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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
雪の降る村はー
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雪と踊ろうー

雪は、ただ降り続けていた。


少年の動きに遅れて、その形をなぞる。


だが、その“遅れ”はほんの少しずつ縮まっていく。


足を踏み出す。


雪が追う。


止まる。


雪も止まる。


……ほんの一瞬。


遅れが消えかける。


少年は眉をひそめたまま、雪を見る。


次の瞬間、何も考えずに指先を動かす。


小さく弧を描くように。


すると、雪もまた――


同じように、ゆるやかな弧を描いた。


今度は、遅れがほとんどない。


けれど、ぴったりではない。


わずかに、揺れている。


「……」


少年は息を吐く。


不思議な気配。


怖さはない。


敵意も感じない。


ただ――


自分の隣に、もう一つの動きがあるような感覚。


少年は、少しだけ姿勢を崩す。


わざと、ふらつくように。


すると雪も、少し遅れて傾く。


だがその動きは、どこかぎこちない。


“どうすればいいか”を探しているような揺らぎ。


少年はじっとそれを見つめる。


やがて、小さく口を開いた。


「……お前、俺のこと見てるのか?」


雪は答えない。


だが、ほんのわずかに――


風の流れとは違う向きに、雪の粒が動いた。


まるで。


考えているように。


それでもなお、害はない。


ただ、少年の動きを見て、なぞっている。


それだけ。


けれど、その“だけ”が、妙に気にかかる。


少年はもう一度、雪に触れる。


今度は何もせず、じっと手を置いたままにする。


雪もまた――


同じように、ただそこに在る。


追うでもなく、離れるでもなく。


重なり合うように。


時間だけが、静かに流れていく。


少年は、少しだけ間を置いた。


雪はその沈黙すら、わずかに遅れてなぞる。


追いかけているのではない。


ただ、合わせようとしている。


「俺が何がして欲しいのか?」


そう呟く。


答えは返らない。


けれど、雪は消えない。


その場に留まり続ける。


少年は、ゆっくりと右手を上げた。


何も考えず、ただ上げる。


雪も、遅れて同じ高さまで上がろうとする。


だが途中で、少しだけ揺れた。


まるで――


迷っているように。


少年は目を細める。


「できないのか?」


問いかける。


雪はすぐには動かない。


それから、ほんの少し遅れて、また同じ高さまで上がる。


今度は、先ほどよりも安定している。


少年は小さく息を吐いた。


「うーん、そっか」


納得したように、つぶやく。


「ちゃんと覚えてるんだな!」


雪が、かすかに揺れた。


その揺れは、風のせいじゃない。


少年の言葉に、反応しているように見えた。


「じゃあさ」


少年は、今度はゆっくりと手を振る。


大きく、はっきりと。


雪も、遅れてその動きを追う。


だが、さっきより迷いが少ない。


まるで――


少しずつ理解しているようだった。


少年は、ふっと笑う。


「……やっぱすげぇんだな、雪」


その言葉に、雪はほんの少しだけ遅れて――


静かに、同じように揺れた。


了解、その流れでつなぎます。


――


雪は、少年の動きをなぞり続けていた。


けれど、その“遅れ”は、少しずつ短くなっていく。


模倣しているのではなく、


理解しようとしているような揺らぎ。


少年が手を止める。


すると、雪も止まる。


だが――


今度は、そのまま形を崩さない。


ただの粒ではなく、


ゆるやかに、まとまり始める。


風もないのに、雪が一点へと集まる。


ゆっくりと。


輪郭が生まれる。


腕のような形。


足のような形。


そして――


人の形に近づいていく。


少年は、それを見上げたまま、目を細める。


「……お前」


言いかけて、少し言葉を探す。


「そんなふうにもなれるのか」


雪の形は、完全ではない。


だが確かに、そこに“何か”が立っている。


少年はふっと息を吐く。


白い息が空に溶ける。


「……寒っ」


肩をすくめる。


長く外にいすぎた。


体の芯まで冷えている。


少年は一歩、後ろへ下がる。


それでも、雪の形は崩れない。


そのまま、静かにそこにいる。


「そろそろ帰るわ」


少年は軽く手を振る。


「またな」


返事はない。


だが――


雪の形が、ほんの少しだけ揺れた。


まるで、別れを理解したかのように。


少年は背を向ける。


雪の中を、ゆっくりと歩き出す。


背後で、雪は静かに降り続ける。


人の形をしたまま――


ただ、そこに残っていた。


翌朝。


雪は、まだ静かに降り続いていた。


庭は一面の白に覆われている。


踏みしめれば、柔らかく沈む音がする。


その冷たい空気の中、扉が勢いよく開いた。


黒髪の少女が、勢いよく外へ飛び出す。


足が雪に沈み、バランスを崩しそうになるが、すぐに踏みとどまる。


「わぁ……!」


目を見開いて、辺りを見回す。


白。


どこもかしこも白。


初めて見る景色に、抑えきれない興奮が顔に出る。


手を伸ばして、雪をすくう。


掌の上で、すぐに溶け始める冷たさ。


それすらも、嬉しそうに見つめる。


「すごい……こんなに……」


背後から、声がかかる。


「冷えすぎる前に帰って来るんだよ」


振り返ると、金髪でそばかすの少女が、扉のところから声をかけている。


外に出たい気持ちを抑えつつも、心配そうに見守っている。


黒髪の少女はにっこりと笑う。


「大丈夫!ちょっとだけ!」


そう言って、また雪の中へ駆け出す。


足跡が、白い地面にどんどん刻まれていく。


走るたびに、雪が軽く舞い上がる。


その様子は、どこか不思議なほど自然で――


まるで、雪と遊んでいるようだった。


その奥で、静かに降り続ける雪。


昨日と同じように。


だが、その一粒一粒の動きは――


わずかに、何かを探しているようにも見えた。


黒髪の少女は、はしゃぎながらもふと足を止めた。


雪の中に、ひときわ“違う”気配を感じる。


降ってくるだけじゃない。


どこか、こっちを見ているような――


そんな気がした。


少女は目を瞬かせて、空を見上げる。


そして、少し首を傾げる。


「……ねえ」


小さな声。


けれど、はっきりとした呼びかけだった。


「あなた、なに?」


問いかける。


答えを期待するというより、確かめるように。


雪は、すぐには反応しない。


ただ静かに降り続ける。


だが――


少女の周りの雪が、ほんのわずかに遅れて揺れた。


まるで、聞いているかのように。


少女はそれを見て、目を輝かせる。


「やっぱり……」


一歩、近づく。


雪に手を伸ばす。


掌を広げて、ゆっくりと差し出す。


「ねえ、わたしにもできるかな?」


その言葉に呼応するように、雪がふわりと動く。


今度は、はっきりとした反応。


少女の手の動きを、少し遅れてなぞる。


少女は息をのむ。


それから、嬉しそうに笑った。


「できるんだ……!」


声が弾む。


雪は、また静かに揺れる。


その動きは、まるで――


返事のようだった。


黒髪の少女は、少しだけ息を整えた。


足元の雪を踏みしめる。


きゅっ、と小さな音。


そして、ゆっくりと腕を上げる。


「……こう、かな」


一歩。


踏み出す。


腕をなめらかに動かす。


雪が、その動きを少し遅れてなぞる。


「……できる、できる」


少女は目を輝かせる。


もう一度。


今度はさっきよりも、少しだけ大きく。


腕を広げて、回るように動く。


雪が、遅れてその輪郭を描く。


最初はぎこちない。


遅れもばらばらだ。


けれど、少女は気にしない。


何度も、何度も繰り返す。


一歩。


手を伸ばす。


くるりと回る。


そのたびに、雪が追いかけてくる。


だんだんと、動きがそろっていく。


遅れが短くなる。


呼吸が合っていくように。


少女は笑う。


「いま、合ってる……!」


ゆっくりと手を差し出す。


雪が、同じように手を伸ばす。


ほんのわずかに遅れて。


けれど、確かに。


触れそうで、触れない距離。


少女はそのまま一歩踏み出し、


そっと体を傾ける。


雪もまた、同じように揺れる。


まるで――


二人で踊っているみたいに。


少女は小さく息を吐く。


白い息が、空に溶ける。


「……すごいね」


静かに言う。


雪は答えない。


ただ、少女の動きに寄り添い続ける。


その場で、ゆっくりと。


二人だけの、静かなダンスが続いていた。



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