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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第7章ー姫神奪還作戦ー
203/322

決着の時は今ー

ベルの身体が時折小刻みに震え、力が抜けていく感覚に襲われる。

血の流れが止まらず、痛みが全身を貫く。そろそろ限界が近い――そんな予感が胸を締め付けた。


「こいつは……殺さなきゃ、止まらないのか……」


低く、震える声で呟くベル。目の前のブリジットは、依然として狂気の笑みを浮かべ、止まる気配を微塵も見せない。


金色の瞳が鋭く光り、血にまみれた拳が握りしめられる。前に進む力を振り絞り、ベルは痛みに耐えながらも、一歩ずつ、決して後ろには引かない。


港の夜風が鋼鉄の臭いを含んで唸る。


ベルの右目が金色に輝き、右肩から下半身にかけて異形の鬼の力が脈打つ。血まみれの体は傷だらけだが、その表情に迷いはない。


「お前は……もう終わりだ!」


ベルは低く唸るように言い、足を踏み出す。その瞬間、ブリジットの全身から蜘蛛の足のように伸びた歪な鋼鉄の刃が、一斉にベルへ向かって蠢き、甲板を切り裂く。


「ははっ..,ははははははっ...まだだ....まだ終わらない」


ブリジットは狂気に満ちた笑みを浮かべ、右目の魔装義肢を光らせる。次々と光線が放たれ、さらに影の触手がベルを絡め取ろうと伸びる。アカリの光術による遠距離の光弾も加わる。


だがベルは怯まない。斜めに身体をよじり、鋼鉄の刃を蹴散らし、触手を肉体で押し返す。光線が肩や胸を貫き、火花と焼ける匂いが漂う。


「くっ……マジでしつけぇ...」


ベルの声に怒りが混ざり、右足が甲板を蹴るたび、周囲の木材が粉砕される。半鬼化した下半身の膨張した筋肉が、全力の踏み込みを支える。


ブリジットは咆哮し、全身の刃をより鋭く、より素早く蠢かせる。影の触手はベルを絡めようとし、光線は全方位に飛ぶ。


「まだまだ……もっと、愛し合おう.壊し合おう……!」


狂気に溺れた声を上げるブリジット。だがベルは微動だにせず、血まみれの拳を握り直す。左目は見えなくとも、右目は金色の光で冷徹に輝く。


「…おらああっ!」


ベルは叫びと共に、半鬼化した力で前へ前へと進む。生身の体を痛めつけられても、刃や触手を受け止めながらも、前進をやめない。


ブリジットの鋼鉄の刃がベルの肩を打つ。跳ね返る火花、轟音。


「く……!」


ベルは呻くが、その勢いを緩めず、右手でブリジットの右肩を掴む。


「あぁぁぁぁぁっ...その顔...素敵だぁ...またイキそうだぁ……」


ブリジットの声は狂気と興奮で震える。痙攣が激しくなる。


ベルは力を込め、半鬼化の下半身で踏ん張る。


ブリジットの笑みは歪で、涙と涎が混じり、小刻みに震えている。


「いい……いいぃぃっ!もっと……はぁぁぁぁだぁっ」


全身の刃、影の触手、アカリの光術……それでもベルは止まらない。前進する力だけで、狂気の女将軍を押し返す。


ベルの右腕が、半鬼化した筋肉ごと漆黒の力を帯びて振り上げられる。金色に光る右目が、彼の決意を映し出す。傷だらけの体は血で赤く染まり、だがその姿勢は揺るがない。


「……さよならだ」


振り下ろされる腕には、怒りと意志が込められていた。鋼鉄の蜘蛛のように這い回るブリジットの背中の無数の刃も、触手も、影も、すべてその力に押し潰される。甲板が悲鳴のように裂け、砕けた木片が飛び散る。


「うっ……あぁ……ああ……!」


ブリジットの身体は、まるで逆方向に引き伸ばされるかのように弧を描き、地面に叩きつけられた。目と口を見開き、狂気と快楽が入り混じった表情が暗い夜に浮かぶ。


「あぁ..ぁぁぁあぁぁぁ..,い...……」


その言葉を最期に、ブリジットはぐるりと白目を剥き、意識が飛び...そのまま、果てた。


その声は、港の波と風に溶けるように消え、静寂だけが残った。


ベルは血まみれの拳を握りしめたまま立ち尽くす。半鬼化の体はまだ震え、港の夜に冷たく金属的な余韻を残す。倒れた女将軍――ブリジットに視線を据え、彼の胸には取り返すべきものすべてへの想いが燃えていた。


ベルは両膝を甲板につき、左手を開いた。

その手のひらには、まだ金属の指が三本残っており、それぞれに指輪がはめられたままだった。

右腕の半鬼化した巨腕で、ベルは慎重に指先を握り、指輪を外していく。


「……待たせたな」


そしてベルはひとつずつ、自分の指に通していく。

カレン、アカリ、カタナ、そしてミカゲ――四つの姫神の指輪が、今、ベルの手に戻った。


ベルは指輪を自分の指に通し終えると、ほんのわずかに力が抜けた。


半鬼化した身体の異常な重量と筋肉の緊張が、一気に弛緩する。あるいは、安心した心が作ったほんの少しの油断か――ベルは指輪を通した手を掲げたまま、ゆっくりと後ろに倒れ込む。


甲板を揺るがすほどの巨体の落下音が、港の夜に響き渡った。波風と混ざる衝撃が金属の軋みを伴い、遠くにまで振動として伝わる。


倒れたベルの胸からは深い息が漏れ、半鬼化した異形の身体がわずかに震えている。だがその表情には、これまでの戦いの疲労とともに、姫神たちを取り戻した確かな安堵があった。


やがてー


ベルの耳に、低く這うような音が届く。目だけで視線を向けると、意識を失って倒れていたビビが、傷だらけの身体を引きずるようにして近づいてくる。


「ビビ……」


ビビは血で濡れた髪を震わせ、ふわりと微笑む。


「ベルくん……やった、ね〜」


ベルは片目を細め、息を整えながら答える。


「ビビ……ありがとう。この恩は必ず、返す」


ビビは首を左右に振り、柔らかく笑った。


「逆だよ〜。わたしが〜受けた恩を〜返したんだから〜「


「女の意地を、とらないで〜」


ベルは苦笑を漏らす。


「ははっ……ほんとお前も……いい女だよ」


ビビはベルに近づくと、そのまま倒れ込むように胸に抱きつく。ベルは片方の目で彼女を見下ろしながら、そっと腕で支えた。


「……大丈夫かよ?」


「平気〜平気だから〜。ご褒美もらうね〜」


血だらけの手でベルの頬を包み、唇を重ねるビビ。ベルは咄嗟に避けようとするが、その唇は離れず、しっかりと捕まえられた。


そのまま、二人の間に静かな時間が流れる。


ビビが唇をそっと離し、くすくすと笑った。


「ふぅ〜、いいもんもらった〜」


ニカリと笑うその表情に、ベルは思わず口ごもる。


「お……おまえぇ……」


ビビは軽く肩をすくめて、にこやかに続ける。


「いいじゃん〜。がんばったんだから〜。ベルくんも、ほんとはうれしいくせに〜」


ベルはケッと小さく呟き、目を逸らす。


そしてー、ベルの体から黒い煙のようなもやがゆっくりと立ち上り、半鬼化した筋肉が次第に力を失っていく。


身体の異常な膨張も少しずつ収まり、熱と張りのあった筋肉がゆるやかにしぼみ、人間のサイズへと戻っていく。


ビビがベルの、徐々に元の大きさに戻っていく右腕を、ペチペチと叩きながら、いたずらっぽく笑った。


「ありゃりゃ〜、せっかくカチカチでパンパンだったのに〜、もったいな〜い」


腕を叩く指先の感触を楽しむように、さらに笑う。


「この身体で〜してみたかったな〜」


ベルは思わず苦笑いを漏らす。


「何をだよ」


やがてベルの身体は、異形の半鬼の力を失い、人間のサイズへと戻った。


左目は重く閉じられ、左肩には大きくえぐれた穴が開き、全身は火傷と傷だらけ。血が滲む傷口もいくつも残っている。


咳き込み、喉の奥から血を吐くベルを、ビビはそっと見守った。


「ベルくん……」


その声に、かすかに微笑むようにベルは答える。


「大丈夫だ……なんとか……」


荒い息の合間に、彼の瞳にはまだ戦いの熱が微かに残っていた。


咳き込むベルの背中を、ビビがそっとさすりながら、にこやかに囁く。


「大丈夫〜?またちゅーしてあげる〜?」


「……やめろ、マジで苦しいんだ」


そんな二人のやり取りを、どこからか冷ややかに見つめる影があった。


「心配してきてみりゃー、なーにいちゃついてやがんだコラ」


聞き覚えのある声に顔を上げると、そこには十字架を肩に担ぎ、下着姿にシスター帽という、明らかにイカれた格好をしたミーファが立っていた。


ベルは思わず顔をしかめる。


「ね、姉ちゃん……なんだそのカッコ」


ミーファは肩をすくめ、舌を出すように答えた。


「あんだよ?姉ちゃんで盛るなよ?」


ベルは目を細め、思わず呟く。


「いや、そんな絶壁に興味ね……べっ」


ミーファが鋭くベルの顎を蹴り上げる。ベルの顔が跳ね、血がにじむ。慌てたビビが手を叩きながら叫んだ。


「え〜、めっちゃ血でたよ〜」


ミーファは笑いながら追撃する。


「昔、嬉しそうに姉ちゃんの胸揉んでたクソガキは誰だよ!?」


「む、昔の話だろ!」


ベルが反論すると、ビビが肩をすくめつつも冗談めかして言う。


「あー、おっぱい好きだもんねー」


ビビが両手でその豊かな胸を支えるように突き出し、


「さわっていいよ〜?」


「え?マジで?」


その直後、ミーファがためらうことなく踵落としをベルの頭に落とす。


「ぐはぁっ……」


ベルはそのまま意識を失い、甲板に倒れ込んだ。


そのまま、ベルの意識は飛んだ。

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