西の大陸の秘密ー
マリーナは腕を組み、鋭い視線でアダラを見据えた。
「聞けばこの1週間、このベルに夜這いを仕掛け続けたと聞いておりますが、それも真剣だったと?」
アダラは肩をすくめ、目を逸らさずに答える。
「あぁ、そうだ」
アルティシアは少し眉を寄せ、声を落として言った。
「2人でベル様の子……子供を欲しいと画策したのも、正統な理由から、と?」
「あぁ、そうだよ」
ミリィは目を大きく開き、少し戸惑いながら口を開く。
「わ、私にはいつも悪ノリに見えました……でも、そうじゃないってことですか?」
アダラは真剣な眼差しで、少し声を強めた。
「だから、そうだって。こっちはお前らや他の大陸のやつみたいに、好いた惚れたとか、そんなに呑気じゃいらんないんだよ」
アルティシアはため息混じりに視線を落とし、静かに言う。
「わたくしも西の大陸の風習などは聞いておりますが、それにしても……」
アダラは突然、顔を赤らめて怒りをあらわにした。
「何も知らないくせに勝手なこと言うな!!」
胡座のまま、声を荒げる。
「お前らには……」
その瞬間、ベルは静かに手を上げて制した。
「待てよ。まずはその理由ってのを聞かせてくれよ」
いつになく真剣な表情で、ベルはアダラの目をまっすぐに見据えた。
アダラとビビは目を合わせ、お互いに軽く頷いた。
「いいだろう。この際だ。ビビ!」
呼ばれたビビは、胸の布に手をかけ、するすると緩め始める。
「こんな時に何を……」
アルティシアが慌てて声を上げる。
「いいから、黙って見てろ」
アダラは冷静に指示を出し、ビビは従う。やがて布を外し、胸元を広げて見せる。
「それが……なんだと言うのです?」
マリーナは眉をひそめつつも、組んだ腕を持ち上げ、胸元を強調してみせる。
「ビビ、見せてやれ」
「は〜い」
ビビの胸の中央が、少しずつ膨らみ始める。
「え……えぇ!?」
ミリィが思わず声を上げる。だんだんと膨らみは大きくなり、中央から裂け目が開いた。
「よぉーく見とけ。これが西の大陸だ」
裂けた皮膚の中には、子供の握り拳ほどの赤い石が埋まっていた。ビビの身体に半分以上埋まり、正確な大きさまではわからない。
「おい……なんだそれ」
ベルは目を見開き、息をのむ。
「これは『英雄核』と言ってな、ビビが生まれた時に埋め込まれた、力の源だ。こいつをひとたび起動させれば、ビビは無敵の戦士になる」
マリーナは眉を寄せ、静かに呟く。
「西の大陸でそんな人体実験まがいの行為など……流石に聞いたこともない」
「そりゃそうさ、門外不出だからな」
アダラは真剣な眼差しで続ける。
「それも、強さを求めた結果、ということですか?」
「そういうことだ。英雄を産み出すのが西の大陸の人間の長年の夢だ。かつての英雄タブラスカみたいな英雄を」
アダラは胸を張り、語気を強める。
「英雄が産まれないなら、作ればいい。そう提言した奴らがいたんだよ」
「その結果が、これだ」
ベルは目を細め、胸の中で言葉を反芻するように呟いた。
「英雄……核だと?」
アダラは静かに頷き、力強い口調で答える。
「そうだ。英雄を人の手で生み出すための技術だ」
ベルは少し身を乗り出し、鋭い目でアダラを見つめる。
「だがそれを……俺は知ってるぞ?」
アダラは思わず微かに笑みを漏らす。
「さすが……魔王殺しだな」
アルティシアは眉を寄せ、声を震わせながら問いかける。
「ベル様、どういうことですか?」
ベルは足元に視線を落とし、低く呼びかけた。
「ミカゲ、見てるか?」
呼びかけに応えるように、部屋の床に落ちた影がゆらりと揺れる。
そして、どこからともなく澄んだ声が響いた。
「はい。主様、いつでも貴方様を見ています」
その声に、一瞬で部屋の空気が凍りついた。
アルティシアもマリーナも、アダラも、ミリィも、ビビも、全員が目を見開き、息をのむ。
ベルは静かに影を見下ろし、いつになく険しい表情を浮かべた。
ベルは影に向かって低く問いかけた。
「ミカゲ、どう思うよ?」
影の揺れの向こうから、静かで澄んだ声が返る。
「……間違いありません。同じ匂いがします」
ベルは少しうなずき、眉間に皺を寄せる。
「……やっぱそうか」
マリーナは腕を組み直し、鋭い視線をベルに向けた。
「ベル、どういうことだ?わかるように説明してくれ」
ベルは少し肩をすくめ、赤い石を指差しながら答える。
「どうもこうもねぇよ、それは英雄核なんで呼ばれちゃいるが……」
指先がビビの胸元に埋まった赤い石を示す。
「それは――『魔王核』だろ」
その言葉に、部屋の空気がさらに張りつめる。
アルティシアもマリーナも、アダラも、ミリィも、ビビも、一瞬息を飲んだ。
ベルは影と赤い石を交互に見つめ、深く息をついた。
アダラは少し目を細め、鋭い笑みを浮かべた。
「さすがは『魔王殺し』、どうやら本物みたいだな」
ベルは眉をひそめ、赤い石を見つめながら呟く。
「英雄になるために、魔王の力を使ったって、そういうことか?」
アダラは肩をすくめ、静かに肯く。
「間違ってはない。要するにそういうことだ」
アルティシアは思わず手を口元に当て、言葉を失った。
「なんと……なんと言うことを……」
マリーナも唇を引き結び、声を潜める。
「これは……こんなことが……」
ベルは軽く目を細め、アダラに問いかける。
「お前ら幼馴染なんだろ?そんなんいいのかよ?」
アダラはふふっと笑い、表情を一変させる。
「いいわけないだろっ!!!」
声に怒りと悔しさを滲ませ、アダラはそのまま続けた。
「ビビと、私は生まれた時から一緒で、幼馴染なんかじゃなく、本当の姉妹みたいに育って来たんだ!」
顔を赤らめ、拳を握りしめながら叫ぶ。
「こんな……こんなの許せない……でも、そうなってるんだから、どうしようもないんだよ!」
部屋の空気は一瞬、怒りと切なさで張りつめ、全員が言葉を失った。
ミリィは目を大きく開き、手を胸の前で組んだまま、震える声で問いかけた。
「で……でも、それとベルさんのお嫁さんになるのと……一体なんの関係が?」
アダラは少し視線を遠くに向け、静かに語り出す。
「要するに、目的は英雄なんだよ。ビビに求められてるのは、英雄になるか、英雄を作るか、どっちでもいいんだ。英雄が生まれるなら、それでいい」
アダラはビビの胸元をそっと見やり、声に力を込める。
「だからビビが魔王殺しに嫁げば、その可能性が生まれる」
「それでいい。それだけでいいんだ」
アルティシアは眉を寄せ、腕を組みながら困惑の色を滲ませた。
「やはり……わかりません。そうすることで、何があるのですか?」
アダラは唇を引き結び、少しだけ俯く。
「……ビビは、18歳になるまでに英雄になんないと、殺されちまうんだよ」
マリーナは思わず息をのむ。
「なっ……」
アルティシアも声を震わせ、視線をアダラに向けた。
「どういうことでしょう?」
部屋の中は一瞬、静寂に包まれ、全員が言葉を失った。
ベルは赤い石を指先で軽く触れ、黙ってその状況を見つめている。
アダラは深く息をつき、言葉を選ぶようにゆっくり話し始めた。
「西の大陸にある魔王核は三つ。それを三人の人間に埋め込んだ。その一つが、ビビだ」
視線をビビに向け、アダラの目には覚悟が宿る。
「西の大陸は、早く英雄が欲しいのさ。だから期限を決めた。英雄核を埋め込んだ人間が、十八になるまでに英雄になれなければ、殺して、また新たな依代に移す」
その言葉に、部屋の空気は凍りつき、誰もが息をのむ。
ベルは赤い石に触れたまま、静かに顔をしかめる。
アルティシアは唇を引き結び、思わず眉を寄せた。
マリーナは目を大きく開き、冷や汗を感じながらその意味を理解しようとした。
ミリィは小さく体を震わせ、ビビの肩に手をかける。
ビビは無言で顔を伏せ、胸に埋まった魔王核を意識せざるを得なかった。
ビビは小さく肩を落とし、ふわりと声を伸ばした。
「私は〜もういいよ〜て言ったんだけどね〜」
アダラは眉をひそめ、強い口調で返す。
「何度も言わせんな。そんなんいいわけないだろ」
ビビは俯きながら、か細い声で応える。
「だって〜どうしようもないよ〜王家には逆らえないもん」
アダラの表情は真剣そのもので、手を前に差し出しながら訴えた。
「だからさ!力貸してくれよ!お前が、『魔王殺し』のお前がビビを嫁さんにして、子供作る意思を示してくれたらさ、少なくとも数年は……ビビは生きられるんだ!」
声を震わせ、アダラはさらに言葉を重ねる。
「なぁ、頼むよ!……頼む……」
「私にできることならなんでもするからさ……お前が望むなら私のことも好きにしていいから」
部屋の中には、静かな緊張と切迫感が張りつめ、ベルの胸に問いかけるような視線が突き刺さる。
ビビは小さく息を吐き、目を伏せたまま、アダラの言葉を受け止めている。




