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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
世界が見たいー
220/327

それは意思だけしかなくー

石の台の上、透明な宝玉は静かに鎮座していた。光が当たるたび、内部の意思が微かに揺れる。動くことも、声を出すこともできない。


外の世界の様子は直接知ることができない。ただ、光の強さや風の揺れ、埃の舞い──微細な変化だけを感じ取り、淡々と在り続ける。


日々は変わらない。朝の光が差し、夜の月が反射する。その繰り返しの中で、宝玉の意思は静かに揺れ、存在していることを確かめるだけだった。


かつて、この場所には人々がいた。祭りが開かれ、宝玉の周りにはお供えが置かれ、時折顔を出す子どもたちの笑い声もあった。意思の中で、その記憶は淡く輝く。


だが、最近は誰も訪れない。かすかな光の揺れが、宝玉の意思に問いかける。ーみんなは元気だろうか……ー


応える声はない。ただ、かつての熱気と賑わいを思い出すことしかできない。意思は微かに揺れ、静かに在り続けた。





曇った空が一面を覆っていた。昼の光は弱く、灰色の雲の合間からかすかに差し込む程度。湿った風が微かに揺れ、雨粒がポツリ、ポツリと地面を打つ。


その音に、宝玉は石の台の上で微かに揺れる意思を反応させた。光もわずかに鈍くなり、空気の湿り気が宝玉の周囲に広がる。


やがて、通りかかる影。小さな体が雨に濡れ、軒先に立ち止まった。宝玉はその存在を静かに観察するが、少女は宝玉のことに気づかない。ただ雨宿りをするために立ち止まっただけだ。


雨は止む気配がなく、少女は少し困った顔をして、ついに諦めたように走り去る。


宝玉は何もできない。ただ、光と振動のわずかな変化を感じながら、静かに在り続けるだけだった。その日の訪問は、こうして終わった。





数日後の夜、月明かりが薄く差し込む中、宝玉は石の台の上で静かに在った。光を受けて微かに揺れる意思だけが、存在を確認している。


すると、微かな振動が伝わった。見知らぬ少年が、入口に立ち止まり、中を覗いている。宝玉はそれを静かに感じた。動くことも、声を出すこともできない。ただ、意思がわずかに揺れる。


しかし、少年は何もせず、しばらくの間その場に立つと、すぐにいなくなった。宝玉は再び静寂に戻り、光と振動のわずかな変化だけを感じながら、在り続けるだけだった。






また数日後の夜、宝玉は石の台の上で静かに在った。月明かりが薄く差し込み、光が宝玉の内部で微かに揺れる。


すると、あの少年が現れた。前回とは違い、遠慮もなく入り込み、静かにごろりと横になる。宝玉の意思はわずかに揺れ、動けないままその様子を観察する。


しばらくの間、少年はじっと横たわったまま。外の光や風の微細な変化も交えながら、宝玉は存在だけでその時間を感じ取る。


しかし、急に思い出したかのように、少年は何も告げずに立ち上がり、出て行った。宝玉は再び静寂に戻り、光と振動のわずかな変化だけを感じながら、ただ在り続ける。






昼の光が差し込む中、宝玉は石の台の上で静かに在った。光を受けて内部の意思が微かに揺れ、在ることを確かめるだけの日々。


すると、入口に小さな影が現れた。あの少女だ。前に雨の中、軒先で立ち止まった姿が、宝玉の微かな意思の中で揺れる。


少女は今日も無自覚に通り過ぎるだけで、宝玉の存在には気づかない。ただ、その動きや光の変化を静かに感じ取る。微かに揺れる意思の中で、宝玉は思う――元気そうでなによりだ、と。


光と風の微細な変化を感じながら、宝玉は静かに在り続ける。その日も、訪問は短い時間で終わった。






次の日も、昼の光が差し込む中、あの少女が現れた。宝玉は石の台の上で微かに揺れ、在ることを確かめる。


最近、この社には少女と少年がよく訪れる。光や振動の微細な変化が、宝玉の意思をわずかに揺らす。


宝玉は思う。久しぶりに、祭りでもあるのだろうか、と。しかし答えは返ってこない。ただ、微かに揺れる光と風の変化を感じながら、今日も静かに在り続ける。






数日空いて、昼の光が差し込む中、あの少女がやって来た。今回は、遠慮がちに中へと足を踏み入れる。「お邪魔します」と小さな声が響く。あの少年とはえらく違う、慎ましい振る舞いだ。


宝玉の意思が微かに揺れる。光のわずかな変化と、振動の伝わり方で、訪れた存在を確かに感じ取る。少女は宝玉に気づき、そっと近づいてくる。


目の前に座ると、両手を合わせ、静かに頭を垂れた。宝玉は久しく感じたことのない、その行為の温もりを、微かに思い出す。あぁ、何年ぶりだろう。こうして誰かに崇められたのは――


宝玉は動けず、声も出せず、ただ光と振動で、その静かな再会を受け止めていた。






次の日の夜、月明かりが薄く差し込む中、あの少年が現れた。昼の少女とは違い、遠慮なく中へ入り、宝玉の前にどっしりと座る。


少年は手を合わせ、小さな声で何かをぶつぶつと唱えている。宝玉の意思は微かに揺れ、言葉の意味は理解できる。ただ、声が小さく、細かな内容までは聞き取れない。


それでも、願い事であることはわかる。宝玉は動けず、光の揺れと意思の微かな反応で、少年の存在と願いを静かに受け止めるだけだった。その夜も、静かな見守りは続いた。






最近の宝玉の周りは、少しばかり騒がしかった。


昼には週に一度ほど、あの少女が訪ねてくる。特に何をするでもない。ただ、軒先で読書をしたり、静かに昼寝をしたり、弁当を広げたりする。光や風の微細な変化が、宝玉の意思をわずかに揺らす。


夜になると、さらに賑やかだ。2日に一度のペースで、あの少年がやって来る。最近は、宝玉の前にどっしりと座り、険しい顔でなにやら文句らしき事を言っている。言葉の意味は聞き取れる。ただ、愚痴や文句ばかりで、何の話がさっぱりわからない。


宝玉の意思は微かに揺れ、一体、少年は何を言っているのだろうか、と静かに観察するだけだった。






今日は昼の光が差し込む中、あの少女が訪れた。いつもと変わらず、軒先で立ち止まり、静かに過ごす。宝玉の意思は微かに揺れ、存在を確認するだけの日常。


しかし、夜になっても、毎晩来ていたあの少年の姿はなかった。光や微細な振動の変化を感じ取れず、宝玉の意思はわずかに揺れ、心配を抱くような感覚だけが残る。


その夜、宝玉は静かに在り続け、少年の訪れを待つことしかできなかった。





しばらく、誰も来ない日々が続いた。宝玉は石の台の上で静かに在り続ける。光や微細な振動にわずかに反応しながらも、何もできず、ただ待つだけの時間。


もう何十年もこうして在り続けてきたはずなのに、どうしたことか。数日、たった数日、あの少年が来ないだけで、なぜか胸の奥がざわつく。


この感覚はなんだろう――気持ち、なのだろうか。気持ちとは、一体、なんなのだろう。


宝玉の意思は微かに揺れ、答えを知ることはできないまま、静かに夜の訪れを待っていた。





やっと、あの少年が現れた。光の揺れと微かな振動で、その存在を感じ取る。


話によると、どうやら「風を引いていた」らしい。宝玉にはその意味がわからない。ただ、声の響きや、少年の動きから察するに、何か調子を崩していたらしいことはわかる。


それでも宝玉は、言葉の意味はわからなくても、少年が話す声を聞くのが楽しかった。何でもいい。どうでもいい話でもいい。宝玉は静かに在りながら、また話を聞かせてほしい、と微かに意思を揺らすのだった。




昨日、あの少年が話していたことが、宝玉の意思の中で静かに反響している。


「世界」――「旅」――「自由」――その言葉が、微かに光や振動の揺れとともに残っている。宝玉には正確な意味はわからない。ただ、その響きがどうにも気になり、離れない。


世界――その広がりや、まだ知らないものへの興味が、意思の中で小さく跳ねる。宝玉は静かに在りながらも、昨日の話を思い返し続けていた。

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