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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第6章ー西大陸からの使者ー
159/161

始まりの朝ー

ビビのまぶたがゆっくりと開く。光が差し込み、かすかな痛みが身体中に広がる。意識がふわりと戻り、周囲の景色がぼんやりと形を取り始める。


「ここーはー?」


目を覚ますと、ビビはベッドの中にいた。全身がピリピリと痛む。


頭を動かして自分の身体を見ると、全身に包帯が巻かれていた。


「あらーこれは一体ー」


ゆっくりと身体を動かすビビ。手足―ある。指先―痛いけど全部動く。


自分の身体の状況を確認し、思わず安堵の息を漏らす。


「よくわかんないけどー無事みたいー」


ふと目をやると、ベッドの下でアダラが寝ているのが見えた。床の上で毛布にくるまって、静かに眠っている。


「もうー風邪ひくよー」


ビビは身体を起こそうとするが、力がまだ十分に入らない。しばらく四苦八苦していると、部屋の入り口の方から声が響いた。


「まだ無理だと思うぜー」


頭を動かさず、視線だけそちらに向けると、ベルがドアにもたれるように立っていた。


「ベルくんー」


ベルはゆっくり歩き出し、ベッドの傍らに置かれた椅子をベッドに寄せる。背もたれを前に向けて座ると、腕をその背もたれにかけた。


「よ、やっと起きたか」


「私ーどれくらい寝てたー?」


「1週間は経ってないと思うぜ」


「あちゃーそんなにかー」


ビビはゆっくりまぶたを開け、ベッドの上で身体を起こそうとする。全身がまだ少し痛む。


「どこまで覚えてる?」


ベルが椅子に座ったまま、軽く視線を向ける。


「んー…どこだろー?」


ビビは手足を動かし、少しずつ状況を確かめるように視線を泳がせる。


「あの白い女の人が出てきたのはー覚えてるー」


「あぁ、ユキメなー」


ベルは頷き、軽く笑みを浮かべた。


「あれはなにー?」


ベルは両手を前に出し、指輪を見せながら答える。


「この両手の10個の指輪に封印されてる姫神ってやつ」


「俺の仲間だな」


「姫神ー召喚術みたいなもの?」


ビビは首をかしげながら、腕の感覚を確かめるように動かす。


「んーそれとは違うかな。俺もよくわからんから説明できねぇけど」


ビビは目をぱちぱちと瞬かせながら、まだ夢と現実の境を迷うように視線を泳がせた。全身がピリピリと痛むのを感じ、胸の奥に重く沈む違和感を覚える。


「わたしーどうなったのー?」


ベルは少し眉を寄せ、沈黙のあと口を開く。


「んー説明難しいんだけど、とりあえず英雄核?あの魔王核は取っちまった」


ビビの目が一瞬、見開かれる。


「…え?」


その次の瞬間、驚きの声が思わず口をついて出る。


「えええええーー!?」


ベルは肩をすくめ、苦笑を浮かべながらも真剣な目でビビを見る。


「なんだよ、だめだったのか?」


ビビは身体を少し丸め、胸の奥の不安と恐怖が波のように押し寄せるのを感じた。


「ダメじゃない…ダメじゃないけど…」


声が小さく途切れ、涙がひとすじ頬を伝う。


「…あれはわたしの心臓の代わりに埋め込まれてたから…」


そして、震える声で続ける。


「私ーもしかしてもう死んでるのー?」


ベルはその涙と不安に耐えきれず、ゆっくりと近づく。


「いや、死んでたらこうして話してねぇだろ」


ビビは小さく首をかしげ、半信半疑で呟く。


「私ー幽霊ー?みたいなー?」


ベルは静かにビビの右手を掴み、ビビの右胸にその手を当てる。


「ほら、確かめてみろよ」


トクントクン――


ビビの右手に、自分の胸の奥で脈打つ鼓動が伝わる。


その感覚に思わず息を止め、そっと目を閉じる。熱と安堵が入り混じり、涙が頬を伝った。次の瞬間には、笑いと泣き声が一緒に溢れ出す。


「わたしの心臓ー鼓動があるー」


震える声で呟くビビ。手に感じる確かな温もりが、胸の不安を押し流していく。


「でも、どうしてー? なんでー?」


ベルは肩をすくめ、苦笑交じりに言った。


「俺も説明できるほど理解してないからー…ミカゲ」


その言葉に応えるように、足元の影から静かに頭を出す。


黒く長い影の中から、目の下までしか姿を現さないミカゲは、いつもの冷静な声で語り始める。


影の中から、ミカゲの声が静かに響く。


「まずはユキメという他の姫神の能力で、世界ごとビビの身体と魔王核を凍らせて、刻を止め、その間に魔王核を切り離して処分」


ビビの目がぱちぱちと瞬く。


「英雄核ねー…」


「そのままでは心臓のないビビは死んでしまうので、ビビだけ凍らせたまま刻を動かし、次にエンカの能力で心臓を再生し、傷を修復。キザミの能力で刻を加速。心臓の年齢を今のビビに合わせました」


ビビは頭を傾げ、言葉に追いつけず、ぽつりと漏らす。


「ごめんー、ちょっとなに言ってるかわからないけどー…」


そして、少し考えてから、笑顔で言った。


「要するに、普通の人になったーでおけー?」


ミカゲの影が小さく揺れ、落ち着いた声で返す。


「おけ」


ビビはその言葉を聞き、胸の奥でほっと息を吐いた。凍りついた世界の記憶と戦いの痕跡が、少しずつ日常の感覚に溶けていくようだった。


ミカゲの影がわずかに揺れ、視線をゆっくりとベルに向ける。


「エンカが二度も主様以外に能力を使ったことで、大層ご立腹のご様子。どこかで埋め合わせを」


その言葉に、ベルは肩をすくめ、やれやれといった様子で片手をひらりと振る。


影の冷たい静けさと、ベルの緩んだ動きが対照的に並ぶ中、微かな空気の揺れが部屋を満たした。


影の中から、ミカゲの視線が再びビビに向けられる。


「心臓は再生したとて、今までの魔力の源が喪失したことで、生命維持にも支障を来たすとの判断から、擬似的な魔力炉を心臓付近に作ってあります」


ビビの胸元で、かすかに脈打つ感覚が増す。微かに熱を帯びた感触が、体内で何かが動いていることを告げる。


「その副作用で、以前ほどではないとは言え、それなりの魔力出力はあるでしょう」


微かな光がビビの胸を揺らすように反射する。


「ただー無理はしないように」


ミカゲの影は揺れながらも静かに言い切る。その声は柔らかくも、規律を重んじる冷静さを伴っていた。


ミカゲの影がわずかに揺れ、冷静な声が部屋に響く。


「私からは以上となります」


その声に、ベルは面倒くさそうに片手をひらりと振って答える。


再びミカゲの声が影の奥から届く。


「……私からは以上となります」


そして少し間を置いて、さらに――


「……以上となります、が?」


ベルは小さくため息をつき、ゆっくり立ち上がる。床に出ているミカゲの頭をそっと撫でて、声をかける。


「ミカゲ、いつもありがとう」


その言葉に、ミカゲの目が小さく揺れ、嬉しそうに光る。


そして静かに、影の中へと沈み、ゆっくりと消えていった。


ビビはふとベルを見上げ、首をかしげる。

「ようするにー?」


ベルは肩をすくめ、手を広げながら答える。

「とりあえず、英雄核はとって、心臓が入ってるけど、前みたいに無茶はすんなよってことじゃね?」


ビビは軽くうなずき、ふっと息をついた。

「あーなるほどーそーだったかも」


ゆっくりと両手を伸ばし、ベルに差し出す。

「手、貸してー」


ベルがその手を取ると、ビビは思い切り引っ張った。

バランスを崩したベルは、そのままビビの上に覆い被さるように倒れ込む。


「いてて…何すんだよ。怪我は治ったと言え、俺もまだ全身バキバキなんだからな」


自分の上に覆い被さったまま文句を言うベルの頭を、ビビは両手でしっかり抱き止める。

「ベルくんーありがとう」


涙が目から溢れ、嗚咽が小さく漏れた。

「ほんとーほんとうにーありがとう」


ベルは少し驚きながらも、ビビの胸に額を寄せる。

二人の間に、静かで温かい時間がゆっくりと流れた。


「…やったのか?」


急な声に、ビビとベルは思わずビクッと体を揺らした。


ベッドの端から、毛布にくるまったままのアダラが、まだ眠そうな目を細めて覗いている。


ビビはほっと息をつき、笑顔を浮かべながら答えた。


「びっくりしたー…でもわたしー、やったよー」


ベルは椅子に腰かけたまま、眉をひそめて苦笑する。


「こえぇな。妖怪かと思ったぜ」


アダラは毛布にくるまったまま、もぞもぞと体を動かした。


ビビはそっと胸元に手を当て、鼓動を確かめながら、まだ少し震える肩を落ち着かせた。


這うようにベッドの上に上がり込んだアダラは、そっとあぐらをかき、両の拳を床につけて頭を深く下げた。


あの夜、ベルがビビを連れ戻った時の話は聞いていた。だが、実際に目を覚ましたビビの無事をこの目で確認するまでは、心の底から信じることはできなかった。胸の奥にはまだ小さな不安がひっかかっている。


それでも今、こうして自分の前に立つビビの顔を見て、アダラの心は少しずつ解きほぐされていく。


「今回の件、本当に…感謝してる…」


声は小さく、震えていたが、言葉に込められた思いは確かだった。アダラは頭をさらに深く下げる。緊張と不安で固まっていた心が、ようやく安心という温かさに包まれる。


アダラは頭を上げ、目に涙を浮かべながらビビを見つめた。


「本当に…無事でよかったな」


ビビは小さく笑い、まだ少し震える手で胸元を押さえた。


「うん…ありがとう、アダラー…」


ベルは椅子に座ったまま、淡々と二人を見つめる。


「まあ、とにかく怪我も治ったし、今日くらいはゆっくり休めってことだな」


ビビはそっとベッドに座り直し、アダラも隣に体を起こす。窓の外には柔らかな朝の光が差し込み、凍っていた世界が嘘だったかのように、静かで穏やかな空気が部屋を包んでいた。


三人の間に、言葉少なでも十分に伝わる安心感が流れる。ビビの胸の鼓動と、回復した体の温かさが、何よりもその場の安らぎを示していた。


ベルは眉をひそめ、ゆっくり口を開いた。

「でもさ、前に言ってたよな。お前らの国、あと二つあるんだろ?魔王核」


アダラは鼻で笑った。

「英雄核な」


ベルは肩をすくめて訂正する。

「…あぁ、それか」


アダラは真剣な表情で続けた。

「英雄核はあと二つある。ビビと同じ時期に仕込まれているのが二人いる」


ビビは肩をすくめ、軽く笑った。

「うん、私も知ってるよ。あと二人ね」


ベルは目を細め、二人の顔を交互に見ながら頷いた。

「なるほどな…そっか」


ベルは目を細め、ぐっと拳を握った。

「よし、決めた」


アダラとビビはそろってベルを見つめる。


「俺、魔王核全部潰すことにするわ」


アダラは目を見開き、思わず声を漏らした。

「は?」


ビビも口をぽかんと開け、驚きの声を上げる。

「えー?」


ベルは肩をすくめ、少し笑みを浮かべながら二人を交互に見た。

「…放っておけるわけないだろ」


ベルは少し眉をひそめ、拳を握りしめた。

「今まで俺の方は、特に旅の目的とか、人生の目標とか、んなもんねぇって思ってたけどさ」


少し間を置き、視線を二人に向ける。

「魔王核…あと997個?」


アダラは思わず口をはさむ。

「998!」


ベルは肩をすくめ、目を輝かせながら答えた。

「そうだ。998個、全部見つけてやるよ」


ベルは少し前に体を乗り出し、二人を見据えた。

「とりあえず二個はお前らの国にあるのはわかってるんだし、そいつらもあと四年は平気なんだろ?」


アダラは小さくうなずく。


ベルは肩をすくめ、口調を少し軽くして続けた。

「だったらさ、三年くらいは他の魔王核探して潰して、時期が近づいたらお前らの国に行くよ」


アダラは目を細め、声をひそめて問いかけた。

「本気…なのか?」


ベルは迷わず答える。

「そのつもりだ」


ビビはにこにこと笑いながら、手をぱちんと叩いた。

「すーごいー。他の二人もきっとよろこぶよー」


アダラは少し顔をほころばせながらも、目を真剣にして言った。

「そうしてもらえると、本当にうれしい。だがー」


ふと視線をベルに向け、声を落として続けた。

「お前は本当にそれでいいのか?」


ベルは肩をすくめ、淡々と答えた。

「いいって。別にやりたいことがあるわけじゃねぇーし」


少し視線を落とし、続ける。

「あっちのベルの目的も、手がかりもないし。他のことやりながら探すさ」


アダラはそっと目を伏せ、かすかに微笑んだ。

「そっか…なら、期待して待ってる」


ベルは力強く頷き、拳を前に突き出す。

「おう、約束する」


アダラは静かに自分の拳をベルの拳に当てた。

「…ありがとう」



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