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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
はじまりの唄ー
209/327

昼に会うー

翌朝は、しとしとと雨が降っていた。


黒髪の少女は質素なベッドの上で、眠ったまま体を丸めている。

雨音が次第に大きくなると、少女はゆっくりと目を開けた。


「んん…なんか…身体中が痛い…」


夜の間に何をしていたのか、朝起きるといつも疲れや傷が残っている。

だが、今朝はそれが段違いだった。

体のあちこちに鈍い痛みが走り、全身が鉛のように重い。


「まるで…森の中を一晩中走っていたみたい。あいたたたっ」


そして、なぜか後頭部が強く痛む。

まるで、かかと落としでも食らったかのようだ。


少女は頭をさすりながら、ため息をつく。


「これは…きっとその通りなんだろーなー」


雨音を聞きながら、少女は心の中で呟く。


「ほんとにあいつときたら…ダメージ受けたら私にも響くんだから、もっと気を遣って欲しい」


「おー起きたね。おはよう」


部屋のドアが開き、金髪にそばかすの小柄な少女が入ってきた。


「あ、おはよーねぇー。昨日の夜、蹴った?」


「蹴った蹴った、ごめんごめん」


黒髪の少女は眉をひそめながらベッドの上で体を起こす。


「あいつがまた何かしたんだと思うけど…今度は何したのー?」


金髪少女がベッドの横を指差す。

黒髪の少女が指の先を見やると、床の上に、見知らぬ少女が丸まって寝ていた。


「この子は…?」


「なんか知らないけど、あいつが夜中にこっそり連れ込んでて。裸でいたから、とりあえず適当な服着せてみた」


見ると、床で寝ている少女はシスター服を身につけていた。


「大丈夫これ?勝手に着せて怒られない?」


「大丈夫大丈夫。しばらく中央教会に行ってて帰ってこないから」


「ほんとーかなー…」


黒髪少女は床の少女をじっと見つめる。


「それにしてもこの子…もしかしてー」


床の少女が、二人に見られていることに気付いたのか、ゆっくりと目を開き、体を起こした。


「あなたーもしかして、カゲ?」


呼ばれたカゲが小さく頷く。


「あー!やっぱり!初めまして、よろしくね!私はー」


少女はにこやかに自己紹介を始める。


金髪の少女も顔をほころばせて言った。


「あー、そういやそんな名前で呼んでたな。知ってるのか?」


黒髪の少女は少し照れくさそうに頷く。


「うん、なんか少し前に森で出会った友達がいるって言ってた。毎日遊んでるんだって-」


「女の子とは、言ってなかったんだけどね」


三人の間に、柔らかな空気が流れた。


カゲがキョロキョロとあたりを見渡す。

どうやら少年を探しているようだった。


金髪少女と黒髪少女は顔を見合わせる。


「ごめんねー、あいつなら今はいないんだ。また夜になったら会えるから、それまで私と一緒に待ってよ?」


カゲはシュンと落ち込んだ表情で俯く。


「あちゃー、落ち込んじゃった。ほんとに仲良しなんだねー」


金髪少女は笑みを浮かべ、声を弾ませる。


「とりあえず起きたなら朝ごはん食べな。その子も連れといで」


黒髪少女はベッドから降り、座り込んで落ち込んだままのカゲの手をそっと取る。


「行こ、朝ごはんだよ」


二人はカゲの手を引き、一緒に部屋を出て行った。


孤児院のリビングで、黒髪の少女とカゲはテーブルに隣り合って座り、二人で朝食を食べていた。


少女はカゲの食べっぷりに、少し関心を抱きながら見つめる。


決して裕福ではない質素な食事。パンもチーズもなく、ふかしたじゃがいもと具のない塩スープだけ。それでもカゲは、ご馳走にありついたかのように夢中で口に運んでいた。


じゃがいもがみるみるうちに減っていく。


「おいしい?」


黒髪少女の問いかけに、カゲは夢中のまま頷く。

「…オイ、シ…」


はぐはぐと、まだ手を休めずに食べ続けるカゲの姿に、少女は微笑みを浮かべた。


「あいつから、あなたの話きいてたよ」


カゲがごくりと飲み込み、少女の顔をじっと見つめる。


「森で友達ができたんだーて、名前教えてもらえないから、カゲって呼んでるんだーて、他にもいろいろ」


カゲが少し照れたような表情を浮かべる。


「いつもあいつと遊んでくれてありがとう」


「でもあいつ、バカでしょ?たまに嫌になったりしない?」


その言葉に、カゲの反応が一気に強くなる。


「…オマエ…キライ!」


黒髪少女は驚きの声を上げた。


「え?えーーー!?」


「なんでなんで?」


カゲはさらに声を荒げる。


「ルサイ!オマエ、キライ!」


怒りにまかせて、じゃがいもに手を伸ばす。


少女は困ったように笑みを浮かべた。


「あー、なんか、嫌われちゃったみたい…」





やがて日が落ちて夜になり、坊主頭の少年が姿を現した。


目を開けると、目の前にはカゲが立っていた。とても驚いた顔で、少年の目を見つめている。


「びっくりしたろ?そうなんだ。俺ってこんななんだよ」


カゲはまだ反応しない。


少年は少し不安そうに、声を落とす。


「…やっぱお前も、怖いって思った?」


カゲは慌てて首を左右に振る。


「コワク…ナイ」


「ビックリ、ダケ」


その言葉を聞くと、少年は安心した顔で笑った。


「俺たち、二人とも化け物らしい。普通じゃないんだってさ。でも、それってー」


少年がニカリと笑う。


「最高じゃね?」


その言葉に、初めてカゲの口元がゆるむ。


「お!笑った!カゲの笑顔、初めて見た!」


キャッキャとはしゃぐ少年の声に、カゲの目が揺れる。


「…カワ、イイ?」


「おう!世界一かわいいぜ!」


カゲの目と口が大きく開き、しばらくそのまま動かなかった。


少年は不思議そうにその様子を覗き込む。顔と顔が近づく。


咄嗟にカゲは顔を背ける。その頬は耳まで赤く染まっていた。


「なんだー?照れたのか?お前、昨日からヘンだぞー?」


カゲは自分の胸を両手で押さえる。心臓の高鳴りが止まらない。


抑えきれない、この胸の熱は一体何なんだ――


「そーいやそれ、シスター服じゃね?借りたのか?」


少年がカゲの服を見て聞く。


「コレキロッテ、ハダカダメッテ」


少年はへー、と言いながらしゃがみ込み、服の裾を掴むとおもむろにめくりあげた。そして下から覗き込む。


「おー、マジで女になってんじゃん」


あまりに突然な少年の動きについていけず、しばらく呆けていたカゲの顔が、沸騰したかのように真っ赤になる。慌てて服の裾を押さえる。


「なんだよー、いいじゃん。減るもんじゃなし」


「ヘラナイ、デモ、ダメー!ナンカ、ダメ!」


「おまえ、昨日までずっと裸だったじゃん。なんで今更恥ずかしがるんだよー」


カゲは少し怒ったように顔を赤くして答える。


「ダメ!モウダメ!ハダカダメ!」


服の裾を必死に押さえながら言う。


「でも急にどうした?おっぱいなんて姉ちゃんよりあるぜ?」


カゲは首を振り、不思議そうに答える。


「ワカラナイ」


「ナンカ、カワッテタ」


「ふーん、ま、いっかぁ」


少年がニカリと笑う。


カゲはその笑顔を見つめた。昨日までとは違う目で。同じ金色の瞳で。あぁ、この笑顔が好きなんだと、カゲの胸がざわつく。


「あれだなー、カゲはお姫様みたいだな!」


カゲは首をかしげて、


「ヒメ?ナニ?」


問い返す。


「俺もよくわかんねーけど、女はお姫様ってのに憧れるんだってよ!憧れるってわかるか?」


カゲは首を振る。


「んー、ようするにーすげぇいい女!ってことかな?」


「イイ…女?」


カゲが小さく確認するように問い返す。


「みんな好きってことだな!」


カゲが少し考えて、静かに訊く。


「ヒメ、スキ?」


「おう!俺もいい女は好きだな!きっとおっぱいもでかい!」


カゲはそっと自分の胸元を見下ろす。


「ジャ、ナル。ヒメニ」


少年がニカリと笑った。


「おう!カゲならなれるさ!」


「姫になるなら、喋り方も変えないとなー」


「?」


「姫様ってさー、『妾はー、なになにじゃ』とかってしゃべるらしいぜ!他にもー」


カゲは不思議そうに、しかし真剣な顔でその話を聞いていた。



ややあって、教会の方が騒がしくなる。


「なんだ?誰か来てんのか?」


窓から教会の方を見ると、入り口に見覚えのある複数の人影が、


「…あいつら、昨日の!」


2人は部屋を出て、教会の入り口が見える建物の影に身を隠し、様子を窺った。


昨日の男達と金髪の少女が言い争っている。


「だから!ここにそんな化け物なんていないって言ってるだろ!」


男達が応じる。


「嘘はよくねぇなぁお嬢さん。昨日の夜、この教会に入るところを仲間が見てるんだ。とっとこ連れて来ないなら、力づくで押し通るぞ?」


男達は武器を抜き、構える。その様子を見て、少年の背中に隠れているカゲの身体が大きく震える。


少年がそっと両手をカゲの肩に置いた。


「安心しろ。俺がいるだろ?俺に任せておけ!」


カゲの震えがだんだんと落ち着き、その顔にわずかに安心の色が浮かんだ頃、金髪の少女が大声で叫ぶ。


「おい!聞こえてんだろ!今のうちに逃げろ!私じゃこれ以上は抑えきれない!」


声を聞くや否や、少年はカゲの手を取り、駆け出した。あえて教会の入り口から見える位置を通り、一気に走り抜ける。


「やっぱりここにいやがったな!ものども、追いかけるぞ!」


男達も駆け出す。少年とカゲは森へ向かって走る。手を繋いだまま。


その中の1人が手に持った手斧を振りかぶり、思い切り投げた。斧は回転しながら飛び、はるか前を走る少年の肩に当たった。


「ぐあっ!」


後ろから肩に衝撃を受け、少年の身体が大きく揺れる。斧は刺さることなく弾かれ落ちる。しかし肩は大きく裂け、血が飛び散った。


それでも少年は足を止めず、走り続ける。


カゲがその光景に目と口を大きく開き、叫んだ。


「ア…アアアアアアアアアアアアーッ!!」


少年の手を振り払い、立ち止まると両手で顔を覆い、狂ったように叫ぶ。


そのまま一気に森へと走り出した。これまで見せたことのない速さで。


少年は肩を押さえながらも後を追う。


「カゲ!待て!待て…」


(あいつ…こんなに速く走れたのか


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