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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
籠の中の鳥ー
275/330

籠の中の気持ちー

承知いたしました。続けます。



くらい。


なにも見えない。


でも――あたたかい。


からだは、やわらかいところに沈んでいる。


さっきまでの、つめたさはない。


すう、と。


ゆっくり、息ができる。


そのまま、気持ちよく沈んでいた――


けれど。


おなか。


すいた。


きゅう、と、小さく縮む。


なかが、からっぽみたいに痛い。


ねむさが、すこしだけ、遠のく。


おきる。


うごく。


からだが、さっきより、すこしだけ動く。


くちばしが、ひらく。


ちいさく、声が出る。


ぴぃ。


もういちど。


ぴぃ、ぴぃ。


おなか、すいた。


おなか、すいた。


おなか、すいたよ。


声が、何度も出る。


しずかな夜の中で、ひびく。


しばらく。


鳴く。


鳴く。


鳴きつづける。


すると――


しゃり、と。


なにかが動く音。


上から、くらいものが、少しだけ動く。


ひかりが、入る。


つめたくない。


でも、くらいままの光。


そのすきまから――


なにかが、見える。


おおきい。


また、おおきいの。


ちがう。


さっきのとは、ちがう。


においも、ちがう。


目が、合う。


じっと、見てくる。


ふしぎそうな顔。


なんだ、これ。


なんだ、これ。


なんだ、これなんだこれ。


わからない。


でも、にげられない。


ちいさな身体が、かたまる。


声も、止まる。


ただ、見つめ返すしかなかった。


承知いたしました。続けます。



しばらく。


見られる。


じっと。


そのまま。


すると――


また、動く。


かごの中に、なにかが入ってくる。


手。


おおきい。


近づいてくる。


こわい。


さっきとちがう。


からだが、動く。


力がある。


にげたい。


でも、にげられない。


なら――


やる。


くちばしを、前に出す。


一気に、かぶりつく。


がぶり。


しっかりと、噛む。


その瞬間――


「いちちちちっ!いってぇ!」


大きな声。


びく、とする。


でも、離さない。


すると――


「なんだお前、元気で安心したぜ!」


笑ってる。


声が、やわらかい。


怒ってない。


なんで。


おかしい。


噛んだ。


いたいはず。


なのに。


怒らない。


前のやつは。


噛んだら、怒った。


こわかった。


でも、こいつは。


ちがう。


笑ってる。


なんだ、こいつ。


なんだ、こいつ。


なんだ、こいつなんだこいつ。


わからない。


でも――


さっきみたいな、こわさが。


すこしだけ、ちがう。


ちいさな身体は、まだ警戒したまま。


でも、完全には、固まらなかった。


承知いたしました。続けます。



はなさない。


ぜったい、はなさない。


そのまま――


ふわり、と。


からだが、持ち上がる。


うごく。


かごの外。


あたらしい空気。


ひろい。


やばい。


やばい。


これは、ピンチ。


にげられない。


たかい。


こわい。


でも――


はなさない。


くちばしに、力を入れる。


ぎゅっと。


ずっと、噛む。


やめたら、こわい。


そのまま――


とん、と。


やわらかいところに、置かれる。


なんだ、これ。


かたいところじゃない。


ふわふわ。


すこし沈む。


あたたかい。


動く。


でも、やわらかい。


なんだ、これ。


少しだけ、力をゆるめる。


まわりを、感じる。


におい。


さっきの、おおきいの。


これ――


あたま?


人間の、あたま。


その上に、いる。


高い。


でも、さっきほど、こわくない。


あたたかい。


しずか。


すこし、落ち着く。


くちばしを、はなす。


そっと、足で立つ。


ふわふわ。


あったかい。


なんか、いい。


そのとき――


また、手。


目の前に、来る。


びくっ、とする。


でも――


その上。


なにか、ある。


におい。


つよい。


しってる。


これは――


ごはん。


おなかが、きゅうっと鳴る。


からだが、勝手に前に出る。


目が、そこに、くぎづけになる。


承知いたしました。続けます。



「ほら、食えよ」


声。


やわらかい。


目の前。


手の上。


ごはん。


においが、強い。


おなかが、きゅうっとなる。


いいのか。


たべて、いいのか。


ちょっとだけ、近づく。


においを、確かめる。


……いい。


すぐに、くちばしが動く。


ついばむ。


ひとくち。


ふたくち。


――おいしい。


止まらない。


ついばむ。


ついばむ。


ついばむ。


どんどん、食べる。


夢中で、食べる。


おなかに、入る。


あたたかくなる。


からだの中が、少しずつ、動き出す。


もっと。


もっと。


まだ、足りない。


食べる。


食べる。


食べる。


おなかがすいたら、元気がでない。


元気がないと、飛べない。


ママが、言ってた。


まだ、飛べない。


でも、そのうち、飛べる。


だから――


食べる。


たくさん、食べる。


ちいさな身体いっぱいに、ごはんを詰め込むように、


夢中で、食べ続けた。


承知いたしました。続けます。



たべた。


たくさん、たべた。


もう、いらない。


おなかが、いっぱい。


からだの中が、ぽかぽかする。


さっきまでの、からっぽな感じが、ない。


あたたかい。


ちゃんと、あたたかい。


さむくない。


もう、さむくない。


ほっとする。


ちからが、抜ける。


ねむい。


とても、ねむい。


さっきとは、ちがう。


こわくない。


いやじゃない。


ただ、ねむい。


まぶたが、落ちる。


からだが、ふわっと軽くなる。


どこにいるかも、あまり気にならない。


あたたかい。


やわらかい。


それだけで、いい。


ねる。


いまは、ねる。


ゆっくり、沈んでいく。


ちいさな意識が、ほどけていく。


そして――


おやすみなさい。


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