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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第8章ー甦る英雄ー
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ベルVSタブラスカー

夜のレストラン。


落ち着いた空気の中、ベルとミリィが席に座っている。


コーヒーの湯気が静かに立ちのぼる。


そこへ、扉が開く。


チリン、と鈴の音。


ハーミットに伴われて、タブラスカが入ってきた。


一瞬だけ、店内の空気が張り詰める。


ミリィが小さく姿勢を正す。


ハーミットは軽く周囲に目を向けると、そのまま二人のテーブルへ歩み寄る。


そして、ベルを見て言った。


「あなたが、もう1人のベル・ジット?」


続けて、軽く微笑む。


「私はハーミット・バウアーよ。よろしく」


一呼吸置いて、隣に立つタブラスカへと視線を向ける。


ミリィも会釈で返す。


「そしてこちらがー」


紹介しようとして、言葉が続く。


ベルが腕を軽く組み、目を細める。


「で、あんたがタブラスカだかエスプレッソだかってやつ?」


タブラスカは苦笑する。


「プレレッサだよ。もうその名は捨てたけれど」


ベルは首をかしげる。


「名前を捨てるって……俺には意味がわかんねぇんだけど」


少し間を置いてから、続ける。


「名前って、誰かにもらった大事なもんだろ?」


タブラスカは静かに頷いた。


「その認識は間違ってないと思うよ。ただ、人には色々事情もある」


ベルは鼻で軽く息を吐く。


「ふぅん……やっぱ俺にはわかんねぇや」


タブラスカは目を細め、穏やかに言う。


「そうだね。必要なければ、捨てない方がいいと……僕もそう思うよ」


ハーミットが軽く目を向ける。


「座ってもいいかしら?」


ベルは何も言わず、手で「どうぞ」と促した。


ハーミットとタブラスカは、ベルとミリィの向かいの席に腰を下ろす。


空気が少しだけ変わる。


タブラスカが穏やかに口を開いた。


「改めて初めまして。僕がタブラスカだ」


「西大陸にあるククルカンナという国から、君に会いたくて来た。よろしく」


ベルはコーヒーを一口飲み、目だけで二人を見やる。


「……あんたも王子様ってやつだろ?」


少しだけ眉をひそめる。


「なんで俺の周りには王族とか貴族とか、そういうのばっか現れんのかな」


タブラスカは軽く肩をすくめる。


「それは仕方ないよ。何せ君は今、世界中の話題の中心だからね」


ハーミットも続ける。


「あなたのことを気にかけない国家や組織なんて、まず存在しないでしょ」


ベルは小さくため息をつく。


「俺はできれば放っておいて欲しいんだけどな」


タブラスカは苦笑する。


「それも仕方ないというものさ。魔王殺しなんて、英雄にもできなかった偉業を成し遂げてしまったのだから」


言葉が落ちる。


ベルとタブラスカ、互いに視線を合わせたまま、しばし沈黙する。


静かなコーヒーの香りだけが、二人の間を漂っていた。


タブラスカはベルを見つめたまま、静かに口を開いた。


「少しだけ、いいかな」


「君と話がしたくて来たんだ」


ベルはコーヒーを置き、目だけを向ける。


「……話?」


わずかに警戒はあるが、拒絶ではない。


タブラスカは頷く。


「うん。君が今、どんな考えで行動しているのか」


「そして——これからどこに向かうのか」


その言葉は、詰め寄るものではなく、ただの問い。


ハーミットは黙ったまま、二人の様子を見ている。


ミリィは少し不安そうに、ベルの横顔を見つめていた。


ベルは少しだけ視線を落とし、ややあって口を開く。


「話すのはいいけど、長くなるなら先に言っといてくれ」」


タブラスカは小さく微笑む。


「それは、君次第かな」


ベルが苦笑する。


ベルはコーヒーを軽く揺らしながら、タブラスカを見る。


「で、具体的には何が知りたいんだ?」


タブラスカは少しだけ間を置いてから答える。


「率直に聞こう。君はどうして魔王を倒すんだい?」


ベルは少し考え、カップに視線を落とす。


「特に理由ってわけじゃねぇけど……」


一度言葉を切る。


「困ってるやつがいるから、かな」


タブラスカは静かに頷く。


「困っている人がいるから……か。どこまでやるつもりなんだい?」


ベルは迷わず答える。


「そりゃ、この世から魔王がいなくなるまでだな」


タブラスカが目を細める。


「君にできるのかい?」


ベルは即答する。


「できるかどうかじゃねぇ。やるんだよ」


「1000体の魔王を、一人で……かい?」


ベルは淡々と続ける。


「3体倒した。残りは996体だ」


ミリィとハーミットが同時に小さく声を漏らす。


『残りは997体』


ベルは二人を一瞬だけ見て、言い直す。


「997体だ。……やってやれねぇことはない」


タブラスカは視線を外さず、問いを重ねる。


「何のために?」


ベルは少しだけ眉をひそめる。


「だから、困ってるやつがいるからだろ」


タブラスカは静かに首を振る。


「それは理由にはなる。でも、目的ではないよ」


そして、もう一度。


「もう一度聞く。君は何のために魔王を倒すんだい?」


ベルは一瞬、黙る。


そして、少しだけ視線を上げて言った。


「……魔王を全部倒して、いなくなれば


誰も、魔王のことも、


それを倒した俺のことも、気になんなくなるだろう?」


タブラスカは静かに言葉を続ける。


「そう簡単な話ではないだろうけど……」


ベルは即座に返す。


「なるかならないかじゃねぇ。そうするんだ」


タブラスカはわずかに目を細める。


「……なるほど。君がどういう人間か、少しわかってきたよ」


ベルは軽く肩をすくめる。


「それはどうも」


タブラスカは一度、息を整えてから問いかける。


「君は魔王をも倒すだけの力を持ちながら、民のためには使わないのかい?」


ベルは少しだけ考える。


「あんたと違って、俺には民なんてのはいないけど。でも結果的に、人のためにはなると思うけどな」


タブラスカはその答えに、真っ直ぐ向き合う。


「それは結果であって、目的ではないよ」


「力があるなら、民を導く存在になるべきだと、僕は思う」


空気が、少しだけ重くなる。


ベルはすぐには答えない。


カップに指をかけたまま、ほんのわずか視線を落とす。


タブラスカは静かに言う。


「つまりそれが、英雄というものだよ」


ベルは小さく息を吐く。


「英雄か……」


一瞬、考えるように目を細める。


「英雄タブラスカみたいにか?」


タブラスカは迷いなく頷く。


「そう。この僕のようにね」


その言葉に、ハーミットがわずかに爪を噛む。


空気が、ほんの少しだけ張り詰める。


タブラスカは続ける。


「魔王を倒した君は、英雄になるべきだ」


ベルは首を振る。


「俺は何かになりたいわけじゃない。俺は俺でいたいだけだ」


「そのために必要ならやるだけだ」


タブラスカは静かに受け取る。


「あくまで自分のため、というわけだね」


ベルは迷わず頷く。


「そうだな。そう思ってくれて構わない」


一度、間を置く。


そして、はっきりと言い切る。


「俺は俺が俺であるために、魔王を滅ぼす!」


タブラスカは目を細める。


「なんて傲慢な考え方なんだ」


ベルは即座に返す。


「悪いかよ」


「俺は俺のやりたいようにやる」


「それが結果的に困ってるやつのためになるなら、それでいいじゃねぇか」


タブラスカは一度、深く息を吐く。


そして、静かに言葉を重ねる。


「君は英雄になれー」


「偉業を成した君には、その資格がある。民を導き、平和を守る象徴になれ」


そうすれば、世界が君の味方になる」


空気が、静かに張り詰める。


ベルは小さくため息をついた。


「なんで誰も俺たちを放っておいてくれないんだ」


少しだけ視線を落とす。


「俺たちはただ、普通に生きたいだけなのに」


タブラスカは静かに言葉を返す。


「力を持つとは、そういうことだよ。大いなる力には、大いなる責任が伴う」


ベルはゆっくりと顔を上げる。


目の奥に、はっきりとした意思がある。


「……俺は、その“責任”ってやつのために生きてるわけじゃない」


「でも、やらなきゃいけないことはちゃんとやる」


タブラスカはその言葉を受け止め、しばらく黙る。


そして、静かに目を細めた。


タブラスカは静かに続ける。


「僕たちのいる西大陸には、“英雄願望”というものがある」


「民を導き、大陸を切り開いた始祖英雄を信仰し、憧れ、求める考え方だ」


少しだけ間を置く。


「僕はその民の気持ちに応えたいし、応えようとしている」


そして、ベルを真っ直ぐ見る。


「だから、力があるのにそうしない君のことは、やっぱり理解できないんだ」


ベルは即座に答える。


「俺も同じさ」


「人は誰だって、自分の道は自分で歩いていくもんだろ。誰かの後ろをついてくだけの人生なんて、なんも面白くねぇ」


タブラスカは静かに首を振る。


「それは君が強いからさ。弱い人間には、自分の道を決められない者も多い。だったら、その道を示し、導いてあげるべきだ」


ベルは少しだけ目を細める。


「弱くて自分で決められないなら、話を聞いてやりゃいい。いい方法が見つかるかもしれねぇ。もしくは、一緒に歩いてやりゃいいじゃねぇか。


後ろから押してやってもいいし、無理やり引っ張ってもいい」


一度、言葉を区切る。


そして、はっきりと。


「どんな方法であれ——」


「自分の道は、自分の足で歩いていくもんだ」


静かな対立が、より深く浮かび上がる。


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