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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第6章ー西大陸からの使者ー
154/160

これからの未来の話をしようー

夜の海は、昼とはまるで別の顔を見せていた。


静かな波が、規則正しく砂浜をさらっていく。月の光が水面に細く伸び、遠くまで銀色の道のように揺れていた。


その浜辺に、二つの影が並んで座っている。


ベルは砂の上に腰を下ろし、膝を立てたまま海を眺めていた。夜風が銀色の髪を揺らす。


隣ではビビが、指先で砂をいじりながらのんびりと海を見ていた。


しばらく波の音だけが続く。


やがてベルが口を開いた。 


「じゃ、本当にいいんだな?」


ビビは顔を少し傾ける。


「うん〜いいよ〜」


あっさりとした答えだった。


ベルはしばらく黙って海を見る。


「……会ったばっかの男だぞ」


波が寄せて、引く。


ビビは小さく笑った。


「だって〜魔王殺しでしょ〜?」


そして少しだけ肩をすくめる。


「それに〜」


月明かりの下で、ビビの目がゆるく細くなる。


「わりと好きだよ〜ベルくん」


波の音が、静かな夜の浜辺に繰り返し響いていた。


しばらく海を眺めていたベルが、ふっと息を吐く。


「それじゃ今夜は思い切って」


隣で砂をいじっていたビビが顔を上げ、にこりと笑った。


ビビはにこっと笑う。


「今夜こそ〜やっちゃおう!」


ビビはくすくす笑いながら辺りを見回した。


「夜の浜辺なんて〜ロマンチック〜」


わざとらしく肩を揺らす。


「こういうとこでするのが好きなんだ〜?」


ベルは海を見たまま肩をすくめる。


「ここなら邪魔も入んねぇしな」


その答えに、ビビが目を細めた。


「ふぅ〜ん、へぇ〜、ほぉ〜ん」


からかうような声だった。


そしてビビは胸に巻いていた布をぐっと下げる。

月明かりの下、胸元があらわになる。


「ここに〜興味深々って聞いたよ〜」


ベルの視線がそこに向く。


「あぁ」


短く答える。


「なんとかしてやりてぇと思ったから来た」


ビビは一瞬だけ目を丸くし、それから楽しそうに笑った。


「ベルくんは〜素直だね〜」


そう言いながら、胸元にそっと手を当てる。


ビビはくすっと笑いながら、夜の海を眺めた。

月明かりが波に揺れている。


「わたしたちと西の大陸に来るのが〜一番手っ取り早いし楽なのに〜」


肩を小さく揺らす。


「ベルくんももの好きだね〜」


ベルは少しだけ砂を蹴った。視線は海のままだ。


「俺は誰かに何かを押し付けられたり、強制されるのが大っ嫌いなんだ」


少しだけ間を置く。


「……そうさせられてるやつもな」


ビビの笑みが、ほんのわずかだけ薄くなる。


しばらく波の音だけが続いた。


やがてビビは、静かに首を振る。


「……自分の〜意思だよ」


そう言って、砂の上に手をつく。


「少なくとも今はね〜」


顔を上げ、遠くの海を見る。


「アダラ達が〜わたしのためにいろいろ考えて〜してくれようとしてるだけで〜」


ふっと、柔らかく笑った。


「わたしはなんてしあわせなんだろ〜って、思えるんだよ〜」


夜風が吹き、二人の髪を揺らす。


ベルはその横顔をしばらく黙って見ていた。

そして小さく息を吐く。


ビビは胸元を押さえたまま、ベルをじっと見上げた。

波の音が、二人の間の沈黙を埋める。


「じゃ〜先に〜確認していいかな〜?」


ベルが眉をひそめる。


「確認?」


ビビは肩をすくめ、くすっと笑った。


「こういうことは先に決めておかないと〜。やり逃げされたら困るし〜」


ベルは小さく鼻で笑う。


「逃げねぇよ。いや、基本は逃げるけど」


砂を軽く蹴りながら続ける。


「約束したからな」


ビビはそれでも、じっとベルを見たままだった。

月明かりの下で、目だけが少し真剣になる。


「それでももっかい〜」


ゆっくりと言う。


「ちゃんとベルくんの〜お口から〜聞かせて欲しいな〜」


ベルはしばらく黙って海を見ていた。

波が寄せては引き、月の光が水面に揺れている。


やがて口を開いた。


「やってみねぇとわかんねぇけど」


少しだけ視線を落とす。


「なんとかしてやる」


ビビはその言葉をじっと聞いていた。


「責任とってくれる〜と思って〜いいんだよね〜」


「あぁ」


ベルはすぐに答える。


「俺が責任とる」


ビビは小さく頷いた。


「じゃ〜無理ってなったら〜」


ゆっくりと言葉を続ける。


「おとなしく西の大陸まで来てね〜。わたしと一緒に〜」


ベルは少しだけ肩をすくめた。


「わかった。そん時はお前らに従う」


その返事を聞いて、ビビは少し安心したように息を吐いた。


「それともう一つ〜」


ビビは目を伏せる。


少し考えるように沈黙し、それからまた目を開けてベルを見た。


「もし〜本当に〜どうにもできそうになかったら〜」


波の音が静かに続く。


そして、ビビはいつもの柔らかい声のまま言った。


「わたしを殺してね」



少しだけ空気が変わる。


ビビは胸に巻いていた布に手をかけ、ゆっくりと結び目をほどいた。布が緩み、夜風に揺れる。


そして胸元に手を当てた。


「これが〜」


指先で、胸の中央をとんと軽く叩く。


「わたしの“英雄核”だよ〜」


その瞬間。


胸元の皮膚の下で、淡い赤い光が灯った。


とくん――と、脈打つ。


次の瞬間、皮膚の表面に細い線が走る。


それは裂け目ではなく、まるで花びらの境目のような形だった。


静かに、ゆっくりと。


その線に沿って皮膚が開いていく。


ぱくり、と。


月明かりの下で、花が咲くように。


四つに分かれた皮膚が柔らかく外へと開き、その中心から赤い結晶が姿を現した。


それは血の色をした宝石のような核だった。内側から淡く光り、静かな鼓動に合わせて脈打っている。


開いた“花弁”のような皮膚の中心に、それはしっかりと埋め込まれていた。


ビビはそれを指先でつつく。


「ほら〜」


少し楽しそうに言う。


「わたしの秘密見せたんだから〜責任とってよね〜?」


ベルの目がわずかに細くなる。


浜辺の空気が、戦いの前の静けさへと変わっていった。


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