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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
天の皇を目指すものー
279/324

選択の時が来たー

承知いたしました。続けます。



それから、少年は三日に一度の頻度でやって来るようになった。


夜の帳が下りた頃、


何の躊躇もなく、この山奥まで。


水面に釣り糸を垂らし、


静かに時間を過ごしていく。


蛇は、その様子を水底から見ていた。


あの日。


初めて現れた夜。


早く満足させて帰らせようと、


多くの魚を釣らせた。


その判断は、間違いだったのかもしれない。


魚がよく釣れる場所だと知ってしまった少年は、


それからというもの、


まるで当たり前のように通い始めた。


人間。


普通であれば、この距離、この山奥に、


何度も足を運ぶことはない。


危険を避けるのが、本来の在り方。


それでも――


この少年は来る。


迷いもなく。


恐れもなく。


ただ、そこにいることを楽しむかのように。


夜の静寂の中で、


釣り糸を垂らし、


時折、独り言のように何かを呟く。


その姿は、奇妙だった。


そして――


不思議と。


目が離せなかった。


これまでの百年で、見たことのない種類の存在。


理解できない行動。


合理性から外れた振る舞い。


それなのに。


なぜか、気になってしまう。


蛇は気づいていた。


自分が、本来持つべきではない感情を、


この少年に向け始めていることに。


――関わらない。


それがすべてだったはずなのに。


この存在だけは、


静かに、


確かに、


心の中に入り込んできていた。


承知いたしました。続けます。



それから、少年は三日に一度の頻度でやって来るようになった。


夜の帳が下りた頃、


何の躊躇もなく、この山奥まで。


水面に釣り糸を垂らし、


静かに時間を過ごしていく。


蛇は、その様子を水底から見ていた。


あの日。


初めて現れた夜。


早く満足させて帰らせようと、


多くの魚を釣らせた。


その判断は、間違いだったのかもしれない。


魚がよく釣れる場所だと知ってしまった少年は、


それからというもの、


まるで当たり前のように通い始めた。


人間。


普通であれば、この距離、この山奥に、


何度も足を運ぶことはない。


危険を避けるのが、本来の在り方。


それでも――


この少年は来る。


迷いもなく。


恐れもなく。


ただ、そこにいることを楽しむかのように。


夜の静寂の中で、


釣り糸を垂らし、


時折、独り言のように何かを呟く。


その姿は、奇妙だった。


そして――


不思議と。


目が離せなかった。


これまでの百年で、見たことのない種類の存在。


理解できない行動。


合理性から外れた振る舞い。


それなのに。


なぜか、気になってしまう。


蛇は気づいていた。


自分が、本来持つべきではない感情を、


この少年に向け始めていることに。


――関わらない。


それがすべてだったはずなのに。


この存在だけは、


静かに、


確かに、


心の中に入り込んできていた。


承知いたしました。先ほどの流れをベースにしつつ、余計な説明を省いて続けます。



それからの半月。


少年は、変わらずこの池へと通ってきた。


ただし、以前とは少しだけ違っていた。


水の浅い場所までは、ためらいなく足を踏み入れる。


だが、ある境目を越えたところで、動きが止まる。


それ以上は進まない。


目に見えないはずの“深さ”が、


彼の中で、確かに恐れとして存在している。


蛇は、それを水底から見ていた。


少年は気づいていない。


この池に何がいるのかも。


ただ、釣りをしている。


その様子は、どこかぎこちない。


それでも――


来る。


夜になるたびに。


ある夜。


少年は道具を忘れて来た。


苛立ちをぶつけるように、水辺に向かって声を荒げる。


波が立つ。


その様子を、蛇はただ見ていた。


またある夜。


強く引かれた竿に、少年の身体が持っていかれる。


バランスを崩し、足が浮く。


そのまま水に――


落ちかける。


だが、彼は踏みとどまる。


息を乱しながら、後ずさる。


その顔には、はっきりとした恐れがあった。


水への恐怖。


深さへの恐怖。


そして、見えないものへの不安。


蛇は、それを見ていた。


理解はできない。


だが、見ている。


またある夜。


少年は花を持ってきた。


水面へと、そっと投げ入れる。


浮かぶ花。


揺れる水。


少年の表情が変わる。


静かな、悲しみ。


その一瞬を、蛇は見ていた。


そして――


それから数日。


少年は、来なかった。


水面は静かで、


ただ時間だけが、流れている。


承知いたしました。続けます。



百年目。


この日が――最後の一日。


あと、半日。


長い時間が、ついにここまで来た。


ようやく。


ようやく、すべてが報われる。


この身に積み重ねてきたもの。


捨ててきたもの。


耐えてきたもの。


すべては、この日のためにあった。


あと半日。


何も起こらなければいい。


何も関わらなければいい。


ただ静かに過ごせばいい。


それだけで――


この身は変わる。


竜になる。


その事実は、確かに理解している。


それなのに。


胸の奥にある感情は、ひとつではなかった。


喜び。


嬉しさ。


そして――


どこか、物悲しさ。


終わりが近づいているからではない。


終わることそのものが、惜しいわけでもない。


ただ。


この百年の時間が、


“終わってしまう”ということが。


静かに、心の奥に影を落としていた。


だが、それでも。


本日。


この身は天へと昇る。


この場所から。


この池から。


見上げ続けてきた、あの空へ。


九十九年と、三百六十五日。


ずっと。


ただ一度も触れることなく。


遠くにあるだけだったもの。


憧れ続けてきたもの。


渇望してきたもの。


そのすべてが、今――


手の届く場所にある。


あと半日。


静かに。


ただ、静かに。


この時間を過ごせばいい。


それだけで、


すべてが終わる。


すべてが――


始まる。


承知いたしました。続けます。



日が落ちて、しばらく。


静寂の中に、わずかな変化が生まれる。


足音。


聞き慣れた気配。


それが、こちらへと近づいてくる。


蛇は、水底で身じろぎもしないまま、


ただ、その気配を受け取った。


少年。


久しぶりの、あの存在。


来なかった数日。


その不在は、確かにこの場所に空白を作っていた。


だが今――


その空白は、埋まる。


戻ってきた。


この夜に。


この、最後の夜に。


蛇は、静かにそれを感じていた。


喜び。


それに近いもの。


この百年で、数えるほどしか触れたことのない感情。


それが、確かにそこにあった。


最後に。


彼が来た。


それだけで、


この時間は“満たされた”ものになる。


これまでとは違う。


ただ竜になるだけではない。


この夜は、


特別な夜になる。


蛇は動かない。


だが、その内側は静かに揺れていた。


この場所で。


この時間で。


最後に見るのは――


あの少年だ。


承知いたしました。続けます。



蛇は気づく。


少年の様子が、いつもと違うことに。


足取りはわずかに重く、


手元の動きも、どこか鈍い。


視線が定まらない。


呼吸が、少しだけ乱れている。


熱。


身体の内側から、熱が滲み出ているような気配。


体調が悪い。


明らかに、いつもの状態ではない。


それでも少年は来た。


この場所へ。


この夜に。


いつものように、釣りの準備を始める。


だが、その動きはどこかおぼつかない。


蛇は、水底からその様子を見ていた。


いけない。


このままでは危うい。


もし足を滑らせれば。


もし水に落ちれば――


この少年は。


溺れる。


彼は、泳げない。


それは、確かに理解している。


この池の深さを思えば、


一度落ちれば、簡単には助からない。


蛇は、わずかに身を強ばらせる。


動くべきか。


このまま見ているべきか。


最後の時間。


この百年の終わりに。


選ぶべきは――


静観か。


それとも。


蛇は、じっと少年を見つめ続けていた。


承知いたしました。続けます。



馬鹿なことを考えるのはやめる。


これまでの百年。


そのすべてに比べれば、


この瞬間の揺らぎなど、取るに足らない。


優先すべきものなど、あるはずがない。


そうだ。


何もない。


この道は、このために歩んできた。


あと半日。


それだけで、すべてが報われる。


少年も、馬鹿ではない。


あの様子ならば、落ちることもないだろう。


そう、判断した――その瞬間。


視界が、揺れた。


竿が投げられる。


その動きに合わせて、


少年の身体が、わずかに崩れる。


次の瞬間。


踏みとどまるはずの足が――


滑った。


バランスが崩れる。


体が前へと傾く。


ゆっくりと。


だが確実に。


止まらない。


手を伸ばす間もなく。


声を出す間もなく。


そのまま――


水へ。


落ちた。


大きな水音が、静かな夜を切り裂く。


水面が大きく跳ねる。


波紋が広がり、


夜の静寂が、乱される。


蛇は、その瞬間を――


ただ、見ていた。


やめろ。

やめるのだ。


馬鹿な考えは捨てろ。


ここまで来た。


この百年。


楽なものではなかった。


むしろ、ほとんどが耐えるだけの日々だった。


それでも――


耐えてきたのだ。


すべては、この瞬間のために。


ここで終わらせてはならない。


絶対に、終わらせてはならない。


あと半日。


それだけでいい。


あと半日で――


竜になれる。


ならば。


ここで選ぶべきものは、決まっている。


関わるな。


見ていろ。


ただ、それだけでいい。


そう――


思い直そうとした、その時。


蛇の視界は、揺れた。


水面。


そこに落ちた少年。


もがく。


手を伸ばす。


だが、その動きは次第に鈍くなっていく。


苦しそうな顔。


必死に息を求める姿。


やがて。


力が抜ける。


身体の動きが止まり――


沈んでいく。


ゆっくりと。


何かに引き込まれるように。


深い水の中へ。


その姿が、見えなくなっていく。


消えていく。


蛇は、見ていた。


見てはいけないものを。


理解してはいけないものを。


だめだ。


いけない。


諦めろ。


自分には、やるべきことがある。


あと半日。


あと半日で――


すべてが、報われるのだ。


あぁ、駄目だ。


諦められない。


理屈ではない。


積み重ねてきた百年が、


そのまま崩れ落ちるような感覚。


だが――


身体は、すでに動いていた。


水底に沈んでいく少年。


その姿が、遠ざかっていく。


間に合わなくなる。


その瞬間、蛇は飛び出していた。


水を裂く。


身体をしならせ、


一気に水中へと滑り込む。


冷たい水が全身を包む。


だが、そんなものは関係ない。


ただ、一直線に。


沈んでいく少年のもとへ。


泳ぐ。


速く。


力強く。


この百年で得たすべてを使って。


だが――


その行為は。


あまりにも。


愚かだった。


あまりにも。


選んではならない選択だった。


なんと愚かな。


なんと、情けない。


これまで積み上げてきた百年。


そのすべてを前にして、


蛇は――


一瞬のために、それを捨てた。


ただ一人。


少年を選んだ。


その選択は、


どこまでも間違っているはずだった。


だが。


それでも。


蛇は、迷わなかった。


水の中。


光が届かないその場所で。


蛇は、ただ一つの存在へと手を伸ばしていた。


承知いたしました。続けます。



水の中で。


その感触は、確かにあった。


少年の身体。


冷たく、弱く、今にも消えてしまいそうな重み。


蛇は、その巨大な頭でそれを支えた。


壊れないように。


沈まないように。


ただ、浮かせるために。


水をかき分ける。


身体を捻り、岸へと向かう。


重さを抱えたまま。


一切の迷いなく。


やがて。


岸へ。


水際にたどり着く。


慎重に、しかし確実に。


少年の身体を地面へと横たえさせた。


ぐったりとした体。


浅く、かすかな呼吸。


それを確認する。


生きている。


その事実だけを確かめると――


蛇は、水の中へと戻った。


そして。


ゆっくりと。


水面へと、その巨大な頭を持ち上げる。


水滴が落ちる。


静かな夜。


誰もいない池。


その中心に。


水面から現れた蛇の頭。


そして、その視線の先。


地面に横たわる少年。


蛇は見下ろしていた。


守るべきではなかったもの。


触れてはならなかったもの。


それでも――


守ったものを。


静かに。


ただ、見つめていた。


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