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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第6章ー西大陸からの使者ー
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上陸してきたものはー

港町に街灯が点りだす頃。


昼間の賑わいは少し落ち着き、街にはゆったりとした夕方の空気が流れていた。


海の向こうで、太陽がゆっくりと沈んでいく。

空は橙から赤へ、そして紫へと色を変えていた。


ベルとミリィは、昼間訪れた高台にまた来ていた。


観光である。


二人は並んで立ち、海を見ていた。


昼とはまた違う景色だった。


港の街にはぽつぽつと街灯が灯り始め、船の影が黒く海に浮かんでいる。


波は静かで、夕焼けを揺らしていた。


ベルは柵にもたれて言う。


「昼も綺麗だったけど」


少し目を細める。


「夕方もいいね」


ミリィは大きく頷いた。


「はい」


そして静かに海を見る。


「本で読んだ通りでした」


風がやさしく吹き抜ける。


ベルの黒髪と赤いスカーフが揺れた。


しばらく二人は黙っていた。


ただ、沈んでいく夕陽を見ていた。


遠くの海に、一隻の船がゆっくりと進んで来ているのが見える。


帆は夕焼けの光を受けて、赤く染まっていた。


ミリィがふと遠くを見つめた。


夕焼けの海の向こう。


小さな船影が、ゆっくりと進んでいる。


ベルはその様子に気づき、首を傾げた。


「どうしたの?」


ミリィは目を細めたまま言う。


「あの船……」


少し考えるように続けた。


「昼間もいたと思うんですけど……」


ベルは海の方を見る。


「ほんと?」


少し眺めてから肩をすくめる。


「気のせいじゃない?」


ミリィは小さく頷く。


「そうですよね」


それから、また海を見る。


「昼間見えていたなら、もう港に着いていてもおかしくない時間ですよね」


ベルは軽く笑った。


「そうそうー」


そして冗談っぽく言う。


「遭難でもしてない限りー……」


ミリィがゆっくり振り向く。


「ベル……さん?」


ベルは一瞬固まり、すぐに手を振った。


「いやいやーそんなことないでしょー」


少し笑いながら言う。


「そんな都合よく事件に遭遇しないでしょー」


よく見ると。


その船は、こちらへ真っ直ぐ進んでいるというより――


潮の流れに任せて、ゆっくりと引き寄せられているようにも見えた。


帆も張られていない。


ただ、波に揺られている。


ミリィはじっとその船を見つめたまま言う。


「……ベルさん」


「こんな時、私は最悪の想像をしてしまう方なのですが……」


ベルも同じように海を見ていた。


そして小さく頷く。


「わかる……」


少し間を置いて、苦笑する。


「私もー」


ベルは腕を組んで、海の方を見たまま言った。


「こういう時って、どこに連絡すればいいの?」


ミリィは少し考えてから答える。


「港の見張りか、港の管理所ですね」


ベルが振り向く。


ミリィは指で港の方を指した。


「港には必ず船の出入りを見ている人がいます」


「異常な船や、遭難の可能性がある船を見つけた時は、そこに知らせるのが普通です」


ベルは「へぇー」と感心した顔になる。


「ミリィ、そういうの詳しいね」


ミリィは少し照れたように笑った。


「本で読んだことがあるんです」


それからまた海を見る。


船は相変わらず、ゆっくりと流されるように近づいていた。


ベルもそれを見る。


少しだけ真顔になる。


「……やっぱり、なんか変だよね」


ミリィも小さく頷いた。


「はい」


少し間が空く。


ベルはくるっと振り向いた。


「じゃあ、港まで行って知らせよっか」


ミリィも頷いた。


「はい」


二人は高台を駆け下りていた。


港へ向かう坂道。

石畳の道を、ベルとミリィは急いで走る。


その時だった。


海の向こうで――


夕陽が、すっと水平線に沈んだ。


橙の光が一瞬だけ強く輝き、そして海に溶ける。


その瞬間。


走っていたベルの身体が、変わった。


黒い長髪が、さらりとほどけるように短くなり。

夜の光を受けて、銀色に変わる。


背も、すっと伸びる。


服の中の体つきも変わり、足取りが明らかに軽くなった。


後ろを走っていたミリィが、思わず声を漏らす。


「あ……」


だが、それ以上は何も言わない。


もう見慣れていた。


今さら驚くことでもない。


むしろ――


ミリィは少しだけ息を整えながら思う。


(あ、走る速度が上がりますね……)


銀髪の少年になったベルの足は、明らかに速い。


ミリィは小さく息を吐き、気合を入れ直した。


(頑張らないと)


もっとも――


彼は、ミリィが遅れていると気づけば。


何も言わず、自然に速度を落とすだろう。


そういう人だ。


ミリィは少しだけ前を見て、銀髪の背中を追う。


(気を……使われないように、なりたいです)


二人が港に着いた時には――


その船は、もう目と鼻の先にあった。


港の外れ。

防波堤の向こうで、波に押されるようにゆっくりと近づいてくる。


帆は垂れたまま。

甲板に人影も見えない。


静かすぎた。


船が近づいているというのに、声も、灯りも、動きもない。


遭難を匂わせる、嫌な静けさだった。


そして――


ミリィは今、ベルの肩に担がれていた。


途中である。


坂道の半ばで、息が上がったミリィを見て。


銀髪の少年ベルは、何も言わず、ひょいと担ぎ上げたのだ。


そのまま走ってきた。


以前なら。


ミリィは何も思わなかった。


ただ助けてもらっているだけだと、素直に受け取っていた。


けれど最近は――


少しだけ、違う。


(不満……)


ミリィは内心で首を振る。


(違います)


(でも……)


ベルの肩の上で、もぞりと小さく動く。


(もやもやします)


ベルは船を一瞥して、ぼそりと言った。


「こりゃー直接見た方が早そうだな」


次の瞬間。


軽い足取りで防波堤に飛び乗り、そのまま走り出す。


――ミリィを抱えたままに。


ミリィが慌てて声を上げた。


「あ、あの……」


ベルは前を見たまま答える。


「なんだ?喋ると舌噛むぞ」


ミリィは少し躊躇ってから口を開いた。


「あの……そろそろ下ろしてぶっ」


がちん。


思い切り舌を噛んだ。


「……っ!!」


ミリィが顔をしかめる。


ベルは呆れたように言った。


「ほらみろ、言わんこっちゃねぇ」


ベルは言いながら、肩に担いだミリィの尻を手で軽く叩いた。


ミリィは思わず声を上げる。


「…!!」


体がびくっと反応し、頬を真っ赤にしながらも、言葉にならない小さな声を漏らした。


ベルはまったく気にせず、防波堤の先へと走り続ける。






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