これからの未来の話をしようー
夜の海は、昼とはまるで別の顔を見せていた。
静かな波が、規則正しく砂浜をさらっていく。月の光が水面に細く伸び、遠くまで銀色の道のように揺れていた。
その浜辺に、二つの影が並んで座っている。
ベルは砂の上に腰を下ろし、膝を立てたまま海を眺めていた。夜風が銀色の髪を揺らす。
隣ではビビが、指先で砂をいじりながらのんびりと海を見ていた。
しばらく波の音だけが続く。
やがてベルが口を開いた。
「じゃ、本当にいいんだな?」
ビビは顔を少し傾ける。
「うん〜いいよ〜」
あっさりとした答えだった。
ベルはしばらく黙って海を見る。
「……会ったばっかの男だぞ」
波が寄せて、引く。
ビビは小さく笑った。
「だって〜魔王殺しでしょ〜?」
そして少しだけ肩をすくめる。
「それに〜」
月明かりの下で、ビビの目がゆるく細くなる。
「わりと好きだよ〜ベルくん」
波の音が、静かな夜の浜辺に繰り返し響いていた。
しばらく海を眺めていたベルが、ふっと息を吐く。
「それじゃ今夜は思い切って」
隣で砂をいじっていたビビが顔を上げ、にこりと笑った。
ビビはにこっと笑う。
「今夜こそ〜やっちゃおう!」
ビビはくすくす笑いながら辺りを見回した。
「夜の浜辺なんて〜ロマンチック〜」
わざとらしく肩を揺らす。
「こういうとこでするのが好きなんだ〜?」
ベルは海を見たまま肩をすくめる。
「ここなら邪魔も入んねぇしな」
その答えに、ビビが目を細めた。
「ふぅ〜ん、へぇ〜、ほぉ〜ん」
からかうような声だった。
そしてビビは胸に巻いていた布をぐっと下げる。
月明かりの下、胸元があらわになる。
「ここに〜興味深々って聞いたよ〜」
ベルの視線がそこに向く。
「あぁ」
短く答える。
「なんとかしてやりてぇと思ったから来た」
ビビは一瞬だけ目を丸くし、それから楽しそうに笑った。
「ベルくんは〜素直だね〜」
そう言いながら、胸元にそっと手を当てる。
ビビはくすっと笑いながら、夜の海を眺めた。
月明かりが波に揺れている。
「わたしたちと西の大陸に来るのが〜一番手っ取り早いし楽なのに〜」
肩を小さく揺らす。
「ベルくんももの好きだね〜」
ベルは少しだけ砂を蹴った。視線は海のままだ。
「俺は誰かに何かを押し付けられたり、強制されるのが大っ嫌いなんだ」
少しだけ間を置く。
「……そうさせられてるやつもな」
ビビの笑みが、ほんのわずかだけ薄くなる。
しばらく波の音だけが続いた。
やがてビビは、静かに首を振る。
「……自分の〜意思だよ」
そう言って、砂の上に手をつく。
「少なくとも今はね〜」
顔を上げ、遠くの海を見る。
「アダラ達が〜わたしのためにいろいろ考えて〜してくれようとしてるだけで〜」
ふっと、柔らかく笑った。
「わたしはなんてしあわせなんだろ〜って、思えるんだよ〜」
夜風が吹き、二人の髪を揺らす。
ベルはその横顔をしばらく黙って見ていた。
そして小さく息を吐く。
ビビは胸元を押さえたまま、ベルをじっと見上げた。
波の音が、二人の間の沈黙を埋める。
「じゃ〜先に〜確認していいかな〜?」
ベルが眉をひそめる。
「確認?」
ビビは肩をすくめ、くすっと笑った。
「こういうことは先に決めておかないと〜。やり逃げされたら困るし〜」
ベルは小さく鼻で笑う。
「逃げねぇよ。いや、基本は逃げるけど」
砂を軽く蹴りながら続ける。
「約束したからな」
ビビはそれでも、じっとベルを見たままだった。
月明かりの下で、目だけが少し真剣になる。
「それでももっかい〜」
ゆっくりと言う。
「ちゃんとベルくんの〜お口から〜聞かせて欲しいな〜」
ベルはしばらく黙って海を見ていた。
波が寄せては引き、月の光が水面に揺れている。
やがて口を開いた。
「やってみねぇとわかんねぇけど」
少しだけ視線を落とす。
「なんとかしてやる」
ビビはその言葉をじっと聞いていた。
「責任とってくれる〜と思って〜いいんだよね〜」
「あぁ」
ベルはすぐに答える。
「俺が責任とる」
ビビは小さく頷いた。
「じゃ〜無理ってなったら〜」
ゆっくりと言葉を続ける。
「おとなしく西の大陸まで来てね〜。わたしと一緒に〜」
ベルは少しだけ肩をすくめた。
「わかった。そん時はお前らに従う」
その返事を聞いて、ビビは少し安心したように息を吐いた。
「それともう一つ〜」
ビビは目を伏せる。
少し考えるように沈黙し、それからまた目を開けてベルを見た。
「もし〜本当に〜どうにもできそうになかったら〜」
波の音が静かに続く。
そして、ビビはいつもの柔らかい声のまま言った。
「わたしを殺してね」
少しだけ空気が変わる。
ビビは胸に巻いていた布に手をかけ、ゆっくりと結び目をほどいた。布が緩み、夜風に揺れる。
そして胸元に手を当てた。
「これが〜」
指先で、胸の中央をとんと軽く叩く。
「わたしの“英雄核”だよ〜」
その瞬間。
胸元の皮膚の下で、淡い赤い光が灯った。
とくん――と、脈打つ。
次の瞬間、皮膚の表面に細い線が走る。
それは裂け目ではなく、まるで花びらの境目のような形だった。
静かに、ゆっくりと。
その線に沿って皮膚が開いていく。
ぱくり、と。
月明かりの下で、花が咲くように。
四つに分かれた皮膚が柔らかく外へと開き、その中心から赤い結晶が姿を現した。
それは血の色をした宝石のような核だった。内側から淡く光り、静かな鼓動に合わせて脈打っている。
開いた“花弁”のような皮膚の中心に、それはしっかりと埋め込まれていた。
ビビはそれを指先でつつく。
「ほら〜」
少し楽しそうに言う。
「わたしの秘密見せたんだから〜責任とってよね〜?」
ベルの目がわずかに細くなる。
浜辺の空気が、戦いの前の静けさへと変わっていった。




