エピローグ
数日後、アダラたちは自分たちの国へ戻ることになった。
船にはアダラ、ビビ、それに十数名の部下たちが乗り込む。港にはベル、ミリィ、マリーナ、アルティシア、そしてアイザックが見送りに立っていた。
時刻は夜。静かな海面には月明かりが反射し、銀色の光が波間に揺れている。船の帆が風にたなびき、ゆっくりと港を離れていった。
アダラは船の上から手を大きく振り、笑顔で声を上げた。
「それじゃーみんなには本当に世話になった。何かあればいつでも言ってくれ!この恩は忘れない」
ビビも笑顔で手を振り返す。
「本当〜、ほんとーにありがと〜」
ベルは片手を軽く振って応えた。
アルティシアは丁寧に一礼しながら言う。
「わたくしも、今回の件では色々と良い経験となりました。我が国でも出来ることがありましたら、ご相談ください」
マリーナは少し笑みを浮かべ、船を見つめながら言った。
「アダラ姫、次は遭難しないようお気をつけください」
ミリィも小さな声で付け加える。
「…気をつけてくださいね」
アダラはふと顔をほころばせ、船の上から指を差して言った。
「おっと、帰る前にお前ら仲直りしろよ」
ミリィは顔を赤らめ、言葉に詰まる。
「そ…それは…」
ベルは首をかしげ、眉を上げた。
「仲直り?」
アダラはベルをじっと見つめ、少し笑みを浮かべながら言った。
「お前、気付いてないと思うけど、ミリィお前のこと怒ってんだよ」
ベルは眉を上げ、肩をすくめた。
「ミリィが?あー、だから最近何かよそよそしかったのか?」
ミリィは俯いたまま、言葉を返さない。
ベルは少し前に体を乗り出し、真剣な表情で言った。
「なんかわかんねぇけど、怒ってんなら言ってくれよ。俺は言われなきゃわかんねぇからさ」
ミリィは俯いたままで、なおも答えない。
アダラはため息混じりに手をひらひらさせる。
「ミリィ、言えって。一生そのままでいるつもりか?」
ミリィは小さく震える声で答えた。
「それは…いや、です」
アダラはくすくす笑いながら、手を合わせるようにして言った。
「だったら言えって。私もなんかもやもやするからさ」
ベルはさらに身を乗り出して、真剣な目で言う。
「言ってくれよ。頼む」
ミリィは少し考えるように目を閉じ、やがて顔を上げた。
「私…私も女の子です」
ベルは首をかしげた。
「いや、知ってるけど?」
ミリィは顔を赤らめ、小さく息をついた。
「そ、そーではなくて…」
ベルは首をかしげる。
「?」
ミリィは俯きがちに小さく言葉を続けた。
「この前、初めてアダラ姫達の船を見に来た時…ベルさんは私を肩に担いで走って」
ベルは肩をすくめ、少し笑いながら思い出した。
「あー、あったな、そんなこと」
ミリィは一気に顔を赤くして、強く言った。
「私のお尻…叩いたんです!」
ベルは目を細め、少し首を傾げる。
「そーだっけ?」
ミリィはキッとベルを見つめ、さらに声を強めた。
「いや、なんです!わた、私も、子供扱いしないで…ちゃんと、女の子扱いされたい…です」
言葉は尻すぼみになり、再び俯く。
ベルはそっとアルティシアを見ると、アルティシアは小さく頷いた。
次にマリーナを見る。マリーナも微笑みながら頷く。
最後にアダラとビビを見る。二人もにこやかに頷いた。
ベルは深く息をつき、前屈みになってミリィの肩にそっと手を置いた。
ベルはゆっくりと息をつき、ミリィの肩に手を置いたまま言った。
「悪かったな。確かに子供と思ってたし、子供扱いしてた」
ミリィは頬を膨らませ、黙ってそっぽを向く。
ベルは少し笑みを浮かべ、視線をまっすぐミリィに戻す。
「でも今からは、ちゃんと女扱いする。約束だ」
そう言うと、ベルは軽くミリィの尻を撫でる。
ミリィは思わず声を上げる。
「…!?」
ベルは軽く肩をすくめ、アルティシアとマリーナの方を見る。二人は顔を手で押さえて、必死に笑いをこらえていた。
次にビビとアダラを見ると、二人は思い切り大笑いしている。
ベルは首をかしげ、少し困った表情で言った。
「あれ?なんか違う?」
ミリィは真っ赤になり、必死の声で叫ぶ。
「べ、ベル、さん!」
ベルは振り向き、目を細めながら言った。
「なんだ?違ったか?」
その瞬間、パチン!
「さ...最低ですっ!」
ミリィのビンタがベルの頬を打った。
アダラは船の甲板でケタケタと笑い、涙を拭った。
「あーお前ら、ほんっと面白いな!」
その声のまま、ふと思い出したように船から降り、ベルに向かって駆け出す。
叩かれた頬を押さえ、腑に落ちない顔をしているベルに、勢いのまま両手を伸ばして抱きついた。
マリーナ、アルティシア、ミリィ、ビビが
「あっ」
と声を上げた。
そのまま、アダラはベルの唇に唇を重ねた。
マリーナ、アルティシア、ミリィ、ビビが再び
「あ、あぁーーーーっ!!」
と驚きの声を上げる。
しばらくベルに抱きついていたアダラは、満足したようにベルから離れると、また走って甲板に戻り、笑顔で振り返った。
「今回の礼と褒美だ!カダブランカ王女のキスだ、ありがたく思えよな!じゃーな!」
手を振りながら、船はゆっくりと出発し始める。
ベルは肩をすくめ、腑に落ちない顔のまま言った。
「そりゃーどうも、ありがとよ」
沖へとだんだん遠ざかる船を、ベルはじっと見つめながら、ぽつりと呟いた。
「なーんか、最後まで騒がしいやつだったな」
振り返り、皆に声をかける。
「な?」
だが、アルティシアは気を失ったかのように倒れており、アイザックが慌てて彼女を支えていた。
マリーナは自分の唇を押さえ、静かにぽつりとつぶやく。
「…なるほど…虚をついて奪うのも、ありなのか…」
ミリィは真っ赤な顔で、胸の前で手を握りしめながら、声を震わせてベルを見上げた。
「べ、ベ〜ル〜さ〜ん」
「あなたというひとは、本当に…」
ベルは眉を上げ、首をかしげる。
「えー、まーたなんか怒ってるのか?今度はなんだよ?」
ミリィは腕を組み、そっぽを向いたまま、全力で声を張り上げた。
「もう、知りません!!」
ベルはため息混じりに肩をすくめ、再び沖へ向かう船を見送った。
「…まあ、仕方ねぇな」
夜の港は静かで、月明かりが波を銀色に染めている。波の揺らぎに合わせて、船はゆっくりと遠ざかっていく。
ベルは小さく笑みを浮かべ、仲間たちの方に視線を戻した。
港に残った5人は、しばらく静かに夜の海を眺め、別れの余韻を胸に刻んだ。




