おかえり姫神達ー
朝の光がカーテン越しに差し込み、病室をやわらかく照らす。
ベルはゆっくりまぶたを開き、包帯に覆われた自分の身体を確認する。肩や腕、胸に軽い痛みはあるものの、動けないほどではない。
恐る恐る手を伸ばし、指先を見下ろす。そこには、見覚えのある10本の指輪がしっかりと輝いて並んでいた。
ベルの胸に温かい感情が広がり、思わず小さく笑みがこぼれる。
「…よかった…全部、ある…」
目の端から涙が伝い、頬を伝って零れる。痛みも疲れも、胸のもやもやも、一瞬だけ薄れたような気がした。
ベルは指輪を握りしめ、胸に抱き寄せる。その手の温もりと輝きに心を支えられ、涙は自然と笑顔に混ざった。
ミーファは得意の回復魔法でみんなの応急処置を済ませると、朝を待たずに「ジット村に帰ります」と言って、さっさと出て行ったらしい。
他の皆は、マリーナとマークスは大陸警察の、アンジュたちは教会の、それぞれの治療院で入院中だという。ラインとビビ、そしてパティは、この病院の別の階で療養しているらしい。
落ち着いたら、それぞれの街や国に戻るのだろう。私も、明日には歩けるようになりそうだ。そうしたら、皆にお礼を言いに行こう。
そして、完全に身体が良くなったら、また旅に出よう。
ミリィと一緒に、あいつも一緒に。
姫神たちも、一緒に。
次は、北を目指そうかな。
やがてその存在は、一つの国では収まらぬ影響を及ぼすようになる。
ハリス帝国に対し、ルグレシア王国を筆頭とした連合国家は正式に動いた。
幾度もの協議と緊張の果てに締結されたのは――『魔王殺し不可侵』条約。
それは一人の少年の名を、国家間の取り決めとして刻むという、前代未聞の内容であった。
ハリス帝国はこれを受け入れ、東大陸の勢力がその存在へ干渉することは、少なくとも当面の間、封じられることとなる。
すなわち――
魔王殺しに近づくことは、許されない。
東大陸がその影に触れることは、しばらくの間、訪れない。
その静寂の裏で、ただ一人。
少年は変わらず、姫神と共に歩み続けていた。




