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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第6章ー西大陸からの使者ー
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戦いの演舞ー

アダラが剣を構え、一歩前に踏み出すと、ビビはすっとベルから肉串を離した。


「よし、行くよ〜!」


ベルは手に肉串を握ったまま、体を低くして受け身の姿勢を取る。剣や攻撃に直接当たる気はない。あくまで回避に徹し、隙をうかがう。


アダラの湾曲した二振りの剣が夜風を切り、鋭い音を立てて振りかぶられる。ベルは体をひねり、船の甲板を滑るように移動しながら、一本一本の攻撃をかろうじて避ける。


ビビは横で軽やかに跳び、アダラの動きを制しつつ、ベルの安全を確認する。

「うふふ〜焦らないで〜ベルさん〜」


肉串を握ったまま、ベルは最小限の動きで攻撃をかわし続ける。剣先が甲板に擦れる音、夜の潮風に混ざる息遣い。


アダラの攻撃は激しいが、ベルは慌てず、的確に距離を取り、甲板を渡るたびに回避のリズムを保つ。


港の夜は静かだが、船上では三人だけの緊張した戦いの空気が、ゆっくりと張り詰めていた。


ベルは片手に握った肉串から残りの肉を口に運び、無言のままかじる。もう片方の手と体を使って、アダラの攻撃をひたすら避ける。


湾曲した剣が弧を描き、甲板に鋭い音を立てる。ベルは身をひねらせ、体を低くしてかすめる風を感じながら距離を取る。串を口にくわえたままでも、動きは滑らかで無駄がない。


アダラは苛立ちの色を濃くし、剣をさらに鋭く振るう。ベルはそれをかわすために一歩、また一歩と甲板を滑り、常に安全な間合いを保つ。


ビビは横で軽やかに跳び、アダラの攻撃の隙を見張りつつ、ベルの動きを観察する。

「ふふ〜落ち着いてるね〜」


港の夜風が船上を吹き抜け、波の音が甲板に反響する中、ベルは無言で肉をかじりつつ、ひたすら回避を続けた。アダラの激しい攻撃と、ベルの静かな動きのコントラストが、夜の船上に独特の緊張感を作り出していた。


アダラが湾曲した二振りの剣を振りかざし、一気に突進してきた。


「おい!逃げてばっかいねぇで戦え!」


ベルは肩をすくめ、片手の肉串を放さずに体をひねる。


「いやー、つっても女子供とは戦えねぇよ」


「女相手じゃ本気出せないってのか!?」


「たぶん女はビビで、アダラは子供の方だと思うんだよね〜」


ビビは船の甲板を軽やかに飛びながら囁く。


ベルは肩をすくめ、串をくわえたまま無言で身を低くし、アダラの剣をかわす。


アダラは悔しそうに眉をひそめ、さらに激しく剣を振るう。湾曲した刃が甲板に鋭く触れる音が響く。


アダラはちょっと顔を赤らめながらも、剣を構えなおす。

「子供じゃねーぞ!……でも、まぁいい、ちょっとは本気出すか」


ビビはふわっと笑い、軽く手をひらひらさせながらベルを挑発するように動いた。

「ふふ〜どうする〜?本気出したら〜?」


夜の港の船上に、三人の緊張感と、わずかな遊び心が混ざり合った。


アダラの目が鋭く光る。普段の挑発や遊びはもうなく、全身から凄まじい気配が立ち上る。


「……覚悟しろ!」


甲板に足を踏みしめると、彼女の腕や肩、胸元まで刻まれた刺青の紋様が、夜の光にわずかに反射してうねるように輝き始めた。


それは西大陸特有の紋様術――地、水、火、風の四大精霊の力を宿す魔術体系。詠唱は不要。刻まれた紋様へ魔力を流すだけで、瞬時に力が解放される。


アダラが剣を振り上げると、紋様が光り、周囲の空気が波打った。潮風に混ざる微かな音が、まるで精霊たちのささやきのように甲板に響く。


一瞬のうちに、地面がわずかに隆起し、波打つように船の甲板が揺れ、火のような赤い光が剣先に沿って走り、水の気配が周囲に漂う。風が鋭く吹き抜け、ベルの視界をかすめる。


ベルは無言で身を低くし、全身で攻撃の軌道を読み、ひたすら回避を続ける。肉を口にくわえたままでも、動きは滑らかで無駄がない。


アダラの剣が紋様の力を宿して振るわれるたび、甲板には衝撃波のような振動が走る。港町の夜風がその気配を運び、船上の緊張は一気に最高潮に達した。


ビビは少し距離を取りながら、ひらりと跳び、攻撃の軌道を警戒する。

「ふふ〜さすが本気出すと迫力あるね〜」


ベルはそれでも淡々と距離を保ち、紋様術を纏ったアダラの剣撃を次々とかわしていった。


アダラの目が鋭く光り、全身の刺青の紋様が一斉にうねるように輝き出した。

「これで終わりだ!」


湾曲した剣に沿って、赤い火のような光が走り、甲板の木目がかすかに震える。水の気配が周囲に漂い、地の力で船の甲板がわずかに隆起し、風が鋭く吹き抜ける。紋様術――四大精霊の力が一度に解放され、港の夜に不穏な気配を生み出した。


ベルは体を低くし、甲板を滑るように移動して剣の軌道を避ける。肉串を口にくわえたままでも、動きは無駄がなく、精密だ。


アダラの剣が光と衝撃を伴って振るわれるたび、甲板に波打つ衝撃が走る。ベルは瞬時に体をそらし、跳ねるように回避する。紋様術の力が生む振動や風圧を利用して、わずかな間合いの変化で攻撃の隙を見極める。


ビビは横で軽やかに飛び、アダラの攻撃を牽制しつつ、ベルの動きを観察する。

「ふふ〜すごいね〜本気の時は迫力満点〜」


アダラはさらに剣を振りかざし、紋様術を最大出力で放つ。火と風の力が渦を作り、地面の隆起が甲板の上で波打つ。水の気配が船を濡らすように漂い、衝撃と風圧がベルを押し戻そうとする。


ベルは無言で体をひねり、飛び、滑らせる。剣撃をかすめつつ、肉をかじりながら、ひたすら回避に徹する。攻撃の間合いを読み切り、紋様術の衝撃にも動じない。


夜の港風が船上を吹き抜け、炎のような光と風の渦が混ざる中、三人だけの戦いの空気は、張りつめた緊張と静かな興奮で震えていた。


ベルは肉を食べ終え、串だけを右手に握り直した。じっとアダラを見据え、短く息をつく。


「やるじゃん。なんだそれ、初めて見たぜ」


アダラの全身に刻まれた刺青の紋様が、なおも微かに光を残している。剣と紋様術の力を同時に感じながら、ベルは軽く体を揺らし、次の動きに備える。


ビビは横で身をひらりと動かし、興味津々の目で二人の様子を見つめる。

「ふふ〜ベルさん、楽しそう〜」


アダラは少し不満げに眉をひそめ、再び剣を握り直す。

「生意気言うな……まだ本気じゃねーぞ」


港町の夜風が船上を吹き抜け、緊張感と戦意が入り混じった空気が、再び張り詰めた。


アダラが剣を振るい、紋様術の力が港の夜風を巻き上げる。火の赤い光、風の鋭い気配、水と地の力が混ざり合い、甲板に衝撃が走る。


ベルは体をひねり、跳ねて攻撃をかわしながら、右手の鉄串を握り直す。冷静に間合いを見定め、声をかけた。

「それ……なんて術なんだ?」


アダラは一瞬、剣の軌道を止めて目を細める。刺青の紋様が微かに輝きを増し、彼女の息が少し荒くなる。

「紋様術だ……西大陸の魔術、四大精霊の力を借りる術だ」


ベルは軽く頷き、再び距離を取りながら動きを観察する。

「なるほど……初めて見るが、見応えあるな」


アダラは少し顔を赤らめ、剣を再び振りかざす。

「見て楽しむんじゃねぇ!試させてもらうんだ、全力で!」


夜の港に、光と影、精霊の力と二人の緊張が入り混じり、戦いは一層激しさを増していった。


ベルは小さく息をつき、目を細めた。

「ま、このまま続け方も埒があかねぇしっ!」


一歩踏み出す。右手の鉄串を思い切り投げつける。アダラは咄嗟に剣で弾き返したが、その動きのわずかな隙をベルは見逃さない。


一瞬の間に距離を詰め、ベルはアダラの背後に回り込む。両手で彼女の腕をしっかり掴み、バンザイするように持ち上げた。


アダラの足が地面から離れる。船上の甲板が微かにきしみ、夜風が二人の間を吹き抜ける。


「な、なっ……!」アダラの驚きの声が、港町の夜に響いた。


ベルは体勢を安定させ、アダラの力を感じ取りながら、逃げ場を塞ぐように微妙に体重をかける。戦いのリズムは、今、ベルの掌の中で逆転していた。


アダラが必死に身体をひねり、逃れようとする。ベルは微妙に体幹を調整し、力をかける角度を変えて抑え込む。


「おっとっと、動くなって」


アダラは目を見開き、声を震わせる。

「ち、ちくしょーっ!こんな辱めを受けたのは初めてだ!やるなら一思いに殺せ!」


真っ赤になった顔に涙がにじむ。港の夜風が二人を取り巻く中、その怒りと悔しさが声になって甲板に響いた。


ベルは軽く肩をすくめ、苦笑交じりに答える。

「こんなんでいちいち殺せるかよー」


彼の口調には余裕が漂い、緊張感の中でも戦いの主導権は確実にベルの手にあることを示していた。


「お前もすげぇよ。並の奴らじゃ勝てねぇだろうよ」


アダラは顔を真っ赤にして悔しそうに声を張り上げる。

「うっさいうっさい!」


それでも諦めず、必死に身体をひねり、逃れようとするアダラ。ベルは微妙に力を調整し、彼女の動きを吸収して無理に振りほどかせない。


上下に揺さぶる様にして、力を逃すベル。


「……あ・そ・ぶ・なぁっ!」


アダラの怒鳴り声が、港町の夜の静寂に弾けるように響いた。


やがてアダラが力尽きたようにぶらりとぶら下がり、ベルの腕の中でだらりと身を任せる。


「なんだ?どうした?」ベルが覗き込むと、アダラの頬は涙でぐちゃぐちゃになっていた。声は出さずに号泣している。


ベルは腕の力を緩めず、そのまま保持したまま落ち着かせる。

「わ、悪ぃ……ちょっとふざけ過ぎちまった」


少し離れた場所でビビが肩をすくめ、小さく呟く。

「あちゃ〜泣いちゃった〜」


ベルはじっとアダラの顔を見つめ、どう声をかけるべきか思案していた。


やがて、ぶら下がったままのアダラから嗚咽混じりの声が漏れた。


「ビビ〜、くやしいっ……くやしいよぉ〜っ、こんなやつ、やっつけてよ〜!」


涙が頬を伝い、声は震える。ベルは腕の中で小さく揺れるアダラを見下ろし、息をつく。


「悪かったって、マジでごめん……」


ベルは慎重にアダラの体勢を支えながら、落ち着かせようとする。


その瞬間、背後から鋭い殺気が突き刺さった。ベルは反射的に体をひねり、振り向く。


ベルが振り返った先には、ビビが立っていた。


ベルが振り返ると、ビビが立っていた。だが、さっきまでの柔らかな佇まいは消え、全身から鋭い殺気を漂わせている。


長い黒髪が背中で揺れ、黒い瞳がベルをまっすぐに見据えた。褐色の肌に透けるゆるやかなパンツと胸布がわずかに揺れ、立ち姿には凛とした緊張感が宿る。


「なんだお前……さっきまでとずいぶん違うじゃねぇか」ベルが声を潜める。


ビビはまるで舞うように体を安定させ、緊張感を纏った姿に、ベルは思わず背筋を伸ばした。


「えぇ〜そぉ〜?」


「そんなことないと思うよ〜」


口調は普段通り柔らかいままだが、目つきと身体全体が放つ殺気に、港の夜風の中、緊張が一層濃く漂った。


ベルはアダラの腕を少し傾け、慎重に抱えたまま地面に下ろした。


アダラは力を抜くと、そのままペタンと甲板に座り込む。膝を抱え、まだ顔を赤らめ涙を拭うこともなく、少し肩を震わせている。


ベルは一瞬アダラを見下ろし、軽く息をつく。

「よし……これで邪魔はねぇな」


港の夜風を受け、ベルは背後の殺気に目を向ける。ビビがじっと立ち、全身から鋭い気配を放っている。


「……行くぞ」ベルは低く声を出し、体重を微妙に移して構えた。


ビビは立ち姿ひとつで戦闘態勢を示す。言葉は柔らかいままだが、その目つきと体全体から放たれる力に、ベルは自然と警戒を強める。


港の夜に、静かだが張り詰めた戦いの予感が漂った。


ビビが静かに立ち、口元をわずかに歪めた。

「あれあれ〜?女子供相手には戦わないんじゃなかったの〜?」


ベルは肩をすくめ、鉄串を握り直す。

「強い奴相手なら別さ。顔は殴らねぇけどな」


その言葉を聞いた途端、アダラは地面に座ったまま、嗚咽混じりに再び泣き出した。


「やっぱ私のこと弱いって思ってんじゃねぇかよ〜っ!!」


「あっ……悪ぃ」ベルは思わず振り返ろうとする。


だが背後に、突如として冷たい殺気が立ち込めた。気配を感じ、ベルの視界に映ったのは、いつの間にか立つビビの姿。


――ベル(いつの間に……!?)


振り返る間もなく、ビビの声が夜の港に鋭く響く。

「アダラを泣かすなっ!」


その一言に含まれるのは柔らかさではなく、決意と全身から滲む殺気。ベルの体は自然と硬直し、港の夜風さえも張り詰めているように感じられた。


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