シスターアリスの気遣いー
「なんだよこれーどうしたんだ?」
金髪の少女が、鳥かごの中を覗き込みながら言う。
黒髪の少女は少しだけ視線をそらしながら、答えた。
「旅の行商人さんが、安く譲ってくれて。それでー」
金髪の少女は、興味深そうに小鳥を見つめる。
「へーいいじゃん!かわいい!でも……」
その視線は、かごの中の小鳥へと注がれたまま。
小さく、弱々しいその姿。
黒髪の少女は頷いた。
「うん、弱ってるから、まずは暖めたらいいのかな?って」
その言葉を聞いた瞬間、金髪の少女は何かを決めたように動いた。
自分の上着をさっと脱ぎ、それを鳥かごの上に掛ける。黒髪の少女が掛けた上着の上から、重ねて掛ける。
同じく白いインナー姿になり、少し寒さに震えるのを我慢する。
布がかごを覆い、冷たい空気を遮る。
そしてそのまま、寒さに少し肩を震わせながらも、笑って言った。
「これで少しはマシだな」
その様子を見て、黒髪の少女は思わず小さく笑った。
やわらかく、少しだけ安心したような笑みだった。
承知いたしました。ご指定どおり続けます。
⸻
窓際。
二人の少女は並んで立ち、鳥かごを見つめていた。
布の下で、小さな気配がかすかに揺れている。
淡いオレンジ色の命。
そのかすかな存在を、二人はじっと見守っていた。
「なぁこれ、大丈夫かなぁ?」
金髪の少女が、不安そうに呟く。
黒髪の少女は、視線を落としたまま、小さく答えた。
「わかんない。心配…」
短い言葉だったが、その声には隠しきれない想いが滲んでいる。
少しの沈黙。
そして、金髪の少女が顔を上げた。
「シスターに聞いてみよっか!」
その一言に、黒髪の少女の表情がぱっと明るくなる。
迷いがほどけたように、顔を上げた。
「うん!」
二人の視線が、もう一度鳥かごへと向けられる。
小さな命は、まだそこにあった。
それを確かめるように、黒髪の少女は一歩だけ後ろに下がる。
そして、金髪の少女と目を合わせた。
次に向かう場所は、もう決まっていた。
承知いたしました。続けます。
⸻
鳥かごをそっと窓際に残し、二人は部屋を出た。
孤児院は狭く、部屋と呼べるものも限られている。
シスターのための個室などはなく、彼女がいる場所はいつも決まっていた。
食堂か、礼拝堂か、それとも外での作業。
二人は顔を見合わせ、うなずく。
まずは礼拝堂へ向かった。
静かな廊下を抜け、扉を押し開ける。
中はひんやりとした空気に包まれていた。
整然と並ぶ長椅子と、簡素な祭壇。
だが、そのどこにも人の気配はない。
二人は足を止め、辺りを見渡す。
「いないね……」
小さく呟く声が、静かな空間に溶けていく。
そのまま礼拝堂を後にし、次は食堂へ向かう。
扉を開けると、ほんのりとした匂いが残っていた。
まな板の上に置かれた野菜。
使われたばかりの鍋。
昼食の準備をしていた形跡が、そこかしこに残っている。
だが、やはり――
姿はない。
二人は顔を見合わせ、少しだけ首を傾げた。
最後に、外へと出る。
冷たい空気が頬を刺す。
庭には、洗濯物が風に揺れていた。
白い布が、ぱたぱたと音を立てる。
その間を縫うように視線を巡らせるが、
どこにも、シスターの姿は見えない。
二人はその場に立ち尽くした。
探す場所は、もう多くは残されていなかった。
承知いたしました。続けます。
⸻
二人は顔を見合わせ、小さく息をついた。
それ以上探しても見つからないと、どこかで分かっていた。
足音を揃えながら、来た道を戻る。
再び、あの部屋へ。
窓際のベッドへと近づいていく。
黒髪の少女は、少しだけ足を速めた。
布のかかった鳥かご。
その前で立ち止まり、そっと手を伸ばす。
そして、布をめくった。
「あ!」
思わず声が漏れる。
金髪の少女もすぐに横から覗き込んだ。
かごの中。
そこには、小さな布に包まれた何かが置かれていた。
黒髪の少女は、ためらいながらもそっと手を入れる。
指先が触れる。
――あたたかい。
確かな熱が、そこにあった。
「これ、魔法石だなー冬にカイロにしてるやつだよ」
金髪の少女が、すぐに言う。
かごの中は、二人の上着とその小さな魔法石のおかげで、ほんのりと温もりに満ちていた。
その中心で、小鳥は静かに身を丸めている。
さっきよりも、少しだけ落ち着いた様子で。
黒髪の少女は、そっと息を吐いた。
「シスターかな?」
金髪の少女は、すぐに頷く。
「シスターだな」
二人は顔を見合わせる。
そして、同時に小さく笑った。
窓から差し込む光の中で、かごの中の温もりは、確かにそこにあった。
承知いたしました。続けます。
⸻
かごの中、小鳥は丸まったまま動かない。
淡いオレンジ色の羽も、今はそのほとんどが見えないほどに小さく縮こまっている。
呼吸はある。
だが、それだけだった。
黒髪の少女は、じっとその様子を見つめる。
餌を与えるべきか、一瞬だけ迷う。
けれど――今は無理だと、直感的に分かった。
「……まだ、無理そうだね」
小さく呟く。
金髪の少女も、腕を組みながら覗き込み、同じように頷いた。
「だな。今はあっためて、体力戻るの待つしかねぇな」
二人は顔を見合わせ、そっと距離を取る。
見ていたい。
でも、それが負担になるかもしれない。
その気持ちを、どちらも分かっていた。
だからこそ、少しだけ離れる。
窓際のベッドに腰を下ろし、鳥かごを見守るように座る。
時折、ちらりと視線を向ける。
それだけに留める。
静かな時間が、ゆっくりと流れていく。
外では風が鳴り、窓ガラスをかすかに揺らす。
部屋の中は、淡い光と、わずかな温もりに包まれていた。
やがて――
少女たちのまぶたが、ゆっくりと重くなる。
寄り添うようにして、肩が触れる。
小さな寝息が、ひとつ。
またひとつ。
二人は、そのまま静かに眠りに落ちていった。
窓際。
鳥かごの中で、小さな命はまだ丸まったまま。
だが、その周りには確かな温もりがあった。
静かな部屋に、三つの命の気配だけが、そっと寄り添っていた。




