街中にてー
日差しがやわらかく降り注ぐ通りを、ベルとミリィは並んで歩いていた。
店先には布や雑貨、果物などが並び、人々の声が明るく行き交っている。路銀にも余裕が出てきたおかげで、今日は久しぶりにゆっくりと買い物を楽しめる日だった。
ベルは、軽やかな足取りであちこちの店を見て回っている。黒髪は背中までまっすぐに流れ、歩くたびにさらりと揺れた。白い肌に黒い瞳は柔らかく、表情もどこか楽しげだ。
「これ、かわいいね」
店先に並んだ小物を指さして、素直に笑う。
ミリィはその横で、少しだけ目を細めて頷いた。
「はい、ベルさんに似合いそうです」
「そうかな?」
ベルはくすっと笑って、品物を手に取る。
特別な緊張もなく、ただ普通に買い物をしているだけの時間。
「ミリィは何か欲しいものある?」
ベルが振り返って尋ねると、ミリィは少し考えてから、控えめに首を横に振った。
「いえ……でも、見ているだけでも楽しいです」
その言葉に、ベルはうん、と頷く。
「じゃあ、いろいろ見て回ろうか」
二人は並んで歩き出す。
人通りの多い通りで、ベルは店先に気を取られて、ほんの少し視線を横に向けていた。
次の瞬間、前に人の気配があることに気づく。
「……っ」
足を止めるのが一瞬遅れた。
軽くぶつかりそうになり、慌てて体を引く。
「ご、ごめんなさい!」
反射的に振り返って謝る。
そこに立っていたのは、白いコートをまとった女性だった。
金色のストレートヘアが肩に流れ、眼鏡の奥に碧い瞳が静かにこちらを見ている。
整った顔立ちだが、どこか張りつめた雰囲気を感じさせる人だった。
ベルは一瞬、言葉を失う。
見知らぬ相手。
けれど、危うくぶつかりそうになったことに、すぐにもう一度頭を下げる。
「本当にすみません……前をちゃんと見ていなくて」
声は素直で、飾り気がない。
その横で、ミリィも慌てて小さく頭を下げた。
「申し訳ありません……」
通りのざわめきの中で、三人の間に一瞬だけ、気まずい静けさが流れる。
通りの喧騒の中で、三人の間に一瞬だけ、小さな静けさが落ちていた。
人通りの中で、ベルとミリィは足を止めたまま、相手の女性を見上げていた。
白いコートを纏い、整った立ち姿を崩さないその女性は、落ち着いた声で口を開く。
「こちらこそごめんなさい。人を探していて」
少しだけ柔らかくなった声色に、ベルはほっとしたように小さく息をついた。
「いえ、こちらこそすみません……」
そのまま、ベルは首をかしげる。
「誰か探してるんですか?」
問いかけると、女性はわずかに視線を遠くへやりながら答えた。
「ええ……この辺りで、白い髪をこう結んでいる男性、見なかったかしら?」
そう言って、女性は自分の首の後ろに手を回し、髪を束ねるような仕草をしてみせる。
その動きは的確で、探している人物の特徴をはっきりと伝えていた。
ベルはその仕草を見て、少し考えるように視線を上に向ける。
「うーん……」
ミリィも隣で小さく首を振った。
「すみません……私は見ていないです」
ベルも頷く。
「この辺りでは、まだ見てないと思います」
そう答えながらも、ベルは相手の表情を気にしていた。
探しているという言葉に込められた焦りを、どこか感じ取っていた。
ハーミットは小さく頷くと、落ち着いた声で言った。
「そう、ありがとう」
そう言って、視線を軽く会釈に変え、その場を離れようとする。
その背に、ベルが声をかけた。
「あの……よかったら、私たちも探すの手伝いましょうか?」
足を止めたハーミットは、一瞬だけ目を伏せる。
考えるような静かな間が落ちた。
やがて、ゆっくりと顔を上げる。
「いいえ、大丈夫よ。それじゃ」
そう言うと、短く礼をして、迷いのない足取りで人混みの中へと歩いていった。
白いコートの背中が、通りのざわめきに溶けていく。
その姿が見えなくなってから、ベルは小さく息をついた。
「白い髪……アダラさんみたいだね」
ぽつりと呟く。
隣にいたミリィが、静かに頷いた。
「はい……白い髪の人なんてそうはいませんもんね」
二人はしばらくその場に立ったまま、行き交う人々の流れの中で、先ほどの女性の背中を思い返していた。




