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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
街道の魔ー
217/327

剣として、人としてー

意識を失った少年を、少女の銀色の瞳が静かに見下ろしていた。


――パキッ。


小さな音が鳴る。


続けて、パキリ、パキリと乾いた音が増えていく。


そのたびに、少女の身体に走る。


ひびが。


硬質に見えていたその皮膚に、細かな亀裂が刻まれていく。


やがてそれは全身へと広がり、逃げ場なく覆い尽くした。


亀裂はさらに深く、太くなり――


ぱきり、と。


一部が剥がれ落ちる。


その下から覗いたのは、血色の良い、柔らかな肌。


ひびが走る。


剥がれ落ちる。


またひびが走る。


繰り返すたびに、硬質な外殻が砕け、零れ落ちていく。


少しずつ、確かに。


少女の本来の身体が、露わになっていった。


胸元を覆っていたものも、腰に巻かれていた布も、共に崩れ落ちる。


最後に――


顔へと、大きな亀裂が走った。


一瞬の静止。


次の瞬間。


それは一気に弾け飛ぶ。


砕けた破片が、月明かりの中へと散った。


そこに残ったのは――


もはや人と変わらない、血色の良い肌。


滑らかな輪郭。


濡れた唇。


そして。


銀色の瞳。


その瞳には、確かに光が宿っていた。


少女は、ゆっくりと瞳を閉じた。


小さく、頭を振る。


長い銀髪が大きく揺れ、まだわずかに残っていた細かな破片が弾かれる。


砕けた欠片が宙に舞い、月明かりを受けてきらりと光った。


やがて静けさが戻る。


少女は、改めて少年を見下ろした。


動かないその身体を、確かめるように。


そして――


片手を持ち上げる。


人差し指と中指を揃え、唇の左右へと当てた。


ぐい、と口元を引き上げる。


作られた笑み。


不自然で、どこかぎこちない。


それでも――


無邪気で、純粋な微笑みだった。


少女は、そのまま静かに少年を見下ろしていた。


そして、少女が口を開いた。


鈴の鳴るような、澄んだ声が夜に響く。


「見つけたー我が剣の主をー」


微笑みを絶やさぬまま、少女は少年の傍らへと歩み寄る。


静かに腰を下ろし、正座する。


そっと両手を伸ばし、少年の頭を優しく持ち上げた。


そのまま、自らの膝の上へと乗せる。


月明かりの下、少女はゆっくりと前屈みになり、顔を覗き込んだ。


「まだ子供……かな?」


小さく首を傾げる。


視線を下へと滑らせ、つま先までを確かめるように見ていく。


そして、再び顔へと戻す。


「でも、すっごい強い」


にっこりと、柔らかく笑った。


「それにー」


少女が、両手で少年の頬を挟むように包む。


先ほどの言葉と、その時の顔を思い出していた。


――女の顔は殴れない、特に――


少女の頬が、じわりと赤く染まる。


「お前みたいなかわいい顔は、かぁ」


ゆっくりと身体を起こし、自分の頬を両手で包む。


その顔は耳まで真っ赤だった。


「あんなこと言われたら、好きになっちゃうよ」


両手の指の隙間から、少年を見つめる。


じっと。


しばらく見つめたあと、小さく笑った。


「うん、いい。いいよね!」


少女が再び少年の頬に両手を添える。


「この子を私の初めてのご主人様にしよう」


そう言って、少女は迷いなく身を乗り出す。


眠ったままの少年の顔へと近づき――


その唇に、自分の唇を重ねた。


ほんの一瞬。


けれど、確かに触れるように。


離れたあとも、少女はそのまま少年を見下ろしていた。


満足そうに、嬉しそうに。


まるで、見つけたものを手放さないと決めたように。


「300年待ったご主人様、私を上手に使ってね」




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