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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第6章ー西大陸からの使者ー
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ベルの言葉ー

ベルはゆっくりと立ち上がり、鋭い目でアダラを見下ろした。


「じゃ、お前は俺の言うことなんでも聞くってのか?」


アルティシアとマリーナはそっとベルを見上げる。

二人の顔には徐々に落ち着きが戻り、どこか安堵した表情が浮かんだ。

ミリィもまた、肩の力を抜きつつ、ベルの様子を見守る。


アダラは顔を上げ、力強く頷いた。


「そ、そうだ!」


ベルは一歩前に踏み出し、視線を鋭く向ける。


「なんでも?どんなことでも?」


アダラは迷わず答える。


「そうだ……私にできることなら、この身体も、心も好きにするといい!」


ベルは軽く笑みを浮かべ、ビビに目をやる。


「へぇ、そいつはそのビビのためか?」


「そうだ!なんでも言うことを聞いてやる!その代わりビビをー……」


しかし、言いかけたアダラの声をベルは遮るように叫んだ。


「ふざけんなっ!!」


その一言に、アダラとビビは同時に身体を大きく震わせ、驚きと恐怖が入り混じった表情を見せた。


部屋には張り詰めた空気が漂い、全員が息を呑んで次の動きを見守っていた。


ベルは深く息をつき、少し呆れたように笑った。


「あんたすげぇな、偉いよ。幼馴染とはいっても、血の繋がりもない相手のためにそこまで出来るってのは、尊敬するぜ」


アダラの目が一瞬、鋭く光る。


「……私の覚悟を、ビビの心を、愚弄してんのか?」


ベルは肩をすくめ、笑みを崩さず答える。


「あぁ、してるね!大いに愚弄してやるよ」

「まったく、もう1人のベル、あいつとそっくりだぜ」

「他人のためなら簡単に自分を差し出しやがってよ!俺にはとても真似出来ねぇよ」


アダラは拳を握りしめ、声を震わせる。


「ふっふざけるな!私とビビが一体どんな気持ちで……これまで……」


ベルは怒りを帯びた瞳でアダラを睨む。


「お前は一体何がしてぇんだよ!?大切な家族を守りたいんじゃないのか!?

その方法が、わけのわかんねー魔王殺しなんて呼ばれてる奴に、自分と、その守るべき大事な家族を差し出すことなのか!?」


アダラの目から涙が滲む。


「……それでも、死ぬより、死ぬよりは、他に方法がないんだ!」


ベルは強く首を振った。


「死ななきゃいいってもんじゃねぇだろ!」


そして視線をビビに向ける。


「ビビ、お前だってそうだぞ!?本当に俺みてぇな、会ったばっかりのやつでいいのかよ」


ビビは胸布をそっと巻き直しながら、ふわりと笑った。


「え?ぜんぜん〜いいよ〜?どっちかと言うとラッキ〜?みたいな?」


しばし空気が止まり、部屋には静寂が漂った。


「……だってよ」


アダラが涙を拭いながら言う。


ベルは目を細め、小さく頷く。


「お、おぉ……そうか……なら、いいのか?」


マリーナが声を荒げ、鋭く否定する。


「よいわけあるか!」


アルティシアも真剣な表情で、ベルを見据えた。


「ベル様、いいところまでいってましたのに、最後まで貫いてくださいまし」


ミリィは小さく息を呑み、目を丸くした。


「ビビさん……すごいな」


部屋には緊張と驚きが混ざった空気が漂い、皆がしばらくその場に立ち尽くした。


ベルは珍しく眉をひそめ、少し動揺した様子で口ごもる。


「えー……と、つまりな、何が言いたかったかと言うと……」


しばらく逡巡し、言葉を探すように視線を彷徨わせた後、やや肩をすくめて言った。


「困ってんなら、そう言えってんだよ。そんだけでいいんじゃねぇのか?」


アダラは首をかしげ、きょとんとした表情で問いかける。


「……?どういうことだよ?」


アルティシアは静かに前に踏み出し、優雅に手を合わせて説明を始めた。


「ここはわたくしがご説明します」


アダラは少しほっとしたように息をつき、頷いた。


「お、おぉ、頼む」


アルティシアは軽く咳払いをしてから、柔らかい声で告げる。


「ベル様はこう申しておいでです」


そしてわずかに肩を揺らし、ベルの口調を真似るように、微妙にしわがれた声で続けた。


「いいから俺に任せとけ。俺がなんとかしてやるよ」


その言葉に、部屋の空気は少しだけ和らぎ、皆が息を整える。

ベル自身も、照れくさそうに肩をすくめ、視線を少し逸らした。


アダラは少し息を詰め、ベルの顔を真剣に見つめた。


「つまり……魔王殺しベル・ジット、お前が今から……」


ベルは大きく頷き、力強く視線を返す。


アダラは息を飲み、さらに確認するように言葉を重ねた。


「今から私とビビを抱くってことで、いいんだよな?」


ベルは頭を傾げ、軽く首をかしげた。


「お前……今の俺の話聞いてたか?」


アダラとビビは再び目を合わせ、互いに戸惑いと緊張が入り混じった表情を見せる。


アダラは小さく息をつき、問いかける。


「だから……子作りする気になったんだろ?」


ビビはふわりと肩をすくめ、か細い声で答える。


「え〜そうじゃないの〜よくわかんないけど〜やんないの〜?」


ベルはアルティシア、マリーナ、そしてミリィの順に目を向けた。

ミリィはやはりそっぽを向き、目を合わせようとしない。


ベルは眉をひそめ、軽く頭を振る。


「俺……ちゃんと言ったよな?なんでこいつらに伝わんねぇの?」


アルティシアは小さくうなずき、落ち着いた声で答えた。


「ベル様は間違ってないと思います……」


マリーナは言葉を発せず、目頭に手を当て、静かに感情を抑え込んでいた。


部屋には微妙な沈黙が流れ、全員がベルの次の言動を待っている。


ベルは少し肩を落とし、ため息混じりに呟いた。


「なんか、どうでもよくなってきた」


マリーナはすぐさま顔を上げ、真剣な声で言う。


「考え過ぎるな!お前に考え過ぎるのは向いてない」


アルティシアも続け、力強く頷きながら声を重ねる。


「そう、マリーナ警部の言うとおりです!いつものように考えずに、感じてください」


ベルは目を細め、二人を見やる。


「なんか……お前ら、俺のことバカにしてないか?」


マリーナは少し笑みを浮かべ、否定するように手を振った。


「そ、そんなことはないぞ。ベル、お前は本能に従う方がいい」


アルティシアも小さく頷き、穏やかな声で付け加える。


「そ、そうですわ。自分を信じてください」


ベルはしばし目を閉じ、眉を顰める。

そして、軽く肩をすくめて開いた。


「なんか面倒くさいから、お前らがそれでいいなら、それでもいいや」


その言葉に、アダラとビビは顔を見合わせ、両手のひらを打ち合わせて歓声を上げた。


「いぇーい!」


部屋には笑い声と軽い興奮が広がり、緊張していた空気が一気に和らいだ。


アルティシアが声を張り、静かに提案した。


「じゃんけんを、しましょう」


その真剣な声に、部屋の空気が一瞬で静まり返る。


マリーナは少し首をかしげ、戸惑いながらも問いかけた。


「……アルティシア殿下、いきなりどうされました?」


アルティシアは全員の顔をゆっくりと見回し、目を真っ直ぐに向ける。


「ベル様がその気になられたのは暁光です。ここは一つ、じゃんけんで決めませんか?」


マリーナの瞳に光が宿り、理解を示すように頷いた。


「なるほど……今、理解しました」


アダラは腕を組み、少し不満そうに眉をひそめる。


「それはとりあえず今夜のってことでいいんだよな?私らは絶対にやんなきゃなんないんだ。じゃんけんなんかで終わりにされたらたまんねぇよ」


アルティシアは落ち着いた声で答えた。


「もちろんです。明日も明後日も、チャンスは無限です」


アダラは軽く拳を握り、笑みを浮かべた。


「よし、乗った!」


ビビは肩をすくめ、ふわりとした笑顔で言う。


「私もそれでいい〜勝っても負けてもニコニコね〜」


部屋には、期待と少しの緊張が混ざった空気が漂った。


マリーナが手を前に突き出し、力強く宣言する。


「最初はグー!じゃん、けん...」


アルティシアは悔しげに唇を噛み、眉を寄せる。


「くっ……あいこですか……次こそ」


アダラは手を振り上げ、焦らすように声を張った。


「ちゃっちゃといこうぜ!夜は長いようで短いんだ!」


ビビもふわりとした声で応じる。


「さくさくいこ〜!あいこ〜で〜……」


激戦を繰り広げる四人の声や手の動きに気を取られる中、ベルは何も言わず、ひとりベッドに横たわる。


ミリィはそっと近づき、毛布をベルの肩までかける。

そのまま静かに立ち、万一の事態には自分が盾になる覚悟を胸に秘めていた。


部屋にはじゃんけんの声と、微かな呼吸の音だけが重なり合い、静かな緊張と安心が同居していた。



「あぁ……そっか、そうなんだ。教えてくれてありがとう」


翌朝、ゆっくりと目を覚ましたベルは、先に起きていたミリィに昨夜の話を聞いた。

その内容に頷き、ようやく納得した様子を浮かべる。

目の前の惨状が、やっと理解できたのだ。


アルティシア、マリーナ、アダラ、ビビの四人は、結局じゃんけんの勝負もつかず、誰ともなく寝落ちしてしまったらしい。

部屋の床には、四人がそれぞれ思い思いの体勢で転がっている。


ベルは肩をすくめ、淡々と呟いた。


「要するに、いつも通りってわけね」


微かに笑みを浮かべながら、ベルは床の散乱した光景を眺めた。

昨日の熱気も、今は静かな朝の光に溶け込んでいた。

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