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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第8章ー甦る英雄ー
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拳を交えなきゃわからないー

タブラスカは、ふとベルを見て言った。


「君はやっぱり、黒髪の少女と似ているね」


ベルはすぐに否定する。


「あいつのことか?」


「ぜんぜん似てねぇよ」


「弱っちぃくせに、甘っちょろくて仕方ない」


タブラスカは静かに首を振る。


「彼女は強いよ」


「君や僕とは違う形の強さだけどね」


ハーミットが軽く口を挟む。


「昼間、負けてましたけどね」


タブラスカはハーミットを見る。


「それは今言わなくてもいいんじゃないかな?」


ハーミットは肩をすくめる。


「それはそれは、失礼いたしました」


視線を天井に向けて、小さく舌を出す。


ベルは二人を見比べて、ふと問いかける。


「あんたら仲悪いのか?」


タブラスカは何事もなかったかのように答える。


「そんなことないさ。ねぇ?」


ハーミットは小さくため息をつく。


「はいはい。そうですね」


ベルは即座に言う。


「やっぱ仲悪いじゃん」


ミリィがおずおずと口を開く。


「ベルさん、そこは深掘りしない方が……」


その場に、わずかな空気の緩みが生まれる。


タブラスカは静かに言う。


「彼女、言ってたよ。自分は弱い。弱いけど、理想を諦める気はない、と」


ベルはふっと笑う。


「あいつらしいな……」


タブラスカは目を細める。


「彼女の理想は素晴らしいと思う。そうなれば本当に、素晴らしいと思うよ」


ベルはすぐに言う。


「嫌な言い方するんだな?」


タブラスカは軽く肩をすくめる。


「だってそれは、あまりにも現実的じゃない」


ベルは短く頷く。


「そこは俺も同意するぜ。味方どころか敵も傷つけたくない、殺したくないなんてのは、甘過ぎる」


タブラスカは少しだけ視線を落とし、続ける。


「彼女にはきっといつか、選択を迫られる時が訪れる。その時、彼女が何を選ぶのか……選んだ果てにどうなるか。僕はそれが怖い」


ベルは軽く笑う。


「安心しろ


——あいつは選ばねぇよ。


何も諦めない。全部だ。全部持って行くつもりさ……あいつは食いしん坊だからな!」


ミリィが目を輝かせ、何度も頷く。


タブラスカはその様子を見て、静かに問いかける。


「そして君も……そうなんだろ?」


ベルは即答する。


「俺?俺はあいつとは違う」


少しだけ間を置いて、はっきりと言う。


「自分が守りたいものだけを守る」


「ただ、それだけさ」


タブラスカは静かに息を吐く。


「なるほど。やはり君とも相容れない様だ。残念ながらね」


ベルは軽く肩をすくめる。


「それでいいじゃねぇか」


残ったコーヒーを飲み干し、続ける。


「あいつはあいつの道を行くし、あんたはあんたの道を行く。そして俺も俺の道を行くだけだ」


タブラスカが小さく笑う。


「そうだね。そういうことなんだろうね」


ベルもわずかに口元を緩める。


「そうさ。自分の道は自分で作っていかなきゃ、面白くねぇもん」


タブラスカはゆっくりとカップに残ったコーヒーを飲み干し、静かにテーブルへ置く。


「さて、それじゃ行こうか」


ベルも立ち上がる。


「おう!そうだな!」


ハーミットとミリィが顔を上げる。


「え?何、ちょっと、どこ行く気?」


タブラスカは穏やかに答える。


「何って、ここじゃ迷惑をかけてしまうだろう?」


ベルは軽く頷く。


「街の外に平地があるんだろ?そこがいい」


タブラスカも頷く。


「あぁ、彼女に聞いたんだね。そうしよう。あそこなら誰にも迷惑をかけずにすむ」


二人は店の出口へ向かって歩き出す。


まるで長年の友人のように、自然な笑顔で言葉を交わしながら。


ハーミットとミリィも慌てて立ち上がる。


「ちょ、ちょっと!?一体、何の話をしてるの?」


ミリィが不安そうに声を上げる。


「ベ、ベルさん、まさか……」


二人は同時に立ち止まり、振り返る。


不思議そうな顔で。


タブラスカが口を開く。


「何って……」


ベルが言い切る。


「戦う流れだろ?」


ハーミットが愕然とした顔で叫ぶ。


「はあぁっ!?一体今のどこがどうなって戦う流れになったのよ!?」


ミリィは額に手を当て、小さく息を吐く。


「ハーミットさん……諦めましょう。そういう人たちなんです」



月明かりの下、昼間と同じ街の外にある平地で、ベルとタブラスカが対峙する。


風が抜けるだけの、何もない場所。


向かい合う二人の間に、余計なものはない。


少し離れた位置で、ハーミットとミリィが見ている。


2人とも、どこか呆れた顔をしていた。同時に緊張感のある表情で2人をも見守っている。


風が、二人の間を抜けた。


タブラスカが一歩前に出る。


「それじゃ、ルールを決めよう」


穏やかな声。

けれど場は自然と締まる。


「武器は自由。なんでもあり。どちらかが降参するまで」


一拍。


ベルを見る。


「いいね?」


ベルはすぐに頷いた。


「ああ、それでいい」


そのとき、少し離れた位置から声が入る。


「もう一つ」


ハーミットが腕を組んだまま、鋭く言った。


「わたしが『やめ』と言ったら、どんな場合でもそこで終了しなさい」


視線は二人を順に射抜く。


「いいわね?」


ベルは素直に頷く。


「はい」


タブラスカも軽く肩をすくめた。


「...もちろん。止められたらね」


ハーミットは小さく息を吐いた。


「……止めるわよ。意地でも」


タブラスカが再びベルへ向き直る。


「じゃあ――」


月明かりの下、静寂が広がる。


タブラスカがゆっくりと動いた。


後ろ腰に下げていた湾曲した短剣を、右手で引き抜く。


刃が月光を受けて、淡く光る。


右手の剣は自然と戦う形へと収まっていく。


そして左手を、静かに前へと差し出した。


迎え撃つ構え。


同時に、間合いを支配する構えでもある。


空気が張り詰める。


タブラスカの視線は、真っ直ぐベルに向けられていた。


「いつでも来ていいよ」


ベルがタブラスカを見据え、口元をわずかに緩める。


「あんた強そうだもんな。行かせてもらうぜ」


タブラスカは短く答える。


「望むところだ」


ベルは両手を顔の前で交差させ、構えを取る。


「カタナ……行くぞ」


囁くような声。


その声に応えるように、指輪が淡く反応する。


次の瞬間、ベルの両肘から鋼鉄の刃が伸びた。


無機質な輝きが、月明かりに鋭く浮かび上がる。


風が止まったような静寂の中、二人の間の空気が張り詰める。


先に動くのは、どちらか。


ベルの左右からの剣戟を、タブラスカは右手の剣で受け流す。


刃と刃が擦れ、火花が散る。


一撃ずつ、無駄なくいなしていく。


振り抜いた勢いのまま、ベルの回し蹴りが横から迫る。


タブラスカは左腕で受け、そのまま流した。


衝撃が腕を伝うが、体勢は崩れない。


すぐに次。


ベルの下からの剣戟。


タブラスカは再び剣で受ける。


金属音が重なり、二人の動きが止まる。


そのまま、鍔迫り合いの姿勢へと移行した。


互いの力が、真正面からぶつかり合う。


タブラスカは鍔迫り合いの中で、わずかに口元を緩めた。


「やるね」


ベルも同じように笑みを浮かべる。


「あんたもな」


力をぶつけ合いながら、二人は笑い合う。


ハーミットとミリィはその様子を見つめる。


「なんなの、あの2人……頭おかしいんじゃないの?」


ミリィは少し戸惑いながらも答える。


「笑って……ますね」


「楽しそう、です」


鍔迫り合いの体勢のまま、ベルがわずかに足を引く。


次の瞬間、強く地面を蹴った。


同時に、自分の影へと視線を落とす。


「ミカゲ!」


タブラスカの視線が、影に向かう。


ベルの影が揺らめき、そこから影の腕が伸び上がる。


タブラスカを捉えようとする一瞬――


タブラスカは鍔迫り合いのまま、軽く跳んだ。


そのまま両足でベルの胸を蹴りつける。


咄嗟にベルが左手で受けるが、衝撃を殺しきれない。


体が後方へと押し出される。


「くっ……!!」


蹴りの勢いをそのまま使い、タブラスカは後方へ跳ぶ。


空中で一回転し、静かに着地する。


タブラスカは微笑を浮かべたまま言う。


「それはもう見たよ」


胸を押さえながら、ベルも笑う。


「……やるじゃん」



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