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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第7章ー姫神奪還作戦ー
161/223

3つめの魔王核ー

夜の廃墟と化した城の中庭。崩れかけた石壁と瓦礫が月光に照らされ、冷たい風が吹き抜ける。


ベルの呼吸は荒く、腕や足に汗が滲む。肘から生えた鋼鉄の刃は何度も触手を切り裂き、刃に瓦礫や黒い霧の破片がこびりついている。


黒いスライム状の魔王核は、まだ形を変えながら中庭を暴れまわる。触れるものすべてが液状化し、崩れた石柱や瓦礫を押しのける。


「カレン!力を貸せ!」


鬼の剛力が腕に流れ込み、ベルの刃がさらに重く、振るたびに瓦礫を蹴散らす。


魔王核の霧が伸び、反撃の触手が空を裂く。ベルは体を翻してかわし、影を呼ぶ。


「ミカゲ!捕まえろ!」


影が伸び、触手を絡め取り、逃げ場を徐々に封鎖する。瓦礫の山も巻き込み、黒い霧の中で魔王核は自由を奪われつつある。


「アカリ!撃て!」


光弾が魔王核の中心をかすめ、液状の塊が弾ける。跳ねた霧が崩れた石壁に当たり、粉塵が舞い上がる。


ベルの脚が泥と瓦礫で滑る。長時間の戦闘で足腰が重く、刃を振るうたびに力を込めないと切れ味が鈍る。


黒いゼリーはまだ生きており、動きは鈍ったものの霧の形を変え、再び触手を伸ばす。


ベルは肘の刃を握り直し、一歩前に踏み込む。


「カタナ!止めろ!」


刃は魔王核の中心に突き刺さる。霧は弾け、地面に黒い滴が散るが、完全には崩れない。


中庭に沈黙が一瞬広がる。魔王核はまだ微かに形を揺らし、自由を失ったわけではない。


ベルは肩で息を切らし、瓦礫に足を踏みしめて呟いた。


「まーだ倒れねぇのかよ。相変わらずタフだな...」


スライム状の相手には打撃や斬撃はやはり効果が期待できない。


「エンカ!灼きつくせ!」


腕を振り上げ、炎が中庭に走り出す。


だが、魔王核の塊が、黒い霧となってゆっくり揺らめき始めた。

瓦礫の隙間をすり抜け、触れるものをねっとりと覆う。

黒い霧の表面が少しずつうねり、触手のような突起が揺れた。


瓦礫の一部が小さく砕け、霧の動きに押される。

空気がねっとり重く、振動が地面を伝い、中庭全体に圧力をかける。


黒い霧の塊が揺らめき、中庭の瓦礫が震えた。

ゆっくりと姿を現した上半身は人型だが、全身を鱗が覆い、左右非対称の角が不規則に伸びている。

目はなく、ただ黒く光を吸い込む顔面だけが、存在するだけで空気をねっとり重く震わせた。

触手のように伸びる霧の一部が肩や背中から漂い、周囲の瓦礫に絡む。


ーその魔王もまた、異形であった。


そして腰から下は更なる異形。狼の四肢を持っていた。

鋭い爪で瓦礫を裂き、地面を蹴りながら前方へと押し進む。

触れたものを容赦なく弾き飛ばし、威圧の塊として中庭を支配していた。


ベルは刃を構えず、視線を魔王に向けた。


「ずいぶん長く寝てたんだなー、寝ぼけてたりしねぇか?」


リンドラは低く唸るように声を上げ、黒い霧を大きく振るう。


「現界するのは、1000年ぶりかー」


ベルの影が前方に伸び、黒い霧の隙間を探る。


「アカリ!光で霧を押し返せ!」


跳ねる光弾が瓦礫を巻き込み、霧をわずかに押し返す。

崩れた隙間を肘の刃で貫き、瓦礫を斬り裂く。


リンドラは跳躍し、狼の四肢で地面を蹴り上げ、ベルを押し潰そうとする。


「ミカゲ!縫い込め!」


影が霧の隙間に絡み、リンドラの進路を一瞬だけ制限する。

その間にベルは肘の刃を振り、瓦礫と霧の隙間を縫うように攻撃を通す。


リンドラは体をひねり、角で瓦礫を弾き飛ばしながら前進。

肩と腹部に衝撃が走り、ベルは血が滲むのを感じる。


「まだ終わらせんぞ…」


アカリが光弾を跳ねさせ、瓦礫と霧を押し返してリンドラの視界を攪乱する。

ミカゲの影も再び隙間に絡み、ベルの攻撃が通る道を確保する。


リンドラが鋭く前方に跳躍し、四肢で瓦礫を蹴り上げながらベルを押し潰すように迫った。

腹部と肩に衝撃が直撃し、ベルは地面に膝をつく。


「ぐっ…!」


肘の刃を振ろうとした瞬間、狼の四肢が再び肩を打ち、瓦礫が飛び散る。

ベルの息が詰まり、血が肩口と腹部から滴った。


「まだ…倒れねぇぞ…!」


だが、痛みで手足の感覚がわずかに狂い、肘の刃の軌道も乱れる。

リンドラはその隙に角を振り、黒い霧を伴った衝撃波を巻き上げる。


「アカリ!光で誘導!」


光弾が瓦礫の隙間を跳ね、霧の流れをわずかに変えてベルの視界を補助する。

しかし衝撃が強く、ベルは刃を振るのがやっとの状態で、中庭に倒れかけた。


「ミカゲ…隙間を塞げ…!」


影が瓦礫と霧の隙間を縫い、リンドラの進路をわずかに制限。

その間にベルは肘の刃で瓦礫を切り裂き、次の反撃の足場を作ろうとする。


だが、リンドラの四肢が再び肩と腹部に直撃。

ベルは体をよろめかせ、瓦礫にぶつかって血を吐く。


「くっ…まだ…!」


リンドラが腕を振り、黒い霧がベルを押し潰すように襲いかかる。


「アカリ!弾け!」


光が跳ね、盾を作ろうとするが、霧に触れた瞬間、盾は崩壊する。

ベルは身をひねり、ぎりぎりで衝撃をかわす。


「ミカゲ!縫い込め!」


影が霧の隙間を縫い、リンドラの進路を一瞬だけ制限する。

その間にベルは肘の刃を振り、黒い霧の中心を突き裂く。


リンドラは低く唸り、角と四肢で直接ベルを押し潰そうと前進する。

肩と腹に衝撃が走り、血が滲む。ベルは体をよろめかせながらも、刃で霧を切り裂き、反撃の間合いを探す。


「まだ…終わらせんぞ…!」


ベルは血の滲む肩と腹を押さえながら踏みとどまる。

リンドラが角を振り上げ、黒い霧が周囲を押し潰そうと迫る。


「カレン!剛力10倍!」


全身に鬼の力が流れ込み、筋肉が隆起し、動きがより重厚かつ強靭になる。


「アカリ!穿て!」


拳に光が宿り、眩い閃光が角に向かって凝縮する。


ベルは踏み込むと肘の刃を脇に流し、拳の光を片角に叩きつける。

黒い霧が跳ね、衝撃でリンドラの片角に亀裂が走る。


「ぐっ…!」


リンドラは片角を折られ、狼の四肢で地面を蹴って後退。

ベルは血をこらえつつも、全身に流れる剛力と光の力を維持し、次の攻撃の間合いを探る。


リンドラは黒い霧を揺らし、ゆっくりと踏みとどまる。


「やるではないか。人間。名を聞こう」


ベルは息を整えながら答える。


「ベル、ベル・ジットだ」


リンドラは片角を押さえ、低く唸るように声を上げた。


「ベル、か。覚えておこう。まさか私の角を折るとは…復活してみるのも悪くない。ということか」


ベルは肩と腹の痛みをこらえ、血を滲ませながらも冷静に答える。


「できれば永遠に眠らせてやりたかったんだけどよ。こっちにも事情ができたからな」


リンドラが手のひらを上に向け、ゆっくり差し出す。

黒い霧が指先に吸い寄せられるように集まり、ねっとりと渦を巻きながら膨れ上がる。

空気が重く震え、周囲の瓦礫や塵まで霧に引き込まれるかのようだった。


「殺すには惜しいが、仕方あるまい」


巨大な球体が瞬く間に形作られ、黒く濁った霧が揺らめく。

ベルは体を硬くして踏みとどまり、全身に冷や汗が浮かんだ。


「ははっ、それはヤベェな」


「カタナ!全部出せ!」


ベルの腕や肘、肩から刃が次々と伸び、金属の冷たさと鋭さが身体を覆う。

刃は静かに構えられ、黒い球体の存在を狙う準備が整った。


「アカリ…全力で耐えろ」


幾重もの光の盾が跳ね上がり、周囲の霧や塵を弾き返す。

盾は衝撃に揺れながらも、ベルの身体を覆っている。


「ミカゲ、いくぞ!」


影がベルの身体を覆い、肘や肩の刃と一体化して構える。


「全開で仕掛ける!」


リンドラの右手に黒い球体が浮かぶ。

ゆっくりと大きさを増し、周囲の空気を重く押しのけるように膨張していく。

球体の内部で霧が蠢き、触れたものには破壊的な力を秘めている。


ベルは踏みとどまり、肘の刃を鋭く構える。

「カタナ、全部…集中だ!」

刃が一点に集まり、ミカゲの影が身体を包み込むように広がる。霧の隙間を縫って、リンドラ本体に向かう準備だ。


リンドラは片目を細め、球体を掲げたまま身体をわずかに後ろに傾ける。

「やるではないか…だが、ここまでだ」

右手の球体はさらに膨れ、放たれれば戦場ごと吹き飛ばすほどの圧力を帯びる。


ベルは冷や汗をぬぐい、呼吸を整えながら前に踏み込む。

「絶対に放たせるか…!」

肘の刃と影が本体の隙を狙い、霧に触れぬよう慎重に接近する。


風が裂けるように流れ、瓦礫の間で二人の視線が交錯した。

黒い球体の膨張が速まり、圧力の波が周囲の空気を揺らす。


ベルは踏み込み、刃と影でリンドラ本体を正確に狙う。

「今だ…!」


ベルは踏み込み、肘の刃とミカゲの影を連動させてリンドラ本体を狙う。

霧の膨張が周囲を押しのける中、ベルの刃は胸元を突く軌道を描く。


だがリンドラは右手の球体を掲げたまま、わずかに体を傾けるだけで容易に攻撃を受け流す。

「まだまだだ。その程度では私には効かん」

冷たい笑みを浮かべ、霧をほんの少し揺らすだけでベルの刃はかわされる。


ベルは肩に力を入れ、踏みとどまろうとするが、霧の微かな抵抗が手足にまとわりつき、思うように体勢を整えられない。

「くっ…甘くねぇな!」


リンドラは片目でベルを見据え、球体の膨張を緩やかに加速させる。

「攻撃が通じるとは思うな」


ベルは肘の刃と影を再び構え直すが、リンドラの余裕ある動きに圧迫され、攻撃の隙が見つけられずにいた。


リンドラは右手の球体を一気に膨張させる。

黒い霧が渦を巻き、球体は戦場全体を覆い尽くさんとするほどの巨大さになった。

「行くぞ…これが最後の一撃だ!」


ベルは咄嗟に踏みとどまり、アカリの光の盾を多重に展開する。

「アカリ…頼む、全力で耐えろ!」

光の盾が幾重にも重なり、霧の圧力を受け止める。


同時にベルは肘の刃を球体に寄せ、ミカゲの影で刃を纏わせて攻撃力を強化。

盾で防ぎながらも、球体の膨張による圧力と霧の衝撃が全身を押しつぶす。


「ぐっ…!」

ベルは盾の揺れを必死に耐えるが、強烈な衝撃で後方に吹き飛ばされる。

瓦礫の隙間を滑るように転がり、膝をつきながらも身体を押さえる。


リンドラは片手で球体を掲げたまま、冷ややかにベルを見下ろす。

「どうやら…まだ生きているようだな」


ベルは息を整え、肩や腕に痛みを感じつつ、肘の刃と影を再び構え直す。

「…まだだ、まだ終わらせるわけにはいかねぇ!」


膝をついたベルの右手の指輪が、戦場の光と影の中でふっと光を放ち、わずかに揺れる。


ベルはその一瞥にふっと笑う。


「しゃーねぇ!出てこい!カタナ!」


右手を前に差し出すと、指輪から眩い光が広がり、膨張する霧や瓦礫を照らす。

光は次第に人の形を取り、揺らめきながらベルの前に立つ。


そして光が静かに消えた瞬間、そこにはベルと手を繋いだカタナが顕現していた。

ベルの身体からは、肘や腕に出ていた刃はすべて消えている。


ベルは握った手の感触を確かめる。


「これで、いける…」


カタナと共に、ベルは次の一手を放つ準備を整える。


カタナはベルと手を繋いだまま笑った。


「あたしの見せ場、作ってくれてありがとね!」


ベルは少し悔しそうに息を吐く。


「悔しいが仕方ねぇ。やってくれ!」


カタナは手を握り返し、力強く頷く。


「おっけー!ここから先はあたしのターン!」


そう言うと、カタナはベルの手を離し、リンドラに向けて構えた。

全身に光を纏わせ、戦闘態勢を整える。


膝をついたベルを見下ろし、リンドラは右手を空に掲げて警戒する。


「…召喚?いや、違う。魔力の流れを感じない。それは一体?」


ベルは静かに答える。


「俺の、姫神だよ」


カタナは胸を張り、力強く宣言する。


「剣の姫神ーカタナ、推して参る!」


その瞬間、カタナの姿は光に溶けるように消え、ベルの前から忽然と姿を消した。


リンドラは驚きと警戒の色を濃くし、周囲を見渡す。


カタナは瞬間、リンドラの懐の深くに現れた。


リンドラは驚き、目を見開く。


「なに!?」


カタナは笑みを浮かべ、即座に振りかぶる。


「それじゃ!さっそく!」


右手に無機質な金属の刃が生まれ、そのまま横薙ぎの動きでリンドラの胴を斬りつける。


刃は鱗を裂き、胴の側面に深い切り傷を刻む。

リンドラは咳き込み、体をひねって衝撃を和らげるが、バランスを崩しわずかに後退した。


カタナは刃を引き抜き、リンドラの傷口を確認する。


「あれ?君、かったいね!あたしが見誤るなんて、さすが魔王!」


鱗の硬さに微笑みを浮かべ、刃を握り直す。


「やるじゃん!斬り甲斐あるよ!」


カタナは次の攻撃の構えを取り、瞬時に間合いを詰める。

ベルは膝をついたまま、戦いを見守る。


カタナはベルの方に振り返り、笑みを浮かべて声をかける。


「主ー!どう?動けそう?」


ベルは汗をぬぐいながら答える。


「…あと5、いや3分くれ」


カタナは腕を組み、考える仕草を見せる。


「3分かぁ…じゃあこのまま倒していい?」


ベルは呆れた顔で視線を返す。


「好きにしてくれ」


リンドラは怒りをあらわにし、黒い霧を纏った拳を振り下ろす。


「この程度で…なめるな!」


カタナは構えを崩さず、笑みを浮かべる。


「その攻撃はーさっき見たよ」


振り下ろされる黒い霧を纏った拳を、当たり前のように剣で受け止める。


リンドラは目を見開く。


「馬鹿な!私の霧は全てを崩壊する…」


カタナは肩をすくめる。


「知ってるーでもさーよく見てよ」


黒い霧に触れたカタナの刃は徐々に侵食され、表面が欠けるように崩壊していく。

だが、その部分から刃は再生し、押さえ続けている。

僅かに再生の方が早く、刃は形を保ったままだ。


リンドラは目を見開き、驚愕する。


「…耐えている…だと?」


カタナはにっこり笑う。


「これくらいじゃ、あたしの刃は折れないよ」


左手を後手に引くと、拳からまっすぐ短い刃が生まれる。


リンドラは怒りをあらわにする。


「おのれ…」


カタナは刃を突き出す。


「これはー刺さると思うよ」


左手の拳がリンドラの腹を突き、刃は抵抗もなくサクリと入り込む。

根本まで深く突き刺さり、リンドラは呻き声を漏らす。


「ぐぅっ…」


リンドラの口から、黒い血のような液体が溢れ出す。


カタナは目を見張り、思わず声を上げた。


「魔王も、血出るんだ!」


リンドラは憤怒をあらわにし、左手に黒い霧を纏わせる。


「この…」


その拳をカタナに向けて振り下ろす。


カタナは咄嗟に飛び上がる。


「おっと!あぶなーい!」


空中で一回転しながら着地し、すぐに構えを取り直す。


「うりゃ!」


カタナは手を下から上に振り抜くと、リンドラの足元の地面から無数の剣が突き出す。

金属の刃がリンドラの狼の身体を貫き、体を押し上げる。


リンドラは呻き声をあげる。


「ぐはぁっ!」


一瞬のうちに、リンドラの全身が黒い体液に包まれ、戦闘の気配が濃く立ちこめる。


カタナは一瞬の間も置かず、次の動きに移る。


手を振り上げ、無機質な金属の刃をいくつも生やしてリンドラの周囲を切り刻む。

鋭い斬撃が鱗を削ぎ、黒い体液が飛び散る。


カタナは跳び上がり、空中で刃を一閃。


足元からさらに剣を突き出し、リンドラの側面を押さえ込む。


「まだまだいくよ!」


カタナは連続で跳躍し、左右に斬り返す。

リンドラは必死に体をひねり、黒い霧を纏った拳で受けようとするが、刃の速さに追いつけず、幾重もの切り傷が鱗を裂いていく。


「ちゃんと効いてるね!」


カタナの一撃一撃が、リンドラの動きを徐々に制限していく。

鱗を削られた腹部や側面から黒い体液が滲み出し、動きのたびに滴り落ちる。


カタナは跳びながら、地面に剣を突き立て、リンドラを縦横に押さえつける。

瞬間、刃の雨がリンドラを囲み、逃げ場を奪う。


「どお?まだ立ってられる?」


リンドラは呻き、黒い体液で視界が曖昧になりつつも、まだ完全には倒れていない。


カタナは笑みを崩さず、さらに刃を増やし、リンドラの身体を刻むように斬りつける。


リンドラは両手のひらを前に向け、これまでにないほどの黒い霧を集約し始める。


霧は渦を巻き、やがて巨大な球体となる。

カタナの目が光る。


リンドラは球体を圧縮し、さらに凝縮して小さな黒い球にする。


「くらえっ…!」


だがカタナも即座に両手を空にかざす。

両手の中で金属の大剣が生まれ、無機質ながら凄まじい重厚感を放つ。


「ごめんね!それはちょっともらいたくないからー」


カタナは剣を高く構え、上段から振り下ろす。

大剣はそのまま、リンドラの球体ごと身体を袈裟懸けに切り裂く。


黒い球と共にリンドラの身体が左右にずれ、鱗の上に走る裂け目が明確になる。

黒い体液が飛び散り、切断された裂け目の間から再び滴り落ちる。


カタナは一歩前に踏み込み、右手の刃を連続で振り上げる。

左右に振られた刃が鱗を裂き、リンドラの腹部に浅い切り傷を次々刻む。


「まだまだ!」


跳び上がったカタナの足元から無数の小剣が突き出し、リンドラの下半身を押さえ込む。

リンドラは咆哮し、黒い霧で反撃しようと拳を振るうが、刃と剣の雨に阻まれる。


カタナは空中で一回転し、再び大剣を振り下ろす。

刃はリンドラの側面を切り裂き、黒い体液が滴り落ちる。


「効いてるね!まだ立ってるの?」


リンドラの全身がわずかに揺れ、黒い体液で視界が曖昧になる。

だが、カタナは笑みを崩さず、間髪入れずに剣を振り続ける。


「次はこれ!」


刃を縦に振り下ろし、突き上げるように短い剣を突き出す。

リンドラの鱗の合間に深く突き刺さり、黒い体液がさらに迸る。


リンドラの身体は斬られ、黒い体液が飛び散るが、すぐに再生して形を取り戻す。


「魔王はー死なない」


カタナは目を見開く。


「すごっ…本当に死なないじゃん」


刃を握り直し、笑みを浮かべる。


「それじゃー、悪いけどー刻むね!」


カタナは両手の指を組み合わせ、瞳をぎゅっと閉じる。

その瞬間、世界の色が変わったかのように、空気が振動し、周囲の光景がざわめく。


見渡す限りの地面から、空から、無数の刃が生まれ出でる。

金属の冷たい輝きが大地と空間を裂く。


「剣匠<ソードマスター>!」


両手を解くと、圧倒的な剣の嵐がリンドラを襲う。

無数の刃が空を舞い、鱗を削ぎ、黒い体液を迸らせる。

再生するより速く、傷付くより速く、リンドラの身体は刻まれ続ける。


リンドラは呻き、黒い霧を振り回して反撃しようとするが、刃の嵐は容赦なく降り注ぐ。

鱗と体液の間を縫うように、次々と新たな切り傷が刻まれ、動きを徐々に奪われていく。


無数の刃が舞い、リンドラの鱗も体液も、刻まれて飛び散る。

再生するより速く、傷付くより速く、刻み続けるカタナの剣の嵐。


リンドラは呻き、黒い霧を振り回して最後の反撃を試みる。

だが、刃の嵐は遮り、どんな攻撃も弾き返される。


ついに、リンドラの肉体は無数の切り傷に覆われ、全身が粉砕されたかのように崩れ去る。

残ったのは、黒く輝く魔王核だけ。


カタナは一歩前に踏み出し、剣を握り直す。


「終わりだよ…」


両手で剣を高く掲げ、魔王核に向けて力を集中させる。

そしてそのまま、剣を魔王核に深く突き立てた。


黒い核は重厚な存在感を放ったまま、微動だにせず、カタナの剣を受け止めている。


カタナは突き立てた剣をゆっくりと抜き、ため息をついた。


「カレンも、ユキメもやったんだしーあたしも、やれるよね!」


顔を顰めながらも、両手のひらで自分の両頬をパン!と叩く。


「よっし!」


カタナは魔王核を両手で掴むと、一気に口へ運ぶ。


「いただき…まふっ!」


涙目になり、苦しそうにごくりと魔王核を飲み込む。

喉を通る感触に顔を歪め、呼吸を整えながらも、しっかりと飲み込んだことを確認する。


カタナは今も膝をついたままのベルの元へ小走りに近寄る。


「すごい…気持ち悪い」


ベルは微笑み、軽く頭を下げる。


「ありがとな。助かった」


カタナは驚いた顔で、少しふくれたように答える。


「えーそんだけ?あたし、泣きそうなんだけど」


ベルは肩をすくめ、片手を差し出す。


「しゃーねぇなー、来いよ」


カタナは満面の笑みでその手を両手で掴み、そのままベルの胸に抱きつく。

ベルは空いている左手でカタナの頭をそっと撫でる。


「やだっ、めっちゃしあわせ」


ベルは微笑んで応える。


「マジでありがとな、カタナ。それからー」


ベルがそっと下に目を向けると、影から上半身だけを出したミカゲが、後ろから抱きついている。


「ミカゲも、いつもありがとな」



こうして、3体目の魔王は世界からその姿を消した。

破壊と混沌を撒き散らした存在は、もう戻らない。

残された者たちは、傷を癒やし、再び日常を取り戻す。

そして、命を懸けて戦った者たちの絆は、深く静かに世界に刻まれた。







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