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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
街道の魔ー
219/322

その剣の名はー

「ねぇ、私と一緒にいてくれない?」


少女が、まっすぐに言う。


「そしたら私が、君のこと守ってあげる」


迷いのない声だった。


だが――


少年は、軽く勢いをつけて身体を起こす。


膝の上から離れ、そのまま立ち上がった。


そして、振り返ることもなく言う。


「いいよ。そんなの、間に合ってるから」


ぶっきらぼうに。


左手を軽く持ち上げ、はめられた指輪に目を落とす。


それだけで十分だとでも言うように。


「それはダメ!」


少女が声を上げる。


一歩、踏み出す。


「私が君と一緒にいたいんだから!」


強く、言い切る。


「もう決めたの!」


揺るがない声音。


少年は、わずかに眉を寄せた。


振り返りはしない。


それでも、呆れたように小さく息を吐く。


「おまえ……すっげぇ強引だよな」


その言葉に、少女は少しだけ笑った。


まるで、それを褒め言葉だとでも思っているように。


「だって私、君のことが好きだから、好きならずっと一緒にいなくちゃなんだよ」


「だって私、君のことが好きだから」


少女は、当然のことのように言った。


「好きなら、ずっと一緒にいなくちゃなんだよ」


なぜか得意げに、胸を張る。


その様子に、少年はわずかに目を細めた。


「んー……そういや、お前ってなんて名前?」


ふと思い出したように尋ねる。


少女はきょとんとしたあと――


ぱあっと顔を輝かせた。


「じゃー、君が私に名前つけてよ!」


勢いよく身を乗り出す。


「えー?またそのパターン?」


少年は呆れたように眉をひそめた。


「いいじゃんいいじゃん」


少女は気にした様子もなく笑う。


「別にいいけど……」


小さく息を吐く。


「まぁ、いっか。お前と話してるの面白いし」


ぽつりと零したその言葉に――


少女の頬が、ふわりと赤く染まる。


「それって、それって?」


ぐっと顔を近づける。


「私のこと好きってことだよね!?」


「いや、ちげぇよ!」


思わず強く否定する。


だが――


「……んー?」


少しだけ考え込み。


「でも違くもない、か?」


自分でもはっきりしないまま、呟く。


少女は一瞬きょとんとしたあと――


ぱっと笑った。


「なんだよもう」


嬉しそうに。


「相思相愛じゃんね!」


その言葉が、夜の静けさの中でやけに軽やかに響いた。


「名前は付けてやる。でも、その前に約束しろ」


少年が指を差して言う。


「もう自分を使うだのなんだの、物みたいな言い方はやめろ」


少女は頷く。胸を抑えたまま、光を受けた銀色の瞳がきらりと揺れる。


「それから、これから仲間になるなら、守るのは俺だ。俺がお前を守ってやる」


少年が親指で自分を指し、言い放つ。その言葉に、少女の顔はみるみる赤く染まった。


「いい…いい!なにそれ…今、すっごいズキュンってきた!」


少女は胸を押さえ、胸の奥の鼓動を感じながら叫ぶ。


「わかったよ!私が君を守る。君が私を守る!相思相愛ってことだね!」


少年は少し疲れた顔をしながらも、小さく息を吐く。


「もーいいや、それで…」


二人は互いに向き合う。少女の胸の高鳴りは止まらず、少年の視線はまっすぐに彼女を捉えていた。


「お前の名は――」


その瞬間、少女の身体が光に包まれる。


長い銀髪が背中で一つに束ねられ、光の帯のように揺れる。裸だった身体を覆うのは、眩い白銀の鎧。胸元から肩、手足まで輝く甲冑が装着され、腰には柔らかな白布がひらひらと舞う。光に反射する鎧の一つ一つが、少女の動きに呼応するかのように煌めき、まるで生きているかのように輝いた。


胸の奥で高鳴る感情を感じながら、少女は少年を見上げる。まばゆい光の中で、彼女は初めて、自分の名前と存在を受け入れる準備ができた瞬間だった。


その少女――カタナと名付けられ、自分の変化した身体をそっと眺める。


「すごい、なんかキレイになった、かも?」


少年はカタナを見て小さく頷く。


ひらひらと揺れるスカートの裾に手を伸ばして、軽く掴もうとした瞬間――


「え?何してんの!?」


カタナは咄嗟に両手でスカートの裾を押さえる。


「え?ちょっと見てやろうと思って」


「ええ?ちょっと見たらダメだよ?」


「…なんで?」


「…え?だって、なんか恥ずいじゃん」


少年は小さく笑みを浮かべて、軽く肩をすくめる。「お前、さっきまで裸だったし、なんなら胸揉ませてくれたじゃん」


「ああぁーっ!そうだったぁーーーっ!!」


その言葉で思い出したカタナは、顔を真っ赤に染め、胸を押さえて小さく叫ぶ。


「わ、忘れて!さっきまでのことは忘れて!」


「無理だろ。見ちゃったし、揉んじゃったし」


「えええーもういやぁ!忘れてよぉー!」


カタナの小さな声が夜の空気に跳ね、裾をぎゅっと握る手に力が入る。


少年は苦笑しながらも、そんなカタナをただ見守っていた。


まだ顔を赤くして騒ぐカタナを、少年は穏やかに見下ろす。


左手の指輪をカタナの目の前に差し出し、少年が言った。


「わかるか?この指輪にも俺の仲間がいる。カレンって言ってな――」


少年はカレンの経緯を、昼と夜の切替や姫神の事情も含め、丁寧に説明する。


カタナはじっと聞き入り、目を輝かせながらうなずく。


やがて両手を大きく挙げ、声を弾ませた。


「わかった!私もその姫神になる!なって指輪になる!ずっと一緒にいる!」


コロコロと笑いながら、興奮を抑えきれない様子だ。


少年は笑みを返し、カタナに軽くうなずいた。


「わかった。これから頼むぜ、カタナ!」


「うん!主!」


少年の右手が自然に差し出されると、カタナはまるで空気のように、指の上へふわりと舞い上がった。


光の粒がカタナの身体を包み、銀色の髪や瞳が淡く輝く。全身を包む白銀の鎧や布も、小さく縮まるようにして光に溶けていった。


次の瞬間、カタナは一瞬の光の閃きと共に、少年の薬指にぴたりと嵌まる。指輪の形となった彼女は、まるで自ら意志を持つかのように、微かに震えながら光を放つ。


少年が手を開き、薬指を見下ろすと、そこには小さな銀色の光輪――カタナの存在そのものが宿る指輪があった。


指輪からは、淡い息遣いのような振動が伝わり、少年の指先に触れるだけで、まるでカタナがそばにいるかのような温かさが伝わってくる。


カタナは、少年の指先に宿った瞬間から、完全に彼の側にいることを自覚していた。小さな指輪の形でありながら、その意思と存在感は確かで、今後の二人の絆を静かに示していた。


少年は指輪となったカタナをじっと見つめる。右手の薬指に宿る小さな存在から、微かに力の脈動が伝わるのを感じた。


「ああ……なるほど、そう言う能力か」


少年が呟き、両肘に意識を集中させる。すると、腕の内側から微かな金属音が響き、やがて両肘の先から鋼鉄の刃がゆっくりと、だが確実に伸びていった。


刃は鋼の冷たさを帯び、曲線も隙のない形をしている。少年の視線がそれを追いながら、指輪に宿るカタナの意思を感じ取る。彼女が存在を許し、力を貸すことで、身体から刃を自在に生み出せるのだ。


腕の筋肉が緊張し、刃の重さを感じつつも、力は自然と流れ、少年は微笑む。右手の薬指でカタナの意思を確かめるように軽く触れ、鋼鉄の刃を前後に動かす。その刃先は鋭く、研ぎ澄まされた感覚が腕全体に伝わり、少年の戦闘意識が一気に覚醒する。


カタナの力を宿した右手の薬指から、少年の両肘へ――鋼鉄の刃が伸びる感覚。まるで彼女自身が腕の先に宿っているかのような、確かな一体感。


少年は小さく息をつき、鋼鉄の刃を握る腕を左右に振る。


「これ、めっちゃかっこいいじゃん!」


指輪となったカタナの微かな光が、腕の刃先に重なる。二人の意思が一つになったことを、静かに示していた。





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