表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第8章ー甦る英雄ー
266/332

対峙する両雄ー

「斬るのがダメなら……」


ベルは刃を解いた。


金属音とともに、カタナが霧のように消える。


すぐに息を吸い込み――


「エンカ!ユキメ!やるぞ!」


指輪が、同時に軋む。


右手側。


内側から噴き上がるような熱。


焼けるような感覚が腕を駆け上がる。


次の瞬間、炎が噴き出した。


赤く、荒々しい火。


生き物のようにうねり、ベルの右半身を包み込む。


一方――左側。


対照的な静けさ。


凍りつくような冷気が、骨の奥まで染み込む。


白い霧が立ち上り、空気が軋む。


左半身が、静かに凍てついていく。


熱と冷。


相反する力が、同時に存在する。


「――っ!」


そのまま、踏み込む。


一直線。


タブラスカも、口元を歪める。


「面白い」


両腕の紋様が、強く輝く。


右腕に氷。


左腕に炎。


ベルとは逆の構成。


質量を持ったような力が、腕に宿る。


「英雄ってのは、真似っこが好きだなぁっ!」


ベルの右拳。


炎を纏った一撃が、一直線に叩き込まれる。


それを――


タブラスカの氷を纏った手のひらが、正面から受け止めた。


ぶつかる。


蒸発音。


白い蒸気が爆ぜる。


「英雄とは、常に進化するものだ」


低く、響く声。


ベルは歯を食いしばりながら笑う。


「ものは言いようだな!」


今度は逆。


タブラスカの炎の拳が振るわれる。


ベルは左手を差し込む。


冷気を纏った掌で、真正面から受け止める。


止める。


そのまま――掴む。


「出力勝負といこう」


「望むところだ!」


両者の手が、がっちりと組み合う。


炎と氷。


相反する力が、ぶつかり合う。


空気が歪む。


地面が軋む。


周囲の温度が一瞬で狂う。


ベルの右側では炎が荒れ狂い、


左側では霜が広がっていく。


タブラスカも同様に、逆の力を解き放つ。


拮抗。


完全な力のぶつかり合い。


ベルの全身が軋む。


それでも、押し込む。


「うおおおおおぉぉぉぉっ!」


タブラスカも、力を解放する。


「ぬうううぅぅぅぅっ!」


炎が唸り、氷が砕ける。


境界が崩れ始める。


次の瞬間――


均衡が、弾けた。


炎と氷が激突する。


次の瞬間――


凄まじい量の水蒸気が、一気に噴き上がった。


視界が、白に塗り潰される。


海風すら押し返すほどの熱と冷気がぶつかり合い、岸壁一帯が濃い霧に包まれる。


何も見えない。


だが――


その中で。


ぶつかる音。


地面を踏み砕く音。


鈍い衝撃。


そして、低く押し殺した声。


姿は見えないまま、戦いだけが続いている。


ミリィは思わず息を呑む。


ハーミットも、わずかに目を細めたまま、その白の奥を見据える。


どれほどの時間が経ったのか。


ほんの数秒か、それとももっと長くか。


やがて――


風が抜ける。


霧が、ゆっくりと流されていく。


白が薄れ、輪郭が戻る。


そして現れたのは――


二つの影。


ベルと、タブラスカ。


互いに距離を取り、立っている。


その姿は――


傷だらけだった。


ベルの腕には焼け焦げた跡と凍りついた亀裂。


呼吸は荒く、肩で息をしている。


タブラスカも同様に、全身の金属質の表面にひびが走り、ところどころが砕けている。


完全ではない。


無傷でもない。


だが――


どちらも、まだ倒れてはいない。


風が吹き荒れる岸壁。


ベルは荒い呼吸の中で、大きく息を吸い込む。


肺の奥まで、空気を叩き込むように。


「リューナ!吹き飛ばせっ!」


呼びかけと同時に、喉の奥に力が集まる。


圧縮。


膨張。


限界まで溜め込まれた“音”。


そして――


「竜の咆哮ドラゴンズ・ロア


解き放たれる。


轟音。


音という枠を超えた破壊の奔流が、一直線にタブラスカへ叩きつけられる。


岩肌が砕け、地面が抉れる。


空気そのものが押し潰される。


タブラスカは動かない。


両手足の紋様が強く輝き、力が集中する。


「絶対力《英雄には誰も敵わない》」


両の手のひらで、正面から受け止める。


衝突。


衝撃が空間を歪ませる。


タブラスカの足元が砕け、地面に沈み込む。


それでも――止まらない。


咆哮は止まらない。


ベルはただ、吐き続ける。


喉を焼き、肺を削りながら、限界まで出力を押し上げる。


一方でタブラスカは、


歯を食いしばり、全身に力を込めて踏みとどまる。


押される。


だが、崩れない。


両腕にさらに力を込める。


咆哮が、わずかに押し返される。


均衡が揺れる。


どちらが先に限界を迎えるか――


その勝負に、すべてが懸かっていた。


やがて――


ベルの咆哮が、途切れた。


空気に残っていた圧が霧散し、静寂が戻る。


その場で、ベルが大きく咳き込む。


「……っ、は……!」


喉を焼かれたように押さえながら、肩で荒く呼吸を繰り返す。


足を止めない。


息を整えながら、ゆっくりと横へ移動する。


視線は外さない。


タブラスカもまた、両手をだらりと下げた。


力を出し切った腕が、重く垂れる。


呼吸が荒い。


だが――立っている。


ベルが、息の合間に笑う。


「……やるなぁ……もしかして本当に英雄なんじゃねぇか?」


タブラスカは、わずかに顎を上げる。


「無論だ」


そのまま、静かに続ける。


「貴様もこの強さ……やはり英雄になるべきだ」


ベルは大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。


呼吸が整う。


肩の力が抜ける。


だが、その目は変わらない。


「ごめんだね!」


はっきりと、言い切る。


「女をいじめて喜ぶのが英雄なら、やっぱ俺はそんなもんになりたくねぇよ」


タブラスカの表情が、わずかに動く。


「英雄の子を宿すは、女としての最高の栄誉だ」


迷いのない声音。


ベルは眉をひそめる。


「女子供を殴ってもか?」


一瞬。


空気が変わる。


タブラスカの目が細まる。


「女子供を殴る?」


低い声。


「それは、英雄の前に男としてあるまじき行為」


静かに、だが確かに否定する。


「我を愚弄する気か?」


ベルの顔から、笑いが消える。


「何言ってんだ?」


一歩、踏み出す。


「お前がハーミットを殴って、怪我させたんだろ?」


その言葉に――


タブラスカの動きが止まる。


「……何を、言っている?」


声が揺れる。


「我は……そんなことは……」


次の瞬間。


タブラスカが、頭を押さえた。


「――ぐっ……!」


歪む。


表情が崩れる。


全身の紋様が、不規則に明滅する。


まるで、何かが衝突しているように。


「……違う……我は……」


言葉が途切れる。


膝が、わずかに揺れる。


岸壁に、異様な沈黙が落ちた。


タブラスカの動きが、ふっと止まる。


次の瞬間――


背筋がすっと伸びた。


乱れていた呼吸が整い、姿勢が正される。


その立ち姿は、先ほどまでの荒々しさとは別物だった。


静かで、柔らかい。


どこか優雅で――


「……あぁ」


小さく、息を吐く。


「僕が……もしかしたら、僕なのかもしれないね……」


その眼差しは、穏やかだった。


優しく、どこか寂しげな光。


ベルの目が、大きく見開かれる。


「おまえ……おまえは……」


微笑む。


「やぁ、ベルくん」


その声。


間違いない。


ベルの喉が、わずかに動く。


「……お願いだ」


静かに。


だが、はっきりと。


「僕をこのまま、殺してくれないかな?」


微笑みは崩れない。


まるで、それが当然であるかのように。


ベルは、一瞬だけ固まる。


目を見開いたまま――


そして。


ぐっと、目に力が入る。


次の瞬間。


「やだね!」


はっきりと、拒絶する。


プレレッサの表情が、わずかに崩れる。


驚き。


ベルは一歩踏み出す。


まっすぐに、見据える。


「俺はお前を結構気に入ってたんだぜ?」


迷いのない声。


「だから、俺はお前を諦めない!」


プレレッサの目が、揺れる。


その奥で、何かが揺らぐ。


ベルはさらに続ける。


「そして、ハーミットにも謝らせる!」


強く、言い切る。


そして――


指を突きつける。


「だから――」


一拍。


「おまえは必ず止める!」


風が吹き抜ける。


その中で、ベルは名乗る。


「この魔王殺しベル・ジットが!」


プレレッサは、そっと目を伏せる。


「今止めないと、後悔するかもしれないよ」


静かな声音。


だが、その奥には確かな焦りが滲んでいた。


ベルは迷わない。


「後悔するのは、やるべきことをしなかった奴だけだ!」


言い切る。


一歩も引かない。


プレレッサは、わずかに目を細める。


「本当に君は……なんて傲慢なんだ」


苦笑にも似た吐息。


ベルは肩をすくめる。


「俺はやりたいようにやる!」


まっすぐに見据える。


「だから、おまえを諦めない!」


その言葉に――


プレレッサの瞳が揺れる。


揺れて、揺れて――


崩れそうになる。


「本当に君は……」


声が、かすれる。


「君みたいな奴が、そばにいてくれたなら……」


言葉が途切れる。


息が乱れる。


「きっと……きっと……きっとぉっ!」


次の瞬間。


雰囲気が、歪む。


前のめりに崩れ、顔を押さえる。


指の隙間から、歪んだ息が漏れる。


「――ぐ……っ」


そして。


ゆっくりと、顔を上げる。


そこにあったのは、先ほどの穏やかさではない。


冷たい光。


歪んだ確信。


「きっと、もっと早く――」


低く、重く。


「英雄の頂まで辿り着いていたのかも知れないな」


完全に、切り替わる。


ベルはそれを見て――笑った。


「まぁた、英雄様のご登場かよ」


構えを取り直す。


風が吹き抜ける。


次は、もう迷いはない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ