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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
籠の中の鳥ー
274/326

やさしい気配ー

承知いたしました。では「寒さと苦しさ」から始めます。



さむい。


つめたい。


ちいさな身体に、風が刺さる。


羽のあいだから、冷たい空気が入りこんでくる。


どこもかしこも、つめたくて、重い。


うまく息ができない。


浅く、かすれるような呼吸が、途切れそうになる。


からだが、いうことをきかない。


動こうとしても、力が入らない。


ただ、丸まることしかできなかった。


くらい。


まわりが、よくわからない。


音も、遠い。


なにかが近くにあった気がする。


けれど、それもぼやけていく。


さむい。


さむい。


いやだ。


このまま、消えてしまいそうになる。


ちいさな身体の奥で、かすかなものが揺れる。


まだ。


まだ。


それだけが、わずかに残っていた。


承知いたしました。続けます。



さむい。


くるしい。


からだが、重い。


どこにも力が入らない。


ただ、うずくまるしかできない。


そのとき――


がたん、と。


なにかが揺れた。


床が、ゆっくりと動く。


ちいさな身体が、その揺れに合わせて転がりそうになる。


こわい。


なにかが、来る。


おおきな気配。


近づいてくる。


空気が、変わる。


見えないけれど、すぐそばにいる。


息が、浅くなる。


からだが、勝手にこわばる。


にげたい。


でも、動けない。


影が、かかる。


暗くなる。


すぐ近くに、なにかがある。


じっと、見られている。


わからない。


なにかも、なにもかも。


ただ、こわい。


音がする。


低く、やわらかい音。


意味はわからない。


けれど、その音は、さっきまでの冷たさとは違っていた。


それでも――


こわい。


次の瞬間。


ぐらり、と世界が傾いた。


持ち上げられる。


空が動く。


さっきまであった場所が、遠ざかる。


揺れる。


大きく、ゆっくりと。


からだがついていかない。


視界が、ぐらぐらと揺れる。


こわい。


こわい。


知らない場所へ、連れていかれる。


逃げ場はない。


ただ、その揺れの中で、


ちいさな身体は、さらに強く丸まった。


それでも――


ほんのわずかに。


冷たいだけだった空気の中に、


少しだけ違う匂いが混ざっていた。


まだ、わからない。


それが何なのか。


ただ、こわいまま、運ばれていく。


承知いたしました。続けます。



ゆれるのが、止まった。


そっと、置かれる。


かたくない。


でも、つめたい。


じんわりと、冷えが伝わってくる。


少しして、明るくなる。


光。


あたたかい光が、かすかに触れる。


でも――


さむい。


風はないのに、空気が冷たい。


羽の奥まで、冷えが入りこんでくる。


ちいさな身体が、ぎゅっと縮まる。


そのとき、上からなにかが落ちてきた。


ふわり、と覆われる。


くらくなる。


匂いが変わる。


やわらかい。


少しだけ、外の冷たさが遠くなる。


でも――


さむい。


まだ、足りない。


身体の奥が、ずっと冷たいまま。


しばらくして、また。


なにかが重なる。


もうひとつ、覆われる。


空気が、少しだけ変わる。


閉じ込められるように、熱が残る。


さっきより――


ほんの少しだけ、まし。


でも。


さむい。


さむい。


さむい。


からだの奥が、凍るみたいに痛い。


息が、うまくできない。


浅く、細くなる。


消えていくみたいに。


いやだ。


こわい。


このまま、なくなる。


なにもわからないまま。


なにもできないまま。


ただ、こわい。


ちいさな身体は、震えることすらできず、


ただ、固く丸まったまま、


その冷たさの中に沈んでいった。


承知いたしました。続けます。



ばたばた、と。


おおきな音が、近くで動く。


空気が揺れる。


すぐそばにあった気配が、遠ざかっていく。


ひとつ。


もうひとつ。


ふたつの大きなものが、離れていく。


音が、小さくなる。


やがて――


しずかになる。


なにも、ない。


ただ、暗くて、つめたい場所。


さっきより、少しだけ、落ち着く。


こわいものが、いない。


それだけで、ほんの少しだけ、楽になる。


でも。


さむい。


さむい。


からだの奥が、ずっと冷たい。


重い。


なにも、したくない。


なにも、できない。


ただ、丸まる。


それだけ。


ねむい。


とても、ねむい。


まぶたが、落ちる。


そのまま、沈んでいきそうになる。


でも――


こわい。


このまま、ねたら。


もう、起きられない気がする。


わからないけど。


そんな気がする。


いやだ。


でも。


ねむい。


さむい。


こわい。


からだが、もう、うごかない。


あたたかさも、足りない。


息が、すこしずつ、弱くなる。


ちいさな意識が、ゆらぐ。


おきていたい。


でも。


ねむい。


そのまま、暗さが、すこしずつ、近づいてくる。


おしつぶすように。


やさしく。


こわく。


なにもかもを、飲み込もうとするように。


承知いたしました。続けます。



かたん、と。


なにかが、ひらく音。


しずかに。


ゆっくりと。


空気が、変わる。


さっきまでの冷たさに、ちがうものが混ざる。


やわらかい。


あたたかい。


いい匂い。


おひさまみたいな匂い。


どこか、なつかしい。


しらないはずなのに。


でも――すき。


おおきな気配が、近づいてくる。


でも、さっきみたいなこわさが、少しちがう。


おだやか。


しずか。


やさしい。


かちゃ、と。


なにかが、ひらく。


すぐ近く。


くらい中に、なにかが入ってくる。


こわい。


また、なにかが来る。


にげられない。


でも――


あれ?


さっきほど、こわくない。


ちがう。


なにか、ちがう。


そのとき。


ふわり、と。


あたたかいものが、触れた。


やわらかくて、ぬくもりがある。


からだに、しみこむ。


じんわりと、ひろがっていく。


さむくない。


さっきまでの冷たさが、ほどけていく。


あたたかい。


あたたかい。


からだの奥まで、満ちていく。


しん、としていたものが、少しだけ戻ってくる。


ちいさな命が、ゆるくほどける。


そのとき。


やさしく、なにかが、あたまに触れる。


そっと。


なでるように。


いたくない。


こわくない。


ただ、やさしい。


なんだろう。


わからない。


でも――


いやじゃない。


ねむい。


とても、ねむい。


でも、さっきとちがう。


こわくない。


このまま、ねてもいい気がする。


あたたかい。


やさしい。


しずか。


ちいさな意識が、ゆっくりと沈んでいく。


こんどは、こわくない。


ほんの少しだけ、


からだが、ゆるむ。


そして――


ちいさく、目を閉じた。


おやすみなさい。



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