やさしい気配ー
承知いたしました。では「寒さと苦しさ」から始めます。
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さむい。
つめたい。
ちいさな身体に、風が刺さる。
羽のあいだから、冷たい空気が入りこんでくる。
どこもかしこも、つめたくて、重い。
うまく息ができない。
浅く、かすれるような呼吸が、途切れそうになる。
からだが、いうことをきかない。
動こうとしても、力が入らない。
ただ、丸まることしかできなかった。
くらい。
まわりが、よくわからない。
音も、遠い。
なにかが近くにあった気がする。
けれど、それもぼやけていく。
さむい。
さむい。
いやだ。
このまま、消えてしまいそうになる。
ちいさな身体の奥で、かすかなものが揺れる。
まだ。
まだ。
それだけが、わずかに残っていた。
承知いたしました。続けます。
⸻
さむい。
くるしい。
からだが、重い。
どこにも力が入らない。
ただ、うずくまるしかできない。
そのとき――
がたん、と。
なにかが揺れた。
床が、ゆっくりと動く。
ちいさな身体が、その揺れに合わせて転がりそうになる。
こわい。
なにかが、来る。
おおきな気配。
近づいてくる。
空気が、変わる。
見えないけれど、すぐそばにいる。
息が、浅くなる。
からだが、勝手にこわばる。
にげたい。
でも、動けない。
影が、かかる。
暗くなる。
すぐ近くに、なにかがある。
じっと、見られている。
わからない。
なにかも、なにもかも。
ただ、こわい。
音がする。
低く、やわらかい音。
意味はわからない。
けれど、その音は、さっきまでの冷たさとは違っていた。
それでも――
こわい。
次の瞬間。
ぐらり、と世界が傾いた。
持ち上げられる。
空が動く。
さっきまであった場所が、遠ざかる。
揺れる。
大きく、ゆっくりと。
からだがついていかない。
視界が、ぐらぐらと揺れる。
こわい。
こわい。
知らない場所へ、連れていかれる。
逃げ場はない。
ただ、その揺れの中で、
ちいさな身体は、さらに強く丸まった。
それでも――
ほんのわずかに。
冷たいだけだった空気の中に、
少しだけ違う匂いが混ざっていた。
まだ、わからない。
それが何なのか。
ただ、こわいまま、運ばれていく。
承知いたしました。続けます。
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ゆれるのが、止まった。
そっと、置かれる。
かたくない。
でも、つめたい。
じんわりと、冷えが伝わってくる。
少しして、明るくなる。
光。
あたたかい光が、かすかに触れる。
でも――
さむい。
風はないのに、空気が冷たい。
羽の奥まで、冷えが入りこんでくる。
ちいさな身体が、ぎゅっと縮まる。
そのとき、上からなにかが落ちてきた。
ふわり、と覆われる。
くらくなる。
匂いが変わる。
やわらかい。
少しだけ、外の冷たさが遠くなる。
でも――
さむい。
まだ、足りない。
身体の奥が、ずっと冷たいまま。
しばらくして、また。
なにかが重なる。
もうひとつ、覆われる。
空気が、少しだけ変わる。
閉じ込められるように、熱が残る。
さっきより――
ほんの少しだけ、まし。
でも。
さむい。
さむい。
さむい。
からだの奥が、凍るみたいに痛い。
息が、うまくできない。
浅く、細くなる。
消えていくみたいに。
いやだ。
こわい。
このまま、なくなる。
なにもわからないまま。
なにもできないまま。
ただ、こわい。
ちいさな身体は、震えることすらできず、
ただ、固く丸まったまま、
その冷たさの中に沈んでいった。
承知いたしました。続けます。
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ばたばた、と。
おおきな音が、近くで動く。
空気が揺れる。
すぐそばにあった気配が、遠ざかっていく。
ひとつ。
もうひとつ。
ふたつの大きなものが、離れていく。
音が、小さくなる。
やがて――
しずかになる。
なにも、ない。
ただ、暗くて、つめたい場所。
さっきより、少しだけ、落ち着く。
こわいものが、いない。
それだけで、ほんの少しだけ、楽になる。
でも。
さむい。
さむい。
からだの奥が、ずっと冷たい。
重い。
なにも、したくない。
なにも、できない。
ただ、丸まる。
それだけ。
ねむい。
とても、ねむい。
まぶたが、落ちる。
そのまま、沈んでいきそうになる。
でも――
こわい。
このまま、ねたら。
もう、起きられない気がする。
わからないけど。
そんな気がする。
いやだ。
でも。
ねむい。
さむい。
こわい。
からだが、もう、うごかない。
あたたかさも、足りない。
息が、すこしずつ、弱くなる。
ちいさな意識が、ゆらぐ。
おきていたい。
でも。
ねむい。
そのまま、暗さが、すこしずつ、近づいてくる。
おしつぶすように。
やさしく。
こわく。
なにもかもを、飲み込もうとするように。
承知いたしました。続けます。
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かたん、と。
なにかが、ひらく音。
しずかに。
ゆっくりと。
空気が、変わる。
さっきまでの冷たさに、ちがうものが混ざる。
やわらかい。
あたたかい。
いい匂い。
おひさまみたいな匂い。
どこか、なつかしい。
しらないはずなのに。
でも――すき。
おおきな気配が、近づいてくる。
でも、さっきみたいなこわさが、少しちがう。
おだやか。
しずか。
やさしい。
かちゃ、と。
なにかが、ひらく。
すぐ近く。
くらい中に、なにかが入ってくる。
こわい。
また、なにかが来る。
にげられない。
でも――
あれ?
さっきほど、こわくない。
ちがう。
なにか、ちがう。
そのとき。
ふわり、と。
あたたかいものが、触れた。
やわらかくて、ぬくもりがある。
からだに、しみこむ。
じんわりと、ひろがっていく。
さむくない。
さっきまでの冷たさが、ほどけていく。
あたたかい。
あたたかい。
からだの奥まで、満ちていく。
しん、としていたものが、少しだけ戻ってくる。
ちいさな命が、ゆるくほどける。
そのとき。
やさしく、なにかが、あたまに触れる。
そっと。
なでるように。
いたくない。
こわくない。
ただ、やさしい。
なんだろう。
わからない。
でも――
いやじゃない。
ねむい。
とても、ねむい。
でも、さっきとちがう。
こわくない。
このまま、ねてもいい気がする。
あたたかい。
やさしい。
しずか。
ちいさな意識が、ゆっくりと沈んでいく。
こんどは、こわくない。
ほんの少しだけ、
からだが、ゆるむ。
そして――
ちいさく、目を閉じた。
おやすみなさい。




