はいない。


空気が、わずかに変わる。


緊張の中で、別の圧が静かに入り込む。



ベルは炎の弓と矢を構えたまま、その場に留まっている。


全身にかかる負荷。


呼吸が乱れる。


足元が崩れそうになる。


それでも、矢だけは外さない。


「……」


もう一言、言葉を絞り出す。


「このまま……見えないところまで、行って」


炎の矢は、すでに次を撃てる状態ではない。


体力は、限界に近い。


野盗の一人が、それを見抜く。


「はは……やっぱりな」


低く笑う。


「その一発が限界か」


一歩、また一歩と距離を詰めてくる。


ベルの指が震える。


それでも矢は動かさない。


撃てば終わるかもしれない。


だが、その一発を外せば――もう後がない。


三人の圧が、じわじわと迫る。


張り詰めた空気の中で、次の一瞬を待つしかなかった。


野盗の男たちが、にやりと笑う。


「俺たちが3人、女も3人。ちょうどいい」


視線が、順に三人へと向けられる。


品定めするような目。


「おまえ、どれにする?」


「俺は黒髪」


「俺はあの金髪のねぇちゃん」


最後の男が、軽く肩をすくめる。


「じゃー俺はガキか。まぁいいや」


その言葉に、ミリィの肩がびくりと揺れる。


ベルの手が、わずかに強く握られる。


炎の矢はまだ構えられている。


だが、もう次はない。


撃てば、その一発で終わる。


それでも――


ベルは一歩も引かない。


男たちが、さらに距離を詰める。


緊張が、限界まで張り詰める。


次の瞬間に、すべてが動き出しそうな空気だった。


ベルの指が震える。


炎の弓が、わずかに揺らぐ。


呼吸が浅くなる。


もう、維持できない。


限界。


――撃つしかない。


ベルの視線が、一点に定まる。


目の前の一人。


狙いを絞る。


体力が尽きる、その直前。


すべてをそこに乗せる。


弦が、きしむ。


炎の矢が、強く光る。


男たちが気づく。


「……来るぞ!」


だが、もう遅い。


ベルの腕が、最後の力で引き絞られる。


そして――


放たれる。


ベルの腕が、最後の力で矢を放とうとする。


だが――


視界が、ぐらりと揺れる。


呼吸が途切れる。


力が抜けていく。


炎の弓が、ふっと消える。


霧散するように、火が散って消えた。


ベルの体が、そのまま崩れ落ちる。


膝が地面に触れる。


両手が、砂を掴む。


視界が暗くなる寸前――


野盗たちが動いた。


「……終わりだな」


男たちが、武器を振り上げる。


一斉に。


次の瞬間、振り下ろされようとした――そのとき。


空気が、わずかに変わる。


風を裂く鋭い音が走った。


次の瞬間――


野盗の一人が横から吹き飛ばされ、地面を転がる。


砂を巻き上げながら、動かなくなる男。


背中には、湾曲した剣が深く突き立っていた。


西大陸特有の刃。


間を置かず、オアシスの木々の間から影が現れる。


武装した集団。


五人。


統率の取れた動きで、残る野盗たちに一気に接近する。


「――そこまでだ」


短い声。


そのまま迷いなく刃が振るわれる。


一瞬の交錯。


砂が舞う。


叫び。


そして――静寂。


数秒で、野盗たちはすべて地に伏した。


ミリィが息を呑む。


「……え……」


ハーミットの表情は変わらない。


だが、視線は鋭く集団を観察している。


「……」


警戒。


誰も近づけない。


ベルはその場で崩れたまま動けない。


呼吸だけが、かすかに続いている。


武装集団の一人が、ゆっくりと三人へ視線を向ける。


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