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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第6章ー西大陸からの使者ー
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魔王殺しの血を求めると言うことはー

大陸警察支部を出たベルとアルティシア達は、そのままどこかで落ち着いて話そうということになり、海の見えるカフェに入った。


途中、アルティシアの服装があまりにも目立つということで、近くの店で普通の街娘のような服に着替えている。


もっとも、お忍びはアルティシアの得意とするところだった。


席に着くと、海風が窓からゆるく入り込む。

遠くには青い海が広がり、港の船がゆっくりと揺れていた。


アイザックが紅茶を一口飲み、静かに語る。


「殿下は以前より、“運命的な出会い”を求めて城を抜け出されることが多くていらっしゃいまして」


アルティシアは涼しい顔でカップを傾けている。


「お忍びで街へ出ては、理想の殿方を探しておられました」


ミリィが目を丸くした。


「そんなことしてたんですか……?」


「ええ」


アイザックは遠い目をした。


「ですがベル様と知り合ってからは、そういった発作もぴたりと止まりまして」


ベルはコーヒーを飲みながら首をかしげる。


「発作って……」


「ええ、ある意味で平和になったのですが」


アイザックは小さくため息をついた。


「今思えば、あれは単に嵐の前の静けさだったのだろうと」


アルティシアはにこやかに微笑む。


「失礼ですわね、アイザック」


そして窓の外の海を眺めながら言った。


「わたくしはただ、自分の運命を探していただけですわ」


ミリィはそっとベルを見る。


ベルは頬をかきながら、苦笑していた。


ベルはコーヒーカップを置き、首をかしげた。


「でもアルティシアさんがわざわざ出向いて来るなんて、そんなにあいつにちょっかい出されるのが嫌なんですか?」


アルティシアは一瞬、きょとんとした顔になる。


「……え?」


そして少し驚いたように目を丸くした。


「まさか、昼のベル様」


ゆっくり首を傾げる。


「わたくしが本当に恋敵を止めようと来たとでも?」


ベルとミリィ、それにアイザックが同時に声を上げた。


「え? 違うんですか!?」


アルティシアはぱちぱちと瞬きをしたあと、くすっと笑った。


「もちろん、それも理由の一つではありますけれど」


カップを静かに置く。


「それが本当の理由ではありませんわ」


ミリィが首をかしげる。


「じゃあ……どうして?」


アルティシアは窓の外の海を少し眺め、それからベルへ視線を戻した。


「ベル様に会いに来た、というのもありますが……」


少し間を置く。


「本当の理由は別にありますの」


ベルが眉を上げた。


「別の理由?」


アルティシアは意味ありげに微笑んだ。


「ええ」


そして紅茶を一口飲み、静かに言った。


「そちらの方が、ずっと重要なお話ですわ」


アルティシアは静かに言った。


「西の大陸に『魔王殺し』を行かせるわけには参りませんので」


ベルは首をかしげる。


「? だからそれって、アダラ姫やビビのちょっかい出す話と一緒じゃなくて?」


アルティシアは首を横に振った。


「行動としては同じですが、意図が異なります」


「どういうことですか?」


アルティシアは少し言葉を選ぶようにして続けた。


「西の大陸は極端に強者を求めるきらいがありまして……」


ベルは頷く。


「そんな話してましたけど。だから強い人と結婚して子供が欲しいって」


アルティシアは静かに目を伏せた。


「その意味合いが違います」


少し間を置く。


「なんと言いますか……」


そしてゆっくりと言った。


「例えばアダラ姫があれだけ自由な振る舞いを許されるのも、彼女が“英雄の再来”とまで言われる生まれのためです」


ミリィが小さく息を呑む。


アルティシアは続けた。


「もし彼女が、なんの能力も持たなければ」


視線をカップへ落とす。


「政略結婚のために囲われる人生だったでしょう」


ベルは少し考え込む。


「……それって普通の王族と同じじゃない?」


アルティシアはゆっくり首を振った。


「いいえ」


静かに顔を上げる。


「西では、“強さ”は血で継がれるものと強く信じられています」


ミリィが眉をひそめる。


「……つまり?」


アルティシアは真っ直ぐベルを見た。


「魔王殺しの血は、あの大陸にとって……」


一瞬言葉を止める。


そして静かに言った。


「国家が手に入れるべき“資源”と見なされるでしょう」


カフェのテーブルに、静かな沈黙が落ちた。


「資源」


アルティシアは一度言葉を切り、静かに続けた。


「もっと言うなら――『兵器』と言う方が正しいかもしれません」


ベルは思わず言葉を失った。


「そんな……」


アルティシアは真剣な表情のまま頷く。


「だから、西の大陸に入ったが最後」


「アダラ姫との婚姻のみならず、そのビビさんをはじめ、他の四人の王女」


一瞬、視線を伏せる。


「他にも子を望める者すべてに、ベル様をあてがうでしょう」


ミリィが思わず声を上げた。


「えっ……!?」


アルティシアは淡々と続ける。


「それほどまでに、あの大陸は“強さ”に価値を置いています」


ベルは困ったように頭をかいた。


「いや……さすがにそれは……」


アルティシアは首を横に振る。


「残念ながら、誇張ではありません」


アイザックが静かに補足した。


「西の大陸の国家観は、我々東とはかなり異なります」


「国家の存続と強者を求めるのが最優先。そのためなら、個人の人生は容易く組み込まれる」


ミリィは青い顔でベルを見る。


「……ベルさん……それ……」


ベルはしばらく黙ってから、苦笑した。


「……あの人、逃げそうだなぁ」


アルティシアは即座に言った。


「逃げても追われます」


そして真っ直ぐベルを見た。


「だから止めに来たのです」


アルティシアは静かに言葉を続けた。


「カダブランカをはじめ、西の大陸のその考え方が間違っているとは思いません」


カップを両手で包むように持つ。


「我がルグレシアはもちろん、どこの国や民族でも同じ考えではあります」


少し苦く笑う。


「むしろ王家としては、正しい姿なのかもしれません」


ミリィは黙って聞いていた。


アルティシアはゆっくり顔を上げる。


「けれど――ベル様」


真っ直ぐにベルを見る。


「魔王殺しが関わるとなると、話は違ってきます」


海の光が窓から差し込み、テーブルの上に揺れた。


アルティシアは静かに言った。


「極端な結果になってしまう可能性が高いのです」


ベルは腕を組み、少し考え込む。


「極端……?」


アルティシアは頷いた。


「ええ」


「西の大陸は“強さ”を何よりも重んじます」


「そこに、魔王を討った存在が現れたら――」


言葉を選ぶように、少し間を置く。


「彼を中心に、国そのものの在り方が変わるほどの影響が出るかもしれません」


ミリィが息を呑む。


「……そんなにですか?」


アイザックが静かに補足した。


「歴史上、魔王を討った者はおりません」


「前例がない以上、どこまで熱狂が広がるか誰にも予測できないのです」


ベルは窓の外の海をぼんやり見た。


「……なんか、あの人また面倒なことになりそうだなぁ」


アルティシアは小さく頷いた。


「ええ」


そして静かに言った。


「だからこそ、止める必要があるのです」


アルティシアは静かに続けた。


「アダラ姫達のように、ベル様の血を求める国や組織も、これから増えることでしょう」


紅茶を一口飲み、淡々とした声で言う。


「アダラ姫が極端に行動力があり、またそれを許される存在だった――ただそれだけの話です」


ミリィが不安そうにベルを見る。


アルティシアはふっと小さく笑った。


「もちろん、わたくしとて王族です」


「ベル様の血を欲している部分も、ないとは言い切れません」


そして少し肩をすくめる。


「99%純愛とはいえ」


ベルは思わず吹き出した。


「残り1%は?」


アルティシアは悪びれもせず答える。


「国家戦略ですわ」


ミリィがぽかんとする。


アイザックは静かに頷いた。


「大変正直なご説明かと」


ベルは苦笑しながら頭をかく。


「なんか……正直すぎて逆に安心するなぁ……」


アルティシアはにこやかに言った。


「嘘をついても意味がありませんもの」


そして真剣な表情に戻る。


「ですが、だからこそ申し上げます」


「西の大陸に行けば、ベル様は“人”として扱われない可能性が高い」


「それだけは、避けたいのです」


ベルは腕を組み、しばらく考えてから頷いた。


「わかりました。ただの恋の鞘当てじゃないってことですね」


アルティシアは静かに微笑む。


「もちろんですわ」


そして真っ直ぐベルを見る。


「わたくしのベル様でなかったとしても、同じような存在がいたなら、同じように止めた……と思います」


ベルは少し間を置き、じっとアルティシアを見る。


「ちょっと自信ないんかい」


ミリィが思わず吹き出しそうになるのをこらえた。


アルティシアは一瞬きょとんとしたあと、くすっと笑う。


「正直者ですので」


アイザックが静かに頷く。


「殿下は昔からそのようなお方でございます」


アルティシアはカップを持ち上げながら言った。


「ですが一つだけは確信していますわ」


「ベル様が関わると、世界はだいたい騒がしくなる」


ベルは苦笑する。


「それ、あの人のせいだよね」


アルティシアは楽しそうに頷いた。


「ええ。ですから――」


少し身を乗り出す。


「今回はわたくし達が、先回りしておこうというわけです」


「確かに……言われてみると、その可能性もあり得ますね」


「さすが賢姫と名高いアルティシア殿下」


聞き覚えのある声に、ベル達は振り返った。


そこには、腕を組んで立つマリーナの姿があった。


ただ、いつもの整った姿ではない。

髪は少し乱れ、制服はところどころ破れ、ガーターベルトに吊られたストッキングにも裂け目が入っている。


ベルは思わず立ち上がった。


「マリーナさん!? どうしてここに……てかなんでそんな格好に……」


マリーナは少しだけ息を整え、淡々と答える。


「国家からの緊急要請として、緊急用の転送魔法陣を使用しました」


そして自分の袖の破れをちらりと見た。


「急かしたせいで出力が安定せず、この有様です」


ミリィが目を丸くする。


「えっ……転送魔法って、そんな……」


アイザックが静かに頷いた。


「長距離の緊急転送は、術式が不安定になりやすいのです」


アルティシアは椅子に座ったまま、少し驚いた顔でマリーナを見ていた。


「まあ……警部」


そしてくすりと笑う。


「随分と大胆な登場ですこと」


マリーナは腕を組んだまま答える。


「殿下が先に動かれたと聞きましたので」


視線がまっすぐアルティシアに向く。


「こちらも急ぐ必要があると判断しました」


ベルは困ったように頭をかく。


「……なんかまた、騒がしくなってきた気がする」


ミリィが小さく頷いた。


「……気のせいじゃないと思います」


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