西の姫の目的はー
石畳の道を歩きながら、三人は賑やかな屋台の灯りに目を止めた。香ばしい匂いが夜の空気に漂い、腹の虫が鳴く。
ビビは目を輝かせながら小さく声を伸ばす。
「うわ〜いっぱい屋台あるよ〜」
アダラはぱっと顔を明るくし、鼻をひくつかせながら言った。
「よし、何食う〜?やっぱ肉だよな!」
ベルも軽く拳を握り、笑いながら答える。
「お、俺も肉派だ!やっぱ肉だよな!」
ビビはくすくす笑いながら、二人のテンションの高さに押される。
「うん〜まあ、私も食べる〜でもちょっと野菜も欲しいな〜」
屋台の主人が、炭火でジュウジュウと肉を焼く音が響く。香ばしい匂いに、三人の食欲は一気に高まった。
アダラとベルは目を合わせ、自然に笑みを浮かべる。
「じゃあ、肉祭りだな!」
「おう、決まりだ!」
ビビも楽しそうに手を叩き、三人は夜の街での小さな宴に胸を弾ませながら、屋台の前に腰を下ろした。
三人は屋台をひとつずつ回り、焼き鳥や香ばしい肉串、揚げ物にパン、甘い果物まで、あれこれ買い込んだ。夜の街の明かりが屋台の彩りを映し、道行く人々の笑い声や話し声が港町の静かな夜に混ざる。
「これも〜」「あ、これ美味しそう〜」ビビは手にした果物を見ながら、小さく声を伸ばす。
アダラは手に持った肉串を振り、にやりと笑った。
「よーし、買ったぞ〜!さあ、船まで行くか!」
ベルは肩越しに二人を見て、軽く笑いながら言う。
「そうだな。外で食べるより、船の上の方が落ち着くかもな」
港まで歩き、船にたどり着くと、アダラ達はそっと買った食べ物を並べ、三人で夜の海を眺めながら食事を楽しむ準備をした。
ビビは串を口に運びながら、ふわりと声を伸ばす。
「うん〜海を見ながら食べるのも、また違うね〜」
アダラはベルに向かってにやりと笑う。
「なあベル、やっぱ肉だよな!」
ベルも同じように笑い返す。
「おう、やっぱ肉が一番だ!」
夜風に海の香りが混ざり、船上に並べられた食べ物の香ばしい匂いと相まって、三人の夜の宴は静かに、しかし楽しげに始まった。
アダラは肉を頬張りながら、箸を止めてベルに顔を向けた。
「ところでさー、ベルは『魔王殺し』って知ってるかー?」
ベルは片手に肉串を持ったまま、軽く肩をすくめて笑う。
「おー、知ってるぜー」
アダラは目を大きく見開き、驚きと好奇心を混ぜた声で言った。
「え、マジかー!お前……あの人ってやつのこと、知ってるのかー!?」
ビビは隣で小さく口をもぐもぐさせながら、ふわっと声を伸ばす。
「うん〜ほんとにすごい人だもんね〜」
ベルは串を片手に軽く笑い、少し照れくさそうに肩をすくめた。
「まあなー、噂くらいは耳に入るだろ。けど、そんな大げさなもんじゃねーぞ」
アダラは嬉しそうに目を輝かせ、でも少し慎重に言葉を選びながら訊く。
「へー……でも、ほんとにあの人の力って……どれくらいすごいんだ?」
夜の海風が船上を吹き抜け、港町のざわめきと食べ物の香ばしい匂いの中、ベルとアダラ、ビビの三人は、夜の宴を続けながら自然に話題を深めていった。
ベルは串を置き、少し肩をすくめながら言った。
「つーか、俺が『魔王殺し』だからさ」
その瞬間、アダラとビビの顔がぱっと変わった。
アダラは一気に後ろへ一歩下がり、目を大きく見開く。
ビビも慌てて体をひらりと引き、ベルから少し距離を取った。
「え、えぇ〜!?」アダラの声には驚きと少しの戦慄が混ざる。
「うわ〜〜本当に……魔王殺し……?」ビビは小さく声を伸ばし、手を胸の前で握りしめた。
ベルは肩をすくめ、軽く笑って言う。
「そうそう、本人だよー。噂だけじゃねーんだぜ」
アダラはまだ半信半疑といった顔でベルを見つめ、ビビも目をぱちぱちさせながら、恐る恐る距離を縮めるタイミングを計っている。
港町の夜風が、少し緊張感を帯びた船上の空気を吹き抜けた。
アダラは真剣な目でベルを見つめ、声を震わせながら問いかけた。
「冗談じゃ、ないってことでいいんだよな?」
ビビも少し息をつめ、ふわりと声を伸ばす。
「そんな冗談を言う人には〜見えないけど〜」
ベルは肩をすくめ、串を口元に持ったまま笑う。
「当たり前だろ?俺だよ俺」
その瞬間、アダラとビビの視線が合った。
そして……ビビの姿が、ふっと消えた。
次の瞬間、ベルが肉を頬張ろうとした背後にビビが静かに現れる。
首筋に、ひんやりとした金属製の肉串をそっと押し当てながら、ビビは低く囁く。
「ふふ〜どうする〜?こーんなに近くにいるの〜」
ベルは一瞬身を固めるも、くすりと笑みを浮かべて振り返らず言った。
「おい、冗談だろ……?」
港町の夜風が二人の間にさざ波のように吹き抜け、船上の空気は突然、緊張と微妙な遊び心で張りつめた。
アダラは深く息をつき、ベルをまっすぐ見据えた。
「私らは、その『魔王殺し』の噂ってやつを聞いて、海を越えてまで来たんだ」
ビビは首をかしげ、ふわりと声を伸ばす。
「遭難してまでね〜」
アダラはビビを一瞥して、真剣な声でたしなめる。
「冗談じゃすまねーぞ!」
ベルは肩をすくめ、少し呆れたように答える。
「だから冗談じゃねぇって」
アダラの目が鋭く光る。
「なら、確かめさせてもらう」
そう言うと同時に、アダラの両手には湾曲した剣が二振り、闇夜にひんやりと光った。
ビビは後ろで身をすくめつつも、首筋の肉串をベルの背後にそっと押し当てたまま、くすくすと笑う。
「うふふ〜二人とも〜面白くなりそうだね〜」
港町の夜風が、船上に張りつめた緊張を揺らす。
ベルは串を握った手をゆるめず、静かに、しかし挑発的に口角を上げた。
「……やれやれ、こういうの久しぶりだな」




