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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
籠の中の鳥ー
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育まれる絆ー

承知いたしました。少女視点に戻します。



朝の光が、窓からやわらかく差し込んでいた。


白い息が、かすかに空気に溶ける。


黒髪の少女は、ベッドの上でゆっくりと目を開けた。


まだ意識はぼんやりとしている。


身体のあちこちが、じんわりと冷えているはずなのに――


胸のあたりだけが、ほんのりと温かい。


不思議に思いながら、少女は視線を落とす。


そこには、小さな丸いものがあった。


淡いオレンジ色の毛玉。


くるりと身体を丸めて、すやすやと眠っている。


その小さな体温が、少女の胸にじんわりと伝わっていた。


少女の目が、ゆっくりと見開かれる。


そして次の瞬間、ぱっと表情が明るくなった。


「元気になってるー!」


思わず声が弾む。


昨日まで、あんなに弱っていた小さな命が、こうして自分の上で眠っている。


それだけで、胸の奥がじんわりと温かくなる。


少女はそっと手を伸ばしかけて、途中で止めた。


起こさないように。


驚かせないように。


ただ、見守るように。


そのまま、静かに微笑んだ。


承知いたしました。続けます。



小鳥は、昨日よりも少しだけ元気になっているように見えた。


呼吸は落ち着き、身体の震えもない。


けれど――


まだ、立ち上がることはできない。


歩くこともできず、小さな身体を丸めたまま、ベッドの上にじっとしている。


餌も、食べたり食べなかったり。


ほんの少しついばんでは、また動かなくなる。


それでも。


ときどき、顔を上げる。


ゆっくりと。


ほんの少しだけ首を動かして、こちらを見る。


その小さな瞳が、黒髪の少女を捉える。


少女は、そのたびに表情を緩めた。


優しく、やわらかく。


まるで安心させるように、微笑む。


「大丈夫だよ」


そっと、声をかける。


「ゆっくりでいいからね」


返事があるわけではない。


けれど、小鳥はじっとその声を聞いているようだった。


少女は、指先を伸ばしかけて、また止める。


触れない。


無理はさせない。


ただ、そばにいる。


それだけでいいと、分かっていた。


小さな命が、少しずつ回復していく。


その時間を、壊さないように。


少女は静かに、見守り続けていた。


夜。


窓の外はすっかり暗くなり、部屋の中も静けさに包まれていた。


ベッドの上、小さな命は変わらず丸まっている。


そのそばに、少年が腰を下ろしていた。


腕を組み、じっと小鳥を見つめる。


そして、ぽつりと口を開いた。


「知ってるか?鳥の中にはすげぇやつがいるんだ」


小鳥に向けた言葉。


返事があるわけでもない。


それでも、少年は気にせず続ける。


「不死鳥って言うんだけどな、名前の通り死なないんだぜ?」


淡々とした声。


だがどこか楽しそうでもあった。


「いっつも燃えててあったかいらしい、そんで死んでも復活するんだってさ!」


その話は、静かな夜の中にゆっくりと落ちていく。


小鳥は、かすかに顔を上げた。


ぼんやりとした視界の中で、目の前の存在を見る。


声が、届く。


意味は分からない。


けれど――


その音の中に、なにかがある。


さっきまでとは違う、熱のようなもの。


「死なない」


「燃える」


「復活する」


言葉の形は分からないまま、


ただ、その響きだけが、小さな中に残る。


すごい。


なんだか、すごいもの。


そんな気がした。


小鳥は、じっと少年を見つめた。


そのまま、もう一度小さく身体を丸める。


けれど――


さっきより、ほんの少しだけ、


内側に、何かが灯ったような気がした。


承知いたしました。続けます。



雨が、降り続いていた。


一日、二日。


空はずっと灰色のまま、陽の光は差し込まない。


窓の外は暗く、冷たい。


部屋の中にも、その冷えは静かに入り込んでいた。


温もりはある。


布も、魔法石もある。


それでも――足りない。


小鳥は、日に日に弱っていった。


もともと小さな身体。


蓄える力も少ない。


寒さは、容赦なくそれを削っていく。


羽を丸めても、震えは止まらない。


呼吸は浅く、長く続かない。


餌も、ほとんど口にしなくなっていた。


ただ、そこにいるだけで精一杯。


それでも。


黒髪の少女は、毎日そばにいた。


ベッドの端に座り、小鳥を見つめる。


そして、いつものように微笑む。


「大丈夫だよ」


やさしく、声をかける。


「きっと元気になるからね」


その声は変わらない。


やわらかくて、あたたかい。


けれど――


その笑顔は、少しずつ変わっていった。


ほんのわずかに。


気づかれないくらいに。


口元は笑っている。


でも、目の奥に、揺れるものがある。


こらえるように。


押し込めるように。


悲しみを、隠している。


それでも、少女は笑う。


小鳥の前では、ずっと。


何も変わらないように。


安心させるように。


その笑顔を、やめなかった。


承知いたしました。小鳥視点で続けます。



くらい。


ひかりが、ない。


さむい。


ずっと、さむい。


まえみたいな、あたたかさが、ない。


からだの奥が、ずっとつめたい。


丸まる。


でも、足りない。


あたたまらない。


羽の中まで、冷たい。


うごけない。


息が、浅い。


すぐ、つかれる。


おなかも、すかない。


たべる気が、しない。


でも――


くる。


あの、やさしいの。


近くに、くる。


音。


やわらかい音。


声。


やさしい声。


ちかくで、ひびく。


意味は、わからない。


でも――


いやじゃない。


すき。


目を、少しだけあける。


ぼやけた中に、顔。


あの、やさしいの。


こっちを、見てる。


口が、動く。


音が、くる。


あたたかい音。


それを、聞く。


ただ、それだけ。


それだけで、少しだけ――


楽になる。


でも。


さむい。


つらい。


からだが、重い。


沈む。


このまま、沈む。


でも――


あの声が、まだある。


だから。


すこしだけ。


まだ、ここにいる。


承知いたしました。続けます。



くらい。


しずか。


さむい。


からだが、もう、うごかない。


息も、うすい。


消えそう。


そのとき。


音。


近づいてくる。


あの、おおきいの。


夜の、ちがうやつ。


そばに、来る。


声。


「なぁ、お前このまま死んじまうのか?」


音が、落ちてくる。


意味は、はっきりとはわからない。


でも――


なんとなく、わかる。


おわり。


そうなのかな。


このまま。


消えるのかな。


いやだ。


こわい。


でも。


からだが、もう、きかない。


どうにも、できない。


声が、つづく。


「せっかく鳥に生まれてきたのに、一度も飛ばすに死んじゃうなんてもったいないだろ」


とぶ。


そら。


たかいところ。


まだ、しらない。


でも。


しっている。


とびたい。


ほんとうは。


でも。


できない。


できないんだ。


さむい。


ちからが、ない。


仕方ない。


仕方ないんだ。


だって――


こんなに、さむい。


そして。


また、声。


「なぁ、お前、不死鳥の話し覚えてるか?」


おぼえてる。


なんとなく。


あの音。


あつい。


つよい。


しなない。


すごい鳥。


そんなもの。


あるんだ。


あぁ。


そうなりたい。


あつくて。


つよくて。


しなない。


そうなれたら。


さむくない。


こわくない。


消えない。


いいな。


いいな。


そうなりたいな。


そうなりたかったな。


もっと、聞きたかった。


その話。


もっと、聞きたかった。


その声。


ちいさな意識が、ゆっくりと沈んでいく。


でも、その奥に。


ひとつだけ。


のこる。


あついもの。


つよいもの。


しなないもの。


――なりたい。


もう、ほとんど、なにも感じない。


消えそう。


そのとき。


声。


ちかく。


やわらかくて、つよい音。


「俺を信じてくんないか?」


音が、落ちてくる。


わからない。


でも。


ひろう。


その音を。


「お前が死ぬとあいつが悲しむ。俺も悲しい」


あいつ。


やさしいの。


いつも、声をくれる。


あの、あたたかいの。


悲しむ。


それは――


いやだ。


「せっかく友達になったんだからさ、もっと生きて欲しい」


ともだち。


よく、わからない。


でも。


その音は、やさしい。


近い。


つながっている感じ。


――いきたい。


まだ。


ここに、いたい。


でも。


できない。


からだが、もう。


でも。


「俺に願えよ」


ねがい?


なに、それ。


「俺を信じろ」


しんじる?


わからない。


でも。


その声は。


あたたかい。


つよい。


こわれない音。


「俺がお前を、不死鳥みたいなすげぇやつにしてやるからさ」


ふしちょう。


あの、すごい鳥。


あつい。


つよい。


しなない。


――なれる?


そんなのに。


なれるの?


「もっと生きたいんだろ?飛びたいんだろ?」


いきたい。


いきたい。


まだ、いきたい。


とびたい。


そらへ。


たかく。


つよく。


そして――


あつくて。


しなない。


あの、すごい鳥に。


なりたい。


なりたい。


なりたい。


ちいさな身体の奥で、


なにかが、強く灯る。


消えかけていたものが、


もう一度、燃える。


――ねがう。


いきたい。


とびたい。


ふしちょうに。


なりたい。


その想いが、


はじめて、はっきりと形になった。




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