表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第6章ー西大陸からの使者ー
146/160

マリーナの気がかりー

ベルとミリィは、街の大陸警察支部へ向かうことにした。

マリーナとの定期連絡の約束を守るためだ。


建物に入り、受付で用件を伝える。

「マリーナ警部への定期連絡で来ましたー」


受付の女性はうなずき、いつものように奥の部屋へ案内した。他の支部と同じ手順だ。


部屋に入ると、中央に魔術通信モニターが設置されている。

光る魔力陣と共に、モニターには通信相手の姿が浮かび上がっていた。


ベルは軽く息をつき、ミリィの方を見る。

「準備いい?」


ミリィはうなずき、姿勢を正す。

「マリーナさんとの連絡、今回は色々相談もあるので」


ベルは魔術通信モニターに向かって歩み寄り、軽く手をかざす。

「よし、お願いしまーす」


やがて魔術通信モニターにマリーナの姿が映し出された。


「2人とも元気そうだな」

マリーナは微笑みながら声をかける。


ベルはにこりと笑って答えた。

「だって、こないだ連絡してからまだ1週間も経ってないじゃないですか」


マリーナはうなずき、少し間を置いてから言う。

「確かに、そうだったな。時に――」


ふと視線を鋭く向けて、問いかける。

「彼は元気か?」


ベルは腕を組みながら、少し大げさに笑う。

「元気元気、元気過ぎるくらいです」


それを聞いたマリーナは、思わず微笑む。

「わ、私のことは何か言ってなかったか?」


ベルはちらりとミリィを見る。

毎度のやり取りに辟易した顔で、ミリィは小さくため息をつきながら言った。

「『マリーナさんによろしく』と言って欲しい……と」


途端にマリーナの表情が柔らかくなる。

「そうか……あいつめ……」


マリーナの声がモニター越しに響く。

「特に変わったことはなかったか?」


ベルは少し考え込み、口元に手をあてて答える。

「あー、ありました」


少し息を弾ませながら続ける。

「先日の夜、ミリィとあいつが海で遭難船を拾って……」


マリーナは苦笑混じりに言った。

「野良犬拾ったみたいに言うなぁ」


ベルは軽く肩をすくめて、話を続ける。

「その中の女の子2人と仲良くなって、最近毎晩あいつと――」


その言葉に、ミリィはぱっと手をあげて制止する。

「べ、ベルさん!」


ベルは思わずあっと声を上げ、言葉を止めた。

「あ、あっ……」


マリーナは静かに、しかし鋭い視線で問う。

「……その時の状況を詳しく。その2人の情報提供も併せて」


こうして、恋の事情聴取が始まった。


マリーナはモニター越しにうなずき、言った。

「なるほど……西の大陸、カダブランカの人間か。私もさすがに行ったことはないが、知ってはいる」


ベルは少し驚き、口元に手を当てて笑った。

「意外、マリーナ警部いろんなとこ行ってそうなのに」


マリーナは静かに首を振る。

「大陸警察の職務に就くものは、簡単に他大陸には行けないのだよ」


ベルはふむ、と唸りながら考える。

「なるほど……そういう制約もあるんですね」


マリーナはモニター越しに、少し目を細めて説明を始める。

「西の大陸は広大で、ほとんどが砂漠地帯だ。ところどころに渓谷や山地が点在しているが、生活に適した地域は限られる」


ベルはメモを取りながら、眉を寄せる。

「ほんとにほとんど砂漠なんですね」


マリーナは続ける。

「沿岸の港町や渓谷の周辺に人が集まっている。港町では交易が盛んだが、資源自体は乏しく、生活の多くは外部から運び込まれる物資に頼らざるを得ない」


ミリィは小さく息をつき、メモを取りながら言った。

「西大陸は砂漠が多いと聞いたことがあります。やはり、生活は限られた地域に集中しているのですね」


ベルは首をかしげる。

「じゃあ、カダブランカはどういう国なんですか?」


マリーナは少し微笑み、説明を続ける。

「カダブランカは海沿いに大きな港のある王国だ。交易は盛んで人や物資の出入りも多い。ただし資源には恵まれず、食料や燃料、鉱物は外部から運び込む必要がある」


ベルは小さく息をつき、目を細める。

「外から物資を運ばないと成り立たない国..,だから人が大切って」


マリーナは少し真剣な顔で続ける。

「港町という性質上、住民は用心深く、外部の人間には警戒心を抱く。初めて訪れる者は、地元民との接触の仕方を慎重に考えた方がよい」


ミリィは姿勢を正し、感想を交えて答える。

「はい……港町は交易が盛んだと聞いたことがありますが、資源が乏しいと生活は厳しそうですね。慎重に行動する必要があると思います」


ベルはうなずき、メモを閉じる。

「よし……だいたい様子はわかった。ありがとう、マリーナさん」


マリーナの視線はモニター越しに鋭く光る。

「それで――その2人の女性とは、どのような人物なんだ?」


恋の事情聴取は、まだ続いていた。


ベルは少し考え込みながら答える。

「えっと……アダラとビビっていって、アダラはミリィより少し年上かなー、ビビは私と同じくらい?」


(身体は私と違って、ご立派だったけど……)ベルは小さく心の中で補足する。


するとマリーナは、こめかみに拳を当てて眉を寄せた。

「……待て、待て待て待て」

「アダラと?」


ベルは少し間を置いてから、にっこりと答えた。

「うん、アダラ」


「マークス警部補!」


マリーナがモニターの端を見やり、声を張った。

画面には映っていないが、そこにいるマークスが応える。


「ハ!」


「西大陸でアダラと言えば……確か」


「警部の認識に間違いないと、私も記憶しております!」


「やはり……そうか」


ベルは思わず身を乗り出し、首をかしげる。


「え? なになになに?」


マリーナは少し疲れた雰囲気で言った。

「カダブランカのアダラとビビと言うのは…」


間を置き、言葉を続ける。

「カダブランカ王の10人いる王子王女の末娘、アダラ・カダブランカ姫のことだ」


ベルは眉を上げた。

「え……姫、ですか?」


マリーナは画面越しに少し眉を寄せ、確認するように訊いた。

「その子は、白髪に白い肌であっただろう?」


ベルは少し驚きながら答える。

「え? うん、そうだけど…」


マリーナは小さく頷き、言葉を続けた。

「間違いない。西大陸の人々は基本的に黒髪に褐色の肌という特徴を持つ。その中で稀に、白髪や白い肌の者も生まれる事があるという」


画面越しの彼女の声に、少し重みが加わる。

「そういう者を西大陸では、英雄の子孫と呼ぶらしい。実際そういうものは魔力も桁違いに強い」


マリーナは画面越しに、少し遠くを見るような目つきで話を続ける。


「アダラ姫と言えば、完全な白髪に白肌。両方の特徴を持つのは、かの英雄タブラスカのみだったため、彼女が生まれた時には英雄の再来として、カダブランカのみならず諸外国含む西大陸全土で祝典が開かれたと聞く」


ベルは驚きの色を隠せず、つい声を漏らした。

「え……そんなに有名だったんだ」


ミリィはメモを取りながら、控えめに頷く。

(さすがに王家の末娘……生まれた時から周囲の注目を集めていたのね)


マリーナは微かに微笑みながらも、真剣な声で続けた。

「ただし、その華やかさとは裏腹に、王家の姫として育つ者は常に周囲の期待と制約に縛られるものだ」


マリーナは画面越しに視線を戻し、少し感心したように言った。


「そしてその侍従のビビと言えば、西大陸最強とも名高い戦士と聞く」


軽く息をつき、視線を画面越しの二人に向ける。


「お前たちは、毎度毎度よくもまぁすごい面子と出会うものだな」


ベルは画面越しに眉をひそめた。


「ぜんぜんすごく見えない二人だけど…」


マリーナは穏やかに笑みを浮かべ、返す。


「優れたものほどそんなものだ。彼も、普段はとても強そうには見えないだろう?」


ベルは少し考え込むようにうなずいた。


「んー、たしかに…」


マリーナは視線を真剣に画面に戻す。


「それで、その二人が彼にちょっかい…いや、接触を図る意図はなんだ?」


ベルは少し言葉を濁す。


「あー、それは…」

(ちょっとマリーナさんには言えないよね)


するとミリィが静かに口を開く。


「お二人はベルさんの子供が欲しいらしいです」


ベルは思わず目を見開いた。


「ちょ、ちょっとミリィ!?」


ミリィは落ち着いた顔でメモを置き、言い切る。


「いいんです。たまには叱られたらいいんです」


マリーナは別段落ち着いた様子で笑い、画面越しに言った。


「すまない。よく聞こえなかった。もう一度言ってくれないか?」


ミリィはためらうことなく、正確に伝える。


「ベルさんと子作りしたいって、毎晩夜這い?をしにきてます」


マリーナは軽く目を細め、短く感心したように返す。


「ほぅ」


ベルは思わず肩をすくめ、少し赤くなる。


「ちょ、ちょっと…」


ミリィは冷静にメモを置きながら言う。


「正確に報告するのも大切ですから」


ベルは思わず眉をひそめる。


「だからって…あぁ」


ふと画面越しのマリーナを見ると、握りしめた拳から血の滴る姿が映っていた。


マリーナは淡々と問いかける。


「私にはよくわからないのだが、その夜這い?とやらは成功しているのだろうか?」


ベルは肩をすくめる。


「いまのところは、毎晩ミリィが追い払ってくれて」


ミリィは淡々と付け加える。


「でも、初めて会った夜には気絶したまま宿に連れこんで、服を脱がしたみたいですよ」


ベルは顔を手で覆い、息をつく。


マリーナは微かに眉を上げ、画面越しに声を漏らす。


「ほぅ。それはそれは…由々しき事態と言える」


ベルは慌てて手を振った。


「ちょ、ちょっとミリィ、怒ってるのはわかるけど、さすがに…」


ミリィは一歩も引かず、真剣な声で返す。


「いいんです! 前々からベルさんはどうかと思っていたんです! いっつもいつも違う女の人を連れ込んだり、連れ込まれたり!」


マリーナは少し眉をひそめ、画面越しに呟くように言った。


「連れ込んだり、連れ込まれたりしてるのか…」


ミリィは咄嗟に強く言い切る。


「マリーナさんも、その一人です!」


ベルは思わず目を見開き、唇をかむ。


マリーナは画面越しに少し困ったように笑った。


「いや、私にはそのようなことは…なくもない、か」


ミリィは目を丸くし、思わず声を荒げる。


「マリーナさんも、なんであんなデリカシーのない人がいいんですか!」


マリーナは肩をすくめ、少し含み笑いを浮かべる。


「ミリィ、それを聞いてしまったら、応えるのに三日三晩はかかるぞ。聞いてくれるか?」


ミリィは全力で首を横に振った。


「イ・ヤ・デ・ス!」


ベルは二人のやり取りを見ながら、思わず頭を抱えた。


マリーナは画面越しに視線を戻し、軽く息をついた。


「話を本筋に戻しても?」


ベルは肩をすくめ、小さく頷く。


「そうね…お願いします」


マリーナは少し真剣な表情になる。


「わかった。その二人について、彼の反応はどうだ?」


ベルは目を細め、口をもごもごさせる。


「そっちが本題かい」

「いやー、どうかなー…わかんないかも」


ミリィはためらいなく報告する。


「おっぱい見せてもらって喜んでたって言ってました」


ベルは顔を手で覆い、思わず小さくため息をつく。


「おっぱ…確かにそんなようなこと言ってたけど…」


マリーナは画面越しに軽く眉をひそめ、微かに舌打ちするように呟いた。


「しまった…彼は胸に強く興味を抱くタイプだったか…私も見せておけばよかった」


ベルは慌てて手を振った。


「だ、大丈夫ですよ。マリーナさん、胸では私の知る限り最強だから」


マリーナは軽く頷き、少し含み笑いを浮かべる。


「なるほど。つまり彼は私の胸に惹かれている、そういうことだな?」


ベルは顔を手で覆い、困ったように答える。


「いや、知らんけど」

「てか、そうだったとしても、そんな理由でいいんですか?」


マリーナは淡々と答える。


「問題ない。彼が喜ぶなら、顔でも胸でも、多少アブノーマルな行為だろうとな」


ベルは思わず頭をかき、視線を落とした。


「ごめんなさい…聞いた私が悪いです」


ミリィは画面越しに少し首を傾げ、静かに言った。


「私とベルさんはポテンシャルに懸けるとして」


ベルは肩を落とし、小さくため息をつく。


「ミリィはまだしも…私にポテンシャルあるのかな…」


ミリィは少し真剣な目で問いかける。


「その西大陸の王女が魔王殺し、ベルさんを呼ぶのは…どういう理由なんでしょう?」


マリーナは少し考え込み、画面越しに答えた。


「わからないな。いくつか推測は立つが…」


ベルは興味深そうに前のめりになる。


「たとえば…?」


マリーナは少し息をつき、言葉を選ぶように続けた。


「わざわざ魔王殺しに会いにきて、また今、こ、子供を作りたいと画策しているとなると…」


ベルは眉をひそめる。


「なると?」


マリーナは静かに視線を画面に向けたまま言った。


「英雄の再来ことアダラと、魔王殺しベル・ジット…強さを最高の誉とする国だ。その子供を王家が望むのは自然なこと」


ミリィは黙って頷きながらも、どこか複雑そうな表情を浮かべた。


ベルは画面に視線を落とし、ゆっくり息をついた。

「……そういう考えも、あるんだね」


マリーナは淡々とした声で続ける。

「でも、今ここで考えても仕方ない。今は状況を把握して、慎重に動くしかない」


ベルは頷き、画面の向こうを見つめながら決意を固めた。

「わかった。気をつける……」


部屋の中は静かだが、画面越しの会話には、三人それぞれの覚悟と緊張が漂っていた。


と、その時、ベルたちのいる部屋の扉が開いた。


「そうです。これはいわばベル様を巡る世界規模の陰謀―必ず止めなければなりません」


モニター越しのマリーナが目を見開き、声が詰まる。

「え……!?」


ベルとミリィも同時に振り返る。


そこには、アルティシア・ヴァン・ルグレシアと宮廷侍従長・アイザック・オランが立っていた。


アルティシアは長い金髪を揺らし、紫の瞳を真剣に光らせている。小柄で華奢ながらも、凛とした佇まいは堂々としていた。


その隣に立つアイザックは白髪の紳士。右目にはオラクルを装着しており、初老ながら背は高く、立ち振る舞いはまるで完璧な執事のように凛としていた。


ベルは目を見開き、思わず後ずさる。

「えっ……王女様……!?」


ミリィも口を押さえ、小さく息を呑む。

「え.,.ええ!?どうして...?」


マリーナは画面越しに手を押さえ、驚きで言葉が出ない。


アルティシアは軽く笑みを浮かべ、深く頭を下げる。

「失礼いたします、ベル様。突然お邪魔して申し訳ございません」


アイザックも静かに頭を下げ、落ち着いた声で告げた。

「本日は私どもからのご説明とお願いに参りました。どうかお耳をお貸しいただけますでしょう」


部屋の中は、一瞬息を呑む静寂に包まれ、アルティシアの存在感が空気を支配していた。


ベルはまだ少し固まったまま、視線をそらせずにアルティシアを見つめる。

「……わ、わかりました。聞きます。」


ミリィもゆっくり頷く。


マリーナは画面越しで軽く頷き、深呼吸する。

「アルティシア殿下..,どうしてここに...」


その瞬間、緊張と驚きが混ざった空気の中、三人と二人の間に新しい会話の幕が開いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ