村にてー
二人は森の中を逃げ回り、二時間ほどが過ぎた。
息は乱れ、足は重い。
「さすがに疲れたな!俺んちに行こうぜ!」
少年の提案で、二人は村へと向かい、教会の中に忍び込んだ。
カゲが小さく首を傾げて言う。
「ココ、ウチ?」
少年は笑いながら答えた。
「俺んちは教会の隣の孤児院だけど、みんな寝てるからさー、朝までここで隠れてようぜ!」
カゲは頷く。
だが、いつもより少しだけ様子がおかしい。
目に、胸に、知らない感情が混ざっているのを、少年はまだ気づいていなかった。
カゲは教会の暗がりで、そっと少年の横に身を寄せた。
身体はまだ小刻みに震えている。
だが、その震えは恐怖だけではなく、胸の奥が熱くなるような不思議な感覚からも来ていた。
「…コワ、クナイ…」
カタコトで呟く声は小さいが、少年の方をじっと見つめていた。
少年が笑う。
「そうだ、怖くても俺がそばにいる。安心しろ」
その言葉に、カゲの心臓はドクン、と大きく跳ねた。
胸がぎゅっと締め付けられ、体の奥から熱い血が全身に巡る感覚。
こんな気持ちは初めてだ。
守ってくれる存在の温もりに、全身が引き寄せられるように震えた。
カゲの目が、少年の横顔を見つめる。
その瞳には恐怖だけでなく、憧れと尊敬、そして――
守られたい、ずっとそばにいたいという強い想いが混ざり合っていた。
カゲは気づく。
自分は、ただ逃げたいだけじゃない。
この少年を、誰にも渡したくない。
誰にも壊されたくない。
胸の奥で、初めて「守りたい」という気持ちが芽生えたのだ。
そして、カゲの身体にも微かに変化の兆しが現れ始めた。
ただの恐怖や疲労ではない、熱と意志に満ちた感覚。
それは、自分が変わりたい、守りたい、という意思の芽生えだった。
「誰かいんのか!?」
教会の扉が勢いよく開き、声が響いた。
二人はビクリと身体を大きく動かす。
入り口には、短い金髪にそばかす顔の、とても小柄な少女が立っていた。
手には金槌を握り、構えるその姿はまるで小さな戦士のようだった。
カゲが小さく息を飲み、少年の背にぴたりと身を寄せる。
少年は少女をじっと見つめながらも、カゲを守るように少し前に出た。
「ね、姉ちゃん!俺だよ!俺!」
少年が声を張り上げる。
少女が眉をひそめ、ドカドカと大股で近づく。
「なんだ、てめぇか!まーた、こんな時間までほっつき歩きやがって!またシスターにどやされっぞ!」
だが、少女の目は隣のカゲに釘付けになり、細められた。
「おい…なんだその隣にいんのは?」
少年は内心で「やばい」と思い、カゲは身体を縮こめて震える。
「てめぇ…このやろう!」
少女は手にした金槌を振り上げる。
「うわあっ待て待て!違う!コイツは友達なんだ!」
少年は両手を大きく振り、二人の間に立ち塞がった。
「なーにが友達だ!そいつはどー見てもー」
カゲはビクリと震える。
「神聖な教会で女の子と裸でいるとか!どんな友達だよ!」
「え?…女?」
少年は背中に隠したカゲを振り返った。
そこにいたのは、これまで見慣れたカゲとは少し違っていた。
雰囲気や面影は確かにカゲだ。
だが、よく見ると背はわずかに伸び、顔つきもはっきりとしている。
そして何より、身体には柔らかい丸みがあり、まだ幼いとはいえ、女性らしい線が見て取れた。
「え…お前、カゲだよな?」
カゲは小さくコクリと頷いた。
緊張と不安で眉を寄せ、目を大きく見開く。
これまでの無表情な姿ではなく、心細さと動揺がはっきりと表れていた。
その瞳はやはり、深い金色で、少年をじっと見つめている。
「え…?なんで?おっぱいあんの?」
少年が指を差して尋ねたその瞬間――
金髪の少女が勢いよく踏み出し、かかと落としを繰り出した。
少年の頭上に激しい衝撃が響き、思わず目を見開く。
少年はそのまま気絶した。




