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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第6章ー西大陸からの使者ー
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ベルVS

ベルは首をかしげ、向かいに座る二人を見た。


「二人はどうして魔王殺しに会いに来たの?」


ビビはきょとんと目を丸くした。


それから、思いついたように指を一本立てる。


「決まってるよ〜」


少し身を乗り出し、にこにこと笑う。


「強い人に会ってみたかったから〜」


あまりにもあっさりした答えだった。


ベルは思わず瞬きをする。


「それだけ?」


ビビは大きくうなずいた。


「それだけ〜」


横で聞いていたアダラも腕を組み、楽しそうに笑う。


「西大陸じゃ有名なんだよ。魔王殺し」


「そりゃもう伝説みたいなもんだ」


ビビがぐっと身を乗り出す。


「剣が空を割ったとか〜」


「魔王の軍勢を一人で止めたとか〜」


「海が割れたとか〜」


横からアダラがすぐに口を挟んだ。


「それはさすがに盛りすぎだろ」


ビビはけろっとした顔で肩をすくめる。


「いや〜でもさ〜」


くすくす笑いながら続けた。


「本物見たら分かるかな〜って思って〜」


ベルは腕を組み、少しだけ考え込む。


「……なるほどね」


納得したように小さくうなずくと、ふと思いついたように顔を上げた。


「じゃあさ」


二人を順番に見て、軽く首を傾ける。


「もし本当に魔王殺しだったら、どうするの?」


ビビは一瞬も迷わなかった。


にこっと笑う。


「さっき決めたよ〜」


そして胸を張る。


「お嫁さんになる〜」


次の瞬間。


ごん、と鈍い音が部屋に響いた。


ベルが机に額を打ちつけていた。


「なんでそうなるのよ……」


ビビはにこにこと笑ったまま、胸を張った。


「強い人の子供を産むのが〜私たちの使命だから〜」


隣のアダラもすぐに大きくうなずく。


「そう!」


腰に手を当て、誇らしげに続けた。


「私たちの国じゃな、英雄を産むことが最高の栄誉なんだよ!」


ベルはしばらく何も言わず、二人の顔を見比べていた。


やがて、ゆっくりとまばたきをする。


「……へぇ」


納得したような、していないような声だった。


その横で、ミリィがそっと手を挙げる。


「それは……その……」


言葉を選ぶように視線を泳がせる。


「ご本人の気持ちは、あまり関係ないんですか?」


アダラが目をぱちくりさせた。


「ん?」


ビビも同じように首を傾げる。


「気持ち〜?」


二人は顔を見合わせ、それから同時にベルの方を向いた。


その視線を受けたベルは、慌てて両手を振る。


「いやいやいや、ちょっと待って!」


思わず椅子から半分立ち上がった。


「話がなんか、どんどん変な方向に行ってない!?」


アダラは腕を組み、くくっと笑う。


「変か?」


ビビも楽しそうにうなずいた。


「全然〜普通だよ〜?」


ベルは天井を見上げ、大きく息を吐いた。


「……あいつ、ほんと何してんのよ」


アダラが胸を張り、親指で隣のビビを指した。


「ビビはこう見えても、私の国じゃかなり強いんだ!」


ビビも胸の前で手を組み、ゆらゆらと体を揺らす。


「そぉ〜私はこう見えて〜とてもとても強いの〜」


どこか誇らしげな顔だった。


ベルは思わず腕を組む。


「……そうは見えないけど」


その横でアダラが吹き出した。


「まあな!」


そしてすぐに、にやっと笑う。


「魔王殺しにはボロ負けした上に、おっぱい見られたけどな」


ビビがむっと頬をふくらませる。


「もぉ〜言わなくていいのに〜」


だが次の瞬間、けろっと笑った。


「いいよ〜お嫁さんになるなら〜それくらい〜」


ベルは額に手を当てた。


「軽すぎるでしょ、その基準……」


アダラが突然、ぱん、と手を打った。


「よし、決めた!」


身を乗り出して、にやりと笑う。


「とりあえず今夜、夜這いしかけようぜ!」


ベルの動きがぴたりと止まった。


「は?」


ビビは少し考えるように首を傾げ、それからぱっと顔を明るくする。


「既成事実だね〜」


にこにこしながら頷いた。


「おっけ〜!やっちゃお〜」


「待ちなさい待ちなさい待ちなさい!」


ベルが慌てて両手を振る。


椅子から半分立ち上がり、二人を止めた。


「なんでそういう発想になるのよ!」


アダラは腕を組み、あっけらかんと言う。


「だって効率いいだろ?」


ビビも真剣な顔でうんうん頷く。


「うん〜合理的〜」


ベルは思わず頭を抱えた。


「合理的じゃない!絶対違う!」


ミリィが横で小さく声を上げる。


「そ、そうです!ダメです!」


しかしアダラは気にもせず、指を折りながら数え始めた。


「まず夜這いするだろ?」


「そしたら既成事実になるだろ?」


「そしたら結婚だろ?」


ビビがぱっと手を上げる。


「完璧〜!」


ベルは机に突っ伏した。


「……なんでこんな作戦会議みたいになってるのよ……」


ミリィが突然、ばんっと机を叩いて立ち上がった。


「今夜から!」


きっぱりと言い切る。


「ベルさんとは、私が一緒に寝ますから!」


アダラがぽかんと口を開ける。


「いやーさすがにお前は無理だろ」


ビビもうんうんと頷く。


「うん〜さすがにね〜」


ミリィはむっと頬を膨らませた。


「なんでですか!」


アダラは肩をすくめる。


「だってお前、子供じゃん」


「夜這いとか張り合う年じゃないだろ」


ビビも苦笑する。


「うん〜守る側だよね〜」


ミリィは顔を真っ赤にした。


「違います!」


「そういう意味じゃありません!」


ベルが額を押さえる。


「……じゃあどういう意味?」


ミリィは胸を張った。


「ベルさんを守るためです!」


「この人たち、絶対夜中に変なことしますから!」


アダラが笑い出す。


「バレてるじゃん」


ビビもくすくす笑う。


「作戦〜失敗〜」


ベルは深くため息をついた。


「……もう好きにして……」


ビビがふと思い出したように、隣のアダラを見た。


「アダラは〜魔王殺しの子供、欲しくないの〜?」


アダラは一瞬きょとんとしたあと、あっさり頷いた。


「え? 私も欲しいよ?」


そして当たり前のことのように続ける。


「だから一緒にやるよ?」


ビビの顔がぱっと明るくなる。


「だよね〜」


大きくうなずき、両手をぱんと合わせた。


「じゃ〜みんなでがんばろ〜」


その言葉に、ベルの眉がぴくりと動く。


「ちょっと待って」


二人をじっと見ながら言った。


「なんか、いかがわしい話してない?」


アダラは腕を組み、真顔で首を振る。


「してない」


「私らは真剣だよ?」


ビビもうんうんと頷く。


「そうだよ〜」


穏やかな声で続けた。


「子供は国の未来だものね〜」


「何よりも大切だもの〜」


そのあまりに真面目な顔に、ベルは返す言葉を失った。


しばらく黙って二人を見つめる。


それから小さく息を吐いた。


「……なんでこんな真面目な顔でそんな話できるのよ……」


アダラは少しだけ真面目な顔になり、腕を組んだ。


「中央大陸の人間にはわかんないかもだけどさ」


ゆっくりと言葉を続ける。


「私らの国、ほとんど砂漠なんだよ」


「農作物なんて育たないし、資源だってほとんどない」


ベルは黙って聞いていた。


アダラは肩をすくめる。


「だからさ」


「一番の資源は人なんだ」


ビビがこくこくと頷く。


「そう〜」


少しだけ背筋を伸ばした。


「人は国なり、国は人なり」


穏やかな声で続ける。


「英雄タブラスカの建国の言葉なんだ〜」


部屋の空気が少しだけ静かになる。


アダラはその空気を振り払うように、ぱっと笑った。


「だから私はここに来たんだ!」


拳をぐっと握る。


「誰よりも強い奴に会いたくて!」


その言葉に、ベルは少しだけ目を細めた。


そして小さく息を吐く。


「……なるほどね」


さっきまでの軽い調子とは違い、今度は少しだけ納得した声だった。


ベルは腕を組み、少しだけ首を傾けた。


「じゃあさ」


二人を交互に見て、軽く笑う。


「魔王殺しはお眼鏡にかなったって感じ?」


アダラはすぐには答えなかった。


顎に手を当て、少し考える。


「んー……」


それから肩をすくめた。


「そりゃーまだ分かんないなー」


椅子の背にもたれながら続ける。


「まだビビに勝っただけだし」


「でも、全然本気出してる風でもなかったな」


その言葉にビビがすぐ反応する。


「わ、私だってまだ本気じゃなかったよ〜」


少しむくれた顔で言う。


アダラは苦笑して肩を叩いた。


「まぁな」


「ただでさえ西大陸出たら精霊様の力弱まるしな」


ビビもこくこくと頷く。


「そうそう〜」


指を一本立てる。


「まだ英雄魂も使ってないし〜」


その言葉に、ベルの眉がぴくりと動いた。


「……英雄魂?」


聞き慣れない言葉だった。


ビビはにこっと笑う。


「うん〜」


「西大陸の、選ばれた人だけが持ってる力だよ〜」


ベルは腕を組んだまま、じっと二人を見る。


「……へぇ」


小さくつぶやく。


「なんか、思ってたより物騒な大陸ね」


アダラがふとベルを見た。


「そういえばさ」


椅子に肘を乗せながら、気軽な調子で言う。


「あんたもベルって名前だろ?」


少し首を傾ける。


「強いのか?」


突然話を振られ、ベルは目をぱちぱちさせた。


「え?」


自分を指差す。


「私?」


一瞬言葉を探すように視線を泳がせ、それから苦笑した。


「私は……その……」


頬をかきながら、小さく首を振る。


「強くは、ない……」


その答えを聞いた瞬間、アダラはあっさり頷いた。


「だろうなー」


あまりにも即答だった。


ベルの口がぽかんと開く。


「え、ちょっと」


「今の間、何?」


アダラは肩をすくめる。


「だってさ」


ビビも横でうんうん頷いている。


「うん〜なんか〜そんな感じする〜」


ベルは思わず机に突っ伏した。


「……なんでよ……」


ベルはむっと頬を膨らませた。


「こ、これでも!」


思わず身を乗り出す。


「旅に出てからはいろいろあって、少しは強くなったと思ってるんだけど!」


アダラはその様子を見て、口の端を上げた。


「へぇ?」


椅子から立ち上がり、ぐっと背伸びをする。


「じゃー私と手合わせする?」


その言葉に、ベルの眉がぴくりと動いた。


一瞬だけ迷う。


だがすぐに椅子を押して立ち上がった。


「い、いいわよ!」


指をびしっと突きつける。


「やってやろうじゃない!」


アダラの顔がぱっと明るくなる。


「いいじゃん!」


拳を鳴らして笑う。


「泣くまでやろう!」


その横で、ビビが楽しそうに手を叩いた。


「わ〜朝から決闘だ〜」


ミリィは慌てて二人の間に入る。


「だ、ダメです!」


必死に両手を広げた。


「宿の中で戦ったら、また追い出されます!」


ベルとアダラは同時に「あ」と声を漏らす。


ビビがくすくす笑った。


「じゃあ〜外だね〜」




打ち付ける波の音がこだまする、


潮風の吹きつける防波堤の上。


石の上に、ベルが仰向けに転がっていた。


服はところどころ擦り切れ、髪も乱れ、腕も足も力なく投げ出されている。


そのすぐ近くで、アダラが腕を組んだまま立っていた。


呆れた顔だった。


「弱いとは思ってたけど……」


ため息をつく。


「弱すぎっしょ」


少し離れたところで、ビビがしゃがみ込みながら指を折る。


「えっと〜」


「三十秒〜」


顔を上げて、にこっと笑った。


「三十秒もたなかったね〜」


ベルは防波堤の石を見つめたまま、小さくうめく。


「こんな……はずじゃ……」


体を起こそうとするが、腕に力が入らない。


結局そのまま、再び石の上に倒れ込んだ。


アダラが肩をすくめる。


「いや、むしろ予想通りだったけどな」


ビビもこくこく頷く。


「うん〜魔力もないしね〜」


ベルは片目だけ開け、二人をにらんだ。


「……フォローする気ある?」


ビビは少し考える顔をした。


「うーん〜」


それからにっこり笑う。


「ない〜」


ベルは再び防波堤に顔を伏せた。


「ひどい……」


防波堤の上で、ベルはまだ転がったままだった。


潮風が吹き抜け、髪がばさりと揺れる。


アダラは腕を組んだまま、呆れた顔で見下ろしていた。


ビビはその横でしゃがみ込み、ベルの顔をのぞき込む。


「よかったら〜」


ゆったりした調子で言った。


「私たちが鍛えてあげましょ〜か〜?」


ベルの目がぱっと開いた。


がばっと上半身を起こす。


「え!?」


砂埃を払うのも忘れて、身を乗り出した。


「ほんとに!?」


ビビはにこにこと頷く。


「うん〜」


「アダラは強いし〜」


「私は精霊術あるし〜」


隣でアダラが鼻で笑った。


「まぁ、暇つぶしにはなるな」


ベルは一瞬ぽかんとして、それから顔を輝かせた。


「やる!」


拳をぎゅっと握る。


「やるやる!絶対やる!」


アダラが眉を上げる。


「おいおい」


「さっきまで地面に転がってた奴が、もう復活してるぞ」


ビビがくすくす笑う。


「元気だね〜」


ベルは立ち上がりながら、拳をぎゅっと握ったまま言った。


「だって!」


「強くなれるなら、なんだってやる!」


その言葉に、アダラとビビは顔を見合わせる。


そして同時に、にやりと笑った。


「じゃあ――」


アダラが指を鳴らす。


「地獄見るぞ?」


ベルは一瞬だけ固まった。


だがすぐに、ぐっと拳を握り直す。


「……望むところよ!」


それから三十分後――。


同じ防波堤の上。


ベルはうつ伏せのまま倒れていた。


ぴくりとも動かない。


その背中を、ミリィが慌ててさすっている。


「だ、大丈夫ですか!?」


心配そうに顔を覗き込む。


ベルは顔を石に押しつけたまま、かすれた声を絞り出した。


「……だ、だめ……」


肩がわずかに震える。


「吐きそう……」


その様子を、少し離れたところから二人が眺めていた。


アダラは腕を組み、呆れたように息を吐く。


「強い弱い以前の問題だなー」


ビビも隣で、のんびり頷いた。


「体力〜なさすぎ〜」


ミリィがむっと振り返る。


「そんなこと言わないでください!」


「ベルさんは頑張ってるんです!」


アダラは肩をすくめた。


「いや、頑張ってるのは分かるけどさ」


ビビも苦笑する。


「でも〜これじゃ〜鍛える前に倒れちゃうよ〜」


ベルは石の上でうめいた。


「……聞こえてる……」


ミリィがさらに背中をさする。


「少し休みましょう、ベルさん」


ベルは弱々しく頷いた。


「うん……ちょっとだけ……」


そう言って、そのままぺたりと頬を石に押しつける。


アダラが空を見上げて、ぽつりと言った。


「……ほんとにこいつ、魔王殺しの仲間なのか?」


ビビがくすっと笑った。


「不思議だよね〜」



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