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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
暗い闇の奥からー
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影食いとの邂逅ー

沈黙が、続く。


風の音だけが、かすかに通り過ぎる。


少年は、じっと見続ける。


何も返ってこないはずのそれを。


ただ、そこにあるだけの闇を。


そのとき。


わずかに、変化が起きた。


闇が、ほんの少しだけ揺れる。


形のないはずのそれが、ゆっくりと寄るように動く。


中心が、わずかに濃くなる。


少年は目を細める。


闇の中で、


ふたつの目が開いた。


人と変わらないような、瞳。


それが、闇の中にぽつりと浮かんでいる。


体も、顔もない。


ただ目だけが、闇の中心にある。


少年の体が、わずかに強張る。


「やっぱ..生きてる、のか?」


そして。


その目は、静かに少年を見ためていた。


「おまえ……俺の言葉がわかんのか?」


少年が問いかける。


その瞬間。


闇が、ふいに揺れた。


わずかな変化。


だが、次の動きは速かった。


闇の中から、影のようなものが伸びる。


細く、歪んだ線。


数本。


まっすぐに、少年へ向かってくる。


腕のように。


掴むように。


「――っ!」


反射だった。


少年はその場から跳ぶように後ろへ下がる。


一瞬遅れて。


影が、地面に突き刺さった。


鈍い音。


乾いた土が弾ける。


さっきまで少年が立っていた場所。


そこを正確に狙っていた。


間違いなく、当てに来ている。


少年は着地しながら、息を整える。


視線は逸らさない。


心臓が、強く脈打つ。


さっきまでの“分からないもの”ではない。


これは――


明確に、自分へ向けられた動きだった。


「攻撃してきた!?」


少年は思わず声を上げる。


闇の中から、再び影が伸びる。


一本。

二本。


今度は先ほどよりも速い。


まっすぐに、少年へと迫る。


少年は横に跳び、身をひねる。


影が、空を裂くように通り過ぎる。


間を置かず、次。


地面すれすれを這うように、別の影が足元を狙う。


踏み込んで、かわす。


さらに上から。


少年は体を沈め、転がるように回避する。


乾いた土が跳ねる。


呼吸が荒くなる。


だが、動きは止めない。


数度。


同じやり取りが繰り返される。


迫る影。

避ける。


また来る。

かわす。


一定のリズム。


だが、違和感があった。


少年は大きく後ろへ跳び、距離を取る。


「なんなんだ……こいつは」


息を整えながら、目を細める。


攻撃はしてくる。


狙いも正確だ。


それなのに。


何も感じない。


怒りも。

殺意も。

敵意すら。


ただ、動いているだけのような。


そこに意思があるのかどうか、分からない。


あるいは――


最初から、そんなものはないのか。


少年がそう考えた、その瞬間。


足元の感覚が、変わる。


自分の影。


地面に落ちている、それが。


わずかに、揺れた。


「――っ!?」


次の瞬間。


その影から、触手が伸びた。


真下から。


反応が遅れる。


咄嗟に、上へ跳ぶ。


だが。


一瞬、遅い。


足首に、冷たい何かが絡みつく。


「な、しまったぁ!!」


引かれる。


体勢が崩れる。


空中で、逃げ場を失う。


そのまま。


次々と影が伸びる。


腕に。

胴に。

首元に。


絡みつく。


逃がさないように、締め付ける。


少年の体は、完全に拘束される。


もがく間もなく。


そのまま、引きずり込まれる。


闇の中へ。


光の届かない場所へ。


音もなく。


すべてを飲み込むように。


少年の姿は、完全に消えた。


闇に取り込まれた瞬間。


すべてが途切れた。


落ちたのか。

引きずられたのか。


それすら分からない。


気づけば、そこにいた。


何もない。


音もない。


ただ、闇だけがある空間。


上も、下もない。


前も後ろも、分からない。


自分がどこにいるのか。

そもそも、どこかに“いる”のか。


その感覚すら曖昧になる。


体があるのかどうかも、分からない。


手を動かそうとしても、動いた感覚がない。


足があるのかも、分からない。


触れているものが、何もない。


重さも、冷たさも、感じない。


ただ、意識だけが残っている。


自分という輪郭だけが、かろうじてある。


それすら、薄れていきそうになる。


何もない。


見えない。


聞こえない。


感じない。


ただの、闇。


その中で。


ふたつ。


目だけが、あった。


闇の中に浮かぶ、ただの目。


それが、少年を見ている。


他には何もない。


形もない。


存在を示すのは、それだけ。


目が、そこにある。


ただ、それだけが確かだった。



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