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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第8章ー甦る英雄ー
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戦闘開始!

夕暮れの光が、海面を赤く染めていた。


街の喧騒は遠く、波の音だけが静かに響く岸壁。


風が吹き抜け、潮の匂いが鼻をかすめる。


ベルは足を止めた。


視線の先。


岸壁の少し先――タブラスカの背中が、波に向かって立っている。


「……いた」


小さく呟いたその瞬間、ベルは躊躇わずに地面を蹴る。


「待って」


呼び止める声は届かない距離。


だからこそ、止まらない。


砂利を踏みしめ、波打ち際を駆ける。


走りながら、空気が揺らぐ。


存在が、切り替わる。


影が伸び、体格が変わる。


そして――


岸壁の縁で、踏み込み。


足を止めたその場所に立っているのは、


銀髪の少年。


夜のベル。


海風が、銀の髪を揺らす。


波音が一瞬だけ遠のいたように感じる。


タブラスカが、ゆっくりと振り返る。


対峙。


距離はわずか。


だが、その一歩の重みは――戦いそのものだった。


海風が吹き抜ける岸壁。


波の音だけが、静かに響いている。


銀髪の少年――ベルと、タブラスカが対峙していた。


張り詰めた空気。


その場に、余計な言葉は存在しない。


そこへ――


「ま、待ってください!」


少し遅れて、息を切らしたミリィが駆けてくる。


砂利を踏む足音が、静寂をわずかに乱す。


そのすぐ後ろ。


ハーミットが、いつもの落ち着いた足取りで岸壁に姿を現した。


コートの裾を風に揺らしながら、状況を一瞥する。


「……間に合ったわね」


ミリィはベルとタブラスカを見て、目を丸くする。


「もう……始まるんですか……?」


ベルは振り返らない。


視線はただ、目の前の相手に固定されている。


タブラスカも同じだった。


三人が見守る中――


岸壁に立つ二人は、すでに互いしか見ていなかった。


風が強く吹き抜ける。


言葉が交わされる。


だが、その声は遠く、はっきりとは聞き取れない。


ハーミットは腕を組みながら、その様子をじっと観察していた。


少しして、ぽつりと呟く。


「……今のは『みつけたぞ!』って言ったわね」


隣にいたミリィが、ぱちりと瞬きをする。


「え?」


ハーミットは視線を外さないまま続ける。


「で、あっちは『こんなとこまてさがしにきたのか?』」


「えっ、聞こえてるんですか……?」


ミリィが思わず声を上げる。


ハーミットは平然としたまま、淡々と“アテレコ”を続ける。


「『おまえがおれのハーミットにひどいことをしたのか!?』……ふむ、いいわね」


「ちょ、ちょっと待ってください!」


ミリィが慌ててハーミットの腕を軽くつつく。


「それ、全部ハーミットさんの想像ですよね!?」


ハーミットは一瞬だけミリィを見て、すぐに視線を戻す。


「ええ」


「ええ、じゃないです!」


ミリィが声を落としながら必死に突っ込む。


「勝手にアテレコしてる場合じゃありません!」


ハーミットは小さく肩をすくめる。


「雰囲気は合ってるでしょう?」


「そういう問題じゃないです!」


ミリィは顔を赤くしながら、再び二人に視線を戻す。


その間も――


ハーミットの“アテレコ”は、止まらなかった。



岸壁に、風が強く吹き抜ける。


波の音が一瞬だけ遠のいたように感じるほど、二人の間の空気は張り詰めていた。


ベルが、低く言い放つ。


「見つけたぞ」


タブラスカは、どこか楽しげに目を細めた。


「こんなところまで……僕を探しに来てくれたのかい?」


その表情は柔らかく――しかし、内側に潜む何かを隠している。


ベルは一歩も引かない。


「お前がハーミットにひどいことしたってのは本当か?」


一瞬、風が止まる。


続けて、ベルは静かに言う。


「お前はそんなことする奴じゃなかっただろ」


その言葉に、タブラスカの雰囲気が変わる。


穏やかさが剥がれ落ちるように。


深い色を宿した瞳が、冷たく光る。


「我は我の思うがまま」


低く、響く声。


「食いたい時に食い、犯したい時に犯す。そして、戦う時には必ず勝つ!それが英雄というものだ」


その瞬間――


タブラスカの全身に刻まれた紋様が、光を帯び始める。


強烈な存在感が、周囲を圧迫する。


それを真正面から受けながらも、ベルは一歩も退かない。


全身から力が溢れ出す。


空気が震える。


「そうかよ……」


短く呟き――


「だったら」


刹那。


ベルの両肘から、鋭い鋼鉄の刃が伸びる。


金属の軋む音。


夜の静寂を切り裂く音。


「俺がハーミットに謝らせてやるぜ!」


タブラスカが両手を広げる。


迎え撃つ構え。


ベルも同時に、重心を落とし構えを取る。


互いに一歩も引かない。


海風が吹き抜ける。


次の瞬間――


二人は、同時に踏み出した。


岸壁の少し離れた場所。


ミリィとハーミットは、風に髪を揺らされながら二人の様子を見ていた。


ハーミットは腕を組み、じっと観察する。


そして、ぽつりと呟く。


「『お前はそんなんじゃなかっただろ』……か、たしかにね」


ミリィが横目でちらりと見る。


ハーミットはそのまま続ける。


「『我は思うがままに……戦う時は殺す』……ね」


「ほんとにそんなこと言ってます...?」


小声でツッコミを入れるミリィ。


しかしハーミットは気にせず、さらに続ける。


「『それなら……』」


一瞬、間。


そして――


「え……!?」


ハーミットの目が見開かれる。


「『俺がハーミットをもらうぜ!!』って……ちょっと、そんな真剣な顔で……」


みるみるうちに頬が赤く染まっていく。


「……しょうがないなぁ」


デレ、と表情が崩れる。


その様子を、ミリィが無言で見つめ続ける。


そして――


「……あの」


冷静な声。


「真剣にやってもらえませんか?」






岸壁に、風が吹き荒れる。


波が砕け、白い飛沫が夜の空気に散る。


ベルが一歩踏み出す。


次の瞬間、地面を蹴った。


一直線。


迷いのない踏み込み。


タブラスカも同時に動く。


正面から、衝突。


鋼鉄の刃と拳がぶつかる。


鈍い衝撃音。


空気が震える。


互いに、一歩も引かない。


押し合い――


ではない。


力が拮抗しているわけでもない。


ただ、


止められている。


ベルが舌打ちし、そのまま刃を滑らせる。


角度を変え、首元へ。


間髪入れず、もう一撃。


だが――


止まる。


拳で、正確に。


無駄のない最短の動き。


ベルの連撃が、すべて弾かれる。


「……はっ」


ベルは笑う。


そのまま一歩踏み込み、距離を潰す。


密着。


至近距離からの肘打ち。


さらに膝。


連続。


だがタブラスカは崩れない。


受ける。


いなす。


最小限の動きで、すべてを処理する。


そのまま、腕を振るう。


直線的な一撃。


速い。


重い。


ベルは体を捻って受け流す。


完全には殺しきれない。


衝撃が肩を抜ける。


後方へ滑る。


砂利を削りながら、数歩。


すぐに踏み止まる。


間合いが開く。


ほんの数メートル。


だが、その距離は一瞬で消える距離。


ベルは肩を回す。


「……さすがに無茶苦茶だな」


低く呟く。


見えている。


反応もできている。


だが――


決め手にならない。


タブラスカは静かに立っている。


呼吸も乱れていない。


ただ、こちらを見ている。


ベルは構えを取り直す。


「こっから上げてくぜ!」


次の瞬間。


再び地面が爆ぜた。


岸壁に、風が叩きつける。


ベルは一歩踏み出し――そのまま跳んだ。


「カレン!突っ走るぞ!剛力五倍!」


その瞬間。


ベルの指に嵌められた指輪の一つが、微かに軋む。


内側から、何かが押し出されるような感覚。


血が逆流するような熱。


骨の奥に、重い“力”が流れ込んでくる。


呼吸が一瞬、止まる。


次の瞬間――


弾けた。


全身の筋肉が、内側から膨れ上がる。


繊維一本一本にまで力が満ちる。


皮膚の下で、暴れるような圧。


空気が歪む。


踏み込みの圧だけで、足元の砂利が弾け飛ぶ。


「――っ!」


そのまま、加速。


跳躍の勢いを乗せて、一直線に叩き込む。


それを見たタブラスカの全身に刻まれた紋様が光る。


線が繋がり、巡り、覆い尽くす。


白い肌が変質する。


黒く、鈍い光を放つ金属質へと。


完全な防御態勢。


だが――


ベルは止まらない。


振りかぶる。


カレンの剛力。


カタナの刃。


その全てを一点に乗せて、


肩口へ、袈裟懸けに振り下ろす。


――激突。


甲高い金属音が、岸壁に響き渡る。


衝撃が腕を逆流する。


「なにぃ!?」


刃は、止められていた。


タブラスカの肩。


その一点で、完全に。


押し込もうとしても、びくともしない。


タブラスカが口元を歪める。


「これが――英雄の十の権能の一つ」


低く、響く声。


「絶対防御。《英雄は傷つかない》」


笑う。


ベルは舌打ち混じりに吐き捨てる。


「おいおい……誰の中がなんでもありだってんだよ」


その瞬間、タブラスカの拳が動く。


直線。


重い一撃。


ベルは反射的に左手を差し込む。


受けるのではなく、逸らす。


だが重い。


完全には殺しきれない。


衝撃が腕を抜ける。


そのまま後方へ跳ぶ。


距離を取る。


着地。


砂利が散る。


ベルは腕を振る。


骨は無事。


だが、痺れる。


「……っは」


小さく笑う。


体の内側では、まだ力が暴れている。


カレンの剛力。


五倍。


それでも――


「5倍でこの感じな」


視線を上げる。


タブラスカは、無傷のまま立っている。


黒光りする身体。


完全な防御。


ベルはゆっくりと構え直す。


指先に、まだ残る熱。


力は尽きていない。


「今日は戦いを楽しむ気はねぇんだ」


口元が吊り上がる。


「ぜってぇ謝らせる!」


次の瞬間――


再び地面が爆ぜた。


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